小寺信良の週刊 Electric Zooma!

第747回

Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語

1型センサーで光学10倍、端正な4K動画も撮れるパナソニック高級コンパクト「DMC-TX1」

今度は1インチセンサー搭載機

 近頃デジタルカメラの発表会に行っても、4Kが撮れないとわかると急速に興味がなくなるという困った病にかかったのはどう考えてもパナソニックのせいである。それほどパナソニックのデジタルカメラは、4K撮影に力を入れている。

DMC-TX1

 今年のCESで発表されたコンパクトモデル2種類「DMC-ZS100」と「DMC-ZS60」も4K撮影可能なモデルだったが、ZS60が先日レビューした「DMC-TZ85」のことである。もう一つのZS100が、今回レビューする「DMC-TX1」だ。

 パナソニックのハイエンドコンパクトデジカメとしては、2014年に小型ボディに4/3センサーを搭載した「DMC-LX100」があった。これも4K撮影可能なモデルで、ズーム倍率は3.1倍しかないものの、画質面でも操作性でも素晴らしいカメラであった。TX1はそれよりも多少センサーサイズは小さくなったものの、1インチオーバーというクラスでは事実上の後継機と言っていいだろう。3月10日発売予定で、店頭予想価格は8万8,000円前後。通販サイトによっては、それよりも1万円以上安く売っているところもあるようだ。

 TZ85(1/2.3型MOSセンサー)と同時期の発売ということもあって、搭載機能は似たようなものだが、1インチセンサーならではの良さはあるはずだ。相変わらず動画しか撮らないレビューだが、その辺りをじっくりテストしてみよう。

シンプルながら使いやすいボディ

 まずボディだが、4/3インチセンサーのLX100よりもレンズ格納部が短くなり、奥行きが随分薄く感じられるようになった。対抗機種であるソニーのRX100シリーズと比べるとまだ少し大きいが、縦横も数mmずつ小さくなっており、コンパクトと呼ぶにふさわしいサイズに収まっている。

コンパクトと呼ぶにふさわしいサイズのハイエンド機
テレ端ではかなり伸びるが……
沈胴時にはかなり平たくなる
グリップ部の突起はラバー貼りではなく、ボディ自体の突起で形成

 CESではシルバーモデルも発表され、米国では実際に販売もされるようだが、日本ではブラックモデルのみとなったようだ。グリップ部はラバーではなく、ボディそのものの突起で形作っているあたりが、デザイン的な特徴といえそうだ。

CESではシルバーモデルも発表されたが、日本ではブラックのみのようだ

 レンズはLEICA DC VARIO-ELMARITで、35mm換算25~250mm/F2.8~5.9の光学10倍ズーム。iAズームを使うと20倍ズームとなる。なお動画撮影と4Kフォト撮影時には画角が狭くなり、37~370mmとなる。

モードワイド端テレ端iAズーム
動画
37mm

370mm

740mm
4Kフォト
37mm

370mm

740mm
静止画
25mm

250mm

500mm

 センサーは1型のMOSで、総画素数2,090万画素、有効画素数2,010万画素となっている。裏面照射ではないので、ソニーのセンサーではないようだ。LZ100には写真のアスペクト比が変更できるスイッチが付いていたのだが、本機にはない。

4K動画は3,840×2,160の30pと24pに対応する。ビットレートはどちらも100Mbpsのみ

 背面はアスペクト比3:2の3型/104万ドットのタッチパネル式液晶モニターがある。モニタのチルト機構はない。ビューファインダも備えており、こちらは0.2型116万ドットのカラー液晶となっている。アイセンサーも装備しており、覗き込むと自動的に切り替わる。

ボタン類はほぼTZ85と共通
背面にはEVFも装備

 背面のボタン類は、Fn1キーが4Kフォト、Fn2キーがフォーカスセレクトに割り当てられており、本機のウリである機能にすぐにアクセスできるようになっている。ボタン配列は先にレビューしたTZ85とほぼ同じだが、こちらにはAF/AEロックボタンがあるのはポイントになるだろう。またTZ85では埋め込み型だったフラッシュも、こちらはポップアップ式となっている。

Fnキーで一押しの機能にすぐアクセスできる
フラッシュはポップアップ式

 軍艦部はモードダイヤルとコントロールダイヤルがほぼ同じ大きさでフィーチャーされている。動画の録画ボタンも背面ではなく天面にある。電源は押しボタンではなくスライドスイッチなので、TZ85のように間違えて電源を切ってしまうことはない。

スッキリした軍艦部
電源はレバータイプ
フラッシュの両脇にステレオマイク

 端子類は右手側面だけで、HDMIマイクロとmicroUSB端子がある。充電はUSB端子を使うが、撮影中の外部給電には対応しない。

端子類は右側のみ

端正な解像度の4K動画

 では早速撮影してみよう。3月に入って寒さも緩み、いつもの公園もようやく梅などが咲き始め、被写体に困らなくなってきた。

 TZ85の時は、1/2.3型というセンサーの小ささゆえか4K動画としてはSN比の悪さが気になったが、TX1はさすが1インチセンサー、そのような不安は払拭されている。背景のボケも綺麗で、この辺りはレンズ設計とセンサーのクオリティにより、段違いの絵となっている。

SN比の良いスッキリした描画
ディテールも細かく表現できる

 ズーム倍率は光学10倍あり、テレ端が370mmあるので、一般的な撮影では寄り足りないというケースは少ないだろう。ただワイド端が静止画では25mmあるのに対し、動画では37mmなので、静止画と動画を切り替えた時の画角の落差が大きい。静止画では全部入っても、動画では入らないという被写体も出てきそうだ。

 テレ端、ワイド端ともに収差は少なく、木々の枝もごまかすことなく細かく描画されるあたりは、4Kカメラの真骨頂だ。iAズームは、ボケる感じは少なく、ディテールを細かく刻んでいるのがわかるが、ノイジーな感じは否めない。いざという時には使うしかないが、普段は光学ズームの範囲で使う方がいいだろう。

4K/30pで撮影したサンプル
sample4k.mov(207MB)
※編集部注:編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい
光学テレ端
iAズーム併用のテレ端

 絵作りとしては明るめで発色もいいが、全体的にそつなくまとめ過ぎるきらいはある。逆光気味の花など、肉眼ではもっとキラキラしているシーンも、破綻なくおとなしい映像になってしまうのが勿体無いところである。

肉眼ではキラキラ感のあるシーンだが、大人しくまとまっている

 動画撮影時のAF追従スピードはちょうどいい。フォーカスポイントの移動を細かく追うのではなく、ゆっくりフォローしてくるので、動画としてはしっくりくる。

フォーカスのフォロー速度も丁度いい
afhd.mov(70MB)
※編集部注:編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

 撮影で困ったのは、液晶にチルト機構がないところだ。常にスナップのようなアングルで撮るならいいが、ハイアングルやローアングルでの撮影には苦労する。またビューファインダもTZ85と同じレベルのもので、倍率約0.46倍と結構小さい。視度調整のダイヤルが簡単に回ってしまうので、いつの間にかズレて、覗き込むために調整する羽目になるのは今ひとつだ。低価格モデルであればこれでも妥協するところだが、実売約8万円越えの高級コンパクトなら、モニター類はもうちょっと良いものを付けて欲しかった。

 手ブレ補正は光学式と電子式を組み合わせた5軸ハイブリッド手ブレ補正を搭載するが、4K撮影時には光学手振れ補正のみとなる。それぞれテストしてみたが、光学手ブレ補正の可動範囲が狭く、限界を超えるとガクッとレンズが戻る傾向が見られる。ただビデオカメラとは違うので、そもそも歩きながら撮影することを重視していないのだろう。

 5軸ハイブリッド手ブレ補正は、HD動画では効果がある。傾き方向の補正もできるようになるので、映像的には安定するが、それでも光学側で補正範囲を超えるとガクッとレンズが戻る癖は時折見られる。

手ブレ補正の比較
stabhd.mov(49MB)size|70|※編集部注:編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい|@@

充実の4Kフォト関連の機能

 昨年末あたりからミラーレスに搭載が始まった「フォーカスセレクト」は、フォーカスポイントを変えた4K動画を撮影することで、後から気に入ったポイントを静止画として切り出す機能だ。コンパクト機としては、この春発売の本機とTZ85から搭載が始まった。

 すでにTZ85でもテストしているが、TX1は1インチセンサーということもあって、TZ85のように距離をとってテレ側で撮影しなくても、被写界深度は浅くなる。フォーカスセレクトの出番は、TZ85よりも頻繁にあるだろう。ただしフォーカスセレクトも4Kフォト機能の一種なので、焦点距離がテレ側にシフトする点は要注意だ。

フォーカスセレクトで撮影。ボケ味も綺麗だ

 もう一つ4Kならではの機能として、「4Kライブクロップ」がある。これは4Kの撮影機能を使ってHDにリアルタイムにダウンコンバートする機能で、撮影時にパンやズームを設定できる。カメラを固定する必要はあるが、20秒や40秒といった長いパンやズームが設定できるのが特徴だ。

 TX1は画質的にTZ85より上なので、4Kライブクロップも画質に違いが出るかと期待したが、思ったほどの違いは出なかった。面白い機能だとは思うが、やはり単純に面を切り出しているだけなので、絵のパース感が変わらない。写真を再撮しているような違和感を感じる。

4Kライブクロップの動画。画質的にはほぼ同じ
crophd.mov(97MB)size|70|※編集部注:編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい|@@

 もう一つ、4Kフォト関連の機能として「比較明合成」がある。これは4Kフォトで撮影した動画から静止画を切り出す際に、輝度の高い部分をオーバーレイしながら何枚でも合成できるという機能だ。例としては打ち上げ花火を4Kフォトで撮影しておき、花火が広がった部分を複数箇所抜き出して合成するといった用法が挙げられている。

 うまく効果を発揮するには、三脚で固定しないといけないこと、1つの画角の中で明部が変化するシーンであることが条件となる。そこで考えられる用法としては、液晶画面があるモノの撮影がある。スマートフォンのように、本体のディテールと画面の両方をクリアに撮影するのは、なかなか難しい。露出を本体に合わせてしまうと、画面が沈んでしまうからだ。

 そこで多くのカメラマンは、照明ありで本体を撮影し、照明を消して画面を撮影し、あとでPhotoshopなどで画面合成している。そういう撮影がこの機能を使えば、撮影時にカメラ内で完成する。手順は簡単で、4Kフォトで動画として撮影中に、照明を消すだけだ。

照明ありで撮影
途中で照明を切る
2つの写真を比較明合成した結果

 一旦PCに取り込む必要がなく、その場で効果がわかるのは便利だ。最近はオークションに出品するためにブツ撮りが必要になるアマチュアの方も多いと思うが、こういう画面ものを撮影するには便利な機能だ。アイデア次第では、長時間露出とはまた違った面白い写真が撮れると思われる。機会があればもう少しじっくり取り組んでみたい機能だ。

総論

 4K撮影可能なこの春のコンパクト機2台を、ようやくテストすることができた。TX1とTZ85は、モニタ部分など共通部分もあるが、レンズとセンサーの違いで方向付けが違うモデルであり、もちろん価格も大きく違う。

 TZ85がズーム倍率を稼いで普及機としてまとめたのに対し、TX1はレンズもセンサーも1ランク上のものを搭載して高級機として仕上げてきた。スペックからもわかっていたことだが、4K動画に関してはやはりTX1の圧勝で、解像感、SN比の良さといった面で4Kらしい動画撮影が可能だ。

 一方で手ブレ補正能力や4Kライブクロップといった機能は、TZ85とそれほど変わらない。また背面モニタがチルトしないため、ハイアングルやローアングルが撮りづらいという点は残念だ。そもそもパナソニックは、コンパクト機にビューファインダを付けることには積極的だが、チルトするモニタを付けることに関心がないように見える。しかも1年半前のハイエンドLX100と比較すると、ビューファインダの質は下がっている。

 LX100が上から下ろしてきたハイエンドコンパクトに対し、TX1は下から上げてきたハイエンドコンパクトという印象を持った。LX100も引き続き併売されるが、現在では6万円台や7万円台で販売しているところもあり、改めてLX100を再評価してみるというのも一つの考え方だろう。ただしLX100ではフォーカスセレクトは使えないので、その点はご記憶願いたい。

 残念なのは、TX1のシルバーモデルが日本では発売されないことだ。シルバーモデルはボディの軍艦部に赤いラインがさし色として使われており、見た目にも魅力的だ。このまま発売されないようであれば、次に渡米した時のお土産に、シルバーモデルを買って帰るのもいいかなと考えている。

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DMC-TZ85-S
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小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「金曜ランチボックス」(http://yakan-hiko.com/kodera.html)も好評配信中。