小寺信良の週刊 Electric Zooma!

第721回:ついにRX100シリーズで4K撮影! 新CMOSのソニー高級コンデジ「RX100M4」

Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語

第721回:ついにRX100シリーズで4K撮影! 新CMOSのソニー高級コンデジ「RX100M4」

やっぱりソニーも来た!

 昨今の高級コンパクトデジカメは、1インチセンサーブームと言えるだろう。パナソニックは4/3インチなので1インチオーバーだが、コンパクト機に1インチ前後のセンサーを搭載するのは、すっかりトレンド化したと言える。

DSC-RX100M4

 ソニーのRX100シリーズは、その点で市場を牽引していると言ってもいいだろう。初代DSC-RX100が2011年6月、M2が2012年7月、M3が2014年5月の発売。そして今回ご紹介するM4が、2015年7月末である。M3の時にビューファインダが付いたので、ボディ構造が若干変わったが、デザインやサイズ感は初代からずっと同じだ。そしてM3とM4は、外見上もほとんど同じである。

 M4最大の特徴は、センサーだ。新開発のメモリー一体1.0型積層型センサー「Exmor RS CMOS」が登場。CMOSの弱点であった、読み出しの遅さを解決するセンサーである。この夏発売のRX100M4と、ネオ一眼のRX10M2に搭載された。

 高速読み出し故に、ローリングシャッター歪みが少ない、高速なシャッタースピードが実現できるなど、写真としても色々見所があるが、なんと言ってもポイントは、ソニーとしてはこのサイズで初めて4K撮影が可能になったところだろう。店頭予想価格は12万前後で、今ネットでは11万円前後といったところである。

 すでにパナソニックでは、コンパクトデジカメながら4K撮影可能なDMC-LX100を昨年11月にリリースしており、ソニーはこのクラスでは半年以上遅れて4K対応という事になる。ただそうは言っても、国内老舗カメラメーカーはまだまだ4K対応は遅れており、動画4Kのハードルの高さが浮き彫りになった格好だ。

 先週は丁度夏休みをいただいたところだったので、RX100 M4を実家に持って帰って、プライベートも含めて色々撮影してみた。今回は“カジュアル4K”の可能性を睨みつつ、レビューしてみたい。

見た目は変わらず

 まずデザインから、といきたいところだが、実は見た目は前モデルM3と全く一緒だ。左肩のロゴがIIIからIVになったのは当然として、その辺に書いてあるセンサー名が「Exmor RS」になったり4Kのロゴが付いたりといった地味な違いがあるのみである。

見た目はM3とまったく同じのM4
表記ロゴが違う程度

 前モデルのユーザーであれば、右肩のモードダイヤルにHFR(High Frame Rate)が加わったことには気づくかもしれない。HFRが増えたぶん、従来のおまかせオートとプレミアムおまかせオートが1つにまとめられ、ただのAUTOモードになった。Fnメニューの中で、この2つを切り換えるという作りだ。

モードダイヤルにHFRが追加された

 レンズはM3と同じ「ZEISS Vario-Sonnar T*」のF1.8-2.8の2.9倍ズームレンズ。画角は静止画撮影時(3:2)が24~70mm、4K動画撮影時が28~80mmとなっている。

レンズはM3と同等
背面ダイヤルもまったく同じ

 センサーは今回初めて製品に投入された1インチのExmor RS。総画素数2,100万画素、有効画素数2,010万画素の3:2アスペクトとなっている。積層型CMOSセンサーそのものは、2012年1月に開発成功のプレスリリースが出ている。従来型の裏面照射型CMOSセンサーは、画素部分とロジック回路を同一基板上に配置し、その下に支持基盤を貼り付けていた。

 一方積層型CMOSセンサーは、支持基盤の代わりにロジック回路を使い、その上に画素部分を積層する。こうすることでセンサーモジュール全体を小型化できるほか、ロジック回路にも十分な面積が確保できるため、大規模な回路設計が可能になる。信号処理のスピードも当然アップする。

 今回製品化されたセンサーでは、さらにその下にDRAMを搭載、大量の信号を高速にバッファする。このDRAMから、画像処理エンジンに信号が渡される事になる。従来の裏面照射CMOSに比べ、5倍以上の高速化を実現したという。

 この新センサーの恩恵は、4つ。HFR(スーパースローモーション)撮影、4K動画撮影、動画と静止画のデュアル記録、1/32,000秒高速シャッターだ。

 気になる4K撮影だが、最高で3,840×2,160/30p/100MbpsのXAVC Sで撮影が可能。HDであれば、XAVC以外にもAVCHDやMP4で撮影が可能。対応フォーマットとしては以下のようになっている。

フォーマット解像度フレームレートビットレート
XAVC S 4K3,840×2,16030100Mbps
60Mbps
24100Mbps
60Mbps
XAVC S HD1,920×1,0806050Mbps
3050Mbps
2450Mbps
12060Mbps
120100Mbps
AVCHD1,920×1,0806028Mbps
60i24Mbps
17Mbps
2424Mbps
17Mbps
MP41,920×1,0806028Mbps
3016Mbps
1,280×720306Mbps

 4K動画は、放熱の関係からか最長で5分しか連続撮影ができないのが惜しいところである。スナップ的には使えるが、ドキュメンタリー的に長回しすることができない。輸出制限のために30分しか連続撮影できないカメラは多いが、それが5分となると、大きな制約に感じられる。

 一方XAVC S HDでは、120fpsでも撮影できるのはユニークだ。従来一部のモデルでも、1,280×720なら120fps撮影ができた。これがフルHDに拡張できたことで、編集ツールでスローにレンダリングすれば、従来より高解像度のスローが得られる事になる。

 液晶モニタは3.0型/122万8,800ドットのエクストラファイン液晶で、自撮り可能な180度までチルトするのは以前と同じ。一方ビューファインダは、0.39型OLEDと言う点は同じだが、総ドット数が235万9,296ドットとM3の倍近く上がっている。

液晶モニタは変わらず
ビューファインダは画素がおよそ2倍に

軽快な動作で4K撮影

 では実際に撮影してみよう。4K撮影やHDの120fps撮影では、最大100Mbpsでの記録が可能だ。ただしこのモードで撮影するには、SDXCで、かつUHS-I Class3以上のカードが必要になる。ネット通販で買えば1万円前後だが、故郷の宮崎市の実店舗では販売しているところがない。ようやく見つけたカードは売価3万3千円となっており、あまりの価格差に購入を断念した。今回の撮影は、すべて60Mbpsで行なっている。

ソニー機では60Mbps撮影が現実的か

 実はSDHCのUHS-I Class3のカードは購入してあったのだが、これでは100Mbpsの撮影モードにならなかった。パナソニックのLX100では、SDXC UHS-I Class1でも100Mbpsで撮影できるのに比べると、カードの条件が厳しいのは、地方の方には不便であろう。

 撮影中は、液晶画面よりもビューファインダの解像度が高いので、そちらで見た方がフォーカスがわかりやすい。M3の液晶モニタもそれほど解像度は低くはないと思うが、やはり4Kのフォーカスを見るとなれば、解像度が高い方が有利だ。

 レンズ自体はM3と変わっていないが、解像感は十分。1インチセンサーのボケ味もよく、だれもこのサイズのカメラで撮影した映像とは思わないだろう。ただボケ足や遠景の輪郭部分については、若干マゼンタっぽくなる傾向がある。一種のフリンジなのか、はっきりとはわからないが、全体のトーンがマゼンタっぽくなることがある。

解像感やボケ味は十分
若干輪郭にマゼンタっぽさを感じる
毛なみの描写はさすが4K
強い日差しではNDフィルタ併用

 動画撮影中のズームにも対応するが、ズームの動き出しで映像がカクッと揺れる。おそらく手ぶれ補正ONの時に、補正用シフトレンズの動作に起因するブレのように見える。

【お詫びと訂正】
 記事初出時に「手ぶれ補正OFFでも同様」と記載しておりましたが、手ぶれ補正がOFFになっておりませんでした。お詫びして訂正いたします。(2015年8月21日)

ズームアウトの動きだしで絵がカクつく
zoom_1080p.mov(27MB)
※編集部注:編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

 撮影した4K動画は本体で再生できるが、「同時ビデオ記録」を「入」にしておくと、同時に720pの動画も撮影してくれる。非力なノートPCなどで映像を編集したい時に便利だろう。すぐにネットに上げる動画だが、念のために高解像度で素材は残しておく、という使い方ができるわけだ。

 今回実家では手持ちで撮影した。これだけコンパクトなカメラだと、旅先にビデオ三脚を持っていくというのも興ざめだ。どこでも手軽に4Kが撮影できれば、それに越したことはない。

XAVC 4Kで撮影。前半は手持ち、後半は三脚使用でいつもの公園だ
sample_4k.mov(200MB)
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 ただ4K撮影では、手ぶれ補正がスタンダード(光学補正のみ)しか使えないのが難点だ。おそらくアクティブやインテリジェントアクティブのように電子補正と組み合わせる方式では、画素が足りないのだろう。手ぶれ補正の利き具合を1080pで改めてテストしてみたので、スタンダードだとどれぐらいの補正量か確認していただきたい。

手ぶれ補正モードの比較(XAVC HDで撮影)
stab_1080p.mov(135MB)
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バッテリは従来同様Xタイプ

 この季節、炎天下の中ボディも黒なので、熱がこもるのは当然だが、時折高温アラートが表示される。ただ、撮影できなくなることはなかった。バッテリ消費は、さすがに4K撮影を続けていると減りが早い。およそ1時間撮影でうろうろし、帰ってみたらバッテリーが空に近かった。予備バッテリーは必須だろう。

 プロっぽい機能としては、S-Log2ガンマに対応した。S-Log2ガンマとは、ソニーオリジナルのガンマカーブで、センサーからの出力をできるかぎり忠実に記録するものだ。主にシネマ系のプロ機で搭載されているカーブで、静止画で言うところのRAW現像と同じようなものと考えて頂ければいい。ただRAWと違うのは、あくまでもガンマカーブの話なので、データが非圧縮という意味ではないという事である。

多彩なガンマカーブをサポート

 S-Log2ガンマでは、一般的なビデオガンマに比べて、1,300%程度の高ダイナミックレンジで記録が可能だ。現在テレビではHDR対応が注目されているところだが、カメラ側がこの手のガンマに対応したことが、高ダイナミックレンジブームのキーとなっているわけである。

 S-Log2で撮影するには、ピクチャープロファイルを使う。通常はオフだが、1から7までプリセットがある。S-Log2ガンマは、PF7に設定されている。設定ではガンマだけでなく、ニーやカラーモードも設定できる。

ピクチャープロファイルなしで撮影
S-Log2がプリセットされたPF7で撮影

 ただ当然ながらプロ機と同じ機能であるが故に、最終的にちゃんとした映像に仕上げるには、現像処理が必要だ。現像可能な無料ツールとしては、Blackmagic DesignのDaVinci Resolveがあるが、使うにはそれなりの知識が必要となる。

ピクチャープロファイルでは、かなり本格的な設定が可能

注目のHFR撮影

 もう一つ、新センサーの目玉であるHFR(High Frame Rate)撮影を試してみよう。これはセンサー裏にあるDRAMに2秒間、高フレームレートで映像をバッファし、それを30pや60pで読み出すことで、スーパースローモーションを実現するものだ。この手の機能は以前からソニー機では時折搭載されてきているが、解像度が低かった。今回はフルHDクラスの解像度が得られるところがポイントである。

 モードダイヤルをHFRに回し、ダイヤルセンターボタンを押すと、バッファリングを開始する。録画ボタンを押すと、そのタイミングで画像処理エンジンに送られ、記録されるという流れだ。記録モードとしては60p、30p、24pの3タイプ。フレームレートは240fps、480fps、960fpsの3タイプがある。この2つの組み合わせて、何倍速スローになるかが決まるわけだ。なおバッファリング時間は、画質優先で2秒、撮影時間優先で4秒となっている。

ハイフレームレートに関する設定は一箇所にまとまっている
撮影フレームレート記録フォーマット
24p30p60p
240fps10倍8倍4倍
480fps20倍16倍8倍
960fps40倍32倍16倍

 録画ボタンを押して記録されるタイミングは、スタートトリガーとエンドトリガーの2タイプから選べる。スタートトリガーは通常通り、ボタンを押して2秒間が記録される。エンドトリガーは、ボタンを押した2秒前から記録される。

 今回は30pモードで、各フレームレートを撮影してみた。同アングルで撮影すると、撮影フレームレートが上がるごとに画角が狭くなっていることがわかる。DRAMに入る容量となるよう、読み出し画素数を調整しているのだろう。

撮影フレームレートによる違い
slo2_1080p.mov(44MB)
※編集部注:編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

 ちょうど実家の近くで花火大会が行なわれていたので、近くまで行ってHFRで撮影してみた。手持ち撮影だが、手ぶれ補正はかなり効く。最初30p/480fpsの16倍で撮影していたが、いかに瞬間的に拡がる花火とはいえ、若干遅すぎるようだ。240fpsの8倍ぐらいで丁度いい。

花火大会をスロー撮影
slo1_1080p.mov(115MB)
※編集部注:編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

 こういったスピードの感覚も一度撮影して再生してみないとわからないが、撮影フレームレートが多くなるとそれだけ撮影後の記録時間が長くなるため、タイミングが大事なイベントでは間に合わない可能性がある。画質的にも記録タイミング的にも、240fpsでの撮影を中心に検討した方がいいだろう。

 余談だが、静止画のシーンセレクションに「打ち上げ花火」モードがあるので、試してみた。さすが専用モードだけあって、長時間露光で拡がっていく様子が綺麗に撮れる。端の方が若干ヨレヨレしているのは、手ブレだろう。手ブレ補正もかなり効くのだが、先端まで綺麗に撮りたかったら、三脚があるほうが望ましい。

さすが専用モード、綺麗に撮れる

総論

 外観が変わらないのがRX100シリーズのポイントとなっているが、同じ容積にどんどん新しい機能を追加するのは大変なことだと思う。特に今回はセンサーがまったく違うため、回路設計もかなり違う事だろう。

 RX100ユーザーとしては待望の4K撮影といえるが、連続撮影時間が5分というところで賛否が分かれそうだ。このカメラでそんなに長尺回さないだろうという意見もあるだろうし、コンパクト4Kカメラとして固定で使いたかったという意見もあるだろう。

 なお本機は外部レコーダでも記録できるよう、HDMIからクリーン出力(アイコンなどのOSDが無い出力)が得られる。さらにタイムコード出力や、外部レコーダのコントロール信号も出せるようになった。本体で録画を開始すると、外部レコーダも連動して録画が開始されるという機能だ。

 また以前からM3ユーザーに不評であった、ファインダを格納すると自動で電源が切れる仕様は、ユーザーが挙動を選択できるようになった。これはM3でもファームウェアアップデートで改修して欲しいところである。

 高級コンデジシリーズの流れを作ったRX100が、ついに4Kに到達した意義は大きい。大きいが、元々動画に強いソニーとパナソニックが突出しているだけで、カメラ専業メーカーの高級コンデジがそこに追従するかはわからない。

 しかしユーザーの選択肢として、「ビデオカメラ」が消滅しかけている現状では、コンシューマ4Kカメラのエントリー機は、どうしてもコンパクトデジカメが担うしかなくなっている。このままソニーとパナソニックの2社しか参入しないとなれば、市場の形成は難しくなる。それは2社にとってもよろしくない状況だろう。

 おそらく4K撮影可能なセンサーを外販することによって、他社も参入しやすいような環境づくりを進めていくという事になる。RX100M4は、そのリファレンス機的な役割も果たしていくものと思われる。

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DSC-RX100M4

小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「金曜ランチボックス」(http://yakan-hiko.com/kodera.html)も好評配信中。