小寺信良の週刊 Electric Zooma!

第746回

Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語

使い勝手向上! ソニーの“黒い”低価格アクションカム「HDR-AS50」

アクションカム次のステップ

 もはやスポーツ撮りには欠かせない存在となったアクションカメラ。米国GoProが築いた巨大市場に多くのメーカーが参入した。国内メーカーは独自の機能を盛り込み、差別化を訴求したが、中国勢が大量にGoProコピーを投入、市場が一気に荒れた。

新アクションカム「HDR-AS50」と、腕時計型リモコン

 そんなこともあり、アクションカメラ市場はそろそろ頭を打ち始めている。GoProは2015年最終四半期の売り上げが予想を下回る結果となり、7%のレイオフを実施した。2015年に投入した小型新モデル「HERO4 Session」の売り上げも伸びなかったようで、数カ月後には価格をおよそ半額に改定した。

 2012年10月にこの市場に参入したソニーも、市場成長の鈍化を踏まえ、エントリーモデルのテコ入れを行なう。これまでエントリーモデルは、アクションカムの中でも一段小型な「HDR-AZ1」で、発売開始当初の実売は31,500円前後であった。だが、どうも市場としては小さすぎるタイプはウケが悪いようで、今回この代わりに市場投入されるのが、標準サイズに戻った「HDR-AS50」だ。店頭予想価格25,000円前後となっており、スタート時からだいぶ安い。

 またAS50のリモコンキット「HDR-AS50R」としてセット販売されるライブビューリモコン「RM-LVR3」も、大幅に小型化された。AS50+LVR3のキット「HDR-AS50R」は店頭予想価格4万円前後で、LVR3だけの単体発売はない。

 すでにCESやCP+でも実機が展示されたが、3月4日の発売を前に実機をお借りすることができた。ハードウェア的にもソフトウェア的にも変化が大きいAS50を、早速テストしてみよう。

細かい改良が嬉しいボディ

 AS50は、アクションカムとしては久々のブラックボディだ。ブラックボディは、2013年に発売された「AS30」以来となる。逆になぜこれまで白ボディが続いたかというと、実は白ボディ機は、“本体のみで防滴・防塵仕様となっている”という目印なのだ。黒ボディに戻ったということは、AS50は本体だけでの防塵・防滴性能はないということである。

3月発売のエントリーモデル、HDR-AS50

 そんなこともあり、上位モデルとなる「HDR-AS200V」とは、サイズ感は同じだが、構造的にかなり違っている。まず一見してわかるのが、底部の“平たさ”だ。初代AS15からAS30Vまではボディが楕円の筒型で、底部も丸かったので本体だけで自立できなかった。白モデルになった「AS100V」になってようやく底部に少し平たい部分ができ、なんとか自立できるようになった。しかし完全に真っ平らなわけではないので、設置場所が揺れたりすると簡単に転んでしまう。

HDR-AS200Vと比較。明らかに本体の「すわり」が良くなっている
サイズ感はほぼ同じ

 AS50は完全に底部が平らになり、本体だけでも安定して自立する。会議やインタビューなど、机にポンと置いてメモ代わりに記録するといった用途もあるので、小細工しなくても立っていられるというのは大きい。

 レンズはf=2.8mm/F2.8のZIESSテッサーで、AZ1と同じだ。ただ画角が若干違っており、35mm換算で18.4mmとなっている(AZ1は17.1mm)。イメージセンサーは1/2.3型 Exmor Rで、総画素数約1,680万画素、動画有効画素数約1,110万画素。AZ1は約1,190万画素だったので、有効画素数を少し減らして手振れ補正領域を広げたということかもしれない。

 天面に録画ボタンがあるのは、AZ1と4Kモデルの「X1000V」だけだったが、AS50も天面につけられた。AS100VとAS200Vは後方にボタンがあるタイプだが、防滴仕様のためかボタンが硬くなってしまい、使いづらかった。簡単に録画が止まらないという点ではいいのだが、録画ボタンはメニュー操作時に決定ボタンとなるので、設定を変更するときにやたら力がいるという欠点があった。AS50の録画ボタンは適度に柔らかく、押しやすい。

天面に録画ボタンと電源ボタンがついた

 その代わり、これまでボディにあった録画ホールドボタンがなくなった。ただ標準で付属する水中用ハウジングにホールドボタンがある。不可抗力で押されてしまう可能性のある撮影では、ハウジングに入れたほうがいいだろう。

 天面には電源ボタンも新設された。ソニーのアクションカム史上、本体に電源ボタンがつけられたのは初めてである。では今までどうやって電源を切っていたかというと、メニューに入って「パワーオフ」を選んで決定ボタンを押して電源を切るしかなかったんである。これはもちろん、めんどくさい。

 その代わり、従来機では電源OFFの状態からRECボタンを押せば、電源投入と同時に録画スタートしていたのだが、この機能がなくなった。今後は電源を入れて録画ボタンを押すという、2アクションになる。

 メニュー操作のUIも大きく変わった。従来はPREVとNEXTの2ボタンしかなく、どっちかを押して電源を入れ、記録モードを横移動で切り替えた先にSETUPメニューがあった。その中に入って、またメニューを横移動しながら設定項目を探し、変更する。RECボタンで変更を確定すると、自動的にメニューの外側に出される仕様だった。

 1項目のメニューを変えたいだけならこれでいいが、複数のメニューを変更したいときは、また横移動しながらSETUPの中に入り、設定項目を探して変更したらまた外に出される……という作業を繰り返すことになる。

 今回のAS50は、新たにMENUボタンが付けられた。これを押すと表組みでメニュー項目が表示され、上下ボタンで選んでRECボタンで変更確定、という流れに変わった。これまで横方向のツリー構造だったものが、表組み+縦移動に変わったわけだ。設定を変更しても外に出されることは無くなったので、複数項目の設定変更も素早く行なえる。液晶自体も、セグメント液晶からドットマトリクス液晶に変わった。

メニューボタンを新設。液晶表示の内容もかなり変わっている

 バッテリの挿入口も変わった。以前は背面のフタを開けて差し込むスタイルだったが、今回は横がガバッと開くようになっている。後部はmicroUSB端子があるのみで、メモリーカード挿入口は底部に移動した。また底部には6mmの三脚穴が付けられた。これまで標準6mmの三脚穴が本体にあるのは4KモデルのX1000Vのみで、他は小型のネジ穴があり、同梱のアダプタを取り付ける事で三脚穴が利用できる形だった。

バッテリの挿入方法も大きく変わった
バッテリはこれまで同様Xタイプ
メモリーカードスロットは底部に移動

 録画中を示すLEDは、上部、前方、後方の3カ所に設けられた。これまでは上部と背面だけだったが、前面にもついたことで3方から確認できる。

 一方機能的になくなったものとしては、GPSとNFCがある。NFCはカメラとスマートフォンのWi-Fi設定を簡易化するためのものだったのだが、その代わりにバッテリの裏蓋に二次元バーコードがついている。リモートアプリのPlayMemories Mobileに二次元バーコードを読み取る機能が付けられ、これで読み取るとWi-Fiのパスワードも自動入力されるという仕掛けだ。

 付属の水中ハウジングは、レンズ面が平らなガラスとなり、映像の歪みが軽減された。また本体レンズ部を隔離するような作りになっている。従来型の水中ハウジングは、内部に入り込んだ湿気がレンズに回り込んで冷やされ、レンズが曇ってしまうことが多かった。そのため別売の乾燥剤まで販売されていたぐらいである。この作りなら、曇ることは少ないだろう。レンズ前が平面なので、水や風の抵抗は受けやすくなるだろうが、実用性としてはかなり上がっている。

付属の水中ハウジング
レンズ部が隔離されるようになった

 今回はキット販売される新しいライブビューリモコン「RM-LVR3」もお借りしている。従来のリモコン「RM-LVR2」と比べると30%小型化し、利便性が増した。以前のモデルもリストバンドがあったが、腕につけるにはちょっと大仰すぎるサイズだった。今回のLVR3はサイズ感としてはスマートウォッチに近くなっており、違和感がなくなった。

キット販売されるライブビューリモコン「RM-LVR3」
リモコンの背面

 ライブモニターだけでなくメニュー操作も可能だが、ボタン配列もカメラ本体と同じで上下ボタンを装備しており、操作方法も同じだ。カメラとの接続は、カメラ側で接続を了承すれば特にパスワード入力もなしに接続することができ、AS50だけでなくAS200Vなどの旧モデルでも使用できる。

 キットとしては充電用のクレードルのほか、リストバンド、三脚固定用アダプタが付属している。

リストバンドで腕に取り付けられる
リモコン充電用クレードル
三脚固定用アダプタ
底面に三脚穴がある

手振れ補正を強化?

 AS50はレンズ、センサーともにAZ1と共通なので、画質的な進化はない。ただ手振れ補正領域を拡大したことで、手振れ補正能力は、X1000VやAS200V並みに強化されたという。そこで編集部のAS200Vと並べて補正力を比較してみた。

ハンドルに2台マウントしてテスト撮影

 自転車での撮影では、舗装道路での走行時にはそれほど大きな差は見られなかった。だが砂利道での振動の細かなブレに関しては、AS50の方が若干補正力が高いように見える。固定に使っているマウントアダプタの違いもあるかもしれない。

自転車走行での比較。砂利道での補正はAS50の方が優れているように見える
cycle.mov(67MB)
※編集部注:編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

 一方手持ち撮影でも比較してみたが、こちらは大きなブレがないこともあって、どちらも補正力は互角のように見える。AZ1をレビューしていないので、進化する前の補正力がわからないが、エントリーモデルでも補正力は上位モデルと同等ということでいいだろう。

手持ち撮影では補正力の差は分からなかった
walk.mov(57MB)
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 カメラ画角については、手振れ補正OFFではWideモードとNarrowモードが選択できる。スペックの35mm換算で18.4mmというのは、Wideモードの画角だ。Narrowモードでは21.8mmとなる。これまでのモデルでは、170度/120度と角度で表記されていたが、それをWideとNarrowに表記し直した形だ。この2つの画角モードは撮像素子の読み出し範囲を変えるので、画質の差は少ない。

画角モードは2つから選択できる
widenaro.mov(39MB)
※編集部注:編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

 もう一つAS50では、3倍までのデジタルズームを装備した。WideとNarrowは単純な切り替えだが、デジタルズームは連続で画角を変えることができる。ただしテレ端になるほど画質は劣化する。どちらが適しているかは、撮影のシーンで選択すべきだろう。

デジタルズームも装備した
zoom.mov(70MB)
※編集部注:編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

 手振れ補正がOFFであれば、WideとNarrowそれぞれのモード時にデジタルズームが使える。手振れ補正ONの時は、画角モードとしてはNarrowモード固定となるが、デジタルズームは使える。

 実際に使ってみると、やはり電源ボタンが別途追加されたのは大きい。従来機種も、使ってないときは10秒や60秒で電源が切れる機能があるのだが、何かの都合で電源が切れないままになっていることがたまにある。勝手に切れてるはずと思いこんで、いざ使おうと思ったらバッテリ切れだったことは、1度や2度ではない。やはりユーザーの意志で電源を入れたり切ったりできるという当たり前の操作方法が一番いい。

 電源まわりでは、スマホ/タブレットアプリ「PlayMemories Mobile」を使い、Bluetooth経由で電源をONにする事もできるようになっている。例えば、手が届かない場所にカメラを取り付けた車やバイクでレースに出て、スタートまで時間がある場合などに、電源をOFFにしてバッテリを節約。自分のスタートになって走りだす前に遠隔で電源をONにして録画を開始するといった使い方もできる。

 その他細かい機能だが、ループ録画モードが搭載された。5分、20分、60分、120分、無限大(メモリーカード容量)から選択することができる。例えば長距離ドライブなどでの車載カメラとして使う際など、何かいいシーンが撮れるまで回しっぱなしにしておくという使い方もできるようになった。

 キットのリモコンは、コンパクトなので取り回しが格段に楽になった。リストバンドで装着しても邪魔にならない。スマートフォンでモニターすることもできるのだが、スマホはスマホで別に使うこともある。常時気軽にアングルが確認できる小さいモニタが1つあると、格段に用途が広がる。

 なお、CP+では、カメラとモニタを一体化してハンディカムとして使えるアクセサリを参考出品していた。これまでモニタで絵柄を確認しながらの撮影では、片手にカメラ、片手にモニタを持つことになり、両手がふさがってしまう。だがこのアクセサリがあれば、片手で使うことができる。以前本体とドッキングして、カムコーダのように使えるディスプレイが別売されたこともあるが、こちらの方が断然シンプルでスマートだ。

CP+で参考出品されたアクセサリ

総論

 AS50は、画質的にはAZ1と同等で、手振れ補正能力を上位モデルのAS200V相当まで引き上げたモデル、ということで良さそうだ。両方の画質を見比べると、多少AS200Vの方がすっきり感があるが、その他の機能的な面ではほぼ互角と言っていいだろう。本体防滴・防塵機能がなくなった分だけ低価格であり、白いカラーが嫌だったという人にも導入しやすいエントリーモデルになっている。

 使い勝手の面では、メニュー設定もわかりやすくなっており、初めてアクションカムシリーズを購入する人にも、既存ユーザーにも嬉しい改良点が多い。付属の水中ハウジングも60m防水の新設計となっており、過酷なシーンにも耐えられる。

 新しくなったライブビューリモコンとの組み合わせで、コンパクトな撮影セットが組めるのも魅力だ。これだけ小さいと、逆に腕にはめておくのがもったいない。どこでもちょこっと留めておけるような、クリップ的なアクセサリも欲しいところだ。

 AS50は、画質的な見所は少ないが、これまで基本的な使い勝手が変わってこなかったアクションカムから、UIや構造を大きく変えた、“第2世代の1号機”と言える。おそらくこれをベースにまたハイエンドへ向けての商品展開を考えていることだろうが、1号機としてはなかなかよくまとまっているのではないだろうか。

 従来のようにスポーツ撮りだけでなく、定点観測や取材など、様々な使い方が開拓できるカメラだと思う。

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小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「金曜ランチボックス」(http://yakan-hiko.com/kodera.html)も好評配信中。