小寺信良の週刊 Electric Zooma!
第620回:自分で作る一眼レフ、Lomography「Konstruktor」
“Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語”
第620回:自分で作る一眼レフ、Lomography「Konstruktor」
3,500円だけどちゃんと写る、かわいいカメラ
(2013/6/26 11:00)
一足早い工作シリーズ
動画を始め動くモノ全般を扱う本連載だが、たまに変ガジェットとしてフィルムのカメラを扱うこともある。古くは第29回にフィルムに4連写するという「Super Sampler」を、218回では紙で作るピンホールカメラ「くま35」を取り上げた。
そして今回は、ちょっと早いが夏休みの工作シリーズの予習として、自分で作る一眼レフを試してみたい。以前からユニークなフィルムカメラを扱っているLomographyがこの6月から発売を開始したのが、「Konstruktor」(コンストラクター)というキットだ。直販サイトの価格は3,500円。
今頃フィルムのカメラなんてどうするんだと思われる方も多いと思うが、写真が写る原理を学ぶ教材としては、まさに原点である。またトイカメラとして見ても、かなり安い部類に入るだろう。
最近の関東地方はパッとしない天気が続いており、夏の準備としてはちと早いが、夏休みの工作の予習として作ってみたいと思う。
綺麗にデザインされたパッケージ
早速オンラインショップに注文したところ、土日を挟んでしまったためにすぐというわけにはいかなかったが、営業日で言うと3日程度で届くようだ。まずパッケージだが、ダンボール製ながらも綺麗にデザインされており、楽しさが伝わってくる。
製造は中国だが、コンセプトとデザインはオーストリアのLomography本社となっており、注意書きは日本語も含めて10カ国語で書かれている。対象年齢は14歳以上となっているが、大人が手伝ってやれば、小学生高学年ぐらいならば組み立てられる程度の難易度だ。
箱は観音開きになっており、フタの両側にランナーに繋がった細かい部品が、真ん中にボディ部のパーツが収まっている。細身のプラスドライバーが1本付いており、一応それだけで組立は可能だが、綺麗に仕上げるためにはニッパーやカッター、やすりなどがあるといいだろう。基本的には、プラモデル作りと同じと思って間違いない。
組み立て図は同梱の小冊子に書かれている。とはいえ組み立て工程はそれほど長大というわけではなく、10カ国語併記で書かれているために冊子になってしまったようだ。
各パーツと図版の記号の関係は、冊子の最終ページに書いてあるので、最初に確認しておいたほうがいい。特にネジは4種類あり、同梱数も違うので、使いどころを間違うと同じ種類のネジで揃わなくなったりする。ただ実際に組み立ててみてわかったことだが、ネジと小さいスプリングは余分に入っており、1つぐらい無くしても大丈夫である。
まず最初に出来上がりのイメージを掴んでおこう。Konstruktorは35mmフィルムを使用する一眼レフタイプのカメラで、ファインダは上から覗き込むタイプのウエストレベルファインダとなっている。
シャッタースピードは1/80秒固定で、絞りもF10固定だ。レンズはプラスチック製で、50mm。焦点距離は0.5m~無限遠となっている。バルブ撮影も可能だが、レリーズが付けられるわけでもないので、手でシャッターを押さえておくという形である。三脚穴もあるので、カメラの固定は可能だ。外形寸法は121×33×65mm(幅×奥行き×高さ)だ。
組み立てには罠が沢山
ではさっそく組み立てである。まずは手順に沿って、レンズ部分だ。
組み立てとは言っても、レンズユニットはすでにはめ込み済みとなっており、それをフォーカスリングと後部のフタ部分で挟み込み、ヘリコイドによる前進・後退ができるようにするというだけだ。
だがいきなり初っぱなから間違えた。レンズユニットには、距離の基準点を示す突起があるのだが、それにフォーカスリングの目盛りが合う方向に取り付けなければならない。しかし説明書にはそういう説明は何もないので、1/2の確率で逆に付けてしまうだろう。まだこの段階ではカメラの全体像が見えていないので、最後にレンズの取り付け工程まで行かないと間違いに気がつかない。
続いてファインダ部分の組み上げだ。ここはネジ留めがなく、すべてヒンジをパチンパチンとはめ込んでいくだけである。手前側の囲いからルーペが立ちあがるようになっている。このあたりはウエストレベルファインダではよくある仕掛けだが、初めて見る人は何に使うのかわからないかもしれない。このレンズもプラスチック製である。
続いてスプロケット部を含めたフィルム巻き上げと、巻戻り防止機構の組み立てだ。ここでいきなり説明書のパーツナンバーが間違っていて混乱する。フィルム受け部分が「B21」と書いてあるが、正解は「B20」だ。
ここは比較的小さな部品をバネと組み合わせてネジ留めするが、ここは単工程なので間違うことはないだろう。続いてスプロケット軸と巻き上げ機構の歯車類を取り付けていくが、この辺が組み立ての一番の山場である。
続いてシャッターとミラー跳ね上げ部の組み立てだが、ここはすでに1ユニットとして完成している。おそらく初心者には組み立ての難易度が高いので、工作させるのは諦めたのだろう。マニュアルの後の方にはこのユニットの組み立て図が掲載されており、無念さが感じられる。
ここもマニュアルに不備がある。まずユニット上面のミラーには青い保護シートが貼ってあるのだが、これを外すという指示がない。カメラの内部を知っている人なら、あるいは工作慣れしている人なら「これは外すんだな」とわかるが、初めてこういうものを組み立てる人はそのままどんどん組み立ててしまうだろう。
またその上に被せる受像のための半透明パーツは、裏返しに取り付けないよう突起が設けられているが、これも図版の位置が逆になっている。このあたりのテキトーさに臨機応変に対応できないと、とてもカメラ遊びはできない。
続いてシャッターボタンの組み立てだ。ここが2番目の山場で、鉛筆の芯ほどのバネを、突起部に引っ掛けなければならない。指ではとてもできないので、ピンセットが必要だろう。また外れ防止の溝もないので、気になる人は引っかかってる部分を接着材などで固めるといい。
ちなみにこのバネはうっかりするとビヨンと跳ねてどこかへ飛んでいったりする可能性が高いので、予備がもう1本入っていた。このあたりはなかなか親切だが、もしかしたら数勘定が適当なだけかもしれない。そう言えばネジも、サイトの説明書には「予備はほとんど入っていない」と書かれているが、組み上げ後はネジが4本余った。数勘定が適当疑惑は高まるばかりである。
続いて一気にボディの組み上げに入る。シャッターユニットをフィルム装填部にはめ込み、前と後ろからボディの外装部をはめ込んでいくという、通称「モナカ構造」となる。
このように、カメラの内部機構を全部骨組みとして作り上げ、前後から外装をはめ込む構造は、キヤノンが1963年に発売したハーフカメラ「Demi」が最初と言われている。表面に露出するネジの数を減らして美しい外装を実現する手法として、のちのカメラ設計に大きな影響を与えた。
裏蓋のヒンジは、内部の骨とフロントカバーの間に挟まれて固定されるので、先にフロントカバーを取り付けるとはめ込めなくなる。なお図版では、カメラを倒して組み立てるようになっている。これだとシャッターユニットの時にはめ込んだすりガラスが横倒しになって外れてしまうが、これは固定枠をネジ留めするまではいつでもはめ込みは可能なので、いったん外しておくといいだろう。
なおフィルムのパトローネが入る部分に、裏側からのネジ留めが2箇所あるが、これは組み立て図では手順が抜けている。まあ留めなくてもバラバラになったりはしないが、フィルム面がキチンと光軸に垂直であるためには、留めておくべきだろう。
続いてフィルムカウンターやリワインドノブを差し込んでいく。フィルムカウンターは、単に歯車状の円盤が上に乗っかってるだけなので、その気になれば簡単に回るのだが、それでもなかなか役に立つ。ちなみに減算方式なので、フィルムを装填したら残量をセットする。
ボディができたら、あとは光学パーツを取り付けて完成である。ウエストレベルファインダは、背面方向からスライドさせてはめ込むだけなので、もしかしたらビューファインダへの取り替えパーツが出るかもしれない。Nikon FやExakta(エキザクタ)、Edixa Reflexといった本物の一眼でも、ビューファインダとウエストレベルファインダが交換式になっていたカメラも多い。
レンズはバヨネット方式で、45度ねじって固定する。わざわざこういう構造のカメラにしたのは、おそらくレンズ交換ができるようにしたのだろう。マウントはもちろん独自なので、他のレンズは付けられないが、おそらく後日交換用レンズが出るのではないだろうか。
デフォルトが50mmなので、順当に行けば次は35mmとか80mmなのだろうが、こんなトイカメラで真面目にレンズラインナップを拡充してもしょうがないので、思い切って18mmとかのワイドレンズを期待したいところだ。
プラレンズなりの味のある描写
Konstruktorの楽しみは、デコレーション用のステッカーが沢山付いているところである。グリップ部のラバーは黒、白、赤の3色が付いてくるし、丸や三角のカラフルなシールも付いてくる。
ではこんな感じで完成したので、さっそく撮影に出かけてみる。あいにくの曇天ではあったが、フジのISO400のフィルムがあったので、これを使ってみた。
最近はフィルムのニーズがないので、単品で買うとなかなか高いが、カメラ量販店では時折ワゴンに山積みで5本セットが1,500円程度で売られている。少し前まで新宿西口界隈なら1本100円ぐらいのものが探せたものが、最近はもうそこまで安いものは見かけなくなった。
フィルムの巻き上げは、かなり堅い。1枚分の幅を巻き上げると自動で止まるので、勢いでフィルムをちぎらないよう慎重に回す必要がある。普通の一眼レフなら巻き上げレバーがあって、その力をギヤでトルクを増やして巻き上げるので、それほどの力はいらないが、Konstruktorは巻き上げ軸をそのまま回すので、かなり力がいる。女性でも大人なら回せるだろうが、子どもは力加減が難しいので、フィルム1本捨てるつもりで、巻き上げの練習をさせたほうがいいかもしれない。
フィルムを巻き上げたあと、レンズ脇のシャッターチャージレバーを持ち上げる。そうするとシャッターがスタンバイされ、同時にファインダが見えるようになる。チャージレバーは撮影時に勢いよく戻るので、それを指がジャマしないようにホールドしなければならない。
撮影は露出もなにも調整するところがないので、あと決めるのは構図とフォーカスだけだ。ファインダには左右が逆に映るので、慣れないと構図を決めるのに時間がかかるだろう。
ファインダは、案の定見づらい。そもそもレンズが暗いのに加えて、プラの受光版の表面が光を反射するので、明るい場所で構図を確認するのは困難だ。またファインダに付いているルーペも歪みが強いので、フォーカスの山がよくわからない。
シャッターボタンは、すぐ脇の巻き上げノブの背が高いために、微妙に押しづらい位置にある。これだったら人差し指ではなく、グッと握りこんで親指で押すのもアリかもしれない。
絞りはF10と暗いが、受像面積が当たり前だが35mmフルサイズあるので、奥はそこそこボケる。焦点距離が短いと周辺の光量落ちが顕著になるので、トイカメラではお馴染みのトンネル効果が得られる。
発色は若干渋いがしっかり色が出ており、それほどおもちゃ然とした写りではない。ただ周辺が流れるのは、値段相応といったところだろう。
近接は50mmとなっているが、ファインダで覗いた限りでは、実測でもだいたいそのぐらいだ。
ウエストレベルファインダのいいところは、簡単にローアングルや真上から見下ろしたショットが撮れるところだ。残念ながらフォーカスが今ひとつだが、デジカメでもあんまり思いつかなかった構図にトライできる。
撮影後の巻き戻しは、巻き上げ以上に力が必要になる。これは大人でもかなり力を込めてグリグリ回す必要がある。フィルムのテンションも相当高くなるので、これも内部でちぎれないよう様子を探りながら回す必要がある。
フィルムの現像は、今DPEに出すと紙焼きまで含めて1,500円~1,600円といったところだろうか。現像のみだと525円程度である。
今回は現像のみを行ない、以前から持っていたフィルムスキャナでデジタル化している。少し前の複合機にはフィルムスキャン機能も付いていたものがあったが、最近はあまり見かけない。その代わり、ケンコーやヤシカから1万円もせずに、SDカードにフィルムを取り込めるスキャナが販売されている。そういうものを利用すると、それほどお金をかけずにフィルムを楽しむことができる。
総論
組み立て作業としては、説明書にもあるとおり、およそ2時間ぐらいは見ておいた方がいいだろう。手順も少なく、作業としては難しくないが、組み立て図がところどころ間違っているので、その辺を考慮しながら進めるので、時間がかかるわけである。
また歯車をゲートから切り出したあと、カッターで綺麗に均したりする作業に時間がかかった。バリがあっても気にしない性格の人ならば、1時間ぐらいで組み上がるだろう。
カメラ制作キットとしては、レンズやシャッターなど光学系の難しい部分はすでに完成しており、言ってみればフィルム周りと外装をくっつけるだけだ。フィルムカメラを初めて触る人にはそれでも興味深いだろうが、もっと深く構造を研究したい人にとっては、やや肩すかしかもしれない。ただ価格も安く、そこそこちゃんと写るので、トイカメラとしては初心者でも楽しめるだろう。
そろそろフィルムのカメラを触ったことがないという世代の大人も出てくる時代で、子どもはもうフィルムそのものを見たことがないだろう。ロールフィルムが発明されて120年ぐらいが経過し、今さらまたフィルムの時代に戻るとは思えないが、おそらく今フィルムカメラを触っておかないと、ほどなく博物館の中でしか見られなくなるかもしれない。
映像文化を創ったフィルムカメラの基礎を体験するには、今が最後のチャンスかもしれない。