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“Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語”

第555回:すげえ絵だけにすげえ惜しい富士フイルムX-Pro1

〜もちろん動画に限った話。ローパス無しの高画質〜


■気軽にミラーレスと呼んでくれるな

 デジタルカメラの世界では、いつのまにかミラーレスのほうが主流のような感じがしてきているのは何も筆者ばかりではあるまい。小型・軽量というメリットがあるばかりでなく、低価格製品のサイクルも早いので、気がつけばミラーレスカメラのニュースが春秋商戦前に並ぶという状況になりつつある。露出が多ければそれだけ流行ってるという気になるというのが人情というものである。

 何がきっかけ、というわけでもないだろうが、パナソニックがフォーサーズからマイクロフォーサーズに主力を移してきたこと、そしてソニーのEマウントによる参戦、といったあたりからどうも賑やかになってきてような気がする。

 ただミラーレスと一口にいっても各社狙いは様々で、競合というよりは棲み分けというか、ポジション取りというか、椅子取りゲームの真っ最中であるため、ユーザーとしてもどこで割り切れるか、迫られる感じがある。そんな中、富士フイルムが投入するミラーレスの「X-Pro1」は、これまでのXシリーズも含め、どちらかというとレンジファインダー機と言った方がいいようなモデルばかりで、マニア垂涎のシリーズとなっている。

 今年のCESで初めて動作実機が展示された、ハイエンドモデルの「X-Pro1」。型番にProが付くからには、もうそのレベルですよ、というわけで、店頭予想価格はボディ単体だけで約15万円、18mmと35mmのレンズが各5万5千円前後、60mmのマクロレンズが6万円前後となっており、ボディとレンズの1本のセットで20万円コースだ。「気絶したら買ってた」という言い訳が通用するレベルではない。

 このカメラの特徴は、なんといっても新開発のCMOSセンサーだ。精細感を失う原因となっていたローパスフィルタをなくし、その代わりにモワレ防止として特殊な配列のカラーフィルター配列を採用した。

 もちろんこの工夫は静止画のためで、動画となればまたいろいろ話が変わってくる。原理的には逆にモワレが増えるはず、とも言われてはいるが、それがどれぐらいなのか、あるいはモワレが出なかった場合はどれぐらいの絵が撮れるのか、といったところは当然気になるところである。

 今回は元々動画には向いてないと言われている本機で、敢えて動画しか撮っていないレビューでお送りする。静止画カメラとしてのレビューは、僚誌デジカメWatchをご覧いただきたい。ちなみに今回お借りしているボディは製品前のプロトタイプ機で最終品ではないが、画質に関しては製品版と同等だそうである。そのため操作性などに関しては製品版と違いがあるかもしれないことをあらかじめお断わりしておく。

 それでは富士フイルム渾身のプロ機、X-Pro1の映像を拝見しよう。



■オールドスタイルのボディ

質実剛健、ガシッと四角いX-Pro1

 筆者は実際にCESで実機を見ているのだが、最初はもっと小さいものかと思っていた。初めて見たときは、正直一眼レフとあんまり変わらない大きさに驚いたものだが、形はずいぶん違う。昔のレンジファインダー機を今の技術で真面目に作ったらこうなった、という感じである。

 この連載の読者はご存じないかもしれないが、筆者の趣味はオールドカメラの修理で、以前それの連載を持っていたこともある。そういうわけでうちにはバカのようにレンジファインダー機が沢山あるわけだが、手持ちの中でサイズ感が一番近いのは、「PETRI F2」であった。まあそんな情報何の役にも立たないと思うが。

 昔のレンジファインダーはレンズ交換できないものが多い。逆にもっと古いLマウントの時代の方が、レンズ交換できるレンジファインダー機の全盛時代である。それに対してX-Pro1は、レンズ交換可能で、ファインダーはOVF(光学式)にもEVF(電子式)にもなる。もちろん背面液晶表示も可能だ。

 デザインも非常に興味深い。プリズムがないので軍艦部は真っ平らでスマートだ。角はエルゴノミックに流れることなく、ガシッと四角い。右手グリップ部だけは滑り止めのために指がかりがある。

 前から見ると、普通はメーカー名や型番を背負っているものだが、それらがまったくない。主張しないのである。強いて挙げればレンズ部に「FUJINON」の名前が見えるが、それを見れば、多くのカメラマンがこの勝負負けたと思うわけである。

軍艦部だけ見るとフィルムカメラのようだ 看板モデルなのにメーカー名もモデル名も正面から見えない

 さて無駄話ばかりしてないで解説に移ろう。まずボディだが、撮像素子は新開発APS-Cサイズ(23.6×15.6mm)、1,630万画素の「X-Trans CMOS sensor」。ローパスフィルタを使わずにモワレを低減する仕組みは、フィルムの粒子からヒントを得た、一見ランダムに見えるカラーフィルター配列にある。詳しい解説はCESのレポートの中で述べているので、そちらを参考にしていただきたい。

上が「X-Trans CMOS sensor」、下が一般的なベイヤー配列。36画素を一単位とした複雑な配列になっているのがわかる   従来のセンサーとの、解像力の比較イメージ 解像力の比較グラフ

新開発のX-Trans CMOSはAPS-Cサイズ

 レポート中でも指摘しているが、いくらランダムなフィルター配列にしても、動画の場合はそこから間引きして1,920×1,080ドットの映像を作る。そこで今度は間引き・縮小に起因するモワレが起こる可能性は高い。それでもどういう絵が撮れるのか、というのが今回の趣旨である。

 ビューファインダーは、OVFでもレンズを換えるごとに倍率が自動で変わる。18mmレンズ装着時にはファインダー倍率0.37倍、35mmと60mmレンズでは0.6倍だ。それで追いつかないレンズの場合は、中に表示されるブライトフレームの枠が変化する。OVFではフォーカスがわからないが、アングルははっきりわかるので、フィルムのムービー撮影っぽい使い方になるだろう。


クリアで明るいOVF
Fnキーはポイントとなる機能を割り付け可能

 動画撮影は、ドライブモードを動画モードに切り換え、シャッターボタンで撮影のスタート/ストップとなる。軍艦部上にあるFnキーに動画モードへの切り換えをアサインできるので、今回はその設定で使っている。

 動画モードの画質は2タイプ。フルHDは1080/24pで、HDは720/24pだ。ビットレートの設定もなく、要するに24pでしか撮れない。フォーマットはMPEG-4 AVC/H.264のMOV形式だ。音声はステレオ。動画1ファイルの最長撮影時間は29分という制限がある。



【各モードの動画サンプル】

モード 解像度 ビットレート
(実測)
サンプル
FULL HD 1,920×1,080 約12.5Mbps
DSCF2855.mov (27.8MB)
HD 1,280×720 約8.4Mbps
DSCF2856.mov (22.2MB)
編集部注:再生環境はビデオカードや、ドライバ、OS、再生ソフトによって異なるため、掲載した動画の再生の
保証はいたしかねます。 また、編集部では再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますの
でご了承下さい。

 ビットレートは実測値だが、かなり低い。今どきのビデオカメラの平均からすると、半分ぐらいしかビットレートがないという印象だ。もっともフレーム数が大幅に少ないので、単純に画質も半分というわけではない。このあたりは実写で確かめた方がいいだろう。

絞りはレンズ側のダイヤルで設定

 もちろんこのクラスのカメラだから、写真はフルマニュアルでの撮影が可能だが、動画ではいくつか制限がある。絞り、フォーカスモード、ホワイトバランス、フィルムシミュレーション、露出補正は、録画ボタンを押す前に変更していればそのままの設定で撮影できる。

 絞りはオートにしていれば、動画撮影中に自動で追従する。また絞りをレンズ側で指定しておけば、絞り優先AEで撮影できる。

 フォーカスモードダイヤルは、前面にある。SはシングルAF、CはコンティニュアスAF、Mはマニュアルだ。動画モードでは、SにしていてもCモードと同じ動きになるようだ。


背面パネル。オーソドックスな配置だが、一つ一つのボタン類が離れているので使いやすい

 マニュアルフォーカスの場合でも、背面のAE-L/AF-Lボタンを押すとAFでフォーカスを合わせてくれる。このとき、液晶左のAFボタンを押せば、どのあたりでAFを取るかの場所指定もできるので、ナメの構図なども作りやすい。

 もちろんレンズのフォーカスリングでも調整可能だ。このときは拡大表示にはならないが、画面下にスケールが出て今何メートルぐらいということがわかるので、実物と見比べながらだいたいの目安が付けられる。


同時発売のレンズ3本

 さてレンズだが、今回は同時リリースされたXFレンズ3本をお借りした。すべて単焦点である。


名称 35mm換算 開放F値 画角サンプル
XF18mmF2 R 27mm F2
XF35mmF1.4 R 53mm F1.4
XF60mmF2.4 R Macro 91mm F2.4

 

XF18mmF2 R XF35mmF1.4 R XF60mmF2.4 R Macro

 

 絞りはすべて1/3ステップだ。ただ機械制御ではなくモーター制御なので、ボディに付けて電源を入れてないと、絞りの開閉は効かない。また絞りの中間値は軽く、数字があるところで重くなるような制御が施してある。絞りを回していると、3回に1回強い引っかかりがあるという感じだ。

 レンズフードもそれぞれ凝っていて、18mmと35mmは角形、60mmは底部に穴が空いたスタイルとなっている。このあたりもレンズに対する強いこだわりを感じさせる。

フードは18mmと35mmが角形 60mmは穴あき


■動画でもすばらしい描画

 さてそれでは実際に撮影してみよう。あいにく撮影日は雨上がりの曇天というあまりよろしくないコンディションだったが、それでも十分にいい絵を見せてくれた。

 深度表現はさすがフジノンで、どのレンズも開放でも合焦部分のキレの良さがある。特に人物を撮ったときの説得力は、かなりのものだ。

XF18mmF2。ワイドだが立体感のある描写 XF35mmF1.4。素晴らしい描画力 XF60mmF2.4。開放でもきちんとしたディテール

 解像感は非常に高く、髪の毛や肌のディテールなどもしっかり映っている。12.5Mbpsしかないが、深度が浅いためにあまりビットレートが食われないようだ。ただ絞って撮ったり広い絵を撮ったりすると、さすがにちょっと足りないかなという部分も見られる。

XF60mm F2.4開放 XF60mm F5.6
XF60mm F22。絞りを変えても合焦部分の描画はほとんど同じ 深度が浅いと込み入った絵でもビットレート不足を感じない

 色味としては非常に素直で、解像感の高さと相まって非常にすっきりした絵になっている。レンズのバリエーションとしては、ワイドから中望遠までそつなく3本揃っているのだが、動画で絵を作るバリエーションの問題からすれば、もう一息寄れるレンズが欲しかった。

 コンティニュアスAFの性能は、それほど高くない。いつもの歩きのシーンでは60mmのレンズを使ったが、遠くにいる被写体に対してどうしても最初からAFでフォーカスが合わないという現象が起きた。曇天でコントラストも低いという悪条件ゆえに、この性能がすべてではないと思うが、この日は全体的にAFでフォーカスが合いづらかったため、人物以外はほとんどMFで撮影している。


【動画サンプル】
sample.mp4(90.3MB)
【動画サンプル】
af.mp4(19.2MB)

動画サンプル。感度はISO800 Autoで撮影 低コントラストな遠景のAF動作が苦手のようだ
編集部注:編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい
曇天ながらこの発色 構図としてはもう少し寄りたいところ
【動画サンプル】
stab.mp4(27.6MB)

手ぶれ補正機能はないが、レンズの描画ゆえにいろいろ許したくなる
編集部注:編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

 実は個人的に富士フイルムのコンパクト機「F550EXR」を使っているのだが、これも動画撮影時に、どこにもフォーカスポイントが見つけられないまま行ったり来たりしてしまうという現象が起こる。テレでのコンティニュアスAFには、課題があるのかもしれない。

 またAFは静音モーターでもないので、動画撮影時には動作音が入る。またマニュアルで動かしても同じように音がするので、距離が変わる撮影で、カメラでの集音も活かすのは難しい。

 手ブレに関しては、そもそも手ぶれ補正機能がないので、手持ち撮影ではなんらかのスタビライザーが必要になるだろう。ただ、レンズ描写による絵の説得力は素晴らしいものがある。ものすごく苦労するだろうが、このレンズとカメラで何か1本撮ってみたいという衝動に駆られる描画だ。


【動画サンプル】
eff.mp4(44.2MB)

フィルムシミュレーションを順に動画で試してみた
編集部注:編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

 フィルムシミュレーションは、未だにちゃんとフィルムを作り続けているメーカーだけあって、フィルムのシリーズ名を冠したモードはなるほどと思わせるものがある。細かいパラメータはないが、モノクロのバリエーションが多いというのも一つの特徴だろう。

 モワレに関しては、当初から予想されていたとおり、水面の細かい波紋のようなものを撮ると発生する。このあたりは構造上仕方がないところなのだが、今は「5D Mark II」のおかげで優秀な偽色低減プラグインも出来てきている。


18mm。奥に多少の偽色 35mm。偽色ははっきりわかる 60mm。完全に偽色がわかる
【動画サンプル】
room.mp4(28.8MB)

室内サンプル。感度はISO 1600 Autoで撮影
編集部注:編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

 まあその昔、アナログコンポジット時代のテレビカメラでは「縞模様や千鳥模様の衣装はNGな」という約束をしてるだけでなんとかなった世界でもあるので、モワレが出るパターンを理解して、運用である程度避ければ、なんとかなるような気がする。というかそういう風に言い訳してでも撮ってみたいレンズなのである。

 室内撮影に関してもかなりS/Nがよく、色味もクリアだ。蛍光灯下でも嫌みのない描画で、安心して撮影できる。




■再生と出力が弱いのが難点

動画再生は720/24pとなる

 再生、およびHDMI出力についても簡単に触れておこう。まず再生時のHDMI出力だが、フルHDで撮影した動画を再生すると、本体の出力からは720/24p相当の映像しか出力されない。フル解像度の出力を持たないというのは、映像の確認という意味ではまことに残念な仕様だ。ちなみに静止画はフルHD解像度で表示できる。

 また撮影モードではHDMIスルー出力も出ない。これはかなり痛い。つまりOVFを使いつつ、フォーカスは外部モニターで、という使い方もできないし、あわよくばHDMI出力をそのまま別の機器で録画、ということもできない。

 おそらく内部の出力エンジンの性能だと思うので、ファームウェアで改善されたりはしないと思われるが、まったく惜しい。レンズは素晴らしいので、この点を改良したボディが出てくれないかなーと将来に期待したいところだ。



■総論

 CESのX-Pro1のプレスミーティングでも話が出たのだが、このクラスのカメラなら動画再生機能はいらないのではないか、という意見がある。この点に関してメーカー側は、「トレンドとしては外せない」という答えだったと思うが、このレンズと撮像素子による動画撮影の可能性を垣間見られたという点においては、あってよかったと思う。

 解像感はもちろん申し分なく、動画の操作体系も悪くない。ただリクエストを挙げるならば、ビットレートは40Mbpsぐらいまで欲しいとか、せめて30fpsもお願いとか、レンズはもうちょっとギコンギコン言わないようにならないのかとか、フルHD撮れるのにHDMIがフル解像度出ないのはないわーとか、撮影中にHDMIから絵出しましょうよとか、遠景のAFもうちょっとがんばれとか、動画のモワレは画像処理でなんとかなりませんかとか、マイク入力付けてくださいとか、ついでにヘッドホン端子もねとか、あともうちょっとですごいことになりそうなので、非常に勿体ない気がする。

 デジタル一眼動画としてはいよいよニコンも参戦、キヤノンも本気出したということで、今年はますます面白くなりそうだ。そこにフジフイルムも本格的に参戦してくれると、全く違ったテイストで面白いのになぁ、と思う次第である。

(2012年 2月 29日)

= 小寺信良 =  テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「金曜ランチボックス」(http://yakan-hiko.com/kodera.html)も好評配信中。

[Reported by 小寺信良]