小寺信良の週刊 Electric Zooma!

第743回

Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語

ネコ撮り最強!? 抜群のコスパを誇る4Kカメラ、パナソニック「DMC-TZ85」

あれ? これはもしかして!

 今年の「CES 2016」で最初に取材したのが、パナソニックの新コンパクトデジカメ2モデルだった。1インチセンサーを採用した「DMC-TX1」は、2014年のフラッグシップ「DMC-LX100」の後継とも言えるモデルだ。LX100はセンサーサイズがフォーサーズだったが、1インチとなったことで価格的にも初値が2万円ぐらい安い。

DMC-TZ85

 もう一つ4Kが撮影できるモデルが、センサーサイズは小さいが光学30倍ズームを備えた「DMC-TZ85」だ。これまでの流れだと、ハイエンドモデルの方をレビューするのが常だった。だが4K動画撮影をメインに考えると、もしかしたら小型センサーで光学30倍の方が使いやすいのではないか。

 それというのも、これまで4K対応のコンパクトデジカメはハイエンドモデルに限られており、当然画質にこだわっている。ということは、レンズの倍率もそれほど上がらず、3倍から5倍程度だ。一方ビデオカメラは、4Kモデルでも光学で10倍から20倍ぐらいのレンズを搭載している。30倍は行き過ぎのような気もするが、これまで寄り足りなくて苦労したことを思えば、倍率が十分というのは魅力的だ。

 またセンサーサイズが大きいと、どうしても被写界深度が浅くなってしまい、フォーカスがシビアになる。動く被写体を追う機会が多い動画で、特に4Kとなれば、フォーカスのズレは致命的だ。しかしセンサーサイズが小さくなれば被写界深度は深くなるため、比較的安心して見られる絵になるはずだ。

 そんなことから、今回はあえてTZ85の方をお借りしてみることにした。もちろん価格もぐっと手を出しやすい、店頭予想価格55,000円前後。ちょうど本日が発売だが、ネットでは5万円を少し超える程度となっている。

 ミドルレンジのコンパクトデジカメで高倍率モデルは珍しくないが、4Kが撮影できるモデルはおそらくこれが最初である。そんなTZ85の実力を早速テストしてみよう。

ツボを押さえたデザインとスペック

 実売5万円程度のミドルレンジカメラは、ハイエンドモデルに比べれば注目度が低く、デザイン的にも無難なものが多い。低価格モデルは思い切ってファンシーな方向に振れるのだが、ある意味中途半端になりがちだった。しかしTZ85は、無難ながらもなかなかツボを押さえたデザインとなっている。

DMC-TZ85のホワイトモデル

 カラーはシルバーとホワイトがあり、今回はホワイトをお借りしている。一方シルバーはボディの大半はブラックで、軍艦部のみアクセントとしてシルバーとなっている。若干レトロさも感じさせながら、こちらもなかなかいいデザインだ。

 レンズ周囲に大きなマニュアルリングがあり、この辺りはソニーRX-100シリーズを連想させる。もっともこのような底部ギリギリまでのリングは、RX100と同じ問題を抱えている。三脚に取り付けると、シューが当たってリングが回らないのだ。2012年の初代RX100の時からずっと指摘し続けてるのに、他メーカーで全く同じ間違いを犯すというのは本当に残念だ。

シンプルながら完成されたデザイン
大型マニュアルリングも搭載

 右手側には深めのフィンガーグリップもある。RX100シリーズのようにグリップがないカメラは、別売のグリップを買って貼り付けるしかないのだが、最初から標準で付いているのはありがたい。

 レンズは35mm換算で24-720mm/F3.3〜6.4の光学30倍ズーム。ただし動画の16:9画角では、33-990mmとなる。超解像iAズームを使えば倍の60倍ズームとなり、静止画で1,440mm、動画で1,980mmとなる。

深めのフィンガーグリップを備える
3段の沈胴式レンズで光学30倍を誇る
モード 動画 静止画
ワイド端
33mm 24mm
テレ端
990mm 720mm
iAズーム
1,980mm 1,440mm
iAズーム
+EXズーム
-
2,040mm

 さらに静止画だけの機能だが、記録画素数を下げれば、センサーの読み出し範囲を変えてズーム倍率を稼ぐ「EXズーム」も使える。9M記録時には42.5倍、4.5M記録時には61.2倍までズーム可能。これに超解像iAズームも組み合わせればさらに倍となる。もちろん寄れば寄るほど画質はそれなりになることは覚悟が必要だが、もうアホみたいに寄れるカメラなのである。

EXマークのある記録画素数でEXズームが使える

 センサーは1/2.3型で総画素数1,890万画素。手振れ補正は光学式と電子式を組み合わせる5軸ハイブリッド手ブレ補正を備えるが、4K撮影時には光学しか機能しない。

 4K動画モードは、3,840×2,160/30pの「MP4/100Mbps」という1モードしかなく、LX100にはあった24p撮影モードはなくなっている。また4K動画の連続撮影時間は、15分までとなっている。同社製ビデオカメラ「HC-WXF990M」では、4K動画のビットレートは60Mbps(平均)しかなかったことを考えると、デジカメ系では100Mbps、ビデオカメラ系では60Mbpsがデフォルトになっているようだ。

4K収録は30p/100Mbpsのみ

 背面には3型104万画素のタッチパネル型液晶モニターと、0.2型116万ドットのビューファインダを備える。この価格でビューファインダありというのは珍しいのではないだろうか。視線を移すとカラーブレーキングが起こる時分割タイプだが、倍率が小さいので視線移動の角度も小さくなり、あまり気にならない。

液晶モニターは3型のタッチパネル
小型ながらビューファインダを備える

 液晶モニターはチルト機構がないのが残念だが、この価格では仕方のないところだ。昨今はスマートフォンを使ったリモート撮影も簡単になってきているので、シビアなタイミングが要求されなければ、それで代用もできるだろう。

 Fnキーは、ボタンとして4つ、画面内に5つあり、合計9つの機能がアサインできる。デフォルトでは4KフォトモードとフォーカスセレクトがFn1と2に割り当てられており、目玉とも言える機能にすぐにアクセスできるようになっている。

 軍艦部にはモードダイヤル、シャッターとズームレバー、動画撮影ボタン、電源ボタンがある。動画と電源ボタンの位置が近く、手探りだと押し間違える可能性が高いところは減点ポイントだが、シンプルな作りは好感が持てる。

目玉機能にすぐアクセスできるFnボタン
軍艦部のダイヤル類は全て右寄り

 端子類は右手側にmicroHDMIとmicroUSB端子があるのみ。HDMI端子からは、カメラのライブ映像は出ない。USB端子は充電とPC接続は可能だが、電源ONの状態で給電ができない。外部給電するためには、別売のDCカプラーとACアダプターが必要になる。

右手側に接続端子がある
バッテリーとSDカードスロットは底部

確かに4Kではあるが…

 では早速撮影してみよう。やはり気になるのがズーム倍率と画質との兼ね合いである。まずワイド端での描画だが、枝の細かいディテールはかなりもっさりしてしまっており、特に画面両脇の解像感は低い。ワイド端では周辺収差はかなり目立つレンズのようだ。

ワイド側では精細感に欠ける

 しかしそこから30倍の光学ズームはかなりインパクトがある。動画カメラのズームと違い、滑らかに30倍のズームができるわけではなく、途中ギクシャクするところもあるが、ビデオカメラでもなかなかここまで寄れるカメラはない。

 街を散策しているとよくノラ猫に出会うが、近づいても逃げない人懐っこい猫は稀だ。発情期などを狙えば比較的近距離で撮影できるのだが、それ以外の時期では間合いを詰めるのが難しい。そういったケースでも、このカメラがあればリラックスした状態のノラ猫を思う存分撮影することができる。ノラ猫マニア垂涎のカメラだと言えよう。

自在にズームできるのは魅力
実際にはこれぐらい離れている

 画質的には、日陰など光量が足りないところでは粒子感のあるノイズを感じるカットもある。そこが価格との兼ね合いで我慢できるかどうかだろう。絞りはみたところ円形に近いようには見えるが、背景のボケ足がそれほど綺麗ではないのが惜しい。

4K動画サンプル

 iAズームでは、やはり動画では画質的に一段厳しくなる。これを使えばさらに2倍寄れるのだが、すでに光学30倍で十分ではあるので、無理に使うこともないだろう。

光学30倍ズームに対応
iAズームも加えて60倍ズームも可能

 もう一点気になるのは、色味や輝度方向のラティチュードが案外狭いということである。これまで4K撮影可能なカメラはハイエンドに限られてきたため、ラティチュードの狭さが気になるようなカメラはなかったが、中級機とは言え4Kが撮影出来るとなれば、厳しく見なければならなくなる。これまではHDだから許されてきた部分も、4Kの世界ではハードルが一段上がる。

色の階調は若干物足りない
輝度の階調ももう少し欲しいところだ

 そもそも4K品質とは、解像度だけが高くてもダメで、HDRではないのは承知の上だが、それでも輝度や色つぶれといったダイナミックレンジ方向の狭さが目についてしまう。解像度で言えば4K品質だが、あえてここは絵作りのレベルとしても厳しい評価をしておきたい。

 もちろん、5万円程度という価格から考えれば、これだけのズーム倍率を持ち、ある程度のクオリティに達している点では評価できる。警戒心の強いノラ猫も、不用意に近づいて逃げられることなく、遠くからでも寄れ過ぎるほど寄れるのだ。静止画では動画のようなノイズ感もないので、満足感は高い。

 一方でこれだけズームできると、果たして手持ちで撮影できるのかという疑問もある。30倍でズームしつつ、手持ち撮影を行なってみたが、5軸ハイブリッド手ブレ補正が使えないにしても、補正力はそこそこあり、どうにか被写体をフレーム内に収めることができる。

手持ちで光学30倍ズームで撮影

 歩きながらの撮影でも、手ブレ補正の能力は割と高い。ただ、補正範囲の限界がくると、カクンと絵が動くようなアクションが気になる。カメラの手ブレ補正とジンバルを組み合わせてみたところ、かなり滑らかに撮影できた。現時点の技術では、どのカメラも4K動画撮影中に電子手ブレ補正を組み合わせることができないため、ジンバルの併用は効果が高い。

手持ちで歩きながらの撮影。補正力は大きい方だが、ジンバルの組み合わせで更に良くなる

多彩な機能を搭載

 パナソニックのカメラは、4K撮影技術を利用した様々な機能を搭載しているのが特徴だ。その一つはおなじみの4Kフォトである。静止画撮影のアクションで実は4Kの動画を撮影しており、後からタイミングのいいところを探して静止画に書き出す機能だ。

 静止画の連写と違い動画撮影なので、後で選べるとは言っても結構な枚数から選ぶことになる。TZ85ではタッチパネルを使い、連続したコマを左右にスライドすることでベストな写真を選ぶ「スライドフォトセレクト」を搭載している。

タッチパネルを使ってベストなコマを探せる「スライドフォトセレクト」

 昨年暮れから実装が始まった機能が、後からフォーカスが決められる「フォーカスセレクト」だ。1ショット撮影しておけば、自由にフォーカスポイントが選べるため、ブツ撮りなどには大きな効果を発揮する。

 TZ85で気になっていたのは、センサーサイズが小さいので、それほど深度が浅くならないのではないかという点である。実際にそのあたりを気にしながら撮影してみたが、確かに5倍程度のズーム領域では、パンフォーカスみたいなもんなので、フォーカスセレクトを使う意味がない。だが20倍〜30倍ともなるとさすがに被写界深度が浅くなるので、フォーカスセレクトの意味が出てくる。これまでの1インチオーバーのセンサーを使ったカメラでの意味合いとは、機能の位置付けが変わってくる。

20倍ズームで一番手前にフォーカスを合わせた画像
同条件で一番奥にフォーカスを合わせた画像

 動画独自の機能としては、「4Kライブクロップ」がある。これは4Kの撮影機能を使ってHDにリアルタイムにダウンコンバートする機能で、撮影時にパンやズームを設定できる。以前レビューしたビデオカメラ「WXF990M」では、4Kで撮影した後に切り出す機能を搭載していたが、本機の場合は撮影時にやってしまうわけである。

 設定方法としては、スタート地点の範囲と位置を決め、次にエンド地点の範囲と位置を決める。秒数は20秒か40秒しかなく、かなり長めに設定されている。当然三脚を使ってカメラを固定しないと辛いだろう。

「4Kライブクロップ」でダウンコンバートしながら撮影

 撮影時にやってしまうので、動きのある被写体だと失敗する可能性が高いが、これぐらいのゆっくりした動きはマニュアル操作では無理なので、じっくり撮影に取り組む時間があるときに使う機能だと言える。

 面白い機能ではあるのだが、移動してもズームしても被写体のパース感が変わらないため、写真を再撮しているような映像になってしまうところが難点だ。やはり本当にカメラを動かしたりズームしたりする方が、映像的には自然である。

総論

 デジタルカメラのズーム倍率は、10倍〜20倍といったところがバリューゾーンで、30倍を超えるカメラは若干特殊なモデルという位置付けとなる。一眼レフを別として、これまで4K撮影できるカメラで高倍率だったのは、パナソニック「DMC-FZ1000」の光学16倍がトップだったが、TZ85の登場で自らの記録をダブルスコアに近い数字で塗り替えることになる。

 実際に撮影してみると、多少S/Nの悪さはきになるものの、この価格でこれだけ撮れるならコストパフォーマンスは高い。また4K周りの機能も、上位モデルと遜色ないものを搭載しているため、がっかりすることも少ないだろう。ただワイド端でのレンズの品質や、センサーの小型化に伴う映像の違いは当然あるので、そこは割り切らないといけない部分である。

 個人的には、ズーム倍率の高さやフォーカスセレクトの搭載から見ても、不確定要素が多く、一発勝負の撮影が多いイベント取材などに便利なのではないかと言う感触を持っている。老眼の身にはビューファインダがもう少し大きく見えると助かるのだが、価格から考えれば十分な機能だ。

 85と言う型番が絶妙に中途半端ではあるが、案外記憶に残るモデルとなるのではないだろうか。

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小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「小寺・西田の『金曜ランチビュッフェ』」( http://yakan-hiko.com/kodera.html )も好評配信中。