“Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語” |
■ デジタル一眼ムービーの夜明け
2008年のNikon「D90」、Canon「EOS 5D Mark II」と、当連載では早いうちからデジタル一眼による動画撮影の可能性に関して検証してきた。すでに多くの方もご存じの通り、もはやEOS 5D Mark IIによる撮影はプロの間で一気に広がりを見せ、今となってはCMにドラマに番組にと、大活躍である。
なぜこれほどまでにEOS 5D Mark IIの動画撮影がプロに受けるか、ということに関しては諸説あるが、レンズを含め周辺アクセサリで撮影スタイルが自由にカスタマイズできること、小型・安価なので海外ロケなどで使いやすいこと、35mm判撮像素子による深度表現で、絵の中のポイントを示しやすいこと、などが考えられる。しかし逆に考えると、EOS 5D Mark II以外のデジタル一眼は、動画撮影機能はまったく評価されていない。同じキヤノンのEOS 7Dですら、全力でスルーというのは面白い現象である。
ビデオカメラと違ってスチルカメラは、プロ用・アマ用という明確な区別がない。当然ながらコンシューマでも、デジタル一眼による動画撮影の魅力に気づく人も少なくないはずで、各メーカーとも次のポイントを動画撮影機能に置き始めている。
NEX-5 |
もちろん動画撮影機能も搭載しており、レンズ交換式カメラによる新しい映像表現を楽しむことができる。今回もいつも通り、静止画にはまったく触れずただひたすら動画しか撮らないという、偏ったレポートをお送りする。新システムはどんな絵を見せてくれるのだろうか。さっそくテストしてみよう。なお、静止画サンプルは、特に断りがない限り、動画からの切り出しである。
■ ほとんどレンズしかない斬新なデザイン
NEX-5は、デザインからスペックに至るまで、かなり異形の存在である。ズームレンズ付きの姿を見ると、まるで普通のコンパクトデジカメに無理矢理一眼のレンズを貼り付けたような格好に見える。レンズの直径がもはやボディの高さからはみ出しているあたり、もう殆どレンズだけだ。
レンズに比べてものすごく小さいボディ | 正面から見ると殆どレンズだけ |
単焦点レンズE16mmを装着したところ |
NEX-5のマウントは、Eマウントという新規格である。これに対応する純正レンズは今のところ、E18-55mm(35mm判換算27mm~82.5mm相当)/F3.5の3倍ズームレンズと、E16mm(同24mm相当)/F2.8の単焦点レンズのみである。
現在のところ、ボディのみでは販売されず、E16mm F2.8とのセット「NEX-5A」、 E18-55mm F3.5-5.6 OSSとの「NEX-5K」、レンズ2本とのセット「NEX-5D」がラインナップされる。すべてオープンプライスだが、直販価格はそれぞれ、79,800円、84,800円、94,800円。
秋にはE18-200mm(同27mm~300mm相当)/F3.5の光学11倍ズームレンズもリリースされる予定だ。また既存のαレンズが付けられるマウントアダプタも、すでに発売されている。
撮影レンズ | ワイド端 | テレ端 |
E18-55mm | 27mm | 82.5mm |
E16mm | 24mm |
撮像素子はAPS-Cサイズで、ミラーレス |
なおミラーレス一眼で先行するフォーサーズの撮像素子は4/3型(17.3mm×13mm)なので、APS-Cサイズのほうが広い。またフランジバックも、マイクロフォーサーズが20mmなのに対し、Eマウントは18mmである。まあ2mmぐらいはあんまり変わらないと言えば変わらないのだが、フランジバックが短いとマウントアダプタを介して使用できるレンズのバリエーションが増えるので、この方向性は歓迎したい。
マイクは上部にある。シューは専用設計で、付属フラッシュや別売のマイクが付けられる |
マイクはボディ上部に、レンズを挟んでL-Rが分かれた位置に付けられている。アクセサリーシューに付けられる専用マイク「ECM-SST1」もあるが、今回はお借りできなかった。シューの端子に直結するので、ケーブルレスで接続できる。また指向性が90度と120度に切換ができるそうである。
動画撮影フォーマットは、AVCHDとMP4の切り換え式で、最高で1080/30pで撮影できる。
フォーマット | 解像度 | ビットレート | fps | サンプル |
AVCHD | 1,920×1,080 | 17Mbps | 29.97 | 00052.mts(21.8MB) |
MP4 | 1,440×1,080 | 12Mbps | 29.97 | 00017.mp4(18.0MB) |
MP4 | 640×480 | 3Mbps | 29.97 | 00019.mp4(4.1MB) |
編集部注:撮影した生ファイルです。再生環境はビデオカードや、ドライバ、OS、再生ソフトによって異なるため、掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。 また、編集部では再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい。 |
液晶モニタはエッジ型LEDバックライト採用のXtra Fine3.0型で、外光の写り混みを低減したTrueBlack技術採用のものである。自動明るさ調整が可能なほか、屋外晴天モードも備える。ヒンジ部は上向きに80度、下向きに45度チルトできる。
液晶は上に80度傾く | 下向きには45度 |
背面のMOVIEボタンでいつでも動画撮影可能 |
バッテリはグリップ部のほぼ全体を占めるサイズのWシリーズ。充電器は横方向からスライドインするスタイルになっている。また別売アクセサリでACアダプタ「AC-PW20」も発売されている。
バッテリ、メモリーカードはグリップ部底部から挿入 | やや大きめのバッテリーチャージャー |
静止画機能まで含めるとまだまだスペック的には沢山書くことがあるが、今回は動画に関係するところだけに留めておく。
■ やっぱり動画はフルオート……
ではさっそく撮影してみよう。今回はズームレンズと単焦点レンズをお借りしている。
NEX-5はカメラ操作スタイルとして、メニューに様々な工夫を凝らしている。撮影モードは従来専用ダイヤルが付けられていたが、これもメニューの中に入れてしまった。また背景をぼかすための絞りコントロールとして、「おまかせオート」では背面ダイヤルによる「背景ぼかし」というパラメータ操作に変えることで、初心者にも優しい設計となっている。
撮影ダイヤルもメニューの中に | 「背景ぼかし」コントロールを装備 |
だがこれらの工夫も、動画撮影に関してはまったく意味がない。なぜならばどんなモードに設定してあっても、動画撮影をしてしまうと自動的に絞り開放、露出がフルオートになってしまうからだ。まあ絞りが開放になるところは、元々被写界深度の浅い動画を撮るためにわざわざデジタル一眼で撮影するわけだから、大抵は絞り開放で撮るのだが、露出コントロールが自分でできないという問題は、過去多くのデジタル一眼でも指摘されてきた。
オート露出が上手ければ別に問題ないのだが、撮影ポイントによってはよろしくないことも多い。ただ、絞り、シャッタースピードの調整はできないものの、「露出補正」だけは動画撮影でも利く。動画撮影を前提に考えるならば、撮影モードは「プログラムオート」で、ヒストグラムを見ながら「露出補正」でコントロールしていくということになる。
ただしこれは露出を固定するということではなく、いわゆるAEシフトであるため、光の変化などがあった場合には自動的に追従する。静止画的な観点からすると、光量が追従することはいいことだろうと思われるかもしれないが、動画的観点からすれば、多少光量が変わってもラティチュードで追従できる範囲ならば、露出が変わらない方が安定した動画となる。そのあたりの感性の違いが、なかなか静止画カメラ設計者には理解されない。
動画では常に絞り開放の自動露出 | 「露出補正」で補正することは可能 |
確かにボケるが、もう一息欲しい |
手ぶれ補正はレンズ側で行なう設計だが、手ぶれ補正が付いているのはズームレンズのみである。もっとも単焦点は24mm相当という広角なので、手ぶれ補正があってもなくても、あまり変わらないだろうと思う。
いつものように手ぶれ補正を試してみたが、ズームレンズは手ぶれ補正が効くものの、ハンディカムで人気となった「アクティブモード」ほどには利かない。かえってCMOS特有のローリングシャッター歪みの影響が顕著に出て、画面がぷにゃぷにゃしている。小型・軽量ではあるのだが、手持ちで歩きながら撮るような用途には向いておらず、三脚を立てて1カットずつきっちり撮っていくタイプのカメラである。
stab1.mpg(68.4MB) | stab2.mpg(68.4MB) | |
ズームレンズ、手ぶれ補正ありで撮影 | 単焦点レンズ、手ぶれ補正なしで撮影 | |
編集部注:動画はCanopus HQ Codecで編集後、MPEG-2の50Mbpsで出力したファイルです。編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい。 |
AFに関しても動画撮影では自由度が少なく、MF(マニュアルフォーカス)に設定したとき以外は、中央付近のAFになる。静止画撮影では、AFエリア設定でフレキシブルスポットなどが選べるのだが、動画撮影を開始したとたん、普通のAFに戻っていってしまう。まあMFでも、フォーカスアシストがあるので、それほど難しくはないが、もう少し動画に自由度が欲しい。
フレキシブルスポットでフォーカスポイントを指定していても…… | 動画撮影開始後1秒ほどで中央にフォーカスが設定される |
顔検出機能も搭載しており、スマイルシャッターなども静止画では使えるが、動画ではこれまた顔検出が利かなくなる。人物撮影はなかなか大変だ。まあどうせ動画には関係ない機能ではあるが、顔検出機能の実装では納得できないポイントがある。まず「おまかせオート」以外のモードでは、「スマイルシャッター」をONにしないと、顔検出機能がONにできないことだ。自動撮影はしなくていいが、顔検出によるAF追従だけは使いたいという場合には、やりようがない。もっともそのような複雑な使い方は、写真の場合は必要ないからかもしれない。
スマイルシャッターは相変わらずいい機能だ | 動画撮影では顔検出しない |
むしろどうすれば有効になるのかが知りたい |
撮影モードを変えればいいのか、スマイルシャッターを切ればいいのか、といった関係性がわかっていないと、使いたい機能が使えないというジレンマに陥ることになるだろう。
■ 発色は十分、圧縮に難あり?
画質に関しても評価が必要であろう。NEX-5の場合、最高画質はAVCHDで撮影するフルHD17Mbpsである。iPadなどで編集するためにMP4で撮影、という使い方もないではないが、ビットレートが12Mbpsになるため、画質的にはもう一歩である。現時点では最高画質を楽しむためには、AVCHDでの撮影以外に選択肢がない。
ビットレートとしてはちょっと前までのハンディカムと同じなので、大人しい絵柄では問題ないが、水面などを移すと圧縮による破綻が見られる。水面の偽色は、おそらく圧縮によるものだろう。また遠景では若干シャッキリ感が少ないように思える。味と言えば味かもしれないが、もう少し解像感が欲しいところだ。せっかくの一眼動画なのに、残念である。
水面に大量の偽色が…… | 遠景はもうちょっとキレが欲しい |
画角に関してはかなり広角なレンズであるため、室内などでは撮りやすいだろう。逆にズームで3倍しかないので、遠くから人物を狙うなどの使い方は今のところ無理である。単焦点レンズのE16mmは、動画としてはかなり大胆な広角の映像が撮れるので、使い方を考えれば面白い映像になるだろう。カメラがコンパクトな上にレンズにも厚みがないので、液晶がバリアングルという点も合わせて、いろいろ面白いアングルで撮影が可能になる。
一方で近景ではすばらしい解像感を見せる | 小型・薄型でアングルに自由度が増す |
発色も自然で無理がない |
発色に関しては特に設定を変えなくても十分で、発色の傾向としては割と素直でバランスがとれている。AFの追従性に関しては、動画用途としてはやや遅い。アングルを決めたら、マニュアルでフォーカスをとって撮影した方がいいだろう。
暗部や低照度時のS/Nは、それほど良くない。感度設定はISO 200固定だが、動画ではおそらくAUTOに切り替わるものと思われる。裏面照射じゃないから、というのも一つの理由かもしれないが、圧縮アルゴリズムの問題も大きいだろう。
sample.mpg(395MB) | room.mpg(130MB) | |
屋外サンプル | 屋内サンプル。低照度時のS/Nはそれほど良くない | |
編集部注:動画はCanopus HQ Codecで編集後、MPEG-2の50Mbpsで出力したファイルです。編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい。 |
■ 総論
NEX-5は元々スチルカメラであるため、写真機として評価はまた違うものがあるだろう。筆者も単純にスチルカメラとしてはかわいいサイズだし、広角も魅力的で、撮るのは楽しいだろうと思う。だが動画撮影に関しては、せっかくのハードウェアの良さがまだ十分発揮されていないという印象を受けた。動画撮影中は問答無用でフルオートになるというのは、動画初心者には有り難い機能かもしれない。だがそのオートの設定が「当たって」いれば問題ないが、そうじゃない場合の修正が難しいのは、逆に評価を下げる結果となりかねない。
これはつまり、写真で露出の良さやフォーカス位置などの絵作りがちゃんとわかっている人は、動画を撮っても同じようにそこはわかってる、ということなのである。そこを「動画はまた別ですから」、「動画機能はオマケですから」と逃げては、本当の意味での差別化や付加価値まで成長しないのではないか。
このことはすでに多くのデジタル一眼やネオ一眼で、指摘し続けてきたことである。コンパクトデジカメならともかく、一眼カメラで静止画は相当コントロールできるのに、動画が何にもさせてくれないのでは、撮影していて全然面白くない。これでは撮ってるというより、元々そんな風にしか写らないもので撮らされているだけである。背面のMOVIEボタンでいつでもフルオート動画撮影、というスタイルも残しつつ、ちゃんと動画を撮りたい人のためのモードがあれば、新カメラシステムの評価もずいぶん違っていたのではないかと思うと、残念だ。
完全にフルマニュアルになるのならそれもアリかもしれないが、そこまでやるには各種設定がメニュー内に入り込みすぎている。それは写真でも同じことで、マウントアダプタでマニュアルしかできないレンズを付けたときに、結構苦労しそうだ。レンズが変えられて、背面にAVCHDのロゴが輝くカメラで一体何がさせたいのか。そこのところがまだあまり見えてこない。
キヤノンのEOSのように、ファームウェアで成長するカメラであることを願うばかりである。