“Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語”


第408回:NAB 2009プレスカンファレンスレポート

~SONYとPanasonicが同日プレスカンファレンス~


■ いよいよNAB 2009の開幕

まだ閑散としたセントラルホールのロビー

 現地時間の4月20日から23日まで、米国ラスベガスにて世界最大の放送機材点「NAB 2009」が開幕する。今週のElectric Zooma! は不定期更新でNAB 2009の模様をお伝えする。

 一般公開を明日に控えた日曜日、多くのメーカーがプレスカンファレンスを開催した。いつもならばホテルのボウルルームを使ったカンファレンスで、プレス関係者はあっちこっちへ移動を迫られるのだが、今年はやはり予算が厳しいのか、ほとんどのプレスカンファレンスは、LasVegas Convention Center(以下LVCC)内の自社ブースを使って行なわれている。

 本日は、日本が世界に誇る2大メーカー、PanasonicとSONYのプレスカンファレンスが行なわれた。

 


■ 早くもブースを一部公開したPanasonic

 先に行なわれたのが、Panasonicのプレスカンファレンスである。例年ブース内のミニシアターとなっている場所で、プレゼンテーションが行なわれた。

 最初に北京オリンピックの映像が紹介され、2010年に開催される冬季オリンピック「バンクーバーオリンピック」でも、公式映像制作用にPanasonicの映像機器が使用されることが発表された。公式記録フォーマットはDVCPRO HD。世界の契約放送局に対しての配信は、北京オリンピックに続きすべてフルHDで行なわれる。

上がP2カードの新ラインナップ、Eシリーズ

 続いて発表されたのが、メモリ記録媒体のP2カード新ラインナップ「Eシリーズ」。従来のAシリーズに対して、転送速度を1.2Gbpsにアップし、価格を約半分に引き下げたラインナップだ。Aシリーズは転送速度が4GB、8GBタイプで最大800Mbps、それ以上が最大1Gbps程度だったので、若干アップしたことになる。

 16、32GBが今年5月発売、64GBのみ8月発売。米国での価格は順に420ドル、625ドル、998ドルとなっている。なお国内価格は順に44,100円、66,150円、99,225円なので、消費税抜きでほぼ1ドル100円換算ということになる。初期の頃は8GBのカードが15万円ぐらいしたので、相当安くなったことになる。ちなみにEはエコノミーの意味だそうである。

 ただし、Eシリーズは、1日1回・全容量(100%)の記録書換えした場合、品質確保のために約5年間(目安)でカード交換を行なう必要があるとのこと。それでも昨今のメモリの容量増加と価格下落率から考えれば、たとえプロ用製品でも5年使えれば十分だろう。

 P2関連としては、既に発表され、今年3月より発売が開始された「AG-HPX300」(日本モデル名AG-HPX305)、4月発売のストレージユニット「AJ-HRW10G」などを改めて紹介した。

 P2の下位ゾーンで、学校や教会、ブライダルなどでの使用をターゲットとしたAVCCAMラインナップとして、新モデルのカムコーダ「AG-HMC40」(日本モデル名AG-HMC45)を発表した。AVCCAMとはP2カードではなく、SDHCカードに記録する業務用AVCHDのラインナップである。

 光学12倍ズームレンズ搭載で、手ぶれ補正は光学式。撮像素子は新開発の1/4.1型305万画素(動画有効画素数約200万画素)プログレッシブ3MOSで、1,060万画素の静止画撮影機能、シネライクガンマも備えている。記録フォーマットは1080 24p/30p/60i、720 60p/30p/24p、最高画質は24Mbpsとなっている。

P2カードからHDDへの高速転送機能を持つ「AJ-HRW10G」業務用AVCCAMの新モデル「AG-HMC40」

 ハンドル部分は着脱式になっていて、別売のXLRマイクロホンアダプタに付け替え可能。本体重量は1kg以下となっている。発売時期は今年8月を予定しており、価格は未定。

小型カメラヘッド「AG-HCK10」と「AG-HMR10」収録ユニット

 同じくAVCCAMラインナップで、小型HDカメラと収録ユニットの「AG-HCK10」と「AG-HMR10」を発表した。収録ユニットHMR10は、AVCHDレコーダでは初となるHD-SDI入力端子付きで、単体のレコーダとしても機能する。記録モードは先行するAVCCAMの他カムコーダと同様で、最高24Mbpsまでサポート。双方とも発売時期は今年の秋頃で、価格などは未定。

 小型カメラHCK10は、1/4.1型の3MOSで、有効画素約200万画素。収録ユニットAG-HMR10と3mもしくは10mの専用ケーブルで接続し、HMR10側の操作でアイリス・フォーカス・ズームなどのコントロールが可能。

 同様の製品は既に昨年のInter BEEで、SONYが「まめカム」こと「HXR-MC1」を発表、発売を開始しているが、担当者は「本当にこれは以前から開発していたんですたまたま同じような感じになったんです、本当なんですよもう」と力説しており、先を越されて無念そうだった。ぜひ後発の強みを生かして、性能と価格で巻き返して欲しい。

 


■ トータルソリューションを訴求するSONY

SONYプレスカンファレンスの模様

 ソニーのプレスカンファレンスは、ブースにほど近いプレゼンテーションルームで行なわれた。今年のSONYのテーマは、「Create, Connect, Inspire」。

 プレスリリースで今年の新製品は数多くあることがわかっているが、プレゼンテーションでは個々の機材の説明は簡単な紹介のみで、多くは今年のテーマに沿ってXDCAMなど既存フォーマットの優位性や、映画制作学校への導入事例などが、実際のユーザーのビデオメッセージで語られた。ジョージ・ルーカスもビデオメッセージでコメントを寄せていた。

 またネットツールを使った情報リリースにも積極的で、flickrや、blogにカンファレンス開始前の様子を掲載したり、twitterでニュースリリースを出したりしている。SONYのオフィシャルfacebookもあり、twitterの内容がリンクしている。

2007年からソニーB2Bソリューション事業を引っ張る安 京洙氏

 またこのカンファレンスのあと、別途日本人プレス向けの説明会も開催された。B2Bソリューション事業本部本部長の安京洙(アン・キョンスー)氏は、これまでSONYのB2Bビジネスは、モノやサービスを提供してきたが、それだけではなく今後は価値の連鎖(Value Chain)を創造することが大事だと述べた。

 またB2Bソリューション事業本部本部 副部長の木暮誠氏は、スタジアムの運用を例に出し、放送用スタジオカメラはもちろんのこと、HD収録、セキュリティカメラ、IPカメラ、デジタルサイネージなど、トータルでSONY製品を導入する事例が増えていると語った。今後はこれらすべてを新しいパイプで結び、その運用自体もSONY自身が手がけるかもしれないといった、システムインテグレーションからさらに一歩踏み込むという将来像を語った。

スタジアム運用を例に、次世代インテグレーションを提案

 現状の技術によるシステムインテグレーションは、変更が効かない、アップグレードできない、拡張性がないといった問題がある。新しくSONYが開発する共通プラットフォーム(オープンミドルウェア)は、それを解決するという。

 話が抽象的すぎてその場では全然意味がわからなかったのだが、ホテルに戻るモノレールの中で腕を組んで考えたところ、安氏が捕捉として語ったいくつかのキーワードから、おぼろげながら今後SONYがやろうとしているビジョンを思いついた。以下は筆者の推察なのでもしかしたら違うかもしれないが、だいたい以下のようなことをやろうとしているのではないだろうか。

 例として現状プロオーディオの世界では、RolandのREACのように、独自規格で非圧縮オーディオを40チャンネルほどEthernetケーブルを使って伝送する技術がある。信号の中身はいわゆるIPではないが、信号規格はEthernetに準拠しているので、信号の分配などは市販のHubを使って簡単に行なうことができ、大幅なコストダウンを図っている。

 これがもし映像でも同じようなことができたら、映像のシステムインテグレーションの世界は、一気に次の世代に飛躍する事ができる。現在デジタル映像の同期転送にはSDI(Serial Digital Interface)を使うのが一般的だが、ネットワークケーブルに比べてコスト高である。さらに複数分配するためには映像用のアンプ(VDA)を入れて増幅してやらないと減衰してしまうし、単純に2分配するだけでも、片方が解放になっていると信号が折り返してしまうので、終端処理が必要になる。

 また、いくつかのカメラをリアルタイムで切り替えるためには、センターから同期信号をカメラに向かって供給してやらなければならない。デジタルなのにこのような処理が必要なのは、SDIのモデルになったのが、アナログによる伝送だからである。したがってアナログ時代のノウハウを、デジタル時代にも持ち込むことになったわけである。

 しかし、SDI自体は非常に汎用性の高い規格で、同じ規格のケーブル内にSDもHDも、コンポジットもコンポーネントも、8bitも10bitも、圧縮も非圧縮もなんでも伝送することができる(ただし、相手も同じフォーマットでないと、受け取る事ができない)。だからこそ20年近くもデジタル伝送のベースとして使われてきたわけである。

 もし、未来にSDIに変わる伝送プロトコルができるとすれば、REACがEthernetを用いているような、現在のIT技術で用いられる部材で伝送できるのが望ましい。既存の敷設線も使えるし、IT産業で大量に使われているため、部材として低コストだからである。

 伝送信号も1本1回線ではなく、低ビットレートなものは複数回線送れるほうがいい。また同期信号に関しては双方向性を生かして逆向きに送るか、非同期ベストエフォートにして受け側でバッファリングするなど、取り回しが楽な方がいい。さらに言えば、既存IPカメラの映像やFeliCa決済のようなIPデータなども、同じ回線に相乗りできるほうがいい。

 安氏の弁によれば、それはオープンフォーマットにして普及させたいとしている。このあたりはITの世界から来た人の発想だ。ちなみに安氏の前職は、富士通経営執行役常務である。もしこのような映像版IPのようなものができるとしたら、映像業界は再沸騰するかもしれない。

 SONYが考えている何かが形になる時期は今年か来年かわからないが、景気後退の現在だからこそ、破格にローコストでインテグレーションできるフォーマットが望まれているのは確かだ。今後の動きに、刮目しておくことにしよう。

(2009年4月20日)

= 小寺信良 = テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「ややこしい話を簡単に、簡単な話をそのままに」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンピュータのフィールドで幅広く執筆を行なう。性格は温厚かつ粘着質で、日常会話では主にボケ役。

[Reported by 小寺信良]