小寺信良の週刊 Electric Zooma!
第634回:マイクロ4/3の小さなフラッグシップ、オリンパス「E-M1」
“Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語”
第634回:マイクロ4/3の小さなフラッグシップ、オリンパス「E-M1」
像面位相差/ローパスフィルターレス。PROレンズで撮る
(2013/10/9 10:10)
主力はマイクロフォーサーズへ
フォーサーズシステムは、オリンパスとコダックによって提唱されたオープン規格だ。4/3インチイメージセンサーを使用することからフォーサーズの名前が来ているわけだが、当初はフルサイズ35mmはもちろん、APS-Cサイズからしても小さすぎるのではないかと言われたものだ。だがパナソニック、ライカの参入により、次第に互換性の良さが注目され始めた。
ブレイクのきっかけは、2008年のフランジバックを大幅に短くしたマイクロフォーサーズの登場であろう。この規格がミラーレス文化を牽引していったと言っても過言ではない。またフランジバックの短さゆえに、様々なレンズ用のマウントアダプタが発売され、マニュアルであれば多くのレンズが使用できるようになった。
フォーサーズの本家とも言えるオリンパスでは、永らくフラッグシップはフォーサーズのEシリーズであったが、10月中旬に発売されるマイクロフォーサーズ機「OM-D E-M1」(ボディ単体:実売145,000円前後)が新フラッグシップとなる。フォーサーズのボディやレンズの新製品は計画されておらず、今後はマイクロフォーサーズ機に注力するようだ。
多くのカメラメーカーがフラッグシップを35mm一眼レフ機に設定する中、老舗メーカーのフラッグシップ機が4/3インチのミラーレス機になった衝撃は、カメラ業界としても少なくないだろう。
その一方で、このモデルを待っていたという人も多いようだ。このボディに合わせて発売される新レンズ、「M.ZUIKO DIGITAL ED 12-40mm F2.8 PRO」とのセットは、予想を超える予約で供給不足が予想されている。レンズキットの想定価格は21万9,800円前後だが、この価格でありながら予約殺到というわけだから、その期待の大きさがわかる。
すでに静止画のレビューは僚誌デジカメWatchに掲載されている。こちらはまたいつものように、動画に絞ったレビューをお送りする。
ミラーレスとは思えない作り
オリンパスのOMシリーズと言えば、小型一眼レフカメラ(フィルム時代)の代名詞的存在だったわけだが、それのデジタル版として「OM-D E-M5」が発売されたのは昨年3月のことである。これはいかにも“OMシリーズのデジタル化版スタート”というリスペクト的な意味合いが強かったが、今回のE-M1はかなり違って、ガチカメラとなっている。
まずカラーがブラックしかないという点で、シルバーも用意していたE-M5のレトロテイストが薄まり、さらにミラーレスでは珍しい大型グリップ部を備えている。ボディサイズも軍艦部のプリズム部のようなデザインも、まるで一眼レフのように見えるが、ミラーレス機だ。
撮像素子は1,628万画素、ローパスフィルターレスのCMOSで、従来型のコントラストAFのほか、撮像面のデータを使って像面位相差AFを行なう「DUAL FAST AF」を搭載した。
像面位相差AFは、ミラーレスのAFを高速化する技術として、ここ近年のトレンドである。これには2つの異なる位置からの画像データが必要で、このデータを得るために富士フイルムは撮像素子の中に位相差AF用の画素を埋め込む方法を、キヤノンは1画素を2つのフォトダイオードで構成するデュアルピクセルCMOSを開発した。オリンパスは方式についての詳しい発表はないが、公式サイトに示されているセンサーの画素拡大模式図から察すると、画素埋め込み型のように見える。
電源スイッチは軍艦部左にあり、HDRやAFのボタンデザインと相まって、フィルムの巻き戻しレバーのようなイメージとなっている。やはりこの形がないと落ち着かないのだろうか。
一方右肩にはモードダイヤルがあり、動画専用モードが設けられている。真ん中のボタンは、押し込むとダイヤルロックされるようになっており、バッグから取り出すたびに違うモードになっていて焦る、ということにならない。
シャッターボタンの周りには調整リング、背面にももう一つリングがある。背面リングの中央はボタンではなく、何の機能もない。Fn1、Fn2ボタンがあり、動画ボタンは上面だ。またボディ前面、グリップ部の根元にもプログラマブルな2つのボタンがある。
さらに以前からの特徴として、AEL/AFLボタンのところに、1と2のモードスイッチが付けられている。これは、各アサイナブルなボタンに設定を2タイプ仕込む事ができる。例えばレバー1の時のボタン機能と、レバー2の時のボタン機能が全然別、という使い方ができるわけだ。その点では、ボタンで呼び出し可能な機能は非常に多いことになる。
液晶モニターは3型の104万ドットで、静電容量型タッチパネルとなっている。上下チルトが可能で、上向きに約80度、下向きに約50度回転する。ファインダーは約236万ドットで、さらに別売のビューファインダ「VF-4」も使用できる。「VF-4」は内蔵ビューファインダと画素数は同じだが、チルト機構が使える。
ボディ左側には端子類がある。液晶を少し浮かせないとカバーが開けられないのは多少不便だが、液晶を閉じたときにツメがかりの凹みが見えないので、デザイン的にはスッキリしている。マイク入力はあるが、イヤホン端子がない点は、動画カメラとしては物足りない。
ボディと同時発売の新レンズも見ておこう。今回のE-M1の発売を機に、レンズも「M.ZUIKO PRO」、「M.ZUIKO PREMIUM」、「M.ZUIKO」の3つにカテゴリー分けされる。PROはプロ向け、PREMIUMは高画質単焦点、何も付かないレンズはスタンダードシリーズという区分だ。
今回発売になるレンズは「M.ZUIKO DIGITAL ED 12-40mm F2.8 PRO」で、光学3.3倍、F2.8通しのズームレンズだ。フォーカスリングの前進・後退でAFとMFの切換ができるほか、鏡筒部脇にレンズ用のFnボタンが一つある。来年後半には、「M.ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F2.8 PRO」の発売も予定されているものの、当面PROレンズはこの1本だけということになりそうだ。
オリンパスらしい端正な描写
では早速撮影してみよう。今回使用したレンズは、上記12-40mm F2.8のほか、「SIGMA 60mm F2.8 DN」、フォクトレンダー「NOKTON 17.5mm F0.95」の3本、すべてマイクロフォーサーズのレンズである。
以前の「E-M5」で気になったのが、レンズやセンサーの能力の高さを感じさせながらも、細かい部分でビットレートが最高設定でも20Mbpsと低く、エンコードのブロックノイズが出るという点だった。しかし今回はフルHDのファインモードでビットレート24Mbpsとなっており、全体的に破綻もなく、うまくまとまっている。目が覚めるほどの高画質という感じもしないが、平均的水準に追いついたと言えるだろう。
また、E-M5では露出をカメラ任せにするとやや明るすぎる傾向があったが、今回は白飛びを抑えつつ、ダイナミックレンジの中にうまく織り込む感じがある。動画撮影機能はかなり安定してきているように思う。
注目のAFは、静止画と動画で別々のモードが設定できる。なんといっても新搭載の像面位相差AFが気になるところだが、シャッター半押しや画面タッチによるAFスピードは十分に速い。他社の位相差AFと遜色ないスピードで合焦する。
動画撮影の場合、ケースによってはある程度被写体に追従する必要があるわけだが、そのあたりの性能はあまりよくない。E-M5ではそもそも動画撮影時に画面タッチによる追尾AFフォーカスが使えなかったが、今回は動作する。ただいつもの手前に歩いてくるシーンでは、センサー的には動体を認識しているものの、AFが追い付いて来なかった。静止画撮影ではあまり問題にならないところだが、動画では厳しい部分だ。
ローパスフィルターレスということで、細かい模様のモワレにも注目してみたが、きちんと対策されているようで、動画でもモワレや偽色は見られない。画素縮小アルゴリズムもちゃんと工夫されているようだ。
手ぶれ補正は動画でも重要な要素だが、これも静止画と動画別々のモード設定が可能だ。とは言っても、静止画では補正が4モードもあるのに対し、動画では1モードしかない点は残念だ。ただ補正はナチュラルで、歩き撮りでも不自然さはない。
液晶モニターは、E-M5は視野角が狭く、横から見ると緑が被ってくるクセがあったが、今回は液晶のグレードが上がったのか、視野角はかなり広くなっている。横から見ても色かぶりはなく、きちんと改良されているのがわかる。
2ダイヤルで操作性は良好
本機には操作用ダイヤルが2つあり、さらにはファンクションボタンも多いので、設定変更はかなり柔軟だ。元々E-M5からアートフィルターも多く、絵をいじる人のためのカメラという傾向が強い。
2つのダイヤルをうまく使った設定としては、ガンマカーブのリニアリティを替える機能がある。前ダイヤルがハイライト側、後ろダイヤルがシャドウ側だ。モニター上でカーブを見ながらリアルタイムに結果が見られるので、露出にプラスアルファする機能として役に立つだろう。
ただ、表示の確実性からすれば、ビューファインダで使用した方がいい。一方静止画撮影で評判の「カラークリエーター」は、動画モードでは使えなかった。カラーグレーディング的な使い方ができる機能なだけに、動画ではなかなか処理が大変なのだろう。
エフェクトはほぼ前回同様のものが搭載されている。残像系のエフェクトも同様だ。また動画モード独自の機能として、エフェクト間をなめらかに繋ぐ機能がある。Naturalからデイドリームへ、といった動くエフェクトを録画できる点で、なかなか面白い機能だ。ただ、NaturalからFlatなど変化の少ないモード間では、違いがほとんどわからないケースもある。
最後にHDMI出力端子の仕様だが、撮影している動画のライブ出力には対応しておらず、コネクタを挿すと自動的に再生モードとなる。まあカメラとテレビを接続して写真を表示するという一般的な利用を想定すればこれも一つの合理性だろうが、外部モニターを繋いで動画撮影したいという使い方はできないのは残念だ。
総論
マイクロフォーサーズのミラーレス機は、これまで小型のサブ機といったイメージが強かったが、E-M1はフラッグシップの名に恥じず、かなりメカメカしいルックスで登場した。
多彩なダイヤルとボタンにより、すばやい設定変更や、込み入ったエフェクト動作にも対応する。殆どの機能は動画でもそのまま使え、懸念のエンコード性能も向上した。
またローパスフィルターレスながらもモワレや偽色も起こらず、動画撮影でもそのあたりは安心して使用できる。ただ、静止画の抜群のキレの良さに比べると、動画はちょっとディテールが甘めに出る傾向があり、そのあたりが動画撮影者にとっては残念なところである。
新登場のPROレンズは、描画の正確さもさることながら、防塵防滴や堅牢性を強化しており、高級レンズというよりは、タフレンズという性格が強い。描画性能を追求するなら、単焦点のPremiumシリーズも視野に入れておきたいところである。
トータルで見れば、全機能を使いこなせば相当に楽しいカメラであることは間違いないが、同時にここまで機能全部が必要な人もそんなにいないのではないかと思われる。その点では、操作性は若干劣るものの、ほぼ同機能を積んだ下位モデルとなるE-M5の魅力も、損なわれたとは思えない。
いずれにしても、オリンパスのフラッグシップがマイクロフォーサーズに決まった事で、ユーザーは安心してレンズに投資できることとなった。マイクロフォーサーズにはシネマ用のレンズもあり、バリエーションが多種多様なので、より楽しめる事だろう。
オリンパス OM-D E-M1 |
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