“Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語”

第545回:【CES】パナソニックのフルHD 3D対応カムコーダ

~東芝流テレビコントロールの未来像~


■活気溢れる初日

 いよいよInternational CES 2012の初日開幕である。例年通りの晴天に恵まれ穏やかな気温で過ごしやすいが、流石に初日の会場へ向かう混雑はもの凄いものがある。

 実は会場への便も考えて、ホテルから直通のモノレールがあるホテルを選んでいるのだが、なんと初日から入場制限のために改札が通れない。仕方がないので、昨日プレスカンファレンスが行なわれたVenetianホテルまで歩き、そこから会場と往復しているシャトルバスに潜り込む羽目に。ただし道路も大変な混雑で、平時は15分ほどで到着するところが、バスに乗ってから40分かかる始末である。

 会場の中もかなりの混雑で、エントランスに近い通路は常にノロノロ歩き状態である。昨年は中国・韓国からの来場者が全体を押し上げていた感じがあったが、今年は在米の来場者がかなり多いように感じられる。街を歩いていても、近年感じていた景気低迷の閉塞感から何となく治安が悪くなってきている印象を持ったが、今年は以前のような活気が戻ってきているように感じられる。

 さて会期初日の本日は、パナソニックの新カムコーダと、東芝の気になる製品をピックアップしよう。




■三板路線は継承のパナソニック

段差を利用した特徴的な構造のパナソニックブース

 例年だとかなり細長いスペースを確保するパナソニックだが、今年はセントラルホールのひな壇の上と下を連結して使用するという、立体的なブース構成。下の方はほとんどテレビ関係で、それ以外が上の段といった配置である。

 パナソニックのカムコーダは、上位モデルは3MOSという路線を貫いてきたが、今回もその路線は継承するようだ。最上位モデルの「HC-X900M」は、新開発のCMOSセンサー3つを使ったモデル。基本デザインはTM700以降の製品ラインとそれほど大きくは変わらないが、今回からシンプルにXというシリーズになるようだ。


2Dカメラでは最上位モデルとなるHC-X900Mデザイン的には旧TMシリーズを継承

 撮像素子は1/4.1型、305万画素のCMOSを3枚使用し、さらに画素ずらしによって解像度を高めている。解像度が上がったぶんだけ画像処理エンジンの負担も増えるわけだが、こちらも従来比4倍の性能を持つ「クリスタルエンジンプロ II」に進化している。

 レンズはお馴染みLEICA DICOMARで、29.8mmから368.8mmの光学12倍のズームレンズ。ワイド端の解放F値1.5と、かなり明るい設計になっている。コーティングも新しくなり、厚さ約100nmのナノサーフェスコーティングを採用、反射を従来の半分以下に抑え、ゴーストやフレアを低減する。

 また、今回は同社小型コンシューマー機としては初めて、八角形の光彩絞りを搭載した。これで国内主要カムコーダメーカー4社すべて、虹彩絞りを搭載することになった。

 手ぶれ補正も上下左右のシフト、X/Y軸のローテーション補正だけでなく、Z軸方向、すなわち傾きの補正も行なう5軸補正となった。昨年CEATECで発表になった3Dカムコーダ「HDC-Z1000」に続いての5軸補正の「ハイブリッドO.I.S+」搭載となる。

 オプションの3Dコンバージョンレンズも新しく「VW-CLT2」となった。従来のコンバージョンレンズよりも調整項目が少なくなり、CMOSの画素数が上がったことで、前回のような画質落ちが少なくなり、フルHDでの3D撮影も可能。またカメラ本体の液晶モニタも裸眼3D表示できる。

3Dの新コンバージョンレンズVW-CLT2調整項目が少なくなっている

AVCHD 2.0の規格化により、3D記録と1080/60p記録が可能になったわけだが、従来同様サイドバイサイドの記録もできる。

 内蔵メモリは32GBで、SDカードスロットも搭載する。なお会場には展示がなかったが、同スペックで内蔵メモリなしモデル「HC-X800」も発売されるようだ。

ミドルレンジのコンパクトモデルHC-V700

 ミドルレンジとしては、単板式のHC-V700シリーズが登場した。撮像素子も新規開発で、従来モデルに比べて微細セルになっているが、配線層をより薄くし、フォトダイオードの体積を大型化することで、裏面照射型に匹敵する感度を稼いでいる。この新センサーは1/2.33インチで、総画素数は1,530万画素。

 レンズは28mmスタートの光学21倍ズームレンズで、iAズーム領域まで含めれば46倍ズームとなる。画素数が多いので、iAズームもかなり倍率を上げているようだ。

 このモデルも新しい3Dコンバージョンレンズを装着可能。手ぶれ補正はこちらも5軸の「ハイブリッドO.I.S+」を搭載で、全5群のレンズブロックのうち、2群と4群の2つをシフトさせる「マルチアクチュエータレンズシステム」となっている。

 V700Mは内蔵メモリー16GB+SDカードスロット、V700は内蔵メモリーなしでSDカードのみだ。


iAで50倍ズームがウリのHC-V500

 中堅モデルとなるHC-V500シリーズは、1/5.8インチ1.5メガピクセルのCMOSを採用した高倍率ズームモデル。レンズは32.4mmスタートの光学38倍ズームレンズで、iAズームでは50倍となる。手ぶれ補正はこちらも5軸の「ハイブリッドO.I.S+」を搭載。

 3Dコンバージョンレンズには対応しないが、2D-3Dコンバータ機能を備えている。

 V500Mが16GB内蔵メモリ+SDカードスロットで、V500が内蔵メモリなしでSDカードスロットのみ。


 エントリーモデルとなるHC-V100シリーズは、センサーはV500シリーズと同じで、レンズは32.5mmスタートの光学34倍ズームレンズ。iAズームは42倍まで。手ぶれ補正は5軸ではない。

 バッテリーが標準で155分の長時間使用が可能なのが特徴。V100Mは内蔵メモリ16GB+SDカードスロット、V100は内蔵メモリなしでSDカードのみとなっている。

 HC-V10は720pモデルなので、日本での発売はおそらくないものと思われる。1/5.8インチ1.5メガピクセルのCMOSを採用し、レンズは31.6mmスタートで光学63倍、電子ズーム領域までで70倍のズームが可能。

 これらはすべて2月発売予定で、価格情報は米国では非公開となっていた。

エントリーモデルのHC-V100。液晶脇のコントローラがユニーク720pの小型機、HC-V10

 もう一つ、ショーケースに収まっていたのが「HX-WA2」で、見た目からすると三洋Xactiの後継モデルだと思われる。フルHDの撮影が可能で、3m防水機能付き。色はオレンジとダークブルーの2色展開となっている。

Xactiの後継モデル、HX-WA2基本的なボタンレイアウトは同じで防水仕様

 またこの上位モデルとして、ウォータープルーフとサンドプルーフの両機能を備えた「HX-WA20」もある。全体的に撮影機材の展示はLUMIXがメインとなっており、カムコーダの展示は小さく隅の方に追いやられている感じで、時代の入れ替わりを感じさせた。



■タブレットのコントローラ化を推し進める東芝

多岐に渡る技術展示を行なっている東芝ブース

 東芝は例年テレビで元気のいいところを見せているが、今年はタブレットにかなり力を入れている。製品が沢山出ることもそうだが、タブレットで実現できることの一つとして、テレビコントロールに大きな比重を置き、もうガンガン開発を進めているのが特徴だ。現在そのあたりを率いているのが、かつてRDシリーズを手がけた片岡秀夫氏である。

 「MediaGuide with TABLET」という名称で展示されたAndroidアプリは、北米向けの東芝製テレビに付属するものだが、なかなか興味深い。まずアメリカのテレビ事情について簡単に説明しておくと、全米殆どの家庭が何らかのケーブルテレビに加入しており、地上波や衛星波を直接受信しているケースは少ない。

 さらにケーブルテレビ事業社がVODサービスも提供しており、事実上テレビ機能のほとんどはケーブルテレビのSTBの中にある。テレビは単なるモニターでしかないため、テレビのリモコンは殆ど使われないのが現状だ。

 ただケーブルテレビのチャンネルは数百から1,000近くまで増えており、もう従来型のリモコン操作は破綻し始めている。番組検索をしなければどうにもならないし、番組表のある場所からある場所へ移動するためには、リモコンの十字キーを爪も砕けよとばかりに連打しなければならないわけである。そのため最近では、EPG提供会社のほうでリコメンドを行なうという変化も起こっている。

 東芝が米国で取り組んでいるのは、このケーブルテレビのSTBの出来やリモコンの出来に縛られるのではなく、もっと自由自在にコントロールするため、そのコントローラ端末としてタブレットを使っていこう、というシナリオである。

 例えばEPGによる番組データも、ケーブルテレビのSTBから取るのではなく、ネットから取って直接タブレットに表示させる。これによって番組表スクロールも高速になるし、お気に入りのチャンネルだけをまとめたセットも作ることが出来る。またある時間から別の時間にジャンプするのも、指先による直感的な操作で行なう事が出来る。

タブレットですべての番組表を自在にコントロール見たい時間帯に指先一つでジャンプ

 日本で考えるとすぐに録画予約をどうするかという発想に行くのだが、米国では録画予約の需要は少ない。なにせチャンネルが1,000もあれば、どこかのチャンネルで面白い番組は見つけられるし、同じ番組が違うチャンネルで何度も再放送されるので、基本的に見逃し対策を行なう必然性が薄いのである。

 タブレットのアプリもそのあたりを組み込んだ作りになっており、現在放送中の番組を選択すると、テレビに接続された赤外線コントローラがケーブルテレビのSTBに信号を送り、チャンネルを変えるという仕掛けだ。最後の一歩が赤外線かよと思われるかもしれないが、全米には有象無象のケーブル会社、さらに異なるバージョンのSTBが1,000種類近くも混在しており、それらのAPIを統一していくよりも、赤外線コードをデータベース化して管理したほうが現実的なのである。

 また番組情報の詳細を選ぶと、出演者から別の番組を探してきたり、あるいは関連する番組を表示することもできる。さらには関連番組や映画がVODサービスの中にあれば、それまで含めて貫き検索してくれる。

roviのデータベースを使って詳細情報へリンク

 アメリカ人の基本的な消費行動として、コンテンツに対してお金をよく払うという傾向がある。つまり見逃した映画や、1週間先まで待てない番組を、お金を払って今見る、という行動になるわけだ。したがってテレビとVODとの連携はコンテンツホルダーにとっても必須である。

 このような番組表とVODを関連付けたデータベースは、世界的な番組情報提供企業であるroviが提供している。東芝ではそのデータを使って、GUIをさらにカスタマイズしていく予定だという。

 このCESでも“スマートテレビ”は一つのキーワードとなっている。テレビでTwitterが見られます的なものでもまあいいのだが、そのコントロールや書き込みを未だリモコンでやるんですか? というところの答えが出てきていない。そこに対して、アプリ次第でどんなGUIでも乗せられるタブレットを使うという解にたどり着いたのが、東芝であったわけだ。


テキスト入力はタブレットが便利テレビ以外のAV機器もマクロでコントロール
DLNAのコントローラはタブレット側に実装

 ここまではテレビ側からのアプローチである。このほか東芝タブレットには、DLNAのコントローラとして、家庭内のPCなどメディアサーバのコンテンツを一覧して、テレビに表示させるアプリも付属している。こちらはタブレット側からのアプローチだ。

 この方法論が主流になれば、テレビ市場もタブレット市場も、状況が一変する可能性がある。ただ日本の場合は、タブレットそのものでコンテンツを見たいというニーズも高い。しかし日本のデジタル放送は世界にも類を見ない厳しいDRMのせいで、DTCP-IPをはじめとする著作権保護技術の実装がタブレット側に必要になっており、当然その開発コストは消費者に降りかかってくる。

 米国では大型テレビの価格下落が激しいが、逆に言えばメディアとしてのテレビがまだまだ家庭で重要なポジションを占めているという現われである。さらに言えば、米国の家庭にはまだだま2台目3台目の60インチテレビが入る余裕があると言うことでもある。

 膨大な映像メディアコントロールをどうするか。誰が、どの端末が担うのか。それを考えた時、テレビがその主権を取り戻すという事の先には、テレビメーカーに主権を取り戻すというシナリオがあり、それを実現するために東芝がタブレットをガンガン投入してくるのだと考えれば、大きな流れが見えてくるように思う。

(2012年 1月 11日)

= 小寺信良 = テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「金曜ランチボックス」(http://yakan-hiko.com/kodera.html)も好評配信中。

[Reported by 小寺信良]