“Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語”

第460回:NAB 2010レポート その1

~ カムコーダだけじゃない、ワークフローの革命 ~



■ 日本企業を集中するセントラルホール

来場者登録を待つ長蛇の列

 現地時間、本日の月曜日から、いよいよNAB2010のスタートである。本日はラスベガスには珍しく曇天で、風の強い肌寒い日となった。会場には10時に到着したが、モノレールはさほどの混雑も見られず、割と余裕がある感じだ。今年もまた来場者が少ないのかなと思っていたら、受付・登録には約100mほどの長蛇の列ができており、初日の出足は悪くないようだ。

 さて今日はセントラルホールに集中する日本企業を中心に取材を行なった。過去サウスホールの方に大ブースが集中した時期があり、セントラルホールはちょっと寂しい、というか新旧きっぱり棲み分けのような格好になっていたが、近年SONYブースがセントラルホールに移って以来、こちらのほうにも活気が戻ってきた感じだ。



■ 製作ワークフローの効率化を図るSONYの展示

セントラルホール最大の展示規模、SONYブース

 毎年多くのカムコーダがリリースされ、まさに松竹梅のラインナップでさあどうしますか、と言わんばかりのソニーだが、今年は4Kや3Dといったワークフローに関する展示をかなりのスペースを割いて出展している。

 昨年のInter BEEではCellプロセッサを使ったトランスコーダーが参考出品されたが、今年のNABではいよいよ製品化される。シリーズ名は「ELLCAMI(エルカミ)」ハリウッドにあるEl Caminoという地名から取ったというが、「I am Cell」のアナグラムにもなっているという。

ついに製品化された「ELLCAMI」本体部分
 製品は2ラインナップで、トランスコード専用の「MPE-T1000」、インジェストとトランスコードが可能な「MPE-L1000」がある。ベースとなっているのはIntel Xeon2つを搭載したLinuxマシンで、その上にCell Boradband Engineと呼ばれるCellプロセッサのボードを複数枚装着、最大14個のCell(L1000は11個)を使用して各種ファイルをパラレルに高速エンコードする。

 発売時期は今年度第2四半期で、価格はT1000が2,940,000円、L1000が3,570,000円、追加のマルチコアプロセッシングボード(Cellが2個載ってるボード)が1枚あたり840,000円となっている。なお両方とも標準で、マルチコアプロセッシングボードが2枚装着される。

マルチコアプロセッシングボードL1000に搭載される4系統のインジェスト用ボード

 L1000のインジェスト機能は強力で、最大4台のVTRから同時に取り込みを行ない、複数のファイルフォーマットに同時にトランスコードを行なう。サポートするファイルフォーマットは、映画・CMでよく使われるDPX、デジタルシネマで使われるJPEG2000、CG業界で使われるOpenEXR、XDCAM HD/XDCAM HD422、SMPTE VC-3となっている。同時エンコード数は、映像の解像度やトランスコード処理の重さによって左右されるという。エンコードされたファイルは、ファイバーチャンネルや10ギガビットEther経由でSANやNASに転送されるため、別途なんらかのストレージも必要となる。

 現在HDのカムコーダはほとんどがファイルベースとなっているが、4Kなどの高解像度素材はまだまだHDCAM-SRが基本である。これまではテープからインジェストしたのち、各種フォーマットにトランスコードしていた。これがほぼリアルタイムで可能になるのは大きい。

 一方3D関連製品としては、ようやく業務用の3Dモニターが出てきた。42インチの「LMD-4251TD」と、24インチの「LMD2451TD」、両方ともLUMAシリーズである。最後のTDは、Three Dimensionの意味。3D表示は円偏光方式で、メガネは2つ付属する。2Dのモニタとしても使用できるため、現行のラインモニタからのリプレイスが進むと思われる。発売は今年秋を予定しており、価格は未定。

42インチの3Dモニタ「LMD-4251TD」こちらは24インチ、「LMD-2451TD」

有機ELを使った7.4インチ業務用モニタ「PVM-740」
 同じくモニター関連では、有機ELを搭載した7.4インチの業務用モニタ「PVM-740」を5月1日より発売する。液晶のLUMAシリーズではなく、往年のPVMシリーズとして登場するところがミソである。価格は365,400円。

 会場では同サイズのブラウン管、液晶と並べて、表示の優位性を比較できるようになっている。暗部表現は液晶に比べて格段に締まっているのが特徴で、色味はブラウン管相当。ただブラウン管は4隅の解像度が落ちるが、有機ELは全面にわたって均一な解像度である。また応答速度が速く、高速なロールテロップなども残像なしでモニタリングすることができる。

 マスターモニタのBVMシリーズで搭載されていたChromaTRUを採用し、10ビットパネルドライバと組み合わせて正確な階調表現と色再現性を実現している。入力は標準でSDI(最高3G)、コンポジット、HDMIを備える。ハーフミラー式3D撮影に対応できるよう、画面の上下左右反転機能も備える。サイズが小さいのが難点ではあるが、中継車やフィールドワークで信頼できるモニタが出てきた。

「HDR-CX550V」の業務用キットとも言える「HXR-MC50J」
 カムコーダとしては、AVCHDの業務用機「HXR-MC50J」が発表された。AVCHD記録の業務用としてはNXCAMのリリースが記憶に新しいが、MC50Jはコンシューマのハンディカム「HDR-CX550V」をベースに、ミニジャックで接続する小型ガンマイク、レンズフード、大容量バッテリ「NP-FV70」を組み合わせたセットになる。

 発売は今年7月で、価格は未定。そもそもHDR-CX550V自体がネットで8万円台まで下がってきており、フード、マイク、バッテリでプラスいくらになるのか、興味あるところだ。逆にカメラ専門店がいろいろな民生機をベースに、こういうキットを作っても面白いかもしれない。



■キヤノン初の業務用ファイルベースのカムコーダ登場

セントラルホールのほぼ中央に位置するキヤノンブース

 Inter BEEではモックアップ展示だったが、キヤノンのファイルベースカムコーダ、XF305/300が発表された。2枚のCFカードにMPEG-2 4:2:2 50Mbpsで記録する。305はSDI出力、GENLOCK端子、タイムコード入出力端子があるが、300はこれらが省略された以外、スペックは同じである。

 撮像素子は1/3インチ3CMOSで、総画素約237万画素。レンズが巨大だが、それもそのはずでキヤノンのハイエンドシリーズである「Lレンズ」を実装してある。画角は35mm換算で、29.3~527.4mmの光学18倍ズーム。F値はF1.6~2.8と、かなり明るいレンズとなっている。

 液晶モニタが特徴的で、通常の左側だけでなく、反転して右側にも展開することができる。左側に人が立つスペースがないなどの場合に、役に立つだろう。

 液晶モニタの下に表示されている波形は、フォーカスの合い具合を視覚的に表示できるEdgeモニター。フォーカスがあっているところが高く表示されるので、被写界深度の深さも視覚的に把握できる。また波形モニタ・ベクトルスコープ表示もできるのは便利だ。

巨大レンズが目を引く「XF305」本体の液晶モニタには、フォーカスの具合を波形で表示できる

 これまでカムコーダの多くはヒストグラム表示が可能であったが、ヒストグラムで輝度分布を見るのは写真の世界の人で、ビデオの世界の人間ならば波形モニターで見るのが普通である。ビデオエンジニアリングに対応した表示をするカムコーダが登場したのは、喜ばしい。

 昨今はEOS 5D MarkIIで動画撮影を行なうということもプロ業界に広く浸透してきた。キヤノンブースには5D MarkIIや7Dを動画撮影対応にするための各種リグやグリップが大量に展示されている。正直これだけあるとどれがどう違うのかわからないが、コンシューマ機をガンガンに改造してプロ仕様にするという文化が形成されてきているのかもしれない。

なんだかものすごいことになっている5D MarkII小型レールに載せてみました的な製品ここまで来ると普通に持った方が楽なんじゃないかと

 Panasonicはマイクロフォーサーズでムービーカメラを開発中であることは昨日お伝えした。SONYもαでフルHD動画をサポートするのではと言われていたが、今回のNABでは出展はないようだ。プロの世界でもいよいよ動画と静止画の境目が無くなってきた感がある。


 
(2010年 4月 13日)

= 小寺信良 = テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「ややこしい話を簡単に、簡単な話をそのままに」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンピュータのフィールドで幅広く執筆を行なう。性格は温厚かつ粘着質で、日常会話では主にボケ役。

[Reported by 小寺信良]