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6万円と13万円のAVアンプは何が違う? ヤマハの自信作「RX-A1040」の上位機っぷりを聴く
(2014/9/16 08:00)
AVアンプの多機能化が、低価格モデルにまで浸透している。例えば、ヤマハの7.1chアンプ「RX-V577」は、192kHz/24bitのWAV/FLAC、96kHz/24bitのApple Losslessなどが再生できるネットワークプレーヤー機能と、無線LAN機能を搭載しながら、価格は66,000円、実売では約43,000円程度(9月15日現在)と、かなりリーズナブルだ。
一方で、上のモデルを見てみると、「RX-V777」(88,000円)、ハイクラスなAVENTAGEシリーズの「RX-A840」(100,000円)、「RX-A1040」(130,000円)と、もちろん、より高価なモデルもラインナップされている。上位モデルには凄い機能が搭載されているイメージがあるが、低価格モデルも多機能化した昨今、実は代表的な機能を比べてみると、あまり違いがないという状態になっている。例えば、前述の「RX-V577」と、約2倍の価格となる「RX-A1040」で主な機能を並べてみると、以下の通り。違いは無くはないが、さほど大きなものではない。
モデル名 | RX-A1040 | RX-V577 |
価格 | 130,000円 | 66,000円 |
最大出力 | 170W×7ch(6Ω) | 135W×7ch(6Ω) |
無線LAN | ○ | ○ |
192kHz/24bit WAV/FLAC | ○ | ○ |
96kHz/24bit ALAC | ○ | ○ |
Virtual CINEMA FRONT | ○ | ○ |
自動音場補正 | ◎ (YPAO-R.S.C.) | ○ (YPAO) |
HDMI | 8入力/2出力 | 6入力/1出力 |
4Kパススルー | ◎ 4K/60p(4:2:0) ※4:4:4/4:2:2対応予定 | ○ 4K/60p(4:2:0) |
マルチルーム (ゾーン)機能 | Zone 2 | Zone B |
フロントプレゼンス スピーカー | リアル | バーチャル (VPS) |
低価格なアンプであっても、上位機種に負けない機能を備えているのは、ユーザーにとっては嬉しい事だ。ぶっちゃけ、機能だけを見ていると「RX-V577で十分なのでは?」という気すらしてくる。そもそも2倍価格が違う製品は何がどう違うのだろうか? 2倍違うと、音質はどのくらい違うのだろうか?
そこで、エントリークラスのAVアンプを購入候補としつつも、上位モデルもちょっと気になっているという人に向けて、“ぶっちゃけ何が違うのか?”を探ってみたい。
“サイズの違い”に大きな理由
上の写真、左側がA1040、右側がV577だ。見ての通り“サイズが違う”。A1040の方が一回り大きく、奥行きもある。数値で比べると、A1040が435×432×182mm(幅×奥行き×高さ)、V577が435×315×161mm(同)だ。重さも8.1kgと14.9kgで、A1040の方が重い。「高価なモデルは重くて大きい!」と喜びたいところだが、大きいアンプはスペースをとるのでむしろ小さい方が良いという人もいるだろう。気になるのは“なぜ大きく、重いのか?”という点だ。
当然ながら、筐体だけが無駄に大きくて中身がスカスカというわけではない。内部にはミッチリとパーツが詰まっている。簡単に言えば、搭載されているパーツのサイズが大きく、配置レイアウトなども違うため、上位モデルは大きくなっているのだ。それはなぜか、ヤマハミュージックジャパン AV流通営業本部企画室 広報の安井信二氏は「振動対策」をポイントとして挙げる。
前述のように、A1040はハイクラスのAVのアンプである「AVENTAGE」シリーズの1モデルだ。このA1040は、AVENTAGEの1000番台モデルとして初めて、筐体に「H型クロスフレーム」を採用している。下の写真はA1040の内部だが、左の側板から右の側板へと、橋をかけるようにフレームが1本伸びており、アルファベットの“H”のように見える。これが「H型クロスフレーム」だ。上位のモデルでずっと採用されてきたもので、今回、1000番台にも降りてきた形となる。「その効果もあり、A1040は、昨年のモデルと比べても音質の改善が著しい自信作」(安井氏)という。
安井氏(以下敬称略):シャーシで重要なのは制振対策です。ハイファイ系の製品ですと、振動を低減するため、シャーシを構成する鉄板の厚みを厚くしますが、AVアンプの場合はそう簡単にはいきません。AVアンプは機能が多く、大きな電源トランスやブロックケミコンも搭載しますから、サイズが大きくなりますし、機能も豊富なのでシャーシ自体にあまりお金はかけられません。また、シャーシを分厚くするという事は、銅や鉄をもっと使うという事ですから、当然コストが上がります。その際のコストの“上がり方”は、例えばコンデンサを1個取り替えるというレベルではありません。
しかし、シャーシが薄いと振動しやすくなります。そこでまず、シャーシのボトム側の振動を低減するために、底部に“5番目の脚”を装着しています。この脚は、電源トランスの微細な振動を抑制するアンチレゾナンステクノロジーの一環です。
そして、上部にはH型クロスフレームを設けることで、両側面に対する、天面のねじれ強度を強化しています。つまり、ボトム以外のシャーシの制振を、H型クロスフレームで低減しているわけです。
つまり、“5番目の脚”と“H型クロスフレーム”という2つの対策はセットになっているというわけだ。
さらに安井氏によれば、パーツのレイアウト、特に電源トランスの配置にも工夫があるという。見ると、A1040は左右チャンネルのパーツが対称に配置されており、中央に大きな電源トランスがある。ピュアオーディオの高級モデルで良く見る配置だ。
安井:電源トランスをなるべくセンターに配置しているのも、振動とねじれ対策の一環です。昔のAVアンプでは、左後ろに電源トランスを搭載したものが多く、持ち上げると左側が重かったりしましたが、トランスが片側に寄っていると、筐体の振動が多く、複雑になります。中央にトランスがあると、筐体の左右に、均等に振動が発生しますが、トータルとしての振動量は少なくなります。同時に、振動の質にも癖がないので“いなし”やすいんです。
上位モデルにはよりグレードの高いパーツが使われているのは確かだが、それだけではなく、そのパーツをどのような筐体に入れるのか、そして、どのように配置するのか? そうした細かいポイントにもこだわり、徹底する。そこにも上位モデルとエントリーモデルの違いがあるようだ。
ノイズ対策を徹底するか。ユーザーのステップアップに応えられる機能
大きな電源トランスから、各回路へと電源が供給されるわけだが、そこにも工夫がある。
安井:A1040ではオーディオ、映像、デジタル、FL表示(前面のディスプレイ表示)という4回路に対して、電源供給をそれぞれ分離して行なっています。前モデルのRX-A1030では映像とFL表示が独立しておらず、3回路になっていました。
実は、昨年までは逆転現象が起きていまして、低価格なVシリーズが先行して4回路分離型になっていました。これには、AVENTAGEシリーズに搭載されている「ピュアダイレクト」というモードが関係しています。
「ピュアダイレクト」ボタンを押すと、音の再生に必要な回路だけを残して、映像やFL管の表示などの回路は全部OFFになります。音楽再生以外の回路からノイズの影響を受けて、音質が低下するのを防ぐためです。
しかし、低価格なVシリーズには、この「ピュアダイレクト」モードが付いていません。ですから、FL管からのノイズの影響を避けるために、先に4回路分離型にしていたのです。
つまり“ピュアダイレクトモード”と“4回路分離型電源供給”を両方搭載したA1040は、ピュアダイレクトモードを“使っていない状態”でも、FL管からのノイズの影響が無くなり、音の純度が上がっているというわけだ。これは、ピュアダイレクトモードをON/OFFした際、その音質差が小さくなったと言い換える事もできる。
だがそもそも、FL管の有る/無しで、そんなに音質に影響があるのかと気になる人も多いだろう。
安井:聴感上のSNが違ってきます。数値に出るレベルではありませんが、聴き比べるとやはりハッキリわかります。これまでは評論家の方々からも、「ピュアダイレクトをONにすると確かに良いのだけれど、OFFにした時の音の差が大きい」と言われていました。今回のA1040では、そこを改善できました。
この効果は大きいです。例えば、部屋固有の初期反射音を計測し、その影響を制御する「YPAO-R.S.C.」という機能がA1040には搭載されています。しかし、ピュアダイレクトモードをONにすると、この回路もパスしてしまい、効果を活用できません。しかし、YPAO-R.S.C.を活用して、各スピーカーからの音をキチッと揃えて再生した方が、ピュアダイレクトを使うよりも結果的に良いという事もあります。
使い分けとしては、ピュアダイレクトモードは2chソースを、お気に入りのフロントスピーカーで、そのスピーカーのキャラクターを活かして楽しむ時に。マルチチャンネルのコンテンツを再生する時は、ピュアダイレクトをOFFにして、YPAO-R.S.C.を使って各チャンネルの音の繋がりを良くして、サラウンドの包み込まれる感覚を楽しむという使い分けがオススメですね。
ここまでのA1040とV577の違いは、機能比較表ではわからない、“アンプとしてのベーシックな能力の違い”とまとめられる。だが、2機種の細かな違いは機能面でも存在する。
安井:AVアンプは非常に多機能ですが、エントリーモデルの方は、色々な機能をなるべくお客様に負担をかけない形で、オートで提供しようというコンセプトです。V577にもYPAOは搭載されており、室内の音響を測定しますが、その測定結果をユーザーが後からいじる事はできません。
AVENTAGEになると、測定結果をGUIで表示しながら、ユーザーが補正部分をいじることができます。YPAOが何をしているのかを可視化し、そこをいじると音が変化する……目と耳の両方で確認していただく事も大切だと考えています。いじり過ぎてわからなくなったら、リセットを選べば測定時の状態に戻りますから大丈夫です。
エントリークラスのアンプで、こうした設定の調整まで開放してしまうと、どうしても難しくなってしまうのでオートでまとめるという方向になっています。
ユーザーとしては手軽に使えるに越したことはない。だが、ホームシアターやオーディオは趣味として楽しむためのものでもある。自分の部屋はどんな音響環境なのか、周波数特性のどこをいじると、どんな風に音が変化するのか? あともう少し音を好みに近づけたいのだけれどどうすれば良いのか? そうした細かな疑問や欲求に応えられる懐の深さを持っているのも上位モデルの特徴だ。ユーザーがステップアップすれば、それに応じて新しい楽しさを提供してくれるのも、上位モデルの役割だろう。
安井:ジッタ対策もA1040とV577では違いがあります。A1040はESSのDAC「ESS9006」を使っていますが、そのDACに搭載されているジッターリダクション機能を使っています。V577はTIバーブラウンのDACを使っており、DACの近くにクロックを置く事で、ジッタを低減しました。
また、“所有する満足度”に関係する部分ですが、フロントパネルがA1040はアルミですが、V577はプラスチック製です。今年のAVENTAGEはチタンカラーをメインとしていますが、チタンやシルバーカラーは、アルミでやらないとチープに見えてしまいますので。やはり手に入れた満足感も大切なポイントですから。
ピュアオーディオでも使えるAVアンプを。接続にもテクニックが
高価なモデルになると、AVアンプとしてホームシアターでBlu-rayの映画を観るためだけに使うのでは勿体無いと考えるのが人情だ。ネットワークプレーヤー機能もついているので、オーディオプレーヤーとしても活用できる。映画を観ていない時でも、普通の2chアンプとして活躍できるシーンは多いはずだ。
だが同時に、「AVアンプは映画の音を再生するもの」、「音楽はピュアオーディオのアンプじゃないと……」というイメージを持っている人も多いのではないだろうか。
安井:昔から“AVアンプを2chで使うのはいかがなものか”というかイメージはありますよね(笑)。それは我々メーカー側も理解しています。例えば、10万円の5ch AVアンプがあったとして、1chあたりの価格は2万円。それで2chなのだから、ステレオアンプとして使った場合は4万円のアンプ相当の音しか出ないよ……と、昔から言われ続けてきました。
我々としては、それをなんとか払拭していきたいと考え、先程お話した筐体やパーツ、4回路分離型電源など、いろいろな工夫をして、アンプとしての性能をアップさせてきました。
実際に、ユーザーさんのお宅にお邪魔しても、AVアンプとピュア用の2chアンプを両方使われている方は多いです。しかし、オーディオクリニックの一環として、シンプルな構成に組みなおして、改めてアンプを聴き比べていただくと、「2ch再生でもAVアンプで十分だ」と言っていただけるようになってきました。
実は、AVアンプで2chを再生するメリットもあります。それは電源がシッカリしていることです。AVアンプは9chや7chを駆動するだけの強力な電源部分を持っていますから、それを使って2chを再生した場合、電源レギュレーションの良さは、2chのプリメインアンプでは真似の出来ないところです。ある意味、凄くリッチな電源の使い方ができるわけです。
さらに、ピュアダイレクトモードで使っていただければ、実質的にはピュアオーディオ用アンプと同じ回路しか使っていないわけですから、音が悪いわけはありません。我々としては、既に2chアンプとの大きな音質差があるとは思っていません。あとはもう、出てくる音が好きか嫌いか、好みに合うかどうかで判断していただければと考えています。
また、接続にもコツがあります。AVアンプには様々な機器が接続できますが、後ろの配線がゴチャゴチャとあまりに錯綜していると、ケーブルが互いに発するノイズの干渉で音質が低下します。
端子が余っていると、いろいろ繋げたくなりますが、必要最低限の接続にして、余計なものは繋がないと、凄く音は良くなります。また、AVENTAGEでは電源ケーブルが脱着式ですので、別の電源ケーブルに交換して、音の変化を楽しむ事もできます。これもピュアオーディオ用アンプと同じですね。
RX-A1040とRX-V577を聴き比べる
RX-A1040のこだわりポイントはわかった。では、RX-V577と聴き比べて、どれほど違いがあるのだろうか。アンプとしての能力をシンプルに聴き比べるため、SACD/CDプレーヤーの「CD-S3000」とアナログで接続。女性ボーカル「シェルビィ・リン/Just a Little Lovin」を再生してみた。スピーカーはB&Wのノーチラス802Dだ。
V577の音は、66,000円のAVアンプと思えないほどシッカリしている。昔の安いAVアンプは、レンジが狭く、低域にも腰が無かったが、V577は腰高にならない安定感のあるサウンド。付帯音も感じられず、ワイドレンジで見通しも良好だ。音圧がもう少し欲しいが、適度なメリハリもあり、明瞭で元気なサウンドだ。組み合わせた機器が高級だというのもあるが、単体で聴いていて大きな不満は感じない。
A1040に繋ぎ変える。音が出た瞬間、何もかもが違う。どこが違うのかメモをとろうと身構えていたが、あまりに全部違うのでメモる気が無くなった。まず音場の広さだ。V577よりもA1040の方が横方向、奥行き方向どちらも広く、広い空間の中に、音像が定位し、立体的なステージが目の前に現れる。
V577は、広がる音場が終わる境目がわかる。「ここまでが音場」と、空間に線が引けるのだ。A1040はフワッと広がる音場と、音の無い空間の境目があやふやで、溶け込むように広がる。左右だけでなく、遥か奥まで広がっている。その空間で音楽が展開されるため、楽器や歌手が目の前の空間に現れたようなリアリティがV577よりもグッとアップする。音の粒も細かく、音が無い部分はキチンと無音で、SNの良さがよくわかる。
誰でもすぐにわかる違いだ。細部を聴き比べてどうこうというレベルではなく、まるで違うので、音が出た瞬間にわかるはずだ。低域の深さ、中域の吹き寄せる音圧のパワフルさもA1040の方が1枚、いや2枚は上手だ。ドッシリとしたサウンドは、電源まわりの違いが音に現れている証拠だろう。
デジタル接続で両者を聴き比べると、DACの違いも出てくるので、細かな部分の違いがよりわかりやすくなる。V577の音は線が細くなり、薄味なサウンドに変化。クリアではあるが、中低域に馬力がもう少し欲しい。A1040はアナログ接続時より微細な音が良く見え、ボーカルの口の開閉がいっそう生々しい。
注目すべきは、2機種の音の違いは、音量の大小とは関係ないという事だ。ボリュームを同じ状態で聴き比べても、A1040の方が空間が広く、深く、音の陰影や表情がより良くわかる。簡単に言えば、音楽がより“美味しく味わえる”。防音処理されたシアタールームで、高級アンプを大ボリュームで鳴らすと、「こんなに大きな音で再生しているから気持ち良いのであって、安いアンプでもボリュームを大きくすれば同じくらい気持ちよく聴けるのでは」と思いがちだ。
しかし、同じ音量でも2機種には表現力に大きな違いがある。V577も、ボリュームを上げれば迫力はアップするが、音の質がアップするわけではない。逆に言えば、上位モデルであれば、深夜などの大音量が出せない利用シーンでも、しっかりと音楽の美味しいところが味わえるという事だ。
組み合わせているプレーヤー「CD-S3000」は、非常にソリッドで、音の1つ1つがシャープなのが特徴だ。ちょっとシャープ過ぎて、音が破綻するのではとハラハラするくらいだが、高域がキツくなり過ぎはしない。ギリギリのラインを踏み越えずに再生していく。聴いているとゾクゾクしてくるプレーヤーなのだが、その特徴も、A1040ではとても良く伝わってくる。アンプとしての素の能力が高い証拠だろう。
マルチチャンネルソースは、大人気の「アナと雪の女王」Blu-rayから、チャプター9を再生。アナとクリストフが、氷の怪物・マシュマロウに追われるシーンだ。
すぐにわかる違いはセリフだ。A1040の方が音の立ち上がりが素早く、セリフが聴き取りやすく、お城に反響する声の響きもより広い。リアスピーカーから聞こえる、氷が軋む「ググッ」という小さな低い音も、A1040の方が良く聴きとれ、包囲感が増す。木に積もった雪が飛び散るバサーッという細かく柔らかい音も、A1040の方が“ほぐれ”が良い。こうした細かな積み重ねにより、A1040の方がサラウンドに力があり、画面の中に引き込まれる引力が強い。
最後に、A1040とV577の機能差の1つである、高さ方向の表現力も比較しよう。A1040は、リアルなスピーカーをフロントプレゼンス(前面上方)として駆動できるが、V577はそれを擬似的に再現したVPS(バーチャル・プレゼンス・スピーカー)機能が使えるものの、リアルなフロントプレゼンススピーカーは利用できない。つまり、リアルスピーカーとバーチャルスピーカーの聴き比べだ。
城の中の反響音など、上から来る音に注目しながらV577のVPS機能をONに。すると、上下の音場が拡大し、前方の音場に包み込まれる感覚がより確かなものになる。だが、リアルスピーカーのA1040に切り替えると、反響音が上まで広がる感覚がありながら、氷が軋む音などがシャープかつリアルに変化。フワッと包み込まれるだけでなく、そこに確かな音像が描写されているのがわかる。リアルにスピーカーが存在し、そこから音が出ているので当たり前ではあるが、VPSで描写される空間の、さらに一歩上を行くクオリティが確認できた。
目指す音の違い
安井:開発時に目指す音の違いもあります。エントリークラスのVシリーズは“わかりやすく”がコンセプトです。映画であれば、アクション映画の迫力や、セリフの明瞭さなど、メリハリがハッキリ出るような音にしてあります。組み合わせるスピーカーも、小型なものが多くなると思われますので、低音の量感をAVアンプ側で多少補ってあげるなどの工夫もしています。
一方で、AVENTAGEクラスになると基本的にはニュートラルがコンセプト。スピーカーのキャラクターや性能がそのまま出るようにしています。
そういった意味で、上位モデルはストレートで素直な音と言えます。演出を廃した音ですね。ただ、人によって好みが別れるかもしれません。お酒でも、一級酒よりも、多少雑味がある二級酒の方が好きだという人がいますが、あれと同じですね(笑)。
ヤマハでは楽器も手がけているので、もともとあまり強いキャラクターを持ったオーディオ製品は作らない、“ナチュラルサウンド”をテーマとしています。あるべき音が、あるべき姿で再現される事に重点を置いて、極端にある帯域を強調するようなチューニングはしていません。
ワイドレンジ、フラットを追求する中で、あとはどこまでニュアンスが表現できるかが重要です。ソースが持っている情報を、アンプでスポイルせずにどこまで出せるかが重要です。スペック的に言えば、とにかくSNを良くする、歪を減らす、この二点に尽きます。そのために、部品を選別し、シャーシまわりの制振対策など、基本的なところにコストをかけています。
新製品が登場すると、どうしても新たに追加された機能に目が行きがちだ。製品選びの際にも、上位機種と下位機種の機能差がまず気になるものだ。しかし、そうした比較表には現れにくい“アンプとしての基本的な能力”が、実は最も大切な部分でもある。今回は66,000円と130,000円という、やや値段に開きがある2機種を聴き比べたが、それゆえ、アンプの基本能力の違いが浮き彫りになったと感じる。
66,000円の「RX-V577」が、音が悪いと言っているわけではない。これ単体で聴く分には特に不満も無く、コストパフォーマンスに優れたモデルである事は間違いない。だが、一度RX-A1040クラスを聴いてしまうと、「2倍価格は違うけど、長く使う事を考えると奮発して上位モデルを買った方が良いかも……」と思ってしまう音質差は確かにある。もっとも、音質差と価格差をどうとらえるかは人によって異なるところではある。
個人的には、A1040は2chアンプとしても常用したいクオリティを実現していると感じた。高価なモデルではあるが、例えばAVアンプと2chアンプを別々に買おうと考えている人は、両方の用途で活躍できる高めのAVアンプを選ぶという考え方も有りだろう。2台を1台にまとめられる利点がある。
いずれにせよ、アンプとしてのベーシックな能力は、サラウンドのソフトでなくとも、お店に音楽CD一枚持参して行けば、おおよそ把握できる。多機能化が進む今だからこそ、AVアンプ購入時は“アンプの基本能力”のチェックも重視して欲しい。
(協力:ヤマハ)