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【ポタフェス、佐々木的気になる展示】コスト度外視AZLA「TRINITY」から、ドローンが聞こえるfinalヘッドセットまで
2025年7月14日 08:00
先週末はe☆イヤフォン主催の「ポタフェス 2025 夏 秋葉原」が開催され、ベルサール秋葉原に大変多くのヘッドフォン・イヤフォンマニアが集まった。たくさんの製品が展示されたが、その中から製品をいくつか少し深掘りしてみよう。
FitEar「Origin-1」が生まれた経緯
まず注目したのは地下の展示スペースに降りるなり、これまでのポタフェスには無かった黄色いブースが目に留まったことだ。
これは国産カスタムIEMの雄である「FitEar」が、Astell & Kernなどの代理店であるアユートと国内コンシューマ向け製品における販売代理店契約を締結したことによるものだ。
これまでプロ向け製品を主に展開してきたFitEarだが、今回の契約でコンシューマ向け製品の販路をアユートが担当し、一般販売がしやすくなった。
その第一弾として今回展示されていたのが「Origin-1」ヘッドフォンだ。端的にいうと、FitEarでは最近「Monitor-1」というプロ向けのモニターヘッドフォンを発表したが、そのコンシューマー版が「Origin-1」である。
もともとイヤーモニター(プロ用モニターイヤフォン)で知られていたFitEarがなぜモニター用ヘッドフォンを開発したかというと、以前からFitEarのイヤーモニターと整合性があるヘッドフォンが欲しいという現場からのリクエストがあったからだ。
例えば、FitEarの代表的なイヤーモニター「MH334」はミュージシャンのステージ用だが、レコーディングエンジニアがスタジオ標準のソニー「CD900ST」を使うと音の整合性が取りにくい。この課題を解決するため、「Monitor-1」は「MH334」の音に合わせた設計がなされた。
しかしスタジオ仕事でも、よりリスナーに近い仕事をするミキシングエンジニアは必ずしもそうではなく、レコーディングエンジニアよりもワイドレンジを好み、より解像度も欲しいという。このことはリスナーであるオーディオマニアとも共通するわけだ。
そこでミキシングエンジニアおよびコンシューマー向けに新たに開発されたのが「Origin-1」である。そして「Origin-1」はコンシューマー販路としてアユートが扱うことになり、今回のポタフェス初出展となるわけだ。
実際に聴いてみると「Origin-1」は新規開発のドライバーを搭載しているため、音が「Monitor-1」とは異なっている。「Origin-1」を試聴すると、低音の力強さと高音の伸びが際立ち、音空間に奥行きと立体感がある。モニター用途の正確さを保ちつつ、コンシューマ向けの躍動感も感じられた。
ポタフェス展示機の音は前週の「ヘッドフォン祭mini」で展示されたものよりも、自然で少し落ち着いた感じを受けたが、こちらが最終モデルとなるとのことだ。
意味がわからないほどコスト度外視のイヤフォン、AZLA「TRINITY」
もう一点注目したいのは、FitEarのすぐ隣のアユートのブースで展示されていたAZLA「TRINITY」(トリニティ)だ。これは希望小売価格が2,200円というエントリーモデルだが、元々は3万円近くで発売されていたイヤフォンのドライバーを改修して搭載、それに2,000円近くで販売されているSednaEarfitイヤーピースの新型が付属されているという、意味がわからないほどコスト度外視のイヤフォンだ。
これはAZLAというメーカーの戦略的な製品でもある。最近ではAZLAといえばイヤーピースとして知られているが、元々AZLAが2017年にデビューした時にはイヤフォンのメーカーであった。そこで再びAZLAの名をイヤフォン分野に知らしめたいというメーカーの意図があるようだ。
この2,000円から3,000円という国産大手のみが占めるような市場にあえて切り込んでいくためには、この市場で最高の音質を差別化ポイントとしたいというわけだ。
TRINITYに搭載されているドライバーである「ARDドライバー」は、もともと2018年にAZLA「HORIZON」に搭載された8mm径のドライバーをベースとしている。「ARDドライバー」は振動板が不均一に動く問題である「分割振動」を抑えるため、3層構造の振動板を採用している点が特徴だ。筐体もアルミニウム製の金属筐体を採用している。
また特にこの価格帯で意識されるイヤフォンの装着感にも配慮が行なわれている。ケーブルは耳にかけるマニアックな「シュア掛け」ではなく、ストレートに出す方式が採用されている。これは学生がよくやるような二人で同じイヤフォンを共有する用途にも向いている。またイヤーピースは傘部分を曲線形状にし、先端に向かって傘部が薄くなる独自のテーパードフィット構造を採用した専用開発の「SednaEarfit T」を標準添付している。
このように装着感、音質、価格の三位一体で設計されたことが「TRINITY」(三位一体)の名の由来であるということだ。
「TRINITY」の音質は試聴機を使用して静かな環境でも試してみたが、イヤフォンをAK SR35に接続して、その時にたまたま再生されていたハイエンドイヤフォンの試聴に使う曲であるnakamura haruko「音楽のある風景」をそのまましばらく聴き入ってしまったほど音が良い。この曲は静かな空間にピアノや弦楽器が複雑に絡み合うもので、普通はエントリークラスのイヤフォンの試聴には使わない類の音源だ。
このように良録音でも歪み感が少なく、音が整ってクリアで美しく音楽を楽しむことができる。中域の解像力が高いのでヴォーカルの表現が良く、声の艶やかさも感じとれる。
ロックを聴くとパワフルに楽しめるが、適度に音が整理されていて、エントリーイヤフォンによくあるようなガチャガチャと音が混ざってしまい五月蝿くなってしまうという点が少ない。
試聴はAstell & Kern「SR35」を使用したが、こうした高性能DAPでも十分使うことができるのでマニアのサブ機としても良いだろう。またゲーミングにやはり有線イヤフォンを使いたいという場合にも便利に使えそうだ。
ドローン戦術に対応したゲーミングヘッドセットfinal「VR3000 EX for Gaming」
最後に紹介するのは最新のドローン戦術に対応したというゲーミングヘッドセットfinal「VR3000 EX for Gaming」だ。
finalの「VR3000」は元々ゲーミング向け有線イヤフォンだったが、ワイヤレス版「VR3000 Wireless」を経て、今回ヘッドフォン版「VR3000 EX for Gaming」が登場した。
これはゲーミングで重要になる方向感覚は外耳に大きく左右されるので、外耳を覆えるヘッドフォンの方がゲーミングには向いているということによるものだという。ゲーミングでは低遅延が重要だが、ワイヤレスでも専用のドングルを使うことで25msまで短縮が可能だ。
「VR3000 EX for Gaming」の特徴は「3Dエクストラワイドサウンドステージ」という技術で、これまでの左右や奥行き方向だけではなく、縦方向の上下の空間にも対応した点だ。面白いのはこれが実際の戦場でも話題になっている最新のドローン戦術に対応するためだという点だ。
最近の戦場では低価格・高精度のカメラ内蔵ドローンが戦場の主役となり、一説によると戦場での損害の6割から7割もドローンによるものであり、従来的な砲撃やミサイルよりも多いという。当然その影響はFPVを中心としたゲーミングの世界にもおよび、多くのゲームがドローンを登場させて偵察や攻撃の任務についている。
ドローンはわずかな羽音で静かに忍び寄る点が脅威だが、当然その音を察知するのがゲーミングでも重要な要素となる。しかし上下方向の立体感知というのは左右方向よりも難しい分野と言われている。finalでは独自に行なってきた音の物理特性の研究から、ドローンのプロペラであればこうした特性を持つということから距離感を算出しているとのこと。この辺りは独自に研究開発に投資している会社であるfinalの面目躍如たるところだ。
このほかに「足音モード」という足音に特化したモードがあり、建物に入った時、あるいは階段の登り下りなどで効果が高いという。これはAIで足音のパターン認識をするというものではなく、足音の帯域を調整するというモードで副作用が少ないので常時オンにしていても良いそうだ。
実際に試して装着してみると、ずっしりと重く側圧が少し高めでぴったりと頭にはまり剛性感が高い。ゲーミング用というと安いプラスチック的なものを想起してしまうが、こうした剛性感や装着感の高さも長時間のゲーミングを快適に過ごすポイントのようだ。
デモ画面の映像と音声ではたしかに足音もリアルに聞き取れ、ドローンが斜め左上を飛んで近づいてくるという感覚が良くわかる。たしかにこれならゲーミングも捗るだろう。
音のfinalが本気で作ったゲーミングヘッドフォンだと感じた。