“Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語”

第556回:ホームネットワークの中核へ。パナソニックDIGA「BZT920」

~レコーダがWi-Fiを積むと? タッチパッドリモコンが便利~


■攻めるレコーダ

 この連載がスタートしたのは2001年3月のことだが、本連載で初めて取り上げたレコーダは、パナソニックの「DMR-HS1」だった。DVDレコーダは当時デジタル技術の粋を集めた最先端機器で、そこからしばらくAV機器のメインストリームを走ることになる。

 そしてVHSからの置き換えが進むにつれて、レコーダはいつの間にかコンサバティブな商品になっていった。普及するというのは、つまりはそういうことなのである。昨今はまた“全録”というコンセプトによって生まれ変わりつつあるが、パナソニックのDMRシリーズは従来型レコーダもまだまだやることはあるぞとばかりに、攻めの姿勢を崩していない。

 今回取り上げる「DMR-BZT920」(以下BZT920)は、これまで「笛吹けど踊らず」感が強かったホームネットワークを、もう一度新しい仕掛けで再構築するというコンセプトの商品だ。もちろんそればかりではなく、面白いトライアルも数多く仕込まれている。

 すでに2月末に発売されており、発表時の店頭予想価格は22万円前後だったが、ネットの最安値は13万円後半ぐらいまで落ちてきている。ここまで下がればいつ買っても後悔はないだろう。

 さてパナソニックが考える、攻めるレコーダとは何か。早速テストしてみよう。

【新レコーダのラインナップ】

 

型番HDDチューナシンプル
WiFi
Qi店頭予想価格
DMR-BZT9202TB322万円前後
DMR-BZT8201TB-13万円前後
DMR-BZT720500GB10万円前後
DMR-BWT6201TB2-10万円前後
DMR-BWT520500GB85,000円前後
DMR-BRT22016万円前後

 



■相変わらずの小型ボディ

 この2月に発売されたモデルとしては、このBZT920が最高機種となる。高画質・高音質方向に振ったのはもちろんのこと、機能とHDD容量大盛りといった内容だ。HDD容量は2TBで、容量半分1TBの「BZT-820」より10万円高いという値付けもある意味驚きである。

 ボディはお馴染み奥行きが短いスタイルで、20cmを切る。ラックに入れるというよりも、テレビの前に置くという想定なのかもしれない。それというのも、天板にワイヤレス充電のQi(チー)機能を備えているからである。

奥行きの短さは健在天板にはQiの充電パッドを内蔵

 Qiは電磁誘導方式によるワイヤレス充電の国際規格で、パナソニックが積極的に充電用パッドと対応バッテリを販売している。電器屋さんの電池コーナーにセットで置いてあるのを見たことがあるかもしれない。ケータイも対応機種がいくつかあり、今後の普及が期待されている技術だ。

 現在充電パッドはだいたい3,200円ぐらい、iPhone用の対応ジャケットが2,000円ぐらいで売られている。Qiをわざわざパッドを買ってまで使うか、という部分があるわけだが、このレコーダのように、何かの製品に最初から付いているとなれば、ちょっと使ってみようかという気になる。これが目当てではないにしても、普及の第一歩としては悪くないアイデアだ。どうせなら低価格商品にまで、まんべんなく付けて欲しかった。

 さてレコーダ本体のほうに話を戻そう。フロントパネルはハーフミラー仕上げのアクリルパネルで、天板はQi搭載のためか金属板ではなく、エンボス加工のある樹脂板となっている。

ガッツリ省電力になる「エコ待機」ボタンを装備。リモコンにもボタンがある
シンプルながら十分な機能を備えた前面

 ボタン類が電源とイジェクトしかないのは従来同様だが、今回は電源ボタンの前に「エコ待機」ボタンが付けられている。通常の電源OFFは「クイックスタート」などの設定をしておくと待機電力を消費するわけだが、エコ待機ボタンで電源を切ると、クイックスタート切と同じになるほか、ドアホンセンサーの録画など、いくつかの待機機能もカットする。

 クイックスタートありの通常電源OFF時は約4.7Wだが、エコ待機では0.02Wと大幅に小さくなる。電源OFF状態からお部屋ジャンプリンクなどネットワーク機能が使いたい場合はエコ待機にはできないが、普通にレコーダとしてだけ使えればいいという場合は、かなりの節電になる。

 フロントカバー内部はBDドライブほか、映像取り込み用USB端子、SDカードスロット、i.LINK端子、B-CASカードスロットがある。

 背面に回ってみよう。さすが上位モデルだけあって、端子類はわりと充実している。HDMI端子は金メッキで、MAINとSUBの2系統。外部HDD接続用のUSB端子は2つあり、i。LINK端子もある。アナログAVの入出力は各1系統で、デジタル音声出力は、光と同軸の両方がある。


デジタル系端子が充実した背面最上位機種だけあって、かなりしっかりした電源ケーブルが付属

 LAN端子も備えているが、本機は無線LAN内蔵だ。しかも単に有線の代わりというだけでなく、アクセスポイント機能も設けた。「シンプルWi-Fi」という名称で、ビエラやデジカメ、スマートフォンなどのお部屋ジャンプリンクWi-Fi対応機器と、アドホックで直接接続できる。

 従来のように家庭内Wi-Fiに接続しても同じことができるが、Wi-Fiルータがないという家庭でも、これらの機器をダイレクトに無線接続できるというのがポイントだ。アドホックなので同時に複数の機器が繋がるわけではないが、接続設定は最大8台まで記憶できる。

 リモコンも見てみよう。2011年モデルでも、プレミアムモデル「DMR-BZT9000」など、上位機種では採用されていたものだが、今回の新機種でも見所と言えるのが、従来の十字キーに変わって装備されたセンターのタッチパッドだ。押し込むとクリック感のあるスイッチになっている。

タッチパッドが付いたリモコン十字キー操作もここ

 十字キー操作もこのパッドで可能だ。仕掛けとしては、パッド全体で1個のスイッチが仕込まれているに過ぎないが、タッチパッドに触れている指の位置との組み合わせで、上下左右センターを判別する仕組みのようである。

 またメニューや番組表では、従来のボタン連打による画面移動の代わりに、フリック動作によるページ移動が可能になった。フリックとはスマートフォンで主流の動作で、パッド上をなぞるように指を動かす動作である。検索などの文字入力も、このタッチパッドを使って行なえる。

 ボタン配置としては、十字キーではなくなったことで少し配列は変わっているが、「戻る」や「サブメニュー」といったボタンは大きくなって、操作しやすくなった。かんたんスタートボタンのほか、4月からスタートする民放キー局5社が中心となったVODサービス「もっとTV」用のボタンも新設されている。ここはもともとアクトビラのボタンがあったところである。そのアクトビラは4色ボタンの下に配置された。



■合理的な予約システム

 まずメインメニューだが、昨年秋モデルでリニューアルした3×3の機能が3ページあるという作りは同じ。リモコンのフリックでページが切り換えられるため、各機能へのアクセスがかなり楽だ。

 では予約システムから見ていこう。番組表は前モデルから背景の色が明るくなったぐらいで、レイアウトなどは変わっていない。

メインメニューは前作とほぼ同じ作り番組表は背景が明るくなった

 番組予約画面では、「関連番組まとめて予約」への項目が新たに追加された。これはターゲットとなる番組と関連しているもの、例えば番組名が同じで再放送があるとか、スポーツなら同じチームの試合などを自動で見つけてきて、いっぺんに予約してくれる機能だ。

「関連番組まとめて予約」が新設関連番組を毎日検索する

 その日に関連番組がある場合、例えばフジテレビでは夜のドラマを夕方に再放送しているが、そういうものも全部いっぺんに予約することができる。ただ、すべての番組でまとめて予約が動作するわけではなく、シリーズものがあるかどうかは番組データベースのほうで管理されているものに限られる。

 まとめて予約で録画された番組は、録画一覧の「関連番組」タブで一覧できる。一つの番組名の中に織り込まれて表示されるため、連続で見たい場合も便利だ。

一度の予約操作で複数の番組が予約されているまとめて予約で録画されたものは、1つの番組名でまとめられる

 録画モードは、これまでのHGやHXといったよくわからない略号表記をやめ、単純に「x倍録」という表記になった。表に出てきているのはDRとハイビジョン画質の3つだけと、シンプルになった。

 ただサブメニューを開くと、圧縮率を21段階で細かく選択できる。倍率とビットレート、さらにBDとDVDに何時間記録できるかが目安で表示される。普通は表に出ている4モードで十分だと思われるが、光メディアに記録するときの目安として利用するというスタイルだろう。

録画モードもシンプルに一方サブメニュー内ではかなり細かく設定できる

 画質のほうだが、さすがに15倍録モードともなると、実写の番組はやはり圧縮による荒れが見える。フォーカスが合っている部分は意外にしっかりしているが、アウトフォーカスしているところはかなりぼんやりしているという印象だ。ただアニメの場合はかなり良好で、保存目的ではなく、ただ見るだけという録画なら十分なクオリティがある。

 3倍、5倍に関しては、番組にもよるだろうが、正直それほど大きな違いはない。同じ番組を録り比べて比較しない限り、違いを意識することはないだろう。

 番組再生では、「シーン一覧」という機能が使える。これはパナソニックが運営しているネットサービス「MeMORA(ミモーラ)」を使って実現している機能で、利用するにはサービスの登録が必要だ。基本的には有料サービスなので月額315円が必要だが、「シーン一覧」の表示は無料で利用可能。また、新規にDIGAを登録すれば1カ月間は無料で利用できる。

 これに登録すると、番組一覧で見たい番組を選び、「一時停止」ボタンを押すことで、シーン一覧が表示される。番組内のコーナーもかなり細かく分類されるほか、CMも何のCMなのかまでわかる。

番組一覧で一時停止ボタンを押すと……番組内のシーンをリストで選択できる

 ここからは有料サービスの機能となるが、リストから見たいシーンを選ぶと、一気にそこから再生が始まる。使ってみるとこれはかなり便利だ。分類タグは番組終了後にメタデータとしてDIGAに送られてくるので、放送後すぐには細かいリストは来ないが、録画して時間が経つほどリストが充実していくという。

 例えば「タモリ倶楽部」で「空耳アワー」だけ先に見たいとか、そこだけ見ればいい、という人にとっては重宝する機能である。確かに便利ではあるが、月額315円という価格は、個人的にはちょっと微妙に高いような気がする。105円ぐらいなら利用したいところだ。

タッチパッドで快適な文字入力を実現

 フリーワード検索を行なう時は、タッチパッドリモコンを使って文字入力ができる。画面には50音が表示され、タッチパッドで文字を拾って入力するというスタイルだ。

 50音を操作するのにこのタッチパッドの面積では小さいのではないかと思われるかもしれないが、かなり微妙な位置もきちんと反応するため、ストレスは感じなかった。丁度タッチパッドの面積が50音の文字全域をカバーできるように調整されているようだ。

 もう一つ、本コラムの読者には直接関係ないかもしれないが、「かんたんスタート」の機能も見ておこう。ここからアクセスできる機能は2つ。「見る」「録る」だけである。

 それぞれの中味も大幅にシンプルになっており、「見る」のほうはかんたん録画一覧という、大きめの文字のGUIになる。機能もシンプルで、前出のシーン一覧機能もない。番組表も3チャンネルのかなり大きめの表示だ。


簡単スタートでアクセスできる機能は2つ機能が絞られたかんたん録画一覧番組表もかなり大きめ

 これはレコーダ初心者や高齢者を想定した機能だろう。子どもにとっては漢字にルビがふられるわけではないので、文字が大きくても読めないことには変わりない。



■さらに強化されたネットワーク機能

 今回のレコーダのポイントは、大幅に強化されたホームネットワーク機能であるが、残念ながら今回はそれらの機器まではお借りしていないので、お部屋ジャンプリンクなどはテストできない。

 ただ今回のトリプルチューナ機から、従来よりもお部屋ジャンプリンク動作時の同時動作制限が少なくなっている。以前はBlu-ray再生時にはお部屋ジャンプリンクが使えなかったが、今回からは使えるようになった。さらにBlu-ray再生+3番組同時録画中(DRモード)にもお部屋ジャンプリンクが使えるなど、実用上はほぼ利用に制限がなくなった。

 手持ちの機材でテストできたものとして、iPad向けのアプリ「DIGA Remote」をご紹介しておこう。これも「MeMORA」の機能を使って実現しているものだが、iPadを使ってDIGAをコントロールできるというものだ。

 録画一覧を手元で閲覧し、再生のコントロールができる。再生が始まると、番組そのものはiPadには配信されないが、画面がそのまま再生コントローラになるという作りだ。

iPadでDIGAをコントロールするDIGA Remote番組そのものは配信されないが、再生コントローラになる

 もちろん放送中の番組のチャンネルの変更も可能だ。ただ放送中の番組名までは確認出来ないのが惜しい。番組情報はDimoraというWEBの別サービスへ飛ばされることになるが、これもアプリ内で一元化して貰えるとより使い勝手が向上するだろう。

チャンネル切り換えにも対応するが、番組名までは確認出来ないDimoraで詳しい番組情報は見られるが、これだと行き過ぎ感がある

 そのほかネットワークサービスとしては、従来のTSUTAYA TVやアクトビラ、YouTubeなどの他に、Huluにも対応したのはうれしい。ここは洋画、米国テレビドラマに強いが、最近は日本のドラマ、韓流ドラマ、英国BBCのドキュメンタリーなどのコンテンツも増えている。

Hulu対応はうれしいHuluで無料お試し動画も楽しめる

 また、このネットワークサービスは、立体的に「奥に進む」ことができる。そこにはradikoもあるし、Twitter、FacebookといったSNSの入り口まである。アプリで機能を追加する「ビエラ・コネクト」だ。

 普段からスマートフォンを利用している人には「テレビでわざわざ」と、思われるかもしれないが、レコーダを買うだけでこれらの機能が使えるようになるという点では、インパクトは大きい。ただ、子どもがイタズラしないように管理は必要。場合によっては機能を外しておく必要もあるだろう。

 これらの機能は、画面下にある「マーケット」から追加、削除ができる。無料のカードゲームなどもいくつか揃っているので、試しにインストールしてみた。

さらに奥に進むと、SNSなどにもアクセスできるマーケットには無料のゲームもタッチパッドを使った操作感は意外と悪くない

 テレビリモコンでゲームなど、と思われるかもしれないが、タッチパッドを使ってマウス操作が可能なので、素早い操作もできる。イメージとしては、でっかい画面に出してスマートフォンを使っているのと一緒である。「スマートテレビ」は買うと結構な値段だが、レコーダなら数万円から買える。案外スマートテレビ的なものは、テレビそのものではなく、レコーダをSTBのような格好で利用していくというのが近道なのかもしれない。



■総論

 今回のレコーダの目玉は、実はタッチパネルを使ったリモコンではないかという気がする。これまでの十字キーに比べて長時間いろんな操作をしても、指の疲れが少ない。

 また文字入力のしやすさも、ケータイエイジは10キーを使った方が速いのかもしれないが、パソコンユーザーやそもそも文字入力に慣れていない人には文字選択式のほうが使いやすい。録画一覧や番組表もフリック操作ですばやく移動できるし、扱うデータが多くなればなるほどメリットがある。

 このリモコンは、今年1月のCESでもアピールされていたが、タブレット端末をリモコンに使うという他社のコンセプトと比べると、若干コンサバに見えたものだ。だが実際に使ってみると、標準リモコンがこれ、というのは非常にユーザーにとってメリットが大きい事がわかった。これは非常に大きな革命だ。

 ホームネットワーク機能は、もちろん自分で設定すれば既存のネットワーク内に組み込めるのだが、そこまでできない人も実際には多くいたことだろう。それがWi-Fiのダイレクト接続でできるようになることで、見えてくる世界が違ってくるはずだ。

 あいにく今回はダイレクト接続できる機器が何もないのでテストはできなかったが、アドホック接続はゲーム機ではすでにすれ違い通信などでお馴染みの機能であり、潜在的には多くの人がすでに使っている。ルーターやホームネットワークを意識することなく、「なんかよくわかってないけど繋がる」というふんわりした接続を実現することだろう。

 ただ現状ダイレクト接続は、同社製品というメーカー囲い込み状態になってしまっている。実装上しょうがないといえばしょうがないのかもしれないが、ユーザーの願いとしては他社を含めた多くの機器で対応して欲しい。

サービスがスタートしていないので「もっとTV」にはアクセスできず

 ネットへのアクセス機能では、レコーダでここまでやるか、という驚きがある。ネットに強い人ほど使い出があるものに仕上がっているわけだが、スマートフォンユーザーではない人達にも恩恵があるという導線がある。

 テレビ的なサービス、例えばTSUTAYA TVやアクトビラだけでなく、ネット主体のサービスも多く取り込んで、映像メディアのハブとして機能する。4月からスタート予定の「もっとTV」には、まだアクセスできないが、現段階でも正直「それ、いる?」というぐらい他のネットサービスが充実している。

 スマートテレビはテレビからやってくるのではなく、日本ではレコーダからやってくるのかもしれない。

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BDレコーダ
DMR-BZT920-K
(2012年 3月 7日)

= 小寺信良 = テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「金曜ランチボックス」(http://yakan-hiko.com/kodera.html)も好評配信中。

[Reported by 小寺信良]