“Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語”

第536回:生まれ変わったレンズ交換式ビデオカメラ「NEX-VG20」

~見た目は変わらず中身は一新、使い勝手も向上~


■ビデオカメラ業界の異常事態

 例年であれば秋の運動会シーズンにめがけて、8月末から9月は各社のハイエンドモデルが次々に出ていたものだが、もう10月10日体育の日も過ぎたというのに、ビデオカメラのニューモデルの話をぱったり聞かない。今年は大きな災害もあり、全体的にいろいろなイベントが縮小ムード、趣味の出費も縮小傾向にあるのはわかるが、売れないというのではなく、新製品が出ないというのは異常事態である。

 その根底には、デジタル一眼で結構綺麗に動画が撮れるようになって以来、ビデオカメラとは何なのか、その定義や存在意義も含めて、各社次の答えを探す必要が出てきたという事情があるのだろう。その中でいち早く答えを出したのが、ソニーのNEX-VGシリーズである。

 レンズが換えられるビデオカメラ。ソニーは昨年投入したEマウントのラインナップ、NEXシリーズのテクノロジーをハンディカムとして転用することで、レンズ交換式ビデオカメラに新しい活路を見出そうとしている。ソニーは現在でもビデオカメラのトップシェアであり、従来同様の後継機も出せばそれなりに売れるだろうが、それをやらないのだから、業界のトレンド的にもこのVGシリーズが与える影響からは免れないだろう。

 しかしながら前作の「NEX-VG10」は、難しいチャレンジだったことはわかるが、内容的にはほとんどスチルカメラだった。ハンディカムなのになんで? という疑問点も多く、当時開発者インタビューの折に様々なポイントについてディスカッションをさせていただいた。新モデルの「NEX-VG20」(以下VG20)は、前作とデザインがほとんど変わらないのであまり話題になっていないが、中身的にはかなりディスカッションで指摘したポイントが改善されている。

 前作はレンズキットのみの販売だったが、今回はボディのみの販売もアリで、店頭予想価格16万円前後。レンズキットは22万円前後となっている。ネットではそれぞれ14万円弱、20万円弱となっているようだ。

 新モデルの使い勝手はどう変わっただろうか。早速テストしてみよう。



■細かい変更点が光る

 VG20の実質的な中身とも言える、マイクロ一眼「NEX-5N」での動画撮影結果は、以前レビューした通りである。撮像素子と画像処理エンジンが新しくなり、1080/60pや24pの撮影ができるようになった。また新マウントアダプタ「LA-EA2」のおかげで、αレンズを使った時には標準AFを超える高速AFが使えるようにもなった。

 VG20も、このNEX-5Nと同じ撮像素子と画像処理エンジンを持ち、もちろんLA-EA2を使った撮影も可能だ。ただNEX-5Nが基本はスチルカメラなのに対して、VG20は基本がビデオカメラである。「できることは同じです、以上」では済むはずもない。

 デザインは前作とほぼ同じだが、実は細かいところで違っている。まずその差に注目してみよう。前作で一番困ったのが、レンズのリリースボタンが押しづらいことだった。そもそもボタンが小さい上に、グリップベルトの固定金具が邪魔で指が入れづらいという問題があったのだ。この点はボタンが大きくなり、またグリップベルト固定金具の位置がちょっと上にずれたために、問題なく押せるようになった。

 液晶モニタはタッチパネルとなり、前回とは操作系統がまったく変わっている。またパネル自体も前回は上下角90度までしか回らないため、反転できなかったが、今回はちゃんと反転で自分撮りできるようになった。

見た目はほとんど前作と一緒だが……リリースボタンが押しやすくなった液晶モニタは反転も可能

 操作系統としての大きな変更は、前作は液晶パネル内側にダイヤルがあったため、液晶を閉じてファインダ撮影しているときはまったくコントロールができなくなるという状態だったが、今回はマニュアルダイヤルとしてカメラ下部に移動した。横のマニュアルボタンを長押しすると機能を変更できるという、従来のハンディカムと同じ操作性だ。

写真はVG10のもの。マニュアル操作用のボタンは液晶モニタの内側に集約されていたボタンレイアウトが大幅に変わり、ダイヤルもボディの外に移動マニュアルダイヤルとして、カメラ下部に移動した

 さらにボタンとしてアイリス、シャッタースピード、プログラムAE、フォーカスが独立して存在する。これにマニュアルボタンを「ゲイン」に割り付ければ、露出に関するすべてのパラメータを独立して動かす事ができる。すなわち全部マニュアルにすればフルマニュアルだし、必要なところだけマニュアルで動かしてあとはオート、といった撮影もできる。ずいぶん前に「DSR-PD150」という業務用DVCAMの大ヒットモデルがあったが、その時の操作体系と同じだ。

 露出に関しては波形モニタが出れば言うことなかったが、ヒストグラム表示はできるので、だいたいの露出はモニタ上でわかる。

マイクは同じだが、5.1chサラウンドでの収録も可能に

 マイク部分は以前と同じように、4つの無指向性マイクカプセルを組み合わせて指向性を出すという設計だ。これは以前開発者陣とディスカッションしたときに、演算をがんばればサラウンドが録れるのではないかというアイデアを出した。今回はそれが実現して、5.1chサラウンドも録れるようになっている。

 グリップ部にもいろいろ変更点が多い。後方のイヤホンとDC INは独立したカバーとなり、さらにアナログAV出力端子が増設された。前方のUSBとHDMIも、端子としては同じだが配列が逆になっている。内部基板も全然違うのだろう。


端子の配列も若干違う拡大ボタンと録画ボタンもグリップ部に新設

 グリップ部上部には、フォーカス確認のための拡大ボタンと録画ボタンが新設された。後方とここ、そしてタッチスクリーン内と、録画ボタンが3つあることになる。



■動画撮影に最適化

 ではさっそく撮影してみよう。NEX-5Nのレビュー時と同様、今回もαレンズをいろいろお借りしているが、NEX-5Nで一番描画が良かった「Vario-Sonnar T* 24-70mm F2.8 ZA SSM」と、単焦点「Planar T* 85mm F1.4 ZA」を持ち出した。それにレンズキットに付属する「18-200mm OSS F3.5-6.3」である。

Vario-Sonnar T* 24-70mm F2.8 ZA SSMPlanar T* 85mm F1.4 ZAマウントアダプタの台座部が出っ張るので、αレンズ装着はいったん三脚からカメラを下ろす必要がある

 付属ズームレンズ「18-200mm OSS F3.5-6.3」は、倍率も高くオールマイティに使えるレンズだ。VG10ではAFが遅く、さらに顔認識機能もなかったので動く人物の撮影に難があった。しかしVG20ではAF性能がかなり改善され、顔認識や追尾フォーカス機能も使えるため、動く人物撮りの不安は払拭された。

【動画サンプル】
focus.mp4(79.2MB)

前半が標準ズームレンズ、後半がPlanar T* 85mm F1.4 ZA
編集部注:編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

 一方マウントアダプタ「LA-EA2」経由のαレンズは、高速な位相差AFが使えるわけだが、動画撮影においてはNEX-5Nでテストした際と同じ傾向があった。すなわちなめらかに追従し続けるのではなく、外れたと検知した瞬間シュッと動くという動作の繰り返しで、向かってくる人物の撮影などは、AFには任せておけない。

 またこれはレンズにもよるのだが、「Planar T* 85mm F1.4 ZA」はAF動作音がかなりうるさく、マイクに入ってしまう。もともと写真用のレンズなので仕方がないのだが、αレンズで同録を考えている人は、マニュアルフォーカスでの撮影も考えた方がいいだろう。

 マニュアルフォーカスは、グリップに4倍拡大ボタンが付いたことで、大幅に使い勝手が向上した。ただ録画ボタンに近く、手探りだと間違って録画してしまうこともあるので、もっと指先ではっきりわかるボタンの違いが欲しかったところだ。

 αレンズの絞りに関しては、前回NEX-5Nのレビューでは筆者も混乱してしまって申し訳なかったが、正確には「AFを使っている限りF3.5固定」というルールである。AFでフォーカスをとったのちMFに切り替えれば、絞りは自由に動かす事ができる。VG20ではフォーカス専用ボタンがあるため、このMFに切り替えることによるフォーカスロックと絞り操作の手順は、かなり使える方法論となった。

Planar T* 85mm F1.4 ZAでF3.5同レンズで解放F1.4
【動画サンプル】
stab.mp4(57.8MB)

前半が標準ズームレンズ、後半がVario-Sonnar T* 24-70mm F2.8 ZA SSM
編集部注:編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

 標準付属レンズのメリットは、手持ち時のアクティブ手ぶれ補正が効くところである。付属レンズと「Vario-Sonnar T* 24-70mm F2.8 ZA SSM」でテストしたところ、もちろん絵的にはVario-Sonnar圧勝ではあるものの、手ぶれ補正が効かない点が厳しい。

 NEX-5Nのレビューでも指摘した、カメラを持って移動撮影するとクリック音が入る現象だが、VG20でも同様の問題があった。NEX-5Nは写真がメインなのでそれほど性急な問題ではないだろうが、VG20はビデオカメラなので、この問題は致命的である。まだ発売前なので、発売時には問題が解決していることを強く要望したい。


【動画サンプル】
sample.mp4(188MB)

1080/60i, 5.1chサラウンドで収録
編集部注:EDIUS 6でスマートレンダリング出力した動画です。編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

 設定の面で、実は今回の撮影は失敗がある。本当は1080/60pで撮影するつもりであったのだが、設定手順が変わっていたために、結果として1080/60iでの撮影になってしまった。途中で気がついたのだが、もう大半のカットを60iで撮影してしまっていたので、やむなく今回は60iで統一することにした。60pの動画を楽しみにしていた方には申し訳ない。

 フレームレートの設定は、「画質・画像サイズ」のところにある。ここのフレームレートで60pを選んでメニューを抜ければいいと思っていたのだが、なんと実際にはこの画面の右下にある「次へ」のボタンをタップしなければならない。ここを押すと「動画記録中は720p/480p出力できません」というアラートが出る。これを承諾し、ダイアログを消したあと、60p画質になったことを確認してOKを押す。ここまでしないとフレームレートは変更されないのだ。


フレームレート変更手順1。まず60pを選択したのち、「次へ」を押す手順2。アラートが出るので、X印を押して閉じる手順3。画質モードを確認し、OKを押す

 これまでNEXシリーズではこのような操作体系になっていなかったので、てっきり60pを選択してメニューを抜ければ変更されているものだと思い込んでいた。自分が間違ったから言うわけじゃないが、フレームレートの変更にこれほどまでのアラートをいちいち確認させる手順が必要だろうか。おそらく撮影時に外部モニタを使用する人に対するアラートだろうが、この手順の多さには疑問を感じる。

うっかりすると標準画質でOKしてしまう罠

 これは60iに戻すときも同様で、同じように「次へ」を押して画質モードを選択しないと変更されない。しかも毎回必ず「標準」画質がデフォルトで選択されているという罠も待ち構えている。これもまた最高画質をデフォルトに考えている人にとっては、辛い仕様である。これでは大きな撮影事故が起こる可能性が高いのではないかと懸念する。




■新機能シネマトーンと他社製レンズも

新設された「シネマトーン」

 今回の撮影時の新機能として、「シネマトーン」が追加された。映画のような色合い、明るさで撮影できるというもので、特にパラメータがあるわけではなく、設定は入りと切りしかない。

 以前のVG10は、当時のNEXシリーズで採用していた「クリエイティブスタイル」がそのまま動画でも使用できた。これはこれで表現の幅があったものだが、今回はクリエイティブスタイルは廃止され、このシネマトーンのみに機能を絞っている。

 傾向としては中間値のラティチュードを広く取り、フェイストーンにより多くの階調を振り分けるとともに、発色も若干渋くアンバー方向に寄せているようだ。個人的にはこのクラスのカメラなら、単に映画的な雰囲気になりますよーというだけでなく、もうちょっと明確な狙いが欲しかったように思う。


標準ズームでシネマトーン 切同レンズでシネマトーン 入

 さらに今回はαだけでなく、オリンパスのフィルム時代のレンズもマウントアダプタ経由で使ってみた。「ZUIKO AUTO-W 21mm/F3.5」、「E.ZUIKO AUTO-T 135mm/F3.5」、「ZUIKO AUTO-ZOOM 65~200mm/F4」の3本である。

 今年6月21日、僚誌PC Watchで連載されていた元麻布春男氏が急逝されたのをご存じの方も多いだろう。筆者も元麻布さんとは共著したり雑誌で対談させていただいたりしていただけに、非常に残念である。

 このOMレンズ群は、元麻布さんが所有されていたものだ。ご遺族から、デジカメWatch経由でOM1ボディ2つと一緒に筆者が譲り受けることになった。

 どれもいいレンズなのだが相当使っていなかったようで、レンズにはカビがかなりあった。しかし筆者はカメラ修理の経験があるので、自分で分解クリーニングしてみた。レンズ修理のノウハウを詳しく紹介するのは今回の主旨ではないので、Before-Afterの写真を掲載するのみにしておくが、幸いガラス面まで浸食が進んでいなかったため、まず問題ないレベルまで綺麗になった。

ZUIKO AUTO-W 21mm/F3.5のビフォーアフター
E.ZUIKO AUTO-T 135mm/F3.5のビフォーアフター
ZUIKO AUTO-ZOOM 65~200mm/F4のビフォーアフター

 オリンパスのレンズは筆者も何本か持っているが、実際に撮影してみるとフィルム撮影で感じていた傾向どおり、若干青方向に引っ張られるのがわかる。ホワイトバランス・オートの場合でも、標準ズームやαレンズが若干アンバー寄りなので、色味の方向性としては真逆である。ただ本機にはホワイトバランスシフトもあるので、大まかな色味は合わせることができるだろう。

マウントアダプタでOMズームレンズを装着したところ若干青みが強いが、描画力は高いZUIKO AUTO-ZOOM 65~200mm/F4ボケ味もよく、端正な描写E.ZUIKO AUTO-T 135mm/F3.5
ZUIKO AUTO-W 21mm/F3.5はエクステンションチューブを付けて接写産毛の1本1本まで見える

 色味がかなり違うものの、細かいところの描画力は現代のレンズに負けていない。OM1が出たあとのレンズ群なので、おそらく1973年~75年頃のレンズだろうと思われるが、40年近く経過してもまだこれだけの絵が撮れるわけだ。元麻布氏がこのレンズを通して見た、そして我々も記事の中できっと見たはずの光と影をこうしてもう一度見ることができることに、深い感慨を覚える。



■総論

 昨年鳴り物入りでデビューしたNEX-VG10は、機能としてちょっとビデオカメラとは違うものになっていて、どう捉えていいのかよくわからないものになってしまった感があった。今年のVG20は形こそ似ているが、中身はほぼ全部変わったと言っても差し支えないほど、機能や操作性が向上し、問題点のほとんどがクリアされた。

 露出制御の自由度は、タッチスクリーンの採用、操作ボタンの見直しにより、NEX-5Nとは比較にならない。ボケの感じも、もうフル35mmセンサーにこだわらなくてもいいのかなという気がする。

 ただこのクラスのカメラであること、またこのクラスの価格帯であることからすれば、どうしても趣味の領域では済まなくなる。そこで困るのは、XLR入力が無いことである。ホットシューに付けるXLR入力ユニットでもあれば、話はさらにぐぐっと変わってくるのにと思う。

 ビューファインダに関しては、西川善司氏のCEATEC記事を読んでいてアレッと思ったことがある。デジタル双眼鏡「DEV-3」に関する感想で、ビューファインダ内で視点を動かすとカラーブレーキングが発生すると書いてあったのだが、VG20のビューファインダも同じデバイスを使っているのか、やはり視点を動かすとカラーブレーキングが発生する。これもちょっと気になるポイントだ。

 ビデオカメラとしての完成度は、1年で別物と言っていいほどに向上した。これが1年前に出てればなぁという思いとともに、エントリーモデルは“もうデジカメで良い”ということになっちゃうのか、ビデオカメラ派としては少し寂しくもあるところである。

 最後に、故・元麻布春男氏のご冥福を心よりお祈りしたい。

(2011年 10月 19日)

= 小寺信良 = テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「ややこしい話を簡単に、簡単な話をそのままに」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンピュータのフィールドで幅広く執筆を行なう。性格は温厚かつ粘着質で、日常会話では主にボケ役。

[Reported by 小寺信良]