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“Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語”

第535回:コンデジサイズのナノ一眼、PENTAX Qで動画を撮る

〜気軽に撮れて遊べるカメラとレンズ群〜


■auto110再び

 フィルム時代、ペンタックスの「auto110」というカメラがあった。極小のレンズ交換式一眼レフカメラで、今でも中古屋さんではレンズ込みのフルセットが箱に入って6万円ぐらいで売られているのを見ることができる。先日中古カメラフェアで実機を触らせて貰ったが、小さいくせにかなり本格的な性能を持っており、小さいミラーが一生懸命動いているところに「萌え」を感じるカメラである。残念なことにこのカメラで使用する110フィルムがもう販売終了となってしまい、撮影するのもままならない状況だ。

 そんな状況を狙ってかどうかはわからないが、ペンタックスから110再び、ということで他社のマイクロ一眼よりさらに小さい「PENTAX Q」が発売された(ペンタックスではナノ一眼と名付けている)。サイズはまさにauto110とほとんど同じで、新しいレンズ規格「Qマウント」のシリーズも同時に展開する。価格的には標準レンズキットがネット上の実勢価格で5万円台前半、ダブルズームキットで7万円を切り始めている。


Qマウントの全レンズを試してみる

 カメラファンにとってはたまらない魅力があり、すでに静止画のレビューは沢山でている。ただ動画専門のレビューはまだないようだ。さらに多くのレビューが発売直後だったためか、後日発売されたレンズ群の撮影サンプルもあまり見かけない。

 今回もいつものように動画しか評価しないレビューに加えて、遅れて発売されたズームレンズ、ユニークレンズシリーズ3種フルセットをお借りすることができた。これらのレンズもこれまで作例があまりないので、面白いレビューとなるだろう。




■これでもか、の極小ボディとレンズ

 本体の詳細に関してざっくりしたところからまず説明しよう。

 撮像素子は1/2.3型のCMOSで、有効画素数は約1,240万画素。一眼カメラとしては撮像素子が小さいが、ビデオカメラとして見れば最近は割とアリなサイズである。現在プロ用機でさえ、3板式ながら撮像素子のサイズは1/3型が主流だ。コンシューマでは以前1/6型というのがあったが、最近は徐々に大型化傾向にある。

一眼としては小さい1/2.3型CMOSを採用 右側にダイヤルが集中し、片手でなんでもできるデザイン

 手ぶれ補正は本体側にあり、撮像素子をシフトさせる方式。フランジバックが9.2mmと短く、すぐそこに撮像素子がある感じ。ダストリムーバブル機能も備え、電源ON時・OFF時に動作するよう設定できる。

 レンズの光軸上に三脚穴があり、小さいのによくそこが空けられたなと思う。さらに底部にはUSBとHDMI端子まで備えており、ビデオ用途としても十分だ。今回はお借りしていないが、別途ビューファインダも使用できる。

 前面にあるダイヤルボタンは、画像に対するエフェクトの切り替えボタンとして機能する。カスタムイメージ、デジタルフィルタ、スマートエフェクトといった膨大なエフェクト群があり、本体でかなり絵をいじって遊ぶタイプのカメラだ。

背面のボタン類は小さく、指の大きい人には若干押しづらいかも 前面にあるダイヤルでエフェクトなどを切り替える

 レンズのスペックも整理してみよう。標準レンズとして必ず本体に付属することになる「PENTAX-01 STANDARD PRIME」は、35mm換算で47mm相当のF1.9。フォーカスリングはあるが、絞りは本体からの設定となる。最短撮影距離は20cm。

 遅れて発売された「PENTAX-02 STANDARD ZOOM」は、別売で買えるほか、ダブルズームキットを買うと付いてくる。こちらは35mm換算で27.5mm〜83.0mm相当、F2.8〜F4.5の3倍ズームレンズ。望遠としては物足りないが、広角側はかなり広い。また全域で最短撮影距離が30cmなので、テレマクロ的な使い方もできる。メーカーオンラインショップの価格は24,800円。

標準レンズとして付属するSTANDARD PRIME ワイドから中望遠までをカバーするSTANDARD ZOOM

 この2本がいわゆる「まじめな」レンズになるわけだが、面白いのは両レンズとも内部にNDフィルタを持っていることである。あいにくどれぐらいの濃度なのかスペックが公開されていないためわからないが、少しでも絞りを空けたいというニーズに応えたものだろう。

 次の3本は、ユニークレンズシリーズとしてリリースされている。「PENTAX-03 FISH-EYE」は35mm換算で17.5mm相当の魚眼レンズだ。絞りは開放F5.6で固定。メーカーオンラインショップの価格は9,800円。

 「PENTAX-04 TOY LENS WIDE」は、その名の通りトイレンズ的な写りを意識したタイプで、35mm換算で35mm相当、絞りは開放F7.1固定。ワイドとは言っても35mmならイマドキのカメラとしては標準レンズ相当である。メーカーオンラインショップの価格は5,800円。

 「PENTAX-05 TOY LENS TELEPHOTO」は、35mm換算で100mm相当の望遠レンズ。絞りは開放F8で固定。メーカーオンラインショップの価格は5,800円。

17.5mm相当が撮れるFISH-EYE WIDEと言いつつイマドキとしては標準レンズのTOY LENS WIDE 望遠としては格安、TOY LENS TELEPHOTO

 この3本のユニークレンズは、完全にマニュアルフォーカスである。スタンダードシリーズではマニュアルフォーカス時に自動的に液晶が拡大表示になるが、ユニークレンズはこの拡大も動作しないため、ワイド系のレンズではフォーカス合わせがかなり難しい。

 動画撮影としては、画質モードはFull HD、HD、VGAの3タイプで、記録方式はMPEG-4 AVC/H.264となっている。ビットレートなどのスペックは公開されていないが、実測値を記しておく。

 

【各モードの動画サンプル】
画質モード 解像度 ビットレート フレームレート サンプル
Full HD 1,920×1,080 12.6Mbos 29.97p
IMGP0529.mov(23.4MB)
HD 1,280×720 5.6Mbps 30p
IMGP0530.mov(10.6MB)
VGA 640×480 1.8Mbps 30p
IMGP0531.mov(5.2MB)
※音声は全て16bit/48kHz 2ch 380Kbps/s
編集部注:
編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。
また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

 

 フレームレートがFull HD以外本当に30pという結果が出たのが気になるところだ。実測値なので測定誤差の可能性もあるが、今回はほとんどFull HDで撮影しているため、比較サンプルが少なくて正確なところはよくわからなかった。



■マニュアル撮影可能だが……

 では早速実写である。昨年ぐらいまでは、多くのデジカメの動画撮影はフルオートしかなかった。未だにフルオートしかないものもあるが、PENTAX Qはマニュアル露出機能を備えている。

 デフォルトのダイヤル操作はシャッタースピードになっているが、Avボタンを押すことで絞りとシャッタースピードを切り替えて動かすことができる。ただ静止画撮影時にはヒストグラムが表示されるものの、動画モードでは出ないので、露出制御はカンに頼るしかなくなるのが残念なところだ。今回のサンプルではわりと露出がカットによってバラバラなのは、そういう理由である。

 絞り、シャッタースピードの両方を動かしても、ISO感度をオートにしておくと、ある程度は撮影中でも自動で追従する。静止画では最高6400まで上がるが、どうも動画では1600までに制限されるようだ。

動画撮影モードでマニュアル露出が可能 動画モードではISO感度は1600以上に設定できなかった

 どんな画質なのか読者諸氏は早く知りたいだろうと思われるので、まずはSTANDARD PRIMEとSTANDARD ZOOMから評価していこう。まずこれまであまりサンプルが出ていなかったSTANDARD ZOOMだが、ワイド端も広くF2.8とそこそこ明るいレンズなので、ワイドレンズとして使い勝手がいい。STANDARD PRIMEよりも長く、重量も多少重いが、元々小さいのでそれほど気にならないサイズである。何よりも胴鏡部が長いので、左手でレンズを持ってホールドしやすい。

STANDARD ZOOMのワイド端で接写 発色もしっかりしている

 画質もかなりがんばっていて、エッジ部分もシャープだし発色もいい。さすがに撮像素子が小さいので開放でもそんなには深度が浅くならないが、従来のビデオカメラと同程度。この写りなら、STANDARD PRIMEの領域もカバーできるだろう。静止画であれば後処理でボケを付ける「ボケコントロール」が使えるが、動画ではこの機能は使えない。あくまでもレンズと撮像素子、レンズの焦点距離の関係でボケを作っていくことになる。

STANDARD PRIMEの作例。ズームレンズより描画力が高いが、基本的な傾向は同じ

 写りのシャープさはSTANDARD PRIMEのほうがさらに顕著になる。ただ16:9画角のビデオ撮影で47mmというのはいかにも中途半端なので、あまり使い出がない、というかズームレンズからわざわざ付け替えるほどでもないというのが正直なところである。

 惜しいのは、最高画質でもビットレートがそれほど高くない点だ。三脚できっちり固定して写真的に撮るのであれば問題ないレベルだが、動きながらの撮影ではかなり圧縮ノイズが目立つ。このカメラの性格から考えれば、あまり固定撮影するケースは少ないだろう。


 

【動画サンプル】
sample.mp4(93MB)
【動画サンプル】
room.mp4(14.5MB)

すべてのレンズを使用した動画サンプル STANDARD PRIMEによる室内撮影
編集部注:上の動画はLoiLoScope2で編集し、スマートレンダリングにてMP4出力したものです。編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

 

【動画サンプル】
stab.mp4(33.3MB)

前半が手ぶれ補正あり、後半が手ぶれ補正なし
編集部注:編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

 

 動画撮影は静止画に比べると物凄く容量を食うので、デジカメではどうもビットレートを遠慮する傾向がある。だが昨今はメモリーも安いので、無理に圧縮してガッカリさせられるよりも、じゃぶじゃぶ帯域を使ってこれでもかという絵を出して欲しい。

 本体内蔵の手ぶれ補正は、動画でもかなり効果が高い。昨年からのビデオカメラでのブームのように、ワイド端でも極端に効くようなタイプではないが、気をつけて撮ればかなりステディな撮影が可能なレベルである。


背面のグリーンボタンは様々な機能に割り付け可能

 AFは、静止画同様シャッターボタンか、背面のグリーンボタンに割り付けることができる。ただし、動画を撮り始めると、その時にもう一度中央測距でフォーカスを取り直すため、事前のAFでのフォーカス合わせが無駄である。

 フォーカスロック代わりにAFとMFの切り替えが一発でできればいいのだが、あいにくそのようなショートカットボタンはない。先日のNEX-5nも動画に関しては同じような動作だったが、いきなりフォーカスが合ったかも確認せずに動画を撮り始める人はいないと思うので、この動きはなんとかならないだろうか。

 動画撮影中はAFの自動追従はせず、途中でAFを使ったフォーカス合わせもできない。マニュアルフォーカスリングでなんとかするしかないわけである。ただ被写界深度がそれほど浅くならないので、向かってくる被写体もそれほど違和感なく撮影することができる。



■かなりちゃんと撮れるトイレンズ

歪曲はあるがユニークな接写ができるFISH-EYE

 ではユニークレンズも試してみよう。まずはFISH-EYEだが、17.5mmだけあってかなり広角、近接での撮影ができる。また画面がかなり曲がるのも特徴だ。個性が強いので使いどころが難しいレンズだが、面白い絵が撮れることは間違いない。価格も1万円弱で、いわゆる飛び道具的なレンズにしては廉価で買えるのも魅力だ。

 フォーカスはマニュアルしかないので、なかなか合ってるかどうかわかりづらい。液晶モニタは視野角がかなり広いので助かるが、解像度が3.0型で約46万ドットなので、細かいところまではよくわからない。

 TOY LENS WIDEは35mm程度なので、スナップ撮りには使いやすいレンズだ。一方TOY LENS TELEPHOTOは、ズームレンズよりもさらにテレの100mm望遠なので、これも使い出がある。


意外に端正な写りのTOY LENS WIDE TOY LENS TELEPHOTOもなかなかの写り

 TOY LENSというから、もっとダメダメな写りなのかと思ったら、かなりちゃんと写る。写真だとまた違う評価になるのかもしれないが、ビデオで撮る分には十分普通である。動画サンプルにはSTANDARDレンズとTOY LENSを取り混ぜて編集してあるが、どのカットがTOY LENSなのか、映像を見ただけではよくわからないだろう。

 最も大きな違いは、レンズコーティングだろう。あえてフレアが出るように撮ってみたが、STANDARDレンズはかなりフレアが押さえられる。一方TOY LANSはかなりフレアに弱いことがわかる。

 

レンズ名 静止画サンプル
STANDARD PRIME
STANDARD ZOOM
FISH-EYE
TOY LENS WIDE
LENS TELEPHOTO

 

 

【動画サンプル】
effect.mp4(69.8MB)

動画によるスマートエフェクトの効果
編集部注:Edius 6で編集し、MP4出力したものです。編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

 

 本来ならばTOY LENSシリーズには、Lomo LC-Aのような味のある写りを期待したいところである。だがまあさすがに純正メーカー製で5,800円とったあげく“本気でダメなレンズ”だと、いろいろ差し障りがあるのかもしれない。ここはやはりサードパーティから格安で本格的なトイレンズというか、“ちゃんとダメなレンズ”というか、表現がなかなか難しいが、そういう味やクセのあるレンズの登場を待ちたいところである。

 クセと言えばPENTAX Qは、物凄い数のエフェクトやフィルタが用意されている。カスタムイメージで11種類、デジタルフィルタで19種類、スマートエフェクトで9種類ある。さらにユーザー設定で3項目プリセットできる。

 これらのエフェクトは動画でも有効だ。全部撮ってるときりがないので、ここではスマートエフェクトのみ、動画での効果サンプルを掲載する。




■総論

 これまでペンタックスのカメラで動画の評価をしたことがなかったので、今回が初めてのケースだが、他社の使い勝手からすると平均点といったところだろう。ただその平均は、動画カメラという切り口からはまだまだ合格点には至っていないので、さらなる改良を期待したいところである。もちろん、動画が撮れることがウリにしていればの話だが。

 例えば液晶モニタも、10秒ほど経つと節電のためか勝手に暗くなってしまうが、動画撮影ではずっとモニタで監視するものなので、これを切る設定が欲しいところだ。しかもそうやって節電しているわりにはバッテリがあまり保たず、今回のテスト撮影ではあと数カット撮影したかったが、バッテリ切れとなってしまった。

 動画のビットレートが低いことで、画質的に十分とは言えないのが残念だが、スチルカメラとしての使い勝手は非常にいい。特にInfoボタンで表示される一覧から必要な設定が変更できるとか、グリーンボタンや前面のダイヤルにいろんな機能が割り当てられるのは便利である。

 レンズも廉価で揃うし、16mmシネカメラ用のマウントであるCマウント用のレンズも、マウントアダプタ経由で使えるようである。以前はCマウントレンズなどほぼ捨て値だったのだが、最近のマイクロ一眼ブームのおかげで異常に価格が高騰しているのが難点である。

 動画カメラとしてはメインストリームで使うものではないが、変化球具合が非常に面白いカメラである。そういった点で、ポジション的にもまさに「デジタル版auto110」の位置にはまるカメラと言えるだろう。

(2011年 10月 12日)

= 小寺信良 =  テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「ややこしい話を簡単に、簡単な話をそのままに」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンピュータのフィールドで幅広く執筆を行なう。性格は温厚かつ粘着質で、日常会話では主にボケ役。

[Reported by 小寺信良]