“Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語”

 

第478回:ウワサの「NEX-VG10」で撮ってみる

~ レンズ交換可能なハンディカムの威力! ~



■ いよいよ実写してみる

NEX-VG10

 8月前半にお送りしたソニー「NEX-VG10」のレビューは、実写のサンプルを掲載できなかった。等倍率のサンプル掲載やファイルダウンロードできる形での掲載がNGということだったので、同時期の他のレビューでは、縮小画像を掲載したところもあったようだ。当コラムでは、完全ではない状態でのインプレッションで先入観を持たれるより、ちゃんと評価できる機材で最初から読者に見ていただいた方がよいという判断から、次回改めてサンプルを掲載するとお約束していたわけである。

 そしていよいよ発売を今週末に控え、実写OKの機材が到着した。今回は前回のVG10レビューの続きということでお送りする。VG10のスペックなどに関しては、前回の記事を参考にしていただきながら読んでいただければ幸いである。

 今回使用したレンズは4本。Eマウントレンズとして、標準で付属する「E 18-200mm F3.5-6.3 OSSズームレンズ」(以下 E18-200mm)、単焦点レンズ「E 16mm F2.8」(以下E16mm)、αマウントレンズとして、「70-300mm F4.5-5.6 G SSM」(以下α70-300mm)、「DT 50mm F1.8 SAM」(以下α50mm)だ。つまりEマウントとαマウントそれぞれのズームレンズ、単焦点レンズという組み合わせだ。

今回撮影に使用したレンズ
αレンズ用のマウントアダプタ

 αレンズは専用のマウントアダプタを経由して装着するようになっている。AFは効かないが、絞りはVG10からコントロールできる。また画角は実焦点距離の1.8倍相当(静止画撮影時は1.5倍相当)になる。

 今回使用したレンズの画角を一覧表でご覧いただこう。なお表中の焦点距離は、35mm換算値だ。

レンズ名ワイド端テレ端
E18-200mm
32.4mm

360mm
E16mm
28.8mm
α70-300mm
126mm

540mm
α50mm
90mm

 なおVG10にはNDフィルタが内蔵されていないので、α70-300mmを除く3レンズには、ND4フィルタを付けて撮影した。撮影日は大変光量がある日だったので、そのまま絞り開放ではシャッタースピードが1/2,000秒とかになってしまうからである。手元にはたまたまND4しかなかったが、夏の晴天であればND8か16ぐらいがいいだろう。

 では早速撮影してみよう。なお、今回掲載した静止画サンプルは、すべて動画から切り出している。


■ 使いやすい? 使いにくい?

テレ端ではかなり長いカメラになる

 まずは標準で付属するE18-200mmでいろいろ撮影してみた。純粋なビデオレンズと違うのは、ズームすると鏡筒部が伸びることである。これはすなわち、ズームで画角を変えるとボディバランスがいちいち変わるということを意味する。通常ビデオレンズではレンズは飛び出してこないためボディバランスは変わらないものなので、ハンディの場合は持ち方を工夫する必要がある。

 画角に関してはワイド端で35mm判換算で32.4mmとそこそこ広く、ズーム倍率も約11倍あるので、使い手のある画角である。カムコーダと違いズームレバーがないが、プロではズームレバーを使わないカメラマンも多い。もちろんそれは撮影ジャンルにもよるので一概に無くても平気とは言えないが、ズームレバーがないことはそれほど致命的ではない。

 ただ業務用カムコーダを専門に扱っている人からすると、ズームリングの方向がビデオとは逆なので、戸惑う人は多いだろう。写真用のレンズは、どっちに回すとズームするかはメーカーごとにまちまちであるわけだが、たまたまαレンズはビデオレンズの標準と逆だったので、Eマウントのレンズもそれに習って逆になっているのであろう。ちなみにNikonもαレンズと同じで逆方向だが、Canonはビデオレンズと同じ方向である。

 


stab.mpg(113MB)
テレ端での手ぶれ補正比較。テレ端での劇的な効果は見られない
編集部注:「動画はCanopus HQ Codecで編集後、MPEG-2の50Mbpsで出力したファイルです。編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい。
 昔の写真用ズームレンズは直進式だったわけだが、E18-200mmもそれに習ってレンズフード部分を持って直進方向に伸ばしたり縮めたりすることができる。このあたりは機械式ズームのいいところだ。ただちゃんとグリップする場所があるわけではないので、ちょっとイレギュラーな使い方だ。

 そもそもこのレンズで、ズームインやズームアウトといった表現は難しい。なぜならばズームリングを回していくと、途中でマイクと鏡筒部の間に手が挟まってしまってそれ以上回せなくなってしまうからである。あくまでも写真を撮るように画角をかっちり決めたのち撮る、というのがこのカメラの使い方になる。

 E18-200mmでは、光学手ぶれ補正のアクティブ手ぶれ補正が使えるのもポイントだ。昨年4月にハンディカムに搭載されて以来、他メーカーも巻き込んで大きなブームを巻き起こした機能である。最近はテレ端でもかなり効くように改善が進んできたが、このレンズのアクティブ手ぶれ補正では、テレ端ではそれほどでもなかった。もちろんOFFよりは全然効くのだが、スタンダードとの違いは明確には見つけられなかった。性能としてはワイド端の補正がメインだった初期のアクティブ手ぶれ補正相当の能力だと考えた方がいいだろう。

マルチ測光なので、背景が暗いと露出がそっちに引っぱられる

 AEに関しては、静止画モードでは測光モードが変えられるのだが、動画の場合はマルチ測光固定となるようだ。そのため、バックが暗い場所での撮影では飛び気味になってしまう傾向がある。またAEシフトも静止画しか使えないので、露出が難しい撮影に関しては、フルマニュアルにしてレンズで調整していくことになる。あたりの機能は、動画でも利用できると使いやすいカメラになっただろう。

 音声に関しては、4つのマイクカプセルを使ったスタイルは非常に左右の分離が良く、ステレオ感が高い集音が可能だ。撮影日は結構風のある日だったが、付属のウインドスクリーンのおかげでほとんどフカレることもなく収録できた。基本的に常時装着でいいだろう。


■ フォーカスが結構難しい……

 


af.mpg(59.7MB)
歩いてくる人物に対して、ぎりぎりAFが間に合うかどうかといった速度
編集部注:「動画はCanopus HQ Codecで編集後、MPEG-2の50Mbpsで出力したファイルです。編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい。
 EマウントのレンズではAFが使えるわけだが、動作は普通のコンシューマカムコーダと比較すると、かなり遅いほうだろう。また昨今のカメラにはほとんど標準搭載されている顔認識機能もないので、人物撮影でもなかなか人にフォーカスが合わないといったことが起きる。いったん合えばそこそこフォローするのだが、最初に合うまでが大変だ。静止画モードでは、AFで動かしながらマニュアルでフォーカス調整ができるDMFという機能があるのだが、動画撮影ではこの機能が使えない。

 なお動画撮影中にフォトボタンを押すと、強制的にAFを取り直すことができる。この機能を併用しながら上手いこと使っていく必要がある。

 AFで行けるときもそこそこあるので、常時MFでは勿体ないのだが、AFとMFの切り換えが面倒である。一応フォーカス切り換え用のダイレクトボタンはあるのだが、それはフォーカスモード切り換えメニューを出すためのボタンである。つまりこれを押したのち、AF、DMF、MFの3モードをダイヤルでくるくる切り換えるわけだ。ところが動画ではAFとMFの2択しかないのに、一応ダイヤルをくるくる回してMFに切り換える必要がある。動画では2択しかないわけだから、ボタンを押したらトグルで切り替わるようにして欲しかった。

 

液晶表示ではわからなかったが、微妙にピントが奥に行きすぎている
 αレンズでは最初からAFが使えないので、自動的にMFになる。それは便利なのだが、フォーカスアシスト機能もないので、テレ端でのフォーカスが難しい。液晶モニタもかなり高解像度だが、逆にこの小ささで画素がギュッと詰まっているので、少しぐらいずれていてもフォーカスが合っているように見えてしまう。フォーカスを合わせたはずなのに、家に帰って大きなモニタで見ると微妙に外れているというケースが多かった。

 モニタ上でマグニファイするなどのフォーカスアシスト機能が欲しいところではあるが、液晶モニタを拡大するためのルーペなどを併用すれば、もう少し上手く撮影できたかもしれない。最近はこういうカメラが増えたので用意しようと思っていたのだが、すっかり忘れてしまっていた。


■ 絵作りで生きる高い表現力

深度表現は大きな魅力

 上記のようなポイントは、一般的なカムコーダから見たらこのような違いがあるよ、ということであり、だからダメだというのは早計である。実際に撮影できる絵は非常にすばらしいもので、特に深度表現に関してはこれまでのカムコーダではできなかった領域である。

 つまりVG10は一応ハンディカムのロゴが付いてはいるものの、これまでのビデオ撮影の作法とは全然違っているのでそれなりの用意なり作法が必要、ということなのである。従来のハンディカムはいわゆる報道用途、とりあえずカメラ一台だけで完結していてわーっと攻めていって撮れるだけ撮って逃げるみたいな使い方だ。

 そういうものをビデオカメラと呼ぶのであれば、VG10はビデオカメラではない。そもそも60iで記録するものの、センサー出力は30pなので、生々しい現場映像を撮ることには最初から向いてない。むしろ1カットずつ絵を作りながら撮影していく、デジタルシネマカメラである。

 だからちゃんと撮るにはおそらく外部モニタが必要だし、音声はレコーダで別撮りしてあとでMAで合わせるみたいな話が前提になる。まあ本物のシネマレンズならちゃんとフォーカスリングに距離が細かく刻んであって、実際に被写体までの距離を巻き尺で測ってフォローフォーカスしていくみたいな使い方になるわけだが、そこはコストダウンしたなりの現実的な考え方をしていきましょう、ということになる。

 絵作りに関しては、静止画と同じ「クリエイティブスタイル」が利用できる。プリセットとして6タイプあるが、それぞれに対してさらにコントラスト、彩度、シャープネスが独自に設定できる。あまりプロフェッショナル向けのパラメータに走らず、効果が高くわかりやすいものに集約したあたりは、コンシューマ向けの製品らしい。

モードサンプル波形
Std.
Port.
Vivid
B&W
Sunset
Land
各モードを動画で撮影したサンプル

creative.mpg(188MB)
編集部注:「動画はCanopus HQ Codecで編集後、MPEG-2の50Mbpsで出力したファイルです。編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい。

 


af.mpg(59.7MB)
水面に偽色が見られるのはNEX-5と同じ現象
編集部注:「動画はCanopus HQ Codecで編集後、MPEG-2の50Mbpsで出力したファイルです。編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい。
 エンコーダに関しては、それほど振り回して撮るカメラでもないと思われるので、AVCHD 24Mbpsで問題はないように思う。ただ特定のカットで水面に偽色が出ているのが気になった。このカットは、以前NEX-5で撮影したときも同じような現象が見られた。あの時とはレンズが違うし、エンコーダはビットレートが違うので、撮像素子の特性なのかもしれない。

 動画のエンコードは、NEX-5と違い、AVCHDのみである。記録としては60iだが、実際に撮像素子から出力されるのは30pだ。元々は写真用のプログレッシブCMOSなので、30p出力しか出ないわけである。一方AVCHDの規格には60iと24pがあるのみで、30pは定義されていない。そんなこともあって、30pの映像を60iで記録しているようだ。

画質モード解像度ビットレートfpsサンプル
FX1,920×108024Mbps29.97
00058.mts(30.4MB)
FH1,920×108017Mbps29.97
00059.mts(21.4MB)
HQ1,440×10809Mbps29.97
00060.mts(16.1MB)
編集部注:撮影した生ファイルです。再生環境はビデオカードや、ドライバ、OS、再生ソフトによって異なるため、掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。
また、編集部では再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい。

 今回レンズを変えながらいろいろ撮影してみたが、傾向として今回使用したEマウントのレンズは、広角方向にメリットがある。AFに不安はあるものの、広角であれば被写界深度が深いので、それほどAFの精度も問題にならない。一方αレンズは、望遠側で使うメリットが大きい。E18-200mmレンズのテレ端と比較してみると、特にα70-300mmレンズは発色が良く、やわらかい描写である。E18-200mmもいいレンズだが、αに比べると若干描写が硬いように思う。

柔らかく説得力があるα70-300mmの描写E18-200mmは若干描写が硬い

 α50mmもなかなか使いやすい、いいレンズだ。描写は非常にクリアで、動画撮影でも使うメリットが大きい。ただ欲を言えばこれが焦点距離1.8倍相当になると中望遠になってしまうので、この品質のまま50mmのレンズとして使いたいところである。

 α50mm、E16mmのもう一つのメリットは、フィルタ径が49mmという、割とよくあるサイズであることだろう。昔のPentaxやOlympusのレンズが49mmだったので、中古市場ではさまざまなタイプのフィルタが格安で売られている。ビデオでもシネマライクな撮影ではマットボックスを使うのが普通だが、フィルタが非常に高価なので、レンタルするのが普通である。一方で写真用レンズであれば、簡単にいろんなフィルタで動画撮影が自分で試せるのはメリットが大きい。

【動画サンプル】

sample.mpg(413MB)

room.mpg(126MB)
屋外での撮影サンプル。左下の表示は使用レンズ室内サンプル。蛍光灯下は12dB、ろうそくでは27dBに増感
編集部注:動画はCanopus HQ Codecで編集後、MPEG-2の50Mbpsで出力したファイルです。編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい。

 今回はそんなに変なフィルタではないが、ハーフNDと2フィールドフォーカスを使って撮影してみた。静止画だと効果が地味なのだが、動画ではその効果がはっきりする。

 一方標準で付いてくるE18-200mmは、フィルタ径が67mmである。それほど一般的なサイズでもないので、中古市場では入手できるフィルタの種類がグッと少なくなるだろう。遊べる要素が減ってしまうのが惜しいところである。

ハーフNDフィルタによる撮影効果
不使用
使用
2フィールドフォーカスフィルタによる撮影効果
不使用
使用

■ 総論

 今回改めてVG10で撮影してみて感じたのは、このカメラをどう使えば面白いかを見つけるには、結構時間と試行錯誤が必要だということである。体裁はハンディカムだが、内容的にはやはりこれはデジタル一眼である。もちろんだいぶムービーの血が入ってきてはいるが、本当にビデオカメラとして使うと、「あれ?」という感じになるだろう。

 おぼろげながらわかったことは、標準のE18-200mmだけで使う場合と、αレンズを組み合わせて使う場合とでは、全然違うカメラになるということである。E18-200mmはオールマイティに使えるレンズだが、良くも悪くも限界が見える。しかしαレンズを使ってフルマニュアルで使ってみると、かなり質の高いカメラであることがわかる。

 ハードウェアとしての作りはいいが、現状のファームウェアはそれほどビデオ撮影に特化しているとは言えない。静止画の方が機能が多いビデオカメラという、変なことになってしまっている。今後VG10はファームウェアで進化していきますよ、ということであればずいぶんと風向きも違ってくると思うのだが、現状のままで売り切り、今後はVG20にご期待ください、では人には勧めづらい。ソニーでなにかそういう姿勢のようなものを示してくれるだけでも、ずいぶん違うと思うのだが、どうだろうか。

 現状はキヤノンEOS 5D MarkIIが切り開いたDSLR動画撮影の世界に馴染むように作られた、ソニー流のデジタル一眼、というスタンスとして見た方がいいように思う。

(2010年 9月 8日)

= 小寺信良 = テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「ややこしい話を簡単に、簡単な話をそのままに」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンピュータのフィールドで幅広く執筆を行なう。性格は温厚かつ粘着質で、日常会話では主にボケ役。

[Reported by 小寺信良]