“Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語”

 

第422回:ようやく日本でもホームネットワークが始まる?

~ DTCP-IP対応の再生ソフト「DiXiM Digital TV」 ~



■ ホームネットワークはどこへ行った?

 家電業界にとって、AVホームネットワークは戦略の柱であった。だがそれも2005~06年ぐらいまでのことで、今「DLNA」と言ってもほとんどの人は、「あーあったねーそういえばそんなのもー」的なリアクションしか返ってこないような状況になっている。家庭内でいろいろな機器がネットワークで接続され、相互にコンテンツを配信し合うというソリューションは、今となっては理想郷のような扱いである。

 インテルが以前からDTCP-IPを推進しているが、ネットワークとはその話に乗る企業が多く出ないことには始まらない。他社製品と繋がることよりも、自社製品内や限定されたパートナー間で動作保証したほうが、検証も簡単だしサポートの面倒がないということで、開発が先行するのは仕方がないことだろう。

 本来サーバーからの映像配信は、複製ではないので、もう少し許容されるべきものである。だが特にPC向けの配信ソリューションは、配信を利用しての複製を防止しなければならない点が、大変手間がかかるわけである。なかなかそこに手を挙げる企業がないのだが、以前からDLNAを積極的に推進してきたデジオンが、本日DTCP-IP対応のホームネットワーククライアント「DiXiM Digital TV」を発表、オンラインで発売した。

 これは、ホームネットワーク内にあるDTCP-IP対応の配信サーバーに録画されたコンテンツを自動で探して、表示、閲覧できるクライアントソフトである。そんな話どこかで聞いたような……と思われるかもしれないが、PCプリインストールとしてセットアップされたものは存在した。しかし日本独自仕様である地デジの著作権保護にも対応した単体売り製品である点が新しい。

 ようやく日本でも、コンテンツがデジタル化された本当の恩恵が受けられるようになるのだろうか。早速試してみよう。


■ 配信環境はまだ少ない

 DiXiM Digital TVはあくまでもサーバーを探して再生するためのソフトなので、配信機能は持っていない。DiXiM Digital TVが受信できるのは、DTCP-IPサーバー機能を持つレコーダやPC、LAN HDDからの配信である。

 今回は、アイ・オー・データ機器のUSB地デジキャプチャの「GV-MVP/HZ2」と、DTCP-IP対応のLAN HDD「HVL1-G1.0T」を使って、デスクトップのWindows VistaマシンとLAN HDDで配信サーバーを作ってみた。同社サイトで配布されている最新ソフトウェア(現時点ではver 2.21)のうち、ドライバ、mAgicTV Digital、DiXiM Media Server 3 for mAgicTVをインストールする。

今回のテスト環境、アイ・オーのGV-MVP/HZ2とHVL1-G1.0T最新ソフトウェアには配信サーバーも付属

 まず録画環境から見ていこう。番組録画のメインとなるmAgicTV Digitalは、番組視聴用ソフトの「mAgicTV Digital」と、EPGと予約、録画ライブラリなどを管理する「mAgicガイド Digital」の2つから構成される。最初だけはEPGを取得するのに全局を巡るため20分ぐらいかかるが、あとは空いている時間に自動更新する。EPGを使った予約のほか、おまかせ録画機能もあるので、使い勝手としては単体レコーダとそれほど変わらない。

EPGを自動取得して予約が可能おまかせ録画も可能
録画済みの番組はリスト表示される録画された部分だけEPGが残る

 

「ネットブックモード」も搭載

 面白いのは、最近流行のネットブックでも使える「ネットブックモード」があることだ。ただこのモードでは、番組情報の取得や予約の追従を行なわないので、魅力半減といった感じである。テレビ王国と連動したiEPGも使えるので、ネットブックモードではEPGではなく、そちらをメインにするという手もある。

 ためしにASUSのEeePC 901でも動かしてみたが、通常モードでも録画動作はできた。ネットブックだからといって、ネットブックモードにしないと動かないというわけでもないようだ。

 録画フォルダは、デフォルトではCドライブのルートに「mAgicTVD」というフォルダが作られる。もちろん任意の場所に設定可能で、LAN HDDもネットワークドライブとしてマウントしておけば、そこに録画することもできる。ただ、録画したPCで再生する際はこれでOKだが、ネットワークドライブに録画したものは配信できないという制限がある。

 使い勝手としては、録画して貯めたLAN HDDからいろんなクライアントで再生できるというのが、本来の目指すべきソリューションであろう。しかし現状のDRM処理ではローカルな暗号処理を行なっている関係で、録画するものと再生するものは1対1の関係でなければならない。例えば最近、HDDに録画できるテレビが増えているが、それらはHDDを外して別の機器に繋いでも、再生することができない。これと同じ理屈である。

 だが方法がないわけではない。LAN DISK AVシリーズは、DTCP-IPムーブ/コピーに対応しているので、いったんPCのHDDに録画したコンテンツをLAN DISK AVシリーズにDTCP-IPムーブ/コピーしてやると、LAN HDDはそれ以降その番組を配信してくれる。

 DTCP-IPムーブ/コピーは、mAgicガイド Digitalのライブラリ表示でムーブしたい番組を右クリックし、「エクスポート」から「DTCP-IPサーバへのダビング」を選択する。するとWEBブラウザが立ち上がって、転送先を指定することになる。あとは指示通りにクリックしていけば、ムーブ/コピーされる。現在地デジはダビング10運用なので、番組はコピー回数を一回消費して、コピーされることになる。

DTCP-IPサーバへのコピー/ムーブを実装ブラウザ内でダイアログが立ち上がり、コピー先を設定する

 いったんPCのサーバーを経由しなければならないということでは、二度手間となってしまう。このあたりの使い勝手は、サーバー側の仕様も含めて改善が望まれる部分だ。


■ いったん動けば軽快な動作

 ではDiXiM Digital TVを使ってみよう。と、まあ簡単に言ってみたが、実は結構動かすのが大変だった。というのも、ハードウェア的なハードルが結構高いのである。Vista環境では、CPUはCore 2 Duo以上を推奨、GPUはIntel G965 Expressチップセット以降、ATI Radeon HD 2600以上、NVIDIA Geforce 8400 GS以上となっている。

 ノートPCで家の好きなところでテレビ視聴、と行きたかったのだが、ネットブック程度では全然太刀打ちできない。またノートPCでもグラフィックスではCOPP対応が必須となるし、デスクトップではHDCP対応モニターが必要となる。古いPCを流用というわけにはいかないようだ。

 DiXiM Digital TVは、立ち上がるとすぐにサーバーを探しに行って、コンテンツを表示する。設定のようなものは何もなく、単に立ち上げるだけである。「サーバー」を見てみると、TVキャプチャーをやっているPC上のサーバーと、先ほどDTCPコピーしたLAN DISK AVシリーズ上のサーバーが2つ見える。コピーしたコンテンツは、それぞれのサーバーから配信されているので、2つ見えている。

DiXiM Digital TVのメイン画面設定は何もないが、ホームネットワーク内のサーバが発見されている

 表示方法は、月、週、日単位で切り替えるカレンダー表示と、リスト表示がある。「すべて」を選択しておけば、全部の番組がずらずらと表示されるが、ジャンルやチャンネル、時間帯などを選ぶことで、表示をフィルタすることができる。目的の番組を探すのに文字入力などが必要ないため、いわゆる10フィートGUIとしても使えるようになっている。

カレンダー表示も可能DTCP-IPコピーされた番組は、2つのサーバーからそれぞれ配信されている

 番組は、1クリックですぐに再生が始まる。レジューム再生にも対応しており、前回見たところから再生も可能だ。スキップボタンは、進行方向が30秒スキップ、戻り方向は5秒戻しとなっている。早送りに関しては、クリックするごとに2倍、4倍、20倍、100倍速となる。またシークバーをクリックしても、特定の時間へジャンプする。

 再生を停止すると、いったん番組のメタデータ画面に降りるようになっている。関連コンテンツは、録画数が少ないとあまり意味がないが、長期間利用していれば前回の番組などがリストアップされるはずである。このあたりは、YouTubeが再生後に関係するコンテンツを見せてくれる感覚に似ている。

再生中の画面。早送りやスキップなども可能再生終了後は、メタデータの表示画面で関連番組を表示する(はず)

■ 総論

 ローカルのネットワーク環境はスピードだけは劇的にアップし、今やGigabit EthernetもIEEE 802.11nも当たり前になった。動画コンテンツも十分に配信できるだけのキャパシティを持ちながら、現実は「流すものがない」状態になっている。せめて無料放送である地上デジタル放送の番組を、ホームネットワークぐらい自由に流しても構わないと思うのだが、権利者はそうは考えないようだ。

 しかしDTCP-IP対応のクライアントがようやく市販されたことで、配信対応製品も徐々に増えていくものと期待される。特にレコーダは、テレビで直接録画するのがトレンドになりつつある今、Blu-rayに変わるキラーファンクションが必要である。テレビと親和性が高いという方向性はHDMI CECによって実現したが、いよいよ次は他のデバイスに対しての配信・受信の時代である。

 今回の記事にはあまり活かせなかったが、ネットブック+LAN HDDの録画環境というのは、レコーダ並みに便利である。いや、マウスとキーボード操作でばしばし録画設定できる環境は、レコーダよりも便利かもしれない。

 問題はその大量に撮り貯めたものを、いかに時間と場所に縛られずに見ることができるか、ということだ。ネットワークを使った配信は、ダビングの手間がないぶん、メディアへのコピーよりもスピーディだ。ホームネットワークには限られるが、ケータイでワンセグを見るよりもはるかに高画質で、満足感も高い。

 ただ現状は、まだサーバーもクライアントもハードウェアのハードルが高く、そこまでの機材を持ってるならもう直接それで地デジ録画して見りゃいいじゃん、と言われかねない。だがそのハードウェアもあと2~3年経てば確実に旧モデルとなるわけで、そうなったときにようやく勝負が始まるソリューションであろう。

 アナログ放送が終わる11年以降も、「テレビ」がビジネスになるかどうかは、ひとえに視聴の利便性を上げられるかにかかっている。

(2009年 7月 15日)

= 小寺信良 = テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「ややこしい話を簡単に、簡単な話をそのままに」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンピュータのフィールドで幅広く執筆を行なう。性格は温厚かつ粘着質で、日常会話では主にボケ役。

[Reported by 小寺信良]