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樋口監督ら「シン・ゴジラ」制作陣も驚く高画質。4K有機EL“シン・レグザ”上陸
提供:東芝映像ソリューション株式会社
2017年3月22日 00:00
以前から映像表現力の高さにより、次世代のディスプレイデバイスとして注目されてきた「有機EL」。今年はいよいよ国内メーカーによる大画面有機ELテレビが登場した。優れた高画質技術を投入し、国内メーカーの先陣を切ったのが東芝だ。同社の薄型テレビのハイエンドモデルとなる、4K有機ELレグザ「X910」シリーズが、3月上旬から発売開始された。
X910シリーズは、65型「65X910」と、55型「55X910」の2モデルをラインナップする。高画質エンジンは「OLEDレグザエンジンBeauty PRO」。有機ELパネルに合わせて専用にチューニングされ、その性能をフルに引き出すために新開発されたものだ。高画質技術としても、高精細化された画像と元の画像を比較してエラーを補正する再構成型超解像を2回繰り返すことで精度を高めた「熟成超解像」、対象となる画素の周囲の絵柄の相関性に合わせてフィルターを適正化する「絵柄構造適応型MPEG-NR」、映画などの24フレーム、テレビ放送の60フレームなどに合わせて適切なフレームを参照する「アダプティブフレーム超解像」、肌の質感をよりリアルに再現する「美肌リアライザー」など、数々の最新技術を盛り込んでいる。
このほか、別売のUSB HDDの追加で地デジ6chの全録が可能になる「タイムシフトマシン」や4K放送の「スカパー!プレミアムサービス」チューナ内蔵、4Kを含む多彩な動画配信サービスへの対応など、テレビとして先進の機能性を備えている。
レグザ「X910」シリーズの実力をチェックするのは、「シン・ゴジラ」の監督・特技監督である樋口真嗣さん。第40回日本アカデミー賞で最優秀作品賞、最優秀監督賞など7冠に輝いた「シン・ゴジラ」のクリエイターは、4K有機ELレグザの画質をどう評価するのだろう? 東京・世田谷区の東宝スタジオ内にある株式会社ピクチャーエレメントに65X910を持ち込み、「シン・ゴジラ」の制作に関わったスタッフとともにその映像をチェックしてもらった。
「なんてものを見せてくれたんだ!」。65X910の表現力に驚がく
3月22日に発売される「シン・ゴジラ」のパッケージには、いくつかのバリエーションがある。特典ディスクと本編ディスクの2枚組となる通常版、プリヴィズ映像や未使用テイク集など、庵野秀明総監督が構成・編集した「スペシャル特典」Blu-rayTMが加わったBlu-rayTM特別版(3枚組)、そしてUltra HD Blu-rayTM版までも加えた4枚組の「シン・ゴジラ Blu-ray特別版 4K Ultra HD Blu-ray同梱4枚組」がある。
65X910で視聴したのは、もちろん4K Ultra HD Blu-rayTM版だ。視聴していただいたのは、樋口真嗣監督、そして「シン・ゴジラ」にも関わった株式会社ピクチャーエレメント代表取締役で、テクニカルプロデューサーの大屋哲男さん、同社取締役で、DIプロデューサー/カラーグレーダーの齋藤精二さん。
株式会社ピクチャーエレメントは、日本を代表するポストプロダクションスタジオのひとつ。映画のVFXやデジタル・インターミディエイト(DI)をはじめ、多くの映像作品に関わってきているが、シン・ゴジラでは大屋さんがVFXプロデューサーを、齋藤さんがカラーグレーダーを務めている。
さっそく、視聴用のスタジオで機器を準備して、部屋の照明を落とす。突然現れた映像に驚く面々。テレビの電源を入れても画面がまったく光らないので、電源オンかどうかがわからないのだ。はじめはデモ用映像を視聴してもらったが、暗闇に浮かぶ花火の映像などを見ても、「肉眼で見る空よりも黒いよね?」(樋口監督)などと、すでに映像のプロ目線でチェックしている。齋藤さんは深く締まった黒と鮮やかな色の再現に感心した様子。「吸い込まれるような黒ですね。それだけに花火の鮮やかな色と光がよく映えます。数値的な彩度以上に鮮やかな色に感じます。視野角の制限がないので、斜めから見ても色が抜けないのもいいですね」。
「シン・ゴジラ」もさっそく視聴してもらうことにした。まずはゴジラが鎌倉に上陸する場面。本作ではゴジラの姿がこれまでの作品と比べてもより深い黒となるが、その黒が一段と深い。それでいてゴツゴツとした体表のディテールもしっかりと出ているし、体表の奥が赤く染まった様子も生々しく再現される。
「やんなっちゃうね」と、樋口監督がぼそり。「僕らは作った作品は映画館で見てもらいたいし、映画館でこそ最高のものを見られると思っています。しかし、家庭用のテレビでこれだけの映像が映し出されると、映画館に行く意味がなくなってしまいます。これは…… 本当にすごい映像ですよ」
映画の作り手としてはやや複雑な心境のようだが、65X910の実力にはかなり驚かされたようだ。
65X910にはもっとも明るい画面の「あざやか」や映画のための「映画プロ」、モニターライクな使い方に合う「ディレクター」、「モニター/PC」など様々な映像モードが用意されている。樋口監督らが気にした120Hz表示でよく使われる動画補間技術については、「映画プロ」、「ディレクター」、「モニター/PC」では使われていない。「映画プロ」に関しては東芝の高画質技術が使われているものの、その味付けは非常に少なく、忠実度の高い再現を追求している。「ディレクター」や「モニター/PC」は基本的に高画質技術などはほとんどオフという設定(手動でオンとすることも可能)。
いくつかモードを変更しながらも、最終的には「映画プロ」を選択。もともとピクチャーエレメントでは、民生用テレビでの画質チェックのために東芝のレグザ「Z20X」を使っていて、「映画プロ」の画作りもよくわかっているようだ。
「本作はゴジラもすべてCGですが、CGであることがわからないように作り込んでいます。Blu-rayTMもUltra HD Blu-rayTMもそれは同じですし、スタジオの東芝のZ20Xでも画質チェックしたのですが、65X910ではCGであることが場面によってはわかってしまいました。なんてものを見せてくれたんだ! という感じです」(樋口監督)
テクスチャーが精密に表現されるのはテレビとしては優秀な証(あかし)なのだが、作り手からすると、精密すぎても困ることもあるようだ。こういうテレビが増えると、映画作りのハードルがさらに上がる、とぼやきにも似た声も上がっていた。
続いては、放射能火炎で首都が炎上する真夜中の場面。Ultra HD Blu-rayTM版のHDRグレーディング(HDRのための色や階調の調整などを行なう作業)にも関わった齋藤さんは、「この夜の場面はHDRの高輝度再現を意識して調整しました」とのこと。
真夜中なのでかなり暗いシーンだが、夜の空とビルのシルエットがしっかりと描き分けられ、そこに真っ黒いゴジラのシルエットが鮮やかに浮かび上がる。65X910の暗部の再現力には誰もが驚くはずだ。
「夜のビル街の再現度がすごいですね。テロップでも出ますが、新橋や虎ノ門、霞ヶ関、永田町といった街がきちんと映っています」(齋藤さん)
「この夜のシーンにはしびれましたね。黒の奥の黒が見える感じ。夜の暗い感じを完全に出すのは限界があると思っていたのですが……。暗部が深く沈むことで、ゴジラの放射能火炎や燃え上がる爆炎の明るさが映えます。コントラストの幅が恐ろしく広いです」(樋口監督)
「ここまで黒の締まった映像を見たことはあまりありません。そこまで暗いのに、見せたいものはきちんと見えています。見せようとして画面全体を明るくするとフェイクに近いものになってしまいますから、ここが難しいところでHDRのスペックを使い切って質感が伝わるように工夫しました。それが期待した以上に再現できていましたね」(齋藤さん)
映画館と同じように部屋を暗くして鑑賞できることも家庭用テレビとしては、画期的だと言ったのは、大屋哲男さん。
「部屋を暗くするというのは映像以外のものが目に入らず、集中して視聴できるということです。一般的な薄型テレビは明るい部屋だと暗いシーンで映り込みが生じて映像の邪魔になります。かといって真っ暗にすると黒が浮いてしまう。決して潰れることもなく。微妙な黒の階調もきっちり再現できている。このあたりが完全に解決されたというのは素晴らしいですよ」(大屋さん)
なお、部屋を暗くして、画面以外の何も目に付かないようにする工夫としては、65X910では電源オンを示すインジケーターさえも消灯する設定が用意されている。
映画らしいリアリティを引き出す「ハイクリア」
今度はクライマックスのヤシオリ作戦から終幕までを視聴してもらった。明るいシーンではゴジラの質感もよく出ていて、映像が引き締まった印象になることもあってより迫力あるシーンになっていた。しかし、作り手の目線からすると、いろいろと気になる部分もあるようだ。
「撮影では、いろいろな種類のカメラをシーンに応じて使い分けています。そうしたカメラのクオリティの差があからさまに出ないようにはしていますが、想定以上にカメラによる映像の違いがわかってしまいますね」(樋口監督)
「解像度の高いカメラで撮っている実写シーンの良さが出ています。CG主体のシーンが悪目立ちすることもなく、思ったよりも良くなっていました」(齋藤さん)
ここで、65X910で新たに採用した倍速モード「ハイクリア」を体験してもらった。これは、通常ならば24コマをそれぞれ5回表示して合計120コマで表示するところを、1コマおきに黒に近い映像を挿入することで、動画ボケを改善する技術。この挿入によって映像はやや暗くなるのだが、暗室での視聴ではまったく気にならなかったようだ。
「黒挿入はフィルム映画の上映の仕組みに近いですし、こちらの方が見慣れた印象に近づきますね」(樋口監督)
「ビデオカメラの世界では秒60コマなどのコマ数を増やすことで、現実の質感により近づけていく傾向がありますが、映画は依然として24コマ撮影が主流です。コマ数が増えれば映像は滑らかになりますが、ニュースやスポーツ中継のような質感になってしまいがちです。映画では“虚構の世界を描き、その世界感に浸ってもらいたい”ので、現実の質感に対するリアリティとは異なります。そういう意味では、映画に対してはハイクリアがバランスがいいと思います」(齋藤さん)
「特にカメラが動くカットで、映像がもやっとする感じがなくなりました。全体に映像がさえた感じになりますね」(大屋さん)
応答速度が速い有機ELでは、液晶のような動画ボケは生じないと言われてきた。しかし、レグザ開発チームが実際に有機ELテレビを手掛けてみると、やはり液晶と同じような「映像のホールドぼけ」に気づいたという。“映画らしさ”を求めて搭載された「ハイクリア」もX910シリーズの強みといえるだろう。
ちなみに、監督らの希望で一般的な家庭環境に近い照明をつけた状態でも視聴してみたが、黒の深さがしっかりと保たれており、十分に見応えのある映像だったようだ。
「画面周囲の枠(ベゼル)が細い、というかほとんどないのがいいですね。画面だけが浮いているような感じです」(大屋さん)
そして、視聴が終了すると樋口監督が一言「欲しい」。これは皆が同感のようだ。そして、齋藤さんはマスタリングでこだわった点がしっかりと出ていることに感心することしきり。
「マスタリングエンジニアの腕の差が出るテレビですね。昔は映画の方が情報量が多く、パッケージ化ではそれをいかにカスタマイズして同じ印象にするかが問われました。Ultra HD Blu-rayTMとなるとほぼそのままの収録ができます。こうなると劇場の忠実な再現だけでなく、Ultra HD Blu-rayTMならではのアプローチの幅を活用することもできます。そこは作り手の考え方がよく表れるでしょう」(齋藤さん)
「パッケージソフトの品質もよりハイレベルになりますね。Blu-rayTM/DVDはBT.709などの規格の限界もあって、パッケージ化では妥協する部分もありましたが、Ultra HD Blu-rayTMはBT.2020となってDCI P3もそのまま収録できます。妥協なし、手抜きなしでパッケージ化ができるというのは良いことです」(樋口監督)
ちなみに65X910はBT.2020の色域に対応するだけでなく、DCI P3の色域はほぼ100%のカバー率を実現している。映画で収録された映像をほぼそのままに再現できる実力があると考えていい。
「映画館に行かない人でも映画のクオリティをそのまま味わえる。映画館で見るだけでなく、パッケージでその後も家で何度でも見たいという人もいますから、これは素晴らしいことだと思います」(大屋さん)
最高レベルの6Kカメラでとらえた吹雪の雪の質感に驚く
「シン・ゴジラ以外の作品も見たい」との樋口監督の要望で「レヴェナント:蘇りし者」のUltra HD Blu-rayTM版も視聴した。この作品は、ドイツの撮影機材メーカーの老舗ARRIの「ALEXA(アレクサ) 65」で撮影されている。このカメラは画質の良さで最近のハリウッド作品で続々と使われていることで注目されている。しかも「レヴェナント」は、アメリカの大自然を可能な限り自然光で撮影しており、そのなまなましい映像は高く評価されている。
冒頭の原住民の襲撃の場面のほか、お気に入りのシーンをいくつか視聴してもらったが、その精密な再現にくぎ付けになっていた。シネスコ画面でありがちな画面の上下の黒帯がまったく光らず、映像だけに集中できる良さ、HDRの高輝度ということもあって映画館とは印象の違う見え方になることなど、さまざまな感想が次々に飛び出した。
「吹雪で画面が真っ白になってしまう場面はしびれますね。それでも雪の質感がしっかりと出ている。映画でも“この感じにしてください”と言いたくなりますが、これはスクリーン上映では無理ですね。そして、眉やひげが凍っていたり、凍傷でダメージを受けた肌の感じもゾクッっとするほどリアルです」(樋口監督)。
「HDRのグレーディングをすごく丁寧にしていることがわかります。機械任せではなく、時間をかけてしっかりとやっていますね。夜のたき火のシーンは周囲の暗さとたき火の明るさの階調のバランスが絶妙で、暗く沈んだ空の雲の様子まで再現できています」(齋藤さん)
「試写で使える」。「リファレンスになる」。65X910の映像表現力はまさしく現場でも使えるレベルにあると言えそうだ。
「映画制作の現場で使うマスターモニターには、これだけのサイズはありませんし、民生用モニターとしてチェックするにも65X910でより正しい評価ができるようになると思います」(樋口監督)
「クリエイターが制作時に見ているものに限りなく近いと言っていいと思います。映画に限って言えば、「映画プロ」や「D65」モードでご鑑賞頂ければ安心です。僕らと一般の視聴者の方が画質について話すときの共通言語になります」(齋藤さん)
視聴機材や環境が違っていては、映画の画質評価について話し合うのは難しい。それを65X910は可能にしてしまった。部屋を全暗にして映画プロで視聴する。これで制作者がOKを出した映像を自宅でもそのまま体験できる。オーディオ・ビジュアルを趣味とする人にとっては夢の実現と言っていいはずだ。
「この画質はすごすぎる」。レグザはこだわりを家庭にそのまま届ける
締めくくりとして、65X910の印象について樋口監督に語ってもらった。
「すごすぎる。もっといろいろな作品を見たいですね」(樋口監督)
また、映像にここまでの実力があるならば、いろいろと面白いことも期待できそうだという。
「例えば、動画補間機能はコンテンツとして要/不要がありますから、作品ごとに映像調整の機能をセットアップできるといいですね。それこそ、画質調整のためのパラメーター情報を保持しておいて、再生時にそれが自動で反映されるとか」(樋口監督)
また、樋口監督によれば、現在のパッケージソフトは字幕が気に入らないとか。字幕のフォントや大きさ、輝度も作品ごとに変えられるようにしたいそうだ。作り手側が指定するのもいいだろうし、ユーザーが好みに応じて調整できるのも面白いだろう。字幕も含めて作品である「シン・ゴジラ」だけに、こうした点にまでこだわりたくなるのは、ファンである視聴者も同じだろう。
そして、話はUltra HD Blu-rayTMの今後にも広がった。
「制作から4K以上の解像度を持った作品はUltra HD Blu-rayTMで視聴すると違いますね。最新の映画も楽しみですが、フィルム作品の4K化も楽しみです。ロードショー上映時のフィルム映写の質感が再現できると思います」(樋口監督)
では、Ultra HD Blu-rayTM版の「シン・ゴジラ」はどうだろうか。作り手のこだわりや苦労も含めてすべての情報が入っているだろうか?
「Ultra HD Blu-rayTMは今できることをすべてやりきりました。マスターデータに入っている情報がそのまま入っています。これができたことは作り手として安心しています」(樋口監督)
制作者の環境そのままの映像を視聴する機会はあまりないはず。だが、樋口監督お墨付きの東芝65X910があれば、まさに監督と同じものを見ていると言っていい。これは大きな価値があると思う。
作品のファンならば監督のインタビューやメイキングのレポートなども作品の理解を深める重要なアイテムとなるが、監督たち制作者と同じ映像体験ができる、ということが、何よりも重要なのには間違いないだろう。65X910で「シン・ゴジラ」を見終えた後は、その真意に少し迫れたような気がしてくる。作品に没入するだけでなく、作り手の気持ちに近づくことができるというのがうれしい。映画ファンで、大好きな映画があるならば、こんなテレビで見たくなるはず。4K有機ELレグザ「65X910」は、テレビとして、もちろん高機能だが、それを超えて映画を鑑賞するために欠かせないマスター画質を実現したテレビだ。
劇場の映画の情報がすべて詰まったUltra HD Blu-rayTM版「シン・ゴジラ」を、ありのままに体験できるテレビ。「65X910」のことを、ここではあえて「シン・レグザ」と呼んでしまおう。
(提供:東芝映像ソリューション株式会社)
※4K有機ELレグザの画素数は3840×2160です。
※Blu-ray DiscTM(ブルーレイディスク)、Blu-rayTM(ブルーレイ)、Ultra HD Blu-rayTMは、Blu-ray Disc Associationの商標です。
※その他の記載されている社名・商品名・サービス名などは、それぞれ各社が商標として使用している場合があります。