ソニーの電子書籍端末「Reader Touch」を試す
-優れたハードウェアとStoreへの期待。MP3/AAC再生も
Reader Touch Edition(左)、Reader Pocket Edition(右) |
ソニーが、12月10日に発売する電子書籍端末「Reader」。2010年は電子書籍元年などとも呼ばれるが、「電子書籍の本格立ち上げに向けて、大手事業者の取り組みが目立つ」という準備段階ともいえ、実際にユーザーが触れる端末の新製品はあまりなかった。Readerは国内大手メーカーによる本格的な電子書籍リーダーの最新作だ。
米国におけるAmazonのKindleの盛り上がりなども伝えられるが、音楽や映画コンテンツのネットワーク配信の移行が加速するという流れを考えれば、本の電子化というのも必然なのかもしれない。また、スマートフォンの普及とともに、KindleやAppleのiBooksといったアプリ型のリーダの提供も増えており、専用端末だけでない選択肢も生まれている。
日本においても、今までのケータイ向けだけでなく、本格的な電子書籍の事業化に向け、大手出版社や、ドコモ、KDDIなどの携帯キャリアなども本腰を入れており、Amazonの参入も噂されている。米国の電子書籍端末で、2位のシェアを誇るというソニーも、今回日本でのサービスを開始することになった。
基本は電子書籍専用端末なので、ディスプレイもモノクロの電子ペーパーで、AV機能が多いわけではないが、上位モデルの「Reader Touch Edition」にはSDメモリーカードとメモリースティックスロットを装備し、MP3やAACの音楽再生に対応する。もう1モデルの5型「Reader Pocket Edition」は文庫本サイズという小ささが特徴だ。
Reader Touch Edition | Reader Pocket Edition |
今回は6型/800×600ドットの上位モデル「Reader Touch Edition」を中心に、写真と簡単な使用感をレポートする。なお、電子書籍の配信サービス「Sony Reader Store」については、サービス開始していないため、今回はテストしていない。
■ Readerの概要。高級感ある筐体
パッケージ |
製品の概要については、別記事で紹介しているが、Touch Editionが6型、Pocket Editionは5型のモノクロ電子ぺーパーを採用。また、Touch Editionは、SDメモリーカード、メモリースティック デュオスロットを装備するほか、MP3、AACの音楽再生に対応している。
基本仕様は下表のとおりだ。
製品 | Touch Edition (PRS-650) | Pocket Edition (PRS-350) |
ディスプレイ | 6型 (800×600ドット) | 5型 (800×600ドット) |
外形寸法 | 169.6×119.1×10.3mm | 145.4×104.6×9.2mm |
重量 | 約215g | 約155g |
対応フォーマット (書籍) | XMDF(DRM付き)、XMDF(DRM無)、EPUB、PDF、Text | |
対応フォーマット (音楽) | MP3、AAC | - |
対応フォーマット (写真) | JPEG、GIF、PNG、BMP | |
外部メモリー スロット | メモリースティック Pro デュオ、 SDメモリーカード | - |
カラー | ブラック、レッド、シルバー | ブルー、ピンク、シルバー |
店頭予想価格 | 25,000円前後 | 2万円前後 |
Touch EditionとPocket Editionという名称なので、上位機だけがタッチパネルと勘違いするかもしれないが、いずれもタッチパネルを採用している。光学式タッチパネルの採用により、ページ送りや文字入力、ホーム操作、メモなどを表示部に触れながら操作できる。表示部下のハードウェアキーによる操作も可能で、ホームボタンや、前後カーソル、拡大、オプションなどのボタンが用意される。
ボディはアルミ製でなかなかの高級感。実売価格はPocketが約2万円、Touchが25,000円とKindle(Wi-Fi版:139ドル)と比べると高価だが、値段の差以上の質感の違いは感じる。また、背面にラバー風のコーティングが施されており、手に持った時にしっかりとひっかかる感触が残る。視覚と触感の両面でこまかな気遣いを感じる。
【Reader Touch Edition】
Touch Edition | Touch Edition。ディスプレイは6型/600×800ドット | Touch Editionの背面 |
下面にボリュームボタンやヘッドフォン出力、マイクロUSB端子を装備 | 上面に電源スイッチのほか、メモリースティック、SDカードスロットを装備 | 右脇にタッチペンを収納 |
【Reader Pocket Edition】
Reader Pocket Edition | 前面。ディスプレイは5型/800×600ドット | 背面 |
側面 | 上面 | 下面。USB端子を装備。ヘッドフォン出力やボリュームはPocket Editionには無い |
Pocket Editionと書籍を比較 | Pocket Editonと新書を比較 | Touch Editonは新書よりやや幅が広い |
Touch EditionにはSDカード、メモリースティックDuoスロットを装備 |
本体上面には電源スイッチを備えており、スライドさせることで電源ON、もしくはスタンバイ状態からの復帰となる。初回起動時には1分弱の起動時間が必要だが、一度起動してしまえば、通常はスタンバイからの復帰となるので、瞬時に立ち上がる。
また、Touch Editionでは、上部にメモリーカードスロットを装備する。MP3とAACの音楽再生機能もTouch Editionのみ搭載し、本体メモリやメモリーカードに記録した楽曲を再生できる。下面にはマイクロUSB端子とRESETスイッチを装備。Touch Editionではヘッドフォン出力を装備している。
Touch EditionとPocket Editionの比較 | 上からiPhone 3GS、Pocket、Touch |
KindleやiPhone 3GSと比較 | 前からPocket、Touch、Kindle | Kindle、Touch、Pocket |
メインメニュー | 一覧表示も可能 |
ホームメニューには、新たに追加した書籍や、読んでいる最中の書籍の情報を上部に表示。中段には書籍のリストを3冊、下段には定期購読、コレクション、全ノート一覧(手書きメモやハイライトなど)などの項目が用意されている。
最下段は、ホーム、アプリケーション、設定の切り替え。[アプリケーション]では、写真や手書きメモのほか、辞書やテキストメモ、オーディオ機能(Touchのみ)を呼び出すことができる。
■ Touchは音楽機能も搭載
[アプリケーション]から音楽機能を呼び出し | アルバムアート付きのアルバム選択画面 |
基本的には、電子書籍専用端末のReaderだが、Touch EditionにはMP3とAACの音楽再生機能もついている。USB経由で本体メモリ、もしくはSDカード/メモリースティックなど転送し、メインメニューのアプリケーションから音楽を呼び出せば、任意の楽曲を再生可能だ。
この音楽再生機能が結構よくできていて、アルバムアートを見ながらの検索や、アルバムの曲順での音楽再生に対応。再生画面もアルバムアートを表示しながら、再生できるだけでなく、シャッフル再生やリピート再生などの機能も備えている。
音質もまずまずで、中低域にハリがあり、元気なサウンド。解像感などはオーディオ専用機に比べればやや物足りないものの、十分すぎるほど音楽を楽しめる。もちろん、音楽を再生しながら電子書籍を読むことも可能だ。
アルバムの曲順でソート | 再生画面 | シャッフル、リピートも装備。電子書籍を読みながら音楽を聴くこともできる |
写真表示機能も装備しており、JPEG、GIF、PNG、BMPが表示できる。とはいえ、さすがにモノクロの電子ペーパーで「写真を見る」というシチュエーションもあまり無いような気がする。外出先や旅行先にReaderを持っていくついでに、地図をコピーしていく、といった用途には使えるかもしれない。
写真機能 | 縦/横切り替えに対応する |
■ 読みやすく、シンプルな操作性
電子ブックリーダーとして利用 |
電子書籍端末として使う場合、Sony Reader Storeからのコンテンツ転送には「eBook Transfer for Reader」というソフトウェアが必要となるが、まだ配信が始まっていないため、今回はプリインストールのXMDF(DRM付き)と、パソコンからドラッグ&ドロップで転送したPDFで試した。なお、転送ソフトの対応OSはWindows XP/Vista/7のみで、12月の発売時にはMac OSには対応していない。
Readerではユーザーメモリとして1.4GB、約1,400冊が収納可能(Touchではメモリーカードでの容量拡張も可能)なため、コンテンツが増えれば管理が面倒になることもある。その場合は、タイトルの一覧表示や検索機能を活用して、書籍を探すことができる。
任意のコンテンツを選択すると、書籍を閲覧可能になる。右綴じの縦書きの場合は、基本的にハードウェアキーの左ボタンもしくは、ディスプレイの左をタッチして右になぞることでページ送りとなる。左綴じの横書きの場合は、右ボタンもしくは右側タッチから左になぞることでページが送られる。
と書くと当たり前のように思えるが、紙の雑誌や書籍では、右綴じか左綴じかは見ればわかり、その方向にしか開きようが無いが、電子書籍の場合は直感的にわからなかったりする。使い始めは少々戸惑うかもしれない。
表示部下のボタンで操作 | タッチペンが付属する | 転送終了後に数秒のデータベース再構築時間を要する |
電子ペーパーは、E-Inkの新世代の「Pearl」を採用。文字のコントラストも高く、非常に読みやすい。数ページ読むうちに“電子書籍で読んでいる”といった違和感は無くなった。「バックライトを使わないため、疲れない」というのが電子ペーパーのウリでもあるが、それほど使ったわけではないので、液晶との疲労感の違いというのはわからないが、紙と比べた時の違和感の無さは確かに特筆に値する。
なお、バックライトが無いため、就寝前にベッドで本を読むときなど、暗いところではライトなどを併用する必要がある。ちなみに、別売のReader用カバー「PRSA-CL65(Touch用/5,985円)」にはLEDライトを装備している。
PRSA-CL65 |
日本語フォントは、本文が「イワタ 明朝」、本文以外は「モリサワ 新ゴR」を採用。日本発売にあたって、フォント選択にはかなり神経を使ったそうだが、Readerの「読みやすさ」の向上に、確かに寄与していると思う。また、Kindleも最新モデルでは日本語のPDFに対応したが、コンテンツのファイル名には英数字しか使えないなどの課題があった。Readerではさすがに問題なく日本語ファイルが使え、日本市場向け製品としての使いやすさは確かに感じる。
レスポンスは良好でタッチ操作から、0.5秒程度でページが切り替わる。切り替わりの描画速度もかなり早い。ただし、電子ペーパーに慣れていない人にとっては描画の切り替え時に、画面が全黒になるという点は違和感を感じるだろう。現在の電子ペーパーの特性上は仕方なく、また、初期のKindleなどに比べるとかなり書き換えが高速化されてはいるが、この点は慣れが必要だろう。
【操作例】 |
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基本操作は、指でタッチパネルを触る、もしくはハードキーでほぼ問題ない。タッチペンはあまり必要なく、手書きメモ用のペンと考えてもよさそうだ。
XMDFの場合、最大6段階の文字サイズ変更が可能だ。虫眼鏡マークのボタン(右から2番目)を押すことで、XS/S/M/L/XL/XXLの6段階から文字サイズを変更できる。購入したコンテンツの文字が小さすぎる、もしくは大きすぎるといった場合は調整できる。なお、PDFの場合は文字サイズの変更はできず、XMDFやEPUBなどで、サイズ変更を想定して制作したもののみが対象となる。
文字サイズ[XS] | 文字サイズ[M] | 文字サイズ[XL] |
オプション |
PDFでは文字サイズ変更はできないものの、ユニークな機能として「余白カット」を搭載している。PDFを表示した場合、多くの場合で縦横の余白が大きく余ってしまうのだが、この余白をしっかりカットして、文字がレイアウトされている部分だけをズームするような形で表示してくれる。
自分で書籍をばらして、スキャナで取り込んでPDF化するいわゆる「自炊」を行なっている人も、こうした余白の処理には頭を悩ましているそうだが、これを解消してくれる便利な機能だ。左右ページで余白の扱いが違う(左ページ上に章タイトル有)ため、Kindle利用時に次ページへの遷移時に文字サイズが変わってしまうことが気になっていたPDFファイルも、Readerではうまく余白がカットされ、文字サイズの変化が気にならずに表示されていた。
また、PDFでは文字サイズ変更機能は備えていないものの、ズーム機能を搭載。文字が小さく読みずらいファイルの場合は、この機能を使って拡大表示することが可能だ。
PDFでは、余白カットを選択できる | 標準 | 余白カット |
PDFではズーム機能も利用できる | ソフトウェアキーボードで文字検索できる |
英語を表示 |
また、表示の向きも縦、横の切り替えが可能。PDFのプレゼン資料など、横書きのファイルの場合、横位置に切り替えて表示できる。
メモや、ハイライトの機能も装備。本文で気になった箇所に手書きでメモをしたり、ハイライトで重要な箇所を指定すると、あとでその場所をすぐに呼び出せるというもの。後で読み返したい、確認した点などをメモしておくと、簡単に呼び出せるので、非常に便利。このあたりは電子書籍ならではの機能だ。
また、英和辞書(ジーニアス 英和辞書 第四版)や、英英辞書(New Oxford American Dictionary)などの辞書も搭載される。
縦/横表示を切り替え | 縦位置で表示 | 横位置に切り替え |
手書きメモを電子書籍に追記できる | ハイライトも指定できる | ノート一覧 |
手書きメモ |
■ 細かいところに気が利くハードウェア
日本市場向けの本格的な電子書籍端末として、PDFへの対応など、細かいところまで練られており、ハードウェアとしての質感、使い勝手、Kindleと比較した際の満足度は高い。
ただし、もっとも重要な点はコンテンツだ。やはり、Sony Reader Storeでどんなコンテンツを用意し、その価格がリーズナブルで、かつそれを永続的に楽しめるか、という点が最大のポイント。ソニーが大きなシェアを握れるかどうかも、この点にかかっているといえる。
その点では、今回試せていないが、Reader Storeのコンテンツ購入がWindows PCに限られるというのは残念。Mac対応はもちろんだが、Kindleが展開しているように、iOSやAndorid向けのリーダアプリの提供といった方向も期待したい。米国ではMac対応に加え、iOSなどのアプリ展開も12月にスタートするとのことで、ハードウェアの良さだけでなく、ネットワークやサービスを組み合わせた、「Readerならではの良さ」を追及していてほしい。
また、将来的には、KindleのようにPCで買ったコンテンツが、無線LANや3G経由で自動的に端末にダウンロードされている、というようなネットワークを活用したサービス展開にも期待したい。ともあれ、ようやく本格的な日本向け端末が登場したことは素直に喜びたい。通信キャリアやAmazon、Appleなどの多くの強豪の参入が予想される中、ソニーならではのハードの良さを生かした、新しい提案が続けてほしい。
(2010年 11月 25日)
[AV Watch編集部 臼田勤哉]