“Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語”

第572回:ソニーのハイエンド・コンデジ「DSC-RX100」

~ミラーレス並みの操作性。1型センサーの描写は!?~


■コンデジの反撃

 以前のコンパクトデジカメは、写真入門に最適のデバイスで、ティーンエイジャーや子供撮りの主婦層によく売れた。しかしスマートフォンのカメラが飛躍的によく撮れるようになり、アプリで加工もでき、さらにすぐSNSに上げてコミュニケーションのネタにする……という流れができてからというもの、すっかり出番がなくなった。

 どのメーカーも似たり寄ったりの性能で、どこか飛び抜けた要素が少ないということもあるだろう。Wi-Fi搭載といった新機軸もあるが、Androidをそのまま搭載するような思い切りが足りない。強いて挙げれば、単焦点レンズ搭載のリコー「GR DIGITAL」シリーズがマニア心にがっしり食い込んでいる程度、というところではないだろうか。

 そんな中、ソニーから「ハイエンド・コンパクト」とでも言えるカメラが発売された。「DSC-RX100」(以下RX100)である。

 高くても2万円台、主流はもう1万円台というコンパクトデジカメの中にあって、店頭予想価格は7万円前後というから、もうミラーレス一眼どころか、下手すればデジタル一眼がダブルズームキットで買える値段。高級コンパクトデジカメと言えるだろう。

 とは言っても筆者の興味は動画撮影しかないので、今回もまた動画モード中心のレビューをお送りしてしまうことになる。RX100は、安くてそこそこでは売れないコンパクトデジカメ業界に、新しいトレンドを作るのだろうか。早速試してみよう。




■コンパクトだがずっしり重い

 まずボディだが、サイズ感としてはまさに普通のコンデジサイズと変わらない。ただ、前面の銅鏡部が高さギリギリにまであり、そのあたりからもう普通とは違うという独特の世界観を作っている。外形寸法は101.6×35.9×58.1mm(幅×奥行き×高さ)、重量は本体のみで213gだ。

マニュアルリングが上下幅ギリギリにまで拡がる上から見ると後ろがすぼまった形NEX7+キットレンズ(右)と比較しても大幅に小さい
長くせり出す鏡筒部

 上から見るとやや後方が絞り込まれた形で、突起部が少なく、非常にスマートだ。見た目の割りには重量はズッシリしており、大半は光学部分の重さであろう。

 電源を入れるとレンズが2段でせり出してくるわけだが、かなり長い。よくこの長さがこのボディに格納されるな、という不思議さがある。

 レンズはZeissのVario-Sonnar T*コーティングで、3:2の静止画では35mm換算で焦点距離28~100mm/F1.8-4.9の光学3.6倍ズームレンズ。16:9の動画撮影時は、手ぶれ補正なしとスタンダードでは29~105mm、アクティブ手ぶれ補正では、電子手ぶれ補正も併用するため、33~120mmとなる。


撮影モードと画角サンプル
(35mm判換算)
ワイド端テレ端デジタルズーム端

29mm

105mm

406mm
レンズ部にCarl Zeissロゴ

 絞りは7枚羽根の虹彩絞りで、ちゃんと一段ごとに追従する。多くのコンデジやネオ一眼では、絞りがマニュアルで変えられるとはいっても、実際には丸い絞りを2枚入れ替えるだけ、みたいな作りが多いが、このあたりはさすがに7万円もするだけあってちゃんとしている。

 センサーは新開発の総画素数2,090万画素/1インチのExmor CMOSセンサー。裏面照射ではない。このぐらいサイズがあれば十分明るいので、裏面照射は必要ないということだろう。1インチサイズというのは、フォーサーズより小さいが、コンパクトデジカメでは相当大きい。このあたりに今後のトレンドが見えてくるような気がする。

 もう一つ大きなポイントとしては、鏡胴部周りに大きなマニュアルリングを装備しているところだ。背面にもダイヤルがあるが、これとは別の機能を割り当てて操作することができる。


1型インチのセンサーを搭載。右は従来のサイバーショットに採用されている1/2.3型センサーコンパクトデジカメだがRAWやRAW+JPEGで撮影できるマニュアルリングも大きなポイント

 軍艦部も出っ張りはなく、ボタン類はすべて平面に埋め込まれた格好になっている。レンズ両脇にある穴がステレオマイクだ。ポップアップするフラッシュは、レンズが長いこともあってかなり高くまで伸びる。

フルフラットな軍艦部フラッシュはかなり高くポップアップする

 背面の液晶モニタは、新技術“WhiteMagic”を採用した、122.9万ドット/3インチ。RGB以外に白の画素も追加し、従来比2.4倍の明るさを誇る。

 Fnキーも装備しており、押すごとに機能が入れ替わる。これとマニュアルリングの組み合わせで、多くのパラメータをすばやく変更できる。

新技術“WhiteMagic”を採用した高輝度液晶モニタ背面ダイヤルはクリック感がある

 サイドにはmicroUSB端子を備え、充電もここから行なう。バッテリは新開発のNP-BX1で、過去採用が多かったFG1に比べて、体積では若干小さいが、約1.4倍の高容量となっている。

充電はUSBによる本体充電バッテリも新タイプNP-BX1


■多彩な撮影機能の影で……

 では早速撮影である。このサイズにしては大げさに見えるが、いざ三脚(ビデオ用)に載せてみると……なんとマニュアルリングが回らない。リングの下部が底面に接するギリギリまで迫っているので、シューをしっかり止めてしまうと、シューの表面が当たって回らないのだ。あ、あほですか……。

 そんなわけで三脚は使うんだけどゆるーくしか止められないという実にマヌケな状況で撮影スタートである。

動画設定の中に、さらに動画専用の撮影モードが

 動画撮影は、基本的にどの撮影モードであっても、背面のMOVIEボタンを押せば撮影できる。ただしこの場合は、プログラムオートでの撮影となる。

 一方モードダイヤルで「動画」モードを選択すれば、プログラムオート以外にも絞り優先、シャッタースピード優先、マニュアル露出の4タイプで撮影する事ができる。

 動画撮影モードは、AVCHD系とMP4系の2つに大別される。流行の1080/60p撮影にも対応しているが、このモードでは動画撮影中の静止画同時撮影ができなくなる。当然スマイルシャッターといった自動撮影機能も動作しない。それらの機能も使おうとすると、フルHDでは選択肢が60iしか無くなるというのは残念だ。


動画サンプル
フォーマットモード解像度fpsビットレートサンプル
AVCHD28M PS1,920×1,08060p28Mbps
00041.mts
(40.8MB)
24M FX60i24Mbps
00043.mts
(35.7MB)
17M FH17Mbps
00045.mts
(23.5MB)
MP412M1,440×1,08030p12Mbps


MAH00042.mp4
(18.7MB)

3M640×4803Mbps
MAQ00043.mp4
(4.87MB)

 撮れた映像を見ると、さすがレンズのキレが良く、ディテールがはっきりしている。今回は60pで撮影しているが、それもあってかなり生々しい絵になっているのが意外だ。

ディテール感のしっかりした絵動画では割と生々しい描写静止画撮影では描画力がいい方向に出る
テレ端、開放でもあんまりボケないが、絞りが綺麗だ

 撮像素子が1インチあることで、ボケ味が良いことがウリになっているが、まあ35mmフルやAPS-Cサイズに比べればずいぶん小さく、あんまりボケないよねーといわれるフォーサーズよりもさらに小さいわけで、そんなに派手にボケるわけではない。ただ絞りが7枚羽根なので、ボケの形は綺麗だ。


【動画サンプル】
sample.mp4(213MB)

動画撮影サンプル。ほとんどマニュアル露出で撮影
編集部注:編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

 レンズは、ワイド端ではF1.8と明るいが、テレ端ではF4.9まで落ちるので、マニュアル露出は結構難しいカメラである。だがそこが面白いところでもある。

 マニュアル撮影用としては、マニュアルリングと背面リングが駆使できるだけでなく、背面リングの左右にもデフォルトとは違う機能を割り付けることができる。例えばISOやフォーカスモードを頻繁に切り換える必要があるなら、それを左右キーに割り当てておけば、メニューから探したりFnキーを何度か押すよりも速い。


マニュアルリングを回すと、画面に半円状のパラメータが両リングだけでなく、左右キーもカスタマイズ可能

 ただ動画モードでは、ヒストグラム表示が出なくなるので、露出の基準は「明るさ」のところの数字を見るしかない。

 動画モード特有の制限は他にもある。マニュアルフォーカス時に、静止画はフォーカスアシストとして拡大表示できるのだが、動画モードではできなくなる。マニュアルフォーカスはかなり難儀だ。

 もう一つ難点は、動画モードでは電子ズームがOFFにできないことである。一応光学と電子ズームの間にはポーズ区間があるので、どこまでが光学かはわかるが、いかんせんズームレバーはストロークが短いので、ギリギリ光学のところでなかなか止まらない。

 このレベルのカメラを選ぶユーザーのスキルから考えれば、いくら動画とはいえ、ガビガビになる電子ズームを喜んで使うとは思えない。「動画はズーム倍率高くないとダメでしょ」というのはメーカー側の思い込みが過ぎる。これはOFFにできる機能が欲しかった。

【動画サンプル】
stab.mp4(36MB)

アクティブ手ぶれ補正。電子補正との組み合わせだが、自然な補正量だ
編集部注:編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

 フォーカスモードでは、追尾フォーカスは使えるが、ズームが電子領域に入っているとこれが使えなくなる。追尾フォーカスは、NEXシリーズだと液晶がタッチパネルなので、アングルを決めてから任意の場所を追従させられるのだが、本機はタッチパネルではない事もあって、追従させる対象は中央に限られる。従って、追従させたいものをいったん中央に捉えてから、アングルを決める必要がある。せめて十字キーで追従位置が変えられる機能は欲しいところだ。

 マニュアルリングはクリックがなく、軽くグルグル回るタイプだが、パラメーターを変えるときには変更角度が大きくとってあるので、使いづらくはない。例えば絞りはISOなど、元々連続している値を変えるには違和感がないのだが、ホワイトバランスなど非連続値をこれで変更するのは、ちょっと操作上違和感がある。


【動画サンプル】
af.mp4(50.4MB)
【動画サンプル】
room.mp4(68MB)

追尾フォーカスで撮影。若干パンフォーカス気味だ室内サンプル。暗部のS/Nはなかなかいい
編集部注:編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい


■多彩なエフェクトを持つが……

 最近のカメラでは、多彩なエフェクトモードが注目を浴びている。単に露出だけでなく、積極的にコントラストを変えたり、あるいはトーンをガラッと変えたりというのが受けているようだ。

 トイカメラモードなど、これだけの値段のカメラを使ってなんでおもちゃカメラの絵を撮らねばならんのだという矛盾も感じるが、そもそもフィルム時代のトイカメラを触ったことがない人も増えてきている。というかトイカメラの世界も変なプレミアが付いて、おもちゃのクセしてデジカメより高いものもあり、あまり健全な状態とは言えないので、こういったエフェクトで遊んだほうがまだいいということだろうか。

 さて本機のエフェクト機能としては、NEX登場時に搭載された「クリエイティブスタイル」がそのまま乗っており、こちらはマニュアルでさらに細かく変更できる。さらにピクチャーエフェクトとして、プリセットのエフェクトが多数入っている。

微調整も可能なクリエイティブスタイル搭載ピクチャーエフェクトは基本選ぶだけ

 ただピクチャーエフェクトは、動画撮影では「ハイコントラストモノクロ」までは動画で機能するのだが、それ以降のエフェクトは撮影後にプロセッサの処理で行なうものなので、動作しない。

 というわけで、全種類のエフェクトを掲載するつもりだったが、動画では動かないエフェクトは撮影できなかった。

クリエイティブスタイル
動画サンプル

creative.mp4
(103MB)
モードサンプル
スタンダード
ビビッド
ポートレート
風景
夕景
白黒
ピクチャーエフェクト
動画サンプル

effect.mp4
(137MB)
モードサンプル
Off
トイカメラ
ポップカラー
ポスタリゼーション
レトロフォト
ソフトハイキー
パートカラー
ハイコントラストモノクロ
ソフトフォーカス-
絵画調HDR-
リッチトーンモノクロ-
ミニチュア-
水彩画調-
イラスト調-

 最後に再生機能だが、本機は底部にHDMIマイクロ端子がある。下向きにケーブルが生えることになるので、テレビで見るときにカメラをどう置いていいのか、かなり悩む。

 再生モードでもレンズは出っぱなしなので、レンズ面を下にするわけにもいかず、かといって液晶面を下にするとコントロールができず、しょうがないので手で持ってるしかない。この場合は、しばらく再生モードで待っているとレンズが引っ込む。また、電源OFF時に再生ボタンを長押しすれば、レンズを収納したまま再生する事も可能だ。

 【お詫びと追記】
 記事初出時、「再生時はレンズが引っ込まない」と記載しておりましたが、再生モードでレンズを収納する方法もありましたので、追記いたしました。(2012年6月25日)



■総論

 RX100は、6月15日発売。父の日に当て込んで、という思惑もあったようだ。ネットではだいたい6万円を切るぐらいになってきているが、これを父の日に買って貰えるお父さんは幸せというかかなりお金持ちの部類に入るのではないだろうか。

 さて、動画撮影においては例によって例のごとく、なんでそうなってんのポイントが多いのは、ある程度もう最近は諦めつつあるところなのだが、静止画のカメラとしては非常によくできている。

 その昔、Olympus XAがプロのサブカメラとして重宝されたという事実があるが、コンパクト機なのにミラーレス一眼よりもマニュアル項目が多いという本機は、そういうポジションに収まっていくのではないかという気がする。

 もちろんプロばかりでなく、セミプロやハイアマも、このカメラなら欲しいだろう。ただハンディで持つカメラであって、わざわざ三脚に載せる人もいないだろうが、ビデオ用の三脚はシューが広いので、マニュアルリングが回らなくなる可能性がある。使うなら写真用の小型のものがいいだろう。

 ツァイスのレンズ+大型センサーという組み合わせで、ソニーのハイエンド・コンパクトというジャンルを作るモデルと言えそうだ。キヤノンからは1.5型センサーの「PowerShot G1 X」も出ており、後はパナソニックがライカレンズをひっさげて大型センサー機合戦を展開してくれるとまた一つ盛り上がるのだが、どうだろうか。


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DSC-RX100
(2012年 6月 20日)

= 小寺信良 = テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「金曜ランチボックス」(http://yakan-hiko.com/kodera.html)も好評配信中。

[Reported by 小寺信良]