“Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語”

 

第421回:再びメモリ機へ パナソニック「HDC-TM350」

~ ワイド端の手ぶれ補正強化で、マイナーチェンジ ~



■ メモリはどれぐらいあればOKか

 現在ハイビジョンカメラを記録メディア別で見ていくと、一番シェアを取っているのは、HDDモデルだ。話題としてはメモリモデルが派手な印象があり、半導体記録のメリットも伝わりつつあるが、記録時間の部分で腰が引けてしまう人が多いようである。

 ではどれぐらいの容量があれば、十分と言えるのだろうか。一番気になるのは、長期の旅行中に録画時間が足りなくなるというケースであろう。これに関しては、パナソニックが旅行会社と組んで、面白い調査を行なっている。

 それによると、海外旅行の平均日数は7.9日であるという。そして1日の撮影時間は、約95%の人が90分以内であると答えている。すなわち8日間毎日90分撮影したとすれば、12時間。これぐらいの録画容量があれば、十分であると言える。

HDC-TM350

 この6月末に登場したパナソニック「HDC-TM350」(以下TM350)は、内蔵メモリを64GBに増量した。これは9MbpsのHXモードで撮影すれば約16時間となる。さらに前モデルから搭載のリレー録画(内蔵メモリからSDカードにシームレスに記録を続ける機能)を使えば、もっと高画質モードでの記録でも容量を気にする必要はないことになる。

 まだ最高画質で12時間は超えていないが、ある程度のメモリ容量が積めるようになれば、HDDモデルの役目は終わるというシナリオが現実的なものとなってきた。もちろんTM350は、容量を増やしただけではなく、細かい点でアップデートされている。

 では早速、新モデルTM350の実力を確かめてみよう。


■ やや大振りのボディ

メモリモデルの割にはやや大きめのボディ

 今回のTM350は前作のTM300のマイナーチェンジという性格が強く、ボディデザインなどもほとんど同じだ。TM300も引き続き併売されるという。以前はTM300ではなくHDDモデルのHS300をレビューしていたので、今回改めてデザイン面でもチェックしておこう。

 メモリモデルの割にはボディはそれほど小さくない。上位モデルともなるとどうしても光学系を大きくしなければならないため、今後も高画質機は、それほど小さくはならないと考えていいだろう。ビューファインダを搭載し続けているのも、メモリモデルとしては珍しい部類に入る。

 レンズはライカ・ディコマーの光学12倍ズームレンズ。撮像素子の読み出しエリアを変えてズームするHD.ズームを使用すれば、画質劣化を抑えて16倍までズームできる。画角はTM300と同じで、35mm換算で動画44.9mm~539mm。静止画はアスペクトが3:2、4:3、16:9の3タイプがあり、それぞれ41.3mm~496mm、45.0mm~540mm、40.8mm~490mmとなっている。今回の静止画は、4:3で撮影を行なった。

光学系は今年2月のラインナップと同じマニュアルリングでフォーカス調整が可能

撮影モードと画角サンプル(35mm判換算)

撮影モード

ワイド端

テレ端

動画(16:9)

44.9mm

539mm

静止画(4:3)

42.1mm

505mm

     

 また光学部での強化ポイントとして、ワイド端での手ブレ補正量を大幅に増やした「アクティブモード」を搭載した。これはあきらかに、ソニー「HDR-XR520V/XR500V」対抗ということだろう。デフォルトがアクティブモードで、本体脇のO.I.S.ボタンで通常モードや切に設定することができる。ただしおまかせiAモードを使っていると、「切」にはできず、アクティブモードと通常モードの切り替えとなる。

 撮像素子もTM300と変わらず、1/4.1 型、総画素305万の3MOSで、画素ずらしである。さらに今回は、低照度でのノイズを半減させた。これはおまかせiAを切った場合の増感を減らしたということである。これもソニー対抗の意味合いが強い強化ポイントだ。

 画質モードは前作と同様なので、今回は省略する。

 液晶モニターは2.7型ワイドのタッチパネル式で、ボディサイズの割にはちょっとモニターが小さい印象だ。メニューの合理化などは前モデルと同様で、一カ所に階層化するのではなく、分散してフラット化することで、アクセスが容易になっている。

端子類は液晶内側に集中

 端子類は液晶内側に集中しており、USBとSDカードスロットはそれぞれ単独で開けられるようになっている。内側にある大きな窓は、スピーカーではなく、吸気口である。普段の撮影時には塞がるような場所ではないが、ビューファインダ使用時には液晶を閉じたままでずーっと撮影することが可能なわけだから、その際に吸気が大丈夫なのか気になるところだ。ちなみにスピーカーは、上部にある。

 背面はバッテリのほか、ビューファインダと録画ボタンがある程度で、すっきりしている。ACアダプタでの駆動はバッテリを外した奥にあるのは以前と同じだ。この際、バッテリの充電も一緒にできるといいのだが、あいにく付属のACアダプタでは、充電と電源供給は同時にはできない。

 グリップ側には、アクセサリーシューがある。ただし上向きに付いているので、同梱のシューアダプタを付けて使用する必要がある。アクセサリーシューを使う人と使わない人は、かなり極端にユーザー層が別れるわけだが、両方のニーズに対応したなかなかユニークな仕掛けだ。ただハイエンドカメラとしては、電源供給や結線不要の外部マイクなどが使えるような機構がないというのが惜しい。

背面はすっきりしているアクセサリーシューは同梱のアダプタを取り付けて使用する

■ 候補から選ぶという撮影方式

Zooma! 初の雨天撮影

 では実際に撮影してみよう。

 今回の撮影日があいにくの雨で、かなり条件の悪条件となった。ちなみに当コラムは今年で9年目であるが、傘をささねば居られないような本降りの中で撮影したのは初めてである。人物以外の撮影は、曇天の日に撮影している。

 


sample.mpg(395MB)
おまかせiAと追っかけ機能で、凝った構図も撮影しやすい
編集部注:編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい。

 撮った感じとしては、前作のHS300とほとんど変わりがない。「おまかせiA」にしておけば、難しいシーンでも適宜補正してくれるので、マニュアルで工夫して撮るよりも効率がいいのは確かだ。また追っかけフォーカス機能は人間だけでなく、花や物体などでも効くので、後ろが抜けるような構図でもフォーカスの失敗がない。

 おまかせiAは、OFFにするとコントラスト視覚補正機能もON・OFFできるようになる。おまかせiAとの組み合わせで3つのパターンから最適の、あるいはもっとも好みのものを選択すればいい。候補を選んでいくという方法は、もう少し明確に可視化して機能に盛り込んだら面白いのではないだろうか。


おまかせiA ON

おまかせiA OFF

おまかせiA OFF
+コントラスト視覚補正

 

 

 ただタッチパネルとなった液晶モニターは指紋が付きやすく、また拭き取ろうとしてもなかなか綺麗にならない。タッチペンも同梱されており、それでの操作が推奨なのだろうが、おそらく大半の人は指で操作してしまうだろう。もう少し軽く汚れが取れるようにならないだろうか。

 あいにく光量が少ない撮影ではあったが、そこは三板式の強みで、発色などはかなりしっかりしている。緑の発色が若干濃いクセは従来通りだが、絵として破綻するほどではなく、常識的な範囲で収まっている。

葉っぱのディテール感がものすごい淡い色でも力がある発色

 なお今回は、「デジタルシネマカラー」はOFFで撮影している。なぜならばこの機能は、追っかけフォーカスやおまかせiAと一緒に使えないからだ。できれば常時使えるように改善して欲しいところである。


stab.mpg(134MB)
前半がアクティブモード。良く補正されているが、補正の限界点からガクンと戻る瞬間がある
編集部注:編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい。

 新しく搭載された手ぶれ補正のアクティブモードは、通常モードと比較してもかなり上手く補正できる。ただ、ソニー機のように気持ち悪いぐらい効くわけではなく、それなりに効くといった印象を受けた。補正がギリギリまで行くとガクンと急激に逆方向に動くこともあるので、撮影時がある程度気をつけて撮らないと、逆効果になる。

 ただ、手ぶれ補正は定量的な観察が難しく、撮影者によって手ブレする周波数や特徴が異なるので、こればかりは各自店頭で試してみるのが、一番正しい評価であろう。

菱形絞りではあるが、ぼかし方が上手い

 絞りは菱形で、背後のボケにもその影響はあるが、ボケの形や輪郭があまり尖っていないので、それほど不快な感じがしない。このあたりは、ボケ部分に対する圧縮アルゴリズムの上手さが出ているのではないかと思われる。

 暗部のS/Nに関しては、前モデルが手元にないので比較はできないのだが、おまかせiAのローライトモードと比較すると、増感を押さえるだけでまずまずの結果が得られている。ただおまかせiAがローライトと判断しなかった場合は、iA OFFでも同じ状況となるようだ。サンプルでは、テレ端ではiAがローライトであると判断しなかったため、iA ONとOFFの結果が同じになっている。

 今回はインターバル録画機能と併せて、おまかせiA OFFで月を撮影してみた。中央にある鉄塔の形はそれほどはっきりとは写っていないが、妙に暗部が持ち上がることもなく、難しいシチュエーションによく耐えている。

 
night.mpg (125MB)

00057.mts (8.8MB)
夜間撮影。ローライト以外は増感を押さえるようになった夜間+10秒単位でのインターバル撮影
編集部注:編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい。

 ただソニーの裏面照射型CMOSのように、暗いところでも浮き上がらず、しかもそれが暗いなりにちゃんと写ってしまうというわけではない。そこはやはり、方式の決定的な違いまで乗り越えるものではない。

 静止画機能の関しては、前作から変わった点はない。低照度時のカラーバランスなど三板式のメリットは多いが、ファイルサイズの割に圧縮結果があまり良くないのが、残念だ。

発色に説得力がある光量の割には人肌のバランスも悪くないが、S/Nがあまり良くない

■ 総論

 今回はマイナーチェンジということで、やや早めの総論である。ビデオカメラのリリース時期としては、普通秋モデルは7月後半から8月ぐらいの製品投入だが、6月末に早くも投入してきたというのは、珍しい。もちろん過去この時期に発売される製品もなかったわけではないが、それは春モデルのリリースに微妙に間に合わなかったか、ちょっと狙いが違ったモデルの投入に限られる。

 しかしTM350の場合は、春モデルとしてTM300をリリースしたばかりであり、早くも次作で追撃、という印象だ。やはりそこはソニーXR520V/XR500Vのインパクト、すなわちワイド端の手ブレ、暗部のS/N、虹彩絞りが、消費者以上に他メーカーにとって衝撃だったということの現われのように思う。

 上記3つのポイントのうち、各社ともすぐに対応可能だったのが、ワイド端の手ぶれ補正である。これは従来、ワイド端に行くに従って補正量をわざわざ減らしていたのだが、ある意味それをやめるだけで解決するわけである。今後はさらに、歩きながらという補正に対して、改めて各社とも研究が進むことだろう。

 暗部表現に関しては、とりあえず各社とも増感をリミットする方向で対応するのではないかと思われる。ノイズが多くても写った方がいいという報道的な考え方と、暗いところは暗いんだからそのまま写れ、という考え方の二者択一ができるようになってきた。従来増感リミットは、業務用機以上でしか搭載してこなかったのだが、少なくとも選べるようになるというのは、悪い傾向ではないだろう。

 虹彩絞りに関しては、さすがに光学部のサイズが変わってくるだけに、ボディ設計をやり直す必要がある。マイナーチェンジで実装するのは難しいようだ。ただ、圧縮アルゴリズムでボケた背景をよりボカすという考え方も、悪くないアイデアのように思える。つまりエンコード技術を使って、より積極的に絵作りをしていくということである。

 ソニーXRシリーズの登場によって、ビデオカメラは高画質というよりも、「いい絵とは何か」競争に火が付いた印象だ。しかしこの競争は少なくとも、世界最小最軽量競争よりは前向きであるように思う。

(2009年 7月 8日)

= 小寺信良 = テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「ややこしい話を簡単に、簡単な話をそのままに」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンピュータのフィールドで幅広く執筆を行なう。性格は温厚かつ粘着質で、日常会話では主にボケ役。

[Reported by 小寺信良]