小寺信良の週刊 Electric Zooma!

第696回

Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語

いろんな割り切りがすごい! 民生向け4K/60pカムコーダ、パナソニック「HC-X1000」

ようやくレビューする日が……

 昨年9月のIFAで発表された、パナソニックの4Kカムコーダの最上位モデル「HC-X1000」(以下X1000)。日本でも10月23日より発売が開始されたが、レビューするタイミングを逸してしまい、とうとう今になってしまった。

4Kカムコーダの最上位モデル、HC-X1000

 発売されて2カ月も経つとあまり新鮮味は感じられないかもしれないが、今後のコンシューマ4Kカメラを占う上で、どうしても情報共有が必要なカメラであろう。それというのも、このカメラは4K/60p撮影が可能だからである。

 現時点で4K/60pが撮影可能なコンシューマ機は、2013年11月に発売されたソニー「FDR-AX1」と、この「X1000」しかない。AX1は発売当初の店頭予想価格が42万円前後、1年経過した今でも実売価格で30万円を切ることはないが、HC-X1000は店頭予想価格34万円前後、ネット販売サイトでは既に30万円を切るところもある。

 およそ1年違いで発売された両モデルだが、どちらも本格的な撮影が可能なハンドヘルドカメラだ。昨年は4Kカメラと言えばほとんどがデジカメであったが、ビデオカメラのニーズも当然あるだろう。コンシューマ機という扱いなので量販店などでも普通に販売されるが、性能的にはプロユースも視野に入ってくる。今回は久々に4K/60p撮影で、HC-X1000の実力をテストしてみたい。

見た目よりずっと軽いボディ

 まずカメラスペックから整理しよう。サイズとしては、幅160mm、高さ170mm、全長315mmのハンドヘルドタイプで、AX1よりも多少小さい。持ってみて驚くのは、見た目のゴツさに反した軽さだ。バッテリ込みで1,780gと、AX1よりも約1kg軽い。持ったときのバランスも良く、前や後ろに傾く事はない。長時間手持ちで使う、いわゆるディレクターカメラのような使い方としては、この軽さは強力な武器になるだろう。

見た目よりも軽量なボディ

 レンズは、鏡筒部の太さからすれば意外に径が小さく、フィルター径こそ49mmだが、前玉の直径は実測で32.8mmしかない。焦点距離は35mm換算で30.8mm/F1.8〜626.0mm/F3.6の、光学20倍ズームレンズとなっている(16:9/3,840×2,160撮影時)。

レンズ径はボディに反して小さいのが気になる
レンズフードはカバーも兼用
モード ワイド端 テレ端
動画
30.8mm

626mm

 センサーは総画素数1,891万画素の1/2.3型MOSで、3,840×2,160ドット撮影時の有効画素数は829万画素。サイトにはBSI(裏面照射)という表記も見られ、サイズや画素数も同じなので、実質的にはソニーのAX1と同等と考えてよさそうだ。

 鏡筒部には3連のリングがあり、前からフォーカス、ズーム、アイリスとなっている。コントロールは電子式。NDフィルタも1/4、1/16、1/64の3段階となっている。

お馴染み3連リングも健在

 鏡筒部の根元部分にリング状のLEDがあり、通電時には青く、録画中には赤く光る。タリーランプは別にあるのだが、録画の状態が周りのスタッフにもわかりやすいという点では、なかなか面白いデザインだ。ただ撮影者は普通カメラの後ろにいるので、本人には見えないことになる。

 ボタン類は豊富で、このクラスのカメラによくあるゲイン、アイリス、シャッタースピードが独立してオートとマニュアルに切り換えられるタイプ。一発でフルオートになるiAスイッチもある。ユーザーボタンは表面に出ているだけで6、液晶画面内に4あり、合計10のショートカットが使える。

マニュアル撮影用のボタン類も豊富
オーディオ系のボタンはカバー内にある

 記録メディアはSDHC/SDXCカードだが、4K/60pでの最高ビットレート150Mbpsで撮影するためには、UHSスピードクラス3対応のものが推奨されている。1枚に記録可能だが、スロットは2つあり、オートスイッチ(リレー記録)やサイマル(両方)記録、片方だけずっと撮影を続けるバックグラウンド記録などが利用できる。ただし4Kでの撮影時は、バックグラウンド記録は使えない。

記録はSDHC/SDXCカードの2スロット構成

 記録フォーマットは非常に多彩で、HD解像度ならMOVとMP4でそれぞれ音声LPCMの有無が選べ、AVCHDも撮影できる。そのうち4Kが撮影できるのはMP4のみで、さらに最高ビットレート150Mbpsで撮影できるのは、LPCMの3,840×2,160/60pモードだけである。今回の撮影はすべてこのモードで行なっている。ここでは全モードを掲載すると煩雑なので、4K撮影モードのみを抜粋する。

記録モード 記録フォーマット 記録画素数 フレームレート ビットレート
MP4
(LPCM)
C4K/24p 4,096×2,160 24p 平均100Mbps
(VBR)
4K/60p 3,840×2,160 59.94p 平均150Mbps
(VBR)
4K/30p 29.97p 平均100Mbps
(VBR)
4K/24p 23.98p 平均100Mbps
(VBR)
MP4 4K/30p 3,840×2,160 29.97p 平均100Mbps
(VBR)

 音声は内蔵ステレオマイクのほか、2系統のXLR入力も備えている。普通は1箇所に2つの入力が並ぶものだが、Input1はハンドル部前方に、Input2はボディ後方にと分かれている。ステレオ収録するときは変な感じがするかもしれないが、ENGでは1chしか使わない事もあるし、ガンマイクとハンディの2つを入力することを考えれば、特に同じ位置になければ不便というわけでもない。

ハンドル部に内蔵マイク
マイクの下にスピーカー
XLR 1chはハンドル前方に
XLR 2chはボディ後方に

 液晶モニタは、ハンドル部から横に引き出して回転させるというスタイル。約115万ドットの3.5インチ液晶モニタで、タッチパネルである。モニタ部は普通は二重のヒンジを使って折り畳むタイプが多いが、このような引き出して使うスタイルは、筆者が知る限りでは初めてである。液晶のヒンジは縦方向にしか回らないため、横から覗くことができない。

液晶モニターは引っ張り出して使用
ヒンジは縦方向に回転するのみ

 また液晶は必ず下向きでしか収納できないが、これは逆に上向き収納のほうが良かっただろう。現状はモニターを見るときに、引き出したあと必ず回転させるアクションが必要だが、上向きに収納されていれば、引き出しただけで、回転させるまでもなく、ある程度映像が確認できるからだ。現状はちょっと不便はあるが、ヒンジの数を少なくする方法としてはユニークなので、この方式は大事にしてもらいたい。

 ビューファインダは約123万ドット相当の0.45型。時分割表示デバイスを使用しているため、素早い視点移動ではカラーブレーキングが起こる。

液晶とビューファインダは排他で点灯
大型ズームレバーも装備

 端子類は背面に集中しており、一番後ろはUSB 3.0 Micro B端子、USB 3.0ホスト端子、HDMI端子がある。側面にはイヤフォン、DC INのほか、アナログAV出力、2系統のリモコン端子がある。ボディ側面にはかなり大胆に排気口とみられるスリットが開いているが、ファン音はカメラボディに耳をあてないと聞こえない程度だ。

入出力は背面に集中

十分満足できる撮り味

 ではさっそく撮影である。撮影日は天候がコロコロ変わり、カメラが吹かれて揺れてしまうほど風の強い日であった。気温も低く、おそらく体感温度は2度ぐらいだっただろう。日が陰ると寒くて居られないので、車の中に待避、そんなことを2〜3度繰り返してようやく撮影できた。そんな悪条件の中でも、X1000は特に問題もなく撮影できた。マイクは盛大にフカレているが、そこはご容赦願いたい。

 撮影スタイルとしては、特に特殊な部分はない。ゲイン、アイリス、シャッタースピードを個別にオートかマニュアルかを選ぶことで、絞り優先やシャッタースピード優先にできる。絞りは開放からF11までで、それ以上はCloseとなる。

細部までも細かい描写は4Kならでは

 マニュアルではヒストグラムを頼りに露出を見る事になるが、出現位置がわりとモニタの中央寄りなので、いつまでも同時に出しておくわけにもいかないのが難点だ。カメラ後部のDISPボタンで表示を出し入りしながら撮影するというスタイルになる。バッテリ残量は画面上に出さなくても、バッテリの後ろのCHECKボタンを押せばLEDで残量がわかる。

バッテリは単体でも残量がわかる
紫の発色も正確

 AFが優秀なのでそれほど困る事はないが、MFではフォーカスアシストとして、拡大画面とピーク表示が使える。また画面タッチによるエリアフォーカス機能も使えるが、USERボタンに機能を割り当てないとこの機能にはアクセスできない。

 心配されたレンズの性能だが、枝の細かい描写も見事で、テレ端でも解像感が落ちない。逆光でもフレアが目立たず、なかなかいいレンズだ。撮影日は晴れたり曇ったりの天気ゆえに、日が陰るとホワイトバランスは若干寒色に転んだ感じになってしまうが、発色などは十分で、微妙な紫の花びらも正確だ。トーンとしては、デジカメ的な柔らかい写りではなく、ビデオ的なかっちりした絵となっている。

サンプル動画。撮影は4K/60p 150Mbpsで行なっている
sample_4K.mov(236MB)
※編集部注:動画は編集しています。再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

 手ぶれ補正は、光学式と電子式を組み合わせた5軸補正となっているが、これが効くのはHD解像度までで、4K撮影では光学補正のみになるようだ。今回はワイド端での歩き、中間(300mm程度)での歩き、テレ端での手持ちFIXの3カットを撮影してみた。歩きながらの撮影ではそれほど強い補正力は望めないものの、20倍テレ端での手持ち撮影の安定度はかなり高い。

手ぶれ補正のテスト/1080p
stab_hd 1080p.mov(47MB)
※編集部注:動画は編集しています。再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

 3つのフォーカスポジションを設定し、その間を規定のトランジションタイムで結ぶ「フォーカストランジション」機能も搭載している。2点間のフォーカストランジションはよくあるが、3点は珍しい。ただ、その3点を設定している最中はフォーカスアシスト機能が何も使えないので、微妙なフォーカス合わせは難しい。

フォーカス3点を設定してトランジションできる「フォーカストランジション」

 赤外線撮影機能もある。カメラマイク部に赤外線ライトが内蔵されており、モノクロだがライトなしでの撮影もできる。ただ撮影するには、赤外線撮影のONと赤外線ライトのONは別個のメニューに入っていって設定しなければならないため、若干面倒だ。たまにしか使わないようだと、忘れてしまうだろう。ユーザーボタンには赤外線ライトのONだけは割り付けられるが、1ボタンで両方がONになる工夫も欲しいところだ。

 また本機には、6つのシーンファイルがプリセットできる。デフォルトでは以下のような設定になっている。

シーン名 説明 サンプル
シーン1 標準
シーン2 蛍光灯向け
シーン3 解像度、色合い、コントラストに
メリハリをつけた
シーン4 暗い部分の階調を広げた設定
シーン5 コントラスト重視の映画向け
シーン6 ダイナミックレンジ重視の映画向け

 シーンファイル内にはディテールやDRS(ダイナミックレンジストレッチャ)、色温度といった絵づくりに関わるパラメータが格納できる。一方、先ほどのフォーカスポジションやエリアフォーカスの設定もこのページを送っていった先にあるが、これらはシーンファイルごとに個別の設定が記憶できるわけではなく、共通のようだ。

 そもそもカメラ設定パラメータの中に、シーンファイル内のパラメータを同レベルで並べる必要があるのか、理解に苦しむ。本来ならば、シーンファイル設定だけ別項目になっているべきだろう。

シーンファイル内の設定項目
シーンファイルのパラメータを送っていくと、一般的なカメラ設定項目になる

 撮影後のファイルから、4Kの静止画を切り出す機能もある。再生時にポーズで止めて、カメラアイコンをタッチするだけだ。LX100では「4Kフォト」として訴求されている機能だが、こちらは60pなので、1/60秒の緻密なタイミングで切り出しが可能だ。今回の静止画のサンプルはすべてこの機能で動画から切り出している。

4K動画から静止画を切り出す機能もある

総論

 HC-X1000は、先行するソニーから1年を経て出てきたカメラだけあって、性能的にも価格的にもよく練られており、非常にバランスの取れたカメラだ。4K撮影も軽快で、HDカメラを扱っているのと遜色ない操作性である。

 現時点ではリーズナブルに4K/60pを撮影する機材がまだ少なく、実質的にハンドヘルドカメラということでは、ソニーAX1と本機の一騎打ち状態だと言える。放送の世界でも一部では積極的に4Kでの試作は続けているものの、まだ本格的に4K/60pによるコンテンツ制作には踏み出しておらず、多くの番組はまだまだHDである。だがその中においても、将来への布石としてこの価格帯でこの性能のカメラが出てきた意義は大きい。

 多くの点で満足のいく仕上がりだが、一部メニュー構造でわかりにくいところもある。別に特殊でもない機能が、ユーザーボタンにアサインしないとアクセスする方法がないといったあたりは、賛否が分かれるところだろう。そもそもユーザーボタンには機能表記も何も付けられていないので、自分で覚えておくしかない。10個の機能アサインを暗記できるだろうか。例えばDRSなども、ONでもOFFでも特に表示が出ず、間違って押してしまってずっとONだったという事もありうるところが怖い。

 液晶モニタをスライド式にした点は新しいが、液晶とビューファインダを同時点灯する方法がないのは残念だ。液晶モニタを格納するのにはちょっと手間がかかるだけに、すぐビューファインダで確認したい時が不便だった。細かいところまで完全にカスタムにできないあたりがコンシューマ機たる所以だろう。

 これでソニーとパナソニックの、コンシューマ向けカムコーダ製品のトップを確認したことになる。あとはこれをどう料理していくのか、今年は両メーカーの手腕や方向性の違いなどが、より明確になってくるだろう。

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パナソニック
HC-X1000

小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「小寺・西田の『金曜ランチビュッフェ』」( http://yakan-hiko.com/kodera.html )も好評配信中。