小寺信良の週刊 Electric Zooma!
第697回:まるで別次元。“5K iMac”を試す。27型Retinaディスプレイの強烈な表現力
第697回:まるで別次元。“5K iMac”を試す。27型Retinaディスプレイの強烈な表現力
(2015/1/28 10:00)
4Kコンピューティング時代到来?
2014年10月16日(現地時間)に行なわれたAppleの発表会で、いくつかの新製品が発表された。「iPad Air 2」、「iPad mini 3」、「Mac mini」の新モデル、そして27型の「iMac Retina 5Kディスプレイモデル」だ。昨年は6月にもiMacの21.5型モデルを発表しており、2014年はディスプレイ一体型を充実させた年だったと言える。
このiMac Retina 5Kの発表と同時に、最新OSであるOS X 10.10、通称Yosemiteも発表された。AppleとしてはこのiMac Retina 5KとYosemiteの組み合わせから、4K以上のディスプレイにハードとソフトが正式対応したという事になる。
今PC用ディスプレイも高解像度モデルが販売されているが、大抵は4Kである。5Kというのはなかなか珍しい。すでに発売されて3カ月ぐらい経過するが、昨今の4Kカメラと組み合わせると、どういう使い勝手になるのか知りたかったので、あらためてお借りしてみることにした。
これまでiMacは、意外にも映像業界で多く使われてきた。ディスプレイまで一体化しているため、1つの作品を複数台で仕上げる際に、カラーマネージメントが楽というメリットがあるからだ。その昔スティーブ・ジョブスがAppleに復帰した際、ボンダイブルーのエントリーモデルとして登場した頃のiMacとは、もはや意味合いが全く変わっている。
さてそのiMac Retina 5K、ディスプレイの美しさは多くのメディアで語られているが、そのパフォーマンスについてはあまり言及がないように思える。今回はiMac Retina 5Kで4Kの動画を編集するとどうなるのか、というところを中心にテストしてみたい。
同じルックスで解像度4倍
もうすでに現物をご覧になった方も多いだろうから、デザイン面についてはそれほど詳しいことは述べない。というか、外見的には従来のiMacと大きな違いはなく、我々がイメージするあのiMacのままでディスプレイが5Kになった、という印象だ。
5Kとは5,120×2,880ドットのことで、これは従来の27型iMacの解像度である2,560×1,440ドットに対して、丁度縦横で2倍となる。サイズは同じで密度を4倍にしたら、結果的に5Kになったということだろう。ボディを分解したサイトの情報によれば、ディスプレイはLG電子製だそうだ。
iMac Retina 5Kは、最も標準的な構成で258,800円となっている。スペックとしては、CPUが3.5GHzクアッドコアIntel Core i5、メモリ8GB、ストレージが1TB Fusion Drive、グラフィックスはAMD Radeon R9 M290X 2GB GDDR5だ。
一方、今回お借りしたモデルは、CPUが4GHzクアッドコアIntel Core i7に、グラフィックスがAMD Radeon R9 M295X 4GB GDDR5に変更されていた。この構成で307,800円である。メモリやストレージはあとで自分で増設できるので、グラフィックス用途として自分では交換できないパーツのみ入れ替えた状態として、最低限の構成だと言える。
電源ケーブルは背面の、ボディとスタンド部の間から生える格好だが、ケーブルは着脱可能。背面向かって左側には各種ポート類が集まっている。ヘッドフォン端子、SDXCカードスロットのほか、USB 3.0ポートが4つ、Thunderbolt 2端子が2つ、Ethernet端子だ。ネットワークはWi-Fiも内蔵されており、IEEE 802.11ac、およびIEEE 802.11a/b/g/nに対応している。マウスもキーボードもBluetoothで繋がるので、最低限電源コードだけ繋げば、そのほかは何も接続せずに動作する。
ただ実際に何か繋げようと思ったら、いちいち後ろに回って端子を確認しなければならない。本体とスタンド部のヒンジは、上下角に動くのみで、ターンテーブル的に回転する機能もないため、背面にもアクセスしやすい場所に設置するほうがいいだろう。重量は9.54kgで、27型ディスプレイとして考えたら当然重いが、移設に困るような重さではない。ちなみに5KではないiMacも、重量は同じである。高解像度だと重くなるわけではなさそうだ。
肝心のディスプレイは、表面はグレアタイプで、映り込みはそれなりにある。ただ発色、解像度は十分で、さらに4隅まで明るさが均等だ。バックライトの均一性にはかなり気を使って設計されていることがわかる。
ここで、OSやソフトウェアが高解像度ディスプレイに対応しているという意味について、少し考えてみよう。PCアーキテクチャにおいて高解像度ディスプレイは、グラフィックスカードがその解像度に対応していれば使えるような気がする。実際に繋げば映るのだが、使いやすいかというのは別問題である。
例えば現行のWindows 8.1環境は、4Kなどの高解像度ディスプレイに正式には対応しているとは言えない。以前15.6インチの4Kディスプレイを搭載した東芝「dynabook T954」をお借りしたことがあったが、OSの拡大機能を使えば、これだけ小さな4Kディスプレイでも、デスクトップのアイコンや文字は認識できるサイズに拡大はできる。
だがソフトウェアを立ち上げてみると、ソフトウェア内のメニューやアイコンは一般的なDPIのディスプレイを想定して作られているため、小型で高密度なディスプレイ上では小さすぎて、操作できなかった。Windowsのソフトウェアでは、そのソフトウェア固有のメニューはウインドウ内に表示される。従って、そのソフトウェアは、独自にメニューやアイコンといったUIのパーツを持つ事ができる。この手のソフトは、4Kなど高解像度ディスプレイに対応すべく設計を見直さなければならなくなる。
一方Mac OSの場合、ソフトウェアのメニューはウインドウ内になく、OSが提供するメニューバー部分に現われる。したがってどのソフトでも、メニューはOSが認識しているディスプレイ解像度どおりのフォントサイズで表示される。従って、面積は同じで密度だけ4倍といった今回のようなディスプレイで表示しても、メニューの文字サイズが1/4になるという事はない。もちろんフォントだけでなく、画像のサムネイルやアイコンもサイズは同じで高解像度となる。
Mac OSでは、元々このような特徴もあり、またOSそのものが5Kディスプレイを意識した設計であることから、Yosemite以前に作られたソフトウェアでも、アイコンやメニューが小さすぎて使えないという事にはならない。ここが意外に大きなポイントだと言える。
4K編集のパフォーマンス
では早速動画編集をテストしてみよう。今回使用したのは「Final Cut Pro X 10.1.4」である。Final Cut Proは、バージョン10になってUIが大幅に変わり、まるでiMovieのようなスタイルになった。また、前バージョンでサポートしていた機能がカットされ、現在のワークフローでは使えなくなるユーザーも出たため、プロユーザーが大挙してAdobe Premiere Proへ逃げ出すという現象を引き起こしてしまった。
現在は機能的にもだいぶ充実してきたが、一度離れたユーザーが再び戻ってくるほどのインパクトが与えられないまま、今日に至る。操作的には様々なポイントで自動化されているため、これから本格的な編集に挑むという方には理解しやすいはずだ。
まず、先週レビューしたパナソニック「HC-X1000」で撮影した、4K/60p/150Mbpsのクリップを読み込ませてみた。ファイルフォーマットとしてはMP4である。
iMac Retina 5K上でFinal Cut Pro Xの標準的な画面レイアウトを表示させると、クリップの映像部分は58%に縮小される事になる。ツール類を極力出さないようにすれば、4K等倍での表示は可能だが、実際の編集作業にはタイムラインやライブラリウインドウが狭すぎて、実用的ではない。2モニタ仕様にしてインスペクタウィンドウまで出すと、映像表示部は37%程度になってしまう。ただそうは言っても、このサイズでも解像感は結構高いので、別途プレビューモニターがあれば作業的には難しくないだろう。
Final Cut Pro Xには、映像のプレビュー出力をセカンダリモニタに出力する機能がある。そこで、Thunderbolt 2端子からHDMIへの変換コネクタを使い、4Kテレビに接続してみたところ、問題なく4K解像度のセカンダリモニタとして使用することができた。
ただ、表示にはいくつかの点で問題があった。まず本体側のディスプレイだが、ネイティブフォーマット、すなわちカメラで撮影したまま変換もなにもしていない状態では、4K/60pのファイルの再生はギリギリなんとかなるといった感じだ。クリップによってコマ落ちするものもあり、コンスタントに安定して60p再生ができる感じではない。単純なカット編集程度ならだましだまし使えない事もないが、安定的に編集するためには、プロキシデータに変換するほうがいいだろう。
さてこの時の4Kテレビ側だが、DisplayPort - HDMI変換アダプタがどれも4K/60pに対応しておらず、4K/30p止まりのようだ。従って、テレビ側がHDMI 2.0対応で60p Readyであっても、変換がネックになって60pで表示できない。DisplayPort 1.2とHDMI 2.0の変換アダプタは、先日のCESでようやく製品が発表されたぐらいのタイミングなので、まだ市場に出てくるまでは少し時間がかかるだろう。
また解像度も、動画再生中は細かい部分でジャギーが発生する。一度解像度を落としてアップコンしたような甘さがある。面白い事に、動画再生を停止して静止状態になると、瞬時に解像度が復帰する。
ついでに、以前パナソニックのDMC-GH4で撮影した4K/30pのMP4ファイルがあったので、これも読み込ませてみた。こちらは特にプロキシを作るまでもなく、コマ落ちせずに再生や編集が可能だった。同じ4Kでも、30pはすでに処理的にもPCアーキテクチャが追いついてきつつあるようだ。
ただこちらも4Kテレビへのプレビューは、解像度劣化の問題が起こる。DisplayPortで直接接続できるテレビやモニタならまた違う結果になるのかもしれないが、現時点ではDisplayPort - HDMI変換アダプタを使って、廉価な4Kテレビを編集用プレビューモニターにするという作戦は、もうしばらく待たないとうまくいかないようである。
日の目を見るか? プロキシ編集
4K/60pのネイティブフォーマットではカット編集でもギリギリなので、実作業ではプロキシ編集に切り換えた方が快適だろう。プロキシ編集とは、編集用に低解像度のファイルを別に作成し、編集作業はその低解像度ファイルで行なうという方法だ。最終的に完成したものをレンダリングしてファイルに書き出す際に、素材をオリジナル解像度のファイルに自動的に差し替えるため、最終出力はオリジナル解像度と同等となる。
そもそもプロキシ編集とは、HD放送の黎明期、まだPC側の演算能力が十分でなかった頃に考え出された手法だ。ただ、これはあまり普及しなかった。なぜなら、低解像度のファイルを作るのに時間がかかることに加え、当時はいざとなったらテープ to テープでダビング編集をするという方法があったからである。
だが今は時代も変わり、そもそもカメラ素材がテープではなくファイルになってしまっているので、ダイレクト編集という手法がとれなくなった。CPUのパフォーマンスが追いつくまで、4Kではプロキシ編集がまた日の目を見るかもしれない。
Final Cut Pro Xの場合、環境設定もしくは素材の取り込み時に、プロキシファイル作成の項目がある。プロキシファイル作成をONにしておくと、素材を読み込むと同時にバックグラウンドでプロキシファイルの作成がスタートする。
今回はHC-X1000で撮影した44クリップ、およそ20分弱の映像をプロキシ化してみたが、だいたい30分程度で変換が完了した。実時間の1.5倍程度である。実際には変換中も映像を再生して中身の確認などは可能なので、プロキシ変換が終わるまで何もできないというわけではない。
4K映像のプロキシファイルは、フルHDサイズのProRes 422 Proxyコーデックだ。これならデータも軽く、編集作業はストレスを感じない。複数段重ねるレイヤーも、最初は3レイヤーぐらいしかまともに動かないが、バックグラウンドで勝手に部分レンダリングするので、他の作業をやっているうちに綺麗に再生できるようになる。
ただThunderbolt経由で繋いだ4Kテレビ側のプレビューは、HD解像度の映像しか見られないため、プロキシ編集時は4Kテレビを繋いでいる意味は半減する。
総論
5Kディスプレイを搭載したとは言え、MacProのようなパフォーマンスは望めないだろと思っていたのだが、予想に反して結構なパフォーマンスで4K動画が編集できる事がわかった。4KともなるとMacPro以外無理だと決め込むのは、ちょっと早いようだ。
その反面、5K解像度は綺麗だということに異論はないが、じゃあ作業画面として27型というサイズはどうかと聞かれれば、決して広くはない。なるべく動画表示エリアを広く取ると、ツールやライブラリウィンドウが狭くなり、現実的ではなくなる。
かといってFinal Cut Pro Xの画面はパーツを取り外してセカンダリモニタに持っていくこともできないので、どうしてもこの27型画面内で作業を完結させることになる。5Kのディスプレイを使っていながら、画面内の大半が数字やツールなどを表示しているだけという状態は、正直もったいない。
まだAppleからはRetinaディスプレイと呼べる高解像度の外部モニターがラインナップされておらず、セカンダリモニタは市販のディスプレイを繋ぐしかない。つまり、同じ品質のディスプレイを拡張することができないため、セカンダリモニタをどう使おうかという悩みはしばらく続きそうだ。
ただいずれにしても、Mac OSではもう早々に4Kを含めた高解像度ディスプレイへの対応が始まっている。ディスプレイの画面の高解像度化・大画面化技術は、遠くで見る大画面テレビ的な使われ方ではなく、高解像度を近くで見て作業するという方向性も生み出した事になる。
この傾向は今回のような4K映像編集に限らず、今後のコンピューティングに大きな変化をもたらす事になるだろう。