VIERA Station 4Kビエラは、プラズマを超えた

ビエラ AX900は、液晶画質新時代の扉を開いた

パナソニックはここ数年、年の前半にミドルクラスのテレビを投入し、後半にハイエンドモデルを用意するというサイクルを繰り返している。画質至上主義で評価するならば、前半に投入されたモデルを評価して進化の方向を見定めつつ、後半投入の本命がどうなるかを予想しながら発表を待つのがいい。こうしたノウハウは、ちょっとしたAVファンなら心得ているのではないだろうか。

ところが、高付加価値モデルの脇を固めるための春モデル、ビエラ AX800の出来がちょっと驚くほど良い画質を備えていたので、このまま(当時海外で噂されていた上位モデルの)AX900が登場したらどうなっちゃうの?と期待したのは言うまでもない。

実は1月のCESにおいて、モデル名は発表していなかったものの、最新技術による液晶テレビの高画質化を見せるデモを行っていた。AX800とは明らかに異なり明暗のダイナミックレンジが広く、局所ごとのコントラストが高い映像は、もしやAX800の上位に来る製品の試作モデルではないかともっぱらの評判だったからだ。

パナソニックは液晶テレビとプラズマテレビの両方に取り組んできたが、大画面の高画質プレミアムモデルには、長い間、プラズマテレビが君臨してきた。とりわけ映画の画質にこだわっていたパナソニックは、暗部の階調や色の再現にこだわる絵作りを進めてきた。

もはや日本では販売されていないプラズマテレビだが、現在でもファンが多い理由のひとつには、暗めの輝度領域での表示正確性にある。そのことをよく知っていたパナソニックは、プラズマのような暗部階調、色再現を液晶でもできないか?そう考えて生まれたのが、AX800に使われたヘキサクロマドライブだった。

なんだ、パナソニックは液晶でもここまでの高画質を引き出せるんじゃないかと驚かせたAX800だが、実はこの技術が基礎となっているからこそ、さらに上位モデルであるAX900の高画質が実現されている。

IPSでも積極的に動くLEDを直下配置し多分割でのローカルディミング制御に垣間見る独自性

ヘキサクロマドライブの考え方は、液晶の暗部色再現を改善するために、プラズマディスプレイパネルで培った「ハリウッドカラーリマスター」(広色域技術)を応用展開し、活用しようというものだ。

液晶パネルのバックライトは全体が光っている(画素毎に変化しない)ため、黒を表示している時にも光り続け、液晶シャッターから漏れた光が見える。これが黒浮きと言われるものだが、ポイントは“ほんの少しだが常に一定割合の光が漏れている”ことだ。

すなわち、明るい色を出しているとき、この漏れ光は僅かな割合でしかなく、視認できるほどの画質劣化は引き起こさない。ところが暗い色になるほど、本来表現すべき光の量と漏れ光の量とが近くなっていく。すなわち、暗部になるほど彩度が落ちていくということ。しかも漏れ光は必ずしも無彩色ではなく、色相表現まで変化させてしまう。

そこでパナソニックは、明るい色を表現する際には素材(放送やブルーレイソフト)に収録されている色を正確に再現し、暗部の色を表現する際には、液晶パネルの特性によって色が抜けてカラーバランスまで変化している部分を補正した。だから、そうした弱点のないプラズマのような、抜けの良い暗部の表現力を得たのである。

そのために6軸をベースに3Dカラー変換をしているのだが、実は言葉で書けるほど簡単なことではない。暗部はちょっとした誤差でも不自然な階調が出てしまう。大きな補正をかけるには、詳細な変換テーブルと高精度な演算が必要だ。パナソニックが一歩前に進んでいる理由は、こうした絵作りの基本性能を高める“仕掛け”をあらかじめ仕込んでいたからだ。

これだけでも映画画質が良くなったと感心していたが、AX900では小さなマス目ごとにバックライト輝度を調整する直下型バックライト+ローカルディミングを、パナソニックの4Kテレビとして初めて持ち込んだ。そのAX900を観て直感的に感じたのが、直下型ローカルディミング制御と、ヘキサクロマドライブの好相性だ。

パナソニックは広視野角でテレビの正面にいなくとも色味が変化しないIPS方式の液晶パネルを主力に展開している。85インチモデルのみVA方式だが、それ意外のサイズはすべてIPSだ。しかし、ご存知の方も多いだろうが、VA方式とIPS方式では前者の方が圧倒的にコントラストは高い。言い換えれば、IPS方式は上記の“漏れ光”が多い。漏れ光が多いと、ローカルディミングでバックライト輝度が細かく領域ごとに変化している様子を感じてしまいやすくなる。

さらに漏れ光が多いと暗部表現で色が変化する度合いが大きくなるので、バックライトを絞った際に画素の明るさを変える際に問題が起きる。バックライトを絞れば漏れ光が減り、色再現性は高まるが、そのままではバックライトが明るい場合と色が変わってしまう。つまり、ローカルディミングの動作に応じてフワフワと色が変わってしまう。

このような事情もあって、IPSパネルを採用したテレビは、細かなローカルディミングが可能な仕組みになっていても、あまり大きくバックライト輝度を動かさない。動かしすぎると挙動がおかしく見えてしまいやすいからだ。

しかし、AX900は積極的にバックライト輝度を動かしているにも関わらず、ライバルを超える動きを実現している。しかも、IPS/VAに関わらずローカルディミングを採用する液晶テレビでありがちな、黒い背景に明るい文字が映ると文字の周りが明るく照らされたようになる「ハロ(Halo)」も目立ちにくくなっている。

こうした背景には、ヘキサクロマドライブの存在がありそうだ。

バックライト制御の正確さも効果的に

ローカルディミング制御を行うと、液晶が不得手な低輝度領域をあまり使わなくて済むようになるため、ヘキサクロマドライブがなくても十分に高い色再現性が出せると思うかもしれないが、画面上では様々なバックライト輝度と異なる画素の組み合わせが並ぶ。

結局のところ、明部から暗部まで幅広く素直な階調を出せていることが、細かく分割されたローカルディミングの良さをさらに高めている。が、工夫はこれだけではない。

“バックライトをどのぐらいの明るさにするか”を決定するために参照する映像範囲を大きく取っている。具体的には領域数で5×5のマス目を参照しながら中心部の明るさを決定する。その結果、適切なバックライト輝度が選ばれ、不自然さをなくしているのだ。

その効果はシネマプロモードで映画を見れば一目瞭然だ。いや、映画でなくとも、こだわった作りのアニメでも良い。丁寧に色を選び、細かく書き込まれた背景画やキャラクターの衣装テクスチャなどが、力強いコントラストと豊かな色乗りで描かれる。

“色が乗る”といっても、派手になるという意味ではない。白っぽくならず、深みのある色が暗部までしっかりと出て、コクのある発色をするのだ。もちろん、淡白な色再現のシーンまで濃くなってしまっては興ざめだが、もちろんそんなことはない。描き分け……すなわち、ディスプレイ自身が語りかけてくる質感表現の範囲が広がる……ボキャブラリ豊富な描き分けが行われる。

そこに積極的に、しかし業界随一の自然さでバックライトを動かし、絶対的なコントラスト感まで引き出している。AX800も暗部の色再現性が高かったが、AX900を一度観てしまうと、豊かな階調性を伴いつつも圧倒的な迫力で見せるコントラストと色が忘れられなくなる。

それはパナソニックが言うように、プラズマの美点を液晶で……という結果を生み出しているのかと言えば、実は部分的には超えていると言って差し支えない程度まで完成度を高めつつある。当然ながら液晶には誤差拡散表現によるノイズは見えない。

正直言って、IPSでここまでの映画画質を引き出せるとは想像していなかった。視野角はリビングテレビにとって重要なファクターだが、そこをきちんと広げながら高画質を引き出している点は、素直に評価したい。しかもパナソニックは視野角を改善するシートを用いることで、斜め上からの視野角も広げている(IPS方式は上下左右の視野角は広いが、斜めは少し弱くなる)。

ここまでIPS方式でコントラスト感を引き出してくれるならば、その視野角は大きな武器となる。もうソファーの右と左で、人肌が違う色に見えるなんてことを気にする必要はなくなる。

テレビはもちろん、映画作品などでも効果的な高輝度表現

こうした良さを引き出せるだろうとは、あらかじめの発表や説明で予想していたが、良い意味で期待を裏切られたのが、暗部ではなく明部の表現力を高める「ダイナミックレンジリマスター」である。

昨今、液晶パネルの高輝度化に伴い、ハイライト(=輝き部)の明るさを、本来の明るさ表現に近づける広ダイナミックレンジ化技術をいくつかのメーカーが盛り込んでいる。パナソニックもAX900ではこの機能を盛り込んだが、単にキラリと輝く部分をそのまま明るくするのではなく、色彩まで“復元”する。

映像収録時、“ハイライト”部分はすべての原色の明るさが最高値になってしまう。コレはすなわち“白”を意味しているが、実際に肉眼で見える映像は違う。たとえば沈み際の夕陽。映像上は白になるものの、実際には“明るいオレンジ”にほかならない。

パナソニックは周辺の色階調の変化から、各原色ごと独立した明るさ復元を行うことで、本来あるはずの色彩を表現する。もっともわかりやすいのは花火で、火花のひとつひとつが適切な彩度を伴って描かれる。これこそ花火と思える絵に復元できる。

この機能はシネマプロでは働かないよう設定されているが、適度な明るさで見る際に適したシネマモードでは動作する。かつて経験したことがないような豊かな(単に濃いという意味ではなく、表現の幅が広いという意味での豊かさ)は、シネマプロの正確な色再現とはまた別に良さを感じさせる部分である。

モード切り替えなしで多様な映像に対応する超解像

超解像技術がテレビに応用されるようになって久しいが、それぞれの方式が異なる以上に“効き具合”がメーカーによって違う。技術差や作り手の考え方の差もあるが、一番の違いは“どんな映像をキレイに見せようとしているか”だ。

たとえば、70mmクラスの大きなフィルムで撮影された8Kスキャンの作品や、もとより高性能な4Kシネマカメラで撮影された作品は、フルHD映像データの中に驚くほど多くのテクスチャ情報が含まれている。これを積極的に引き出すのが超解像の目的だ。

ところが、映像ソースによっては、そこまでの情報がそもそも映像作品の中に含まれていない場合もある。この場合は、より高画質な映像作品を超解像するのとは別の調整が必要となる。高精細な作品に合わせて開発していると、カジュアルな作品やテレビ放送の絵が眠くなってしまうからだ。

これまでの製品は、おおよそその時代に観られている、作られている作品を程よく高画質に楽しめるよう中庸な設定がされていた。それに加え、これは本来、もっと高画質なんですよという作品の場合、利用者が手動で“高解像度”や“4K”といった設定に変更しなければならなかった。

しかし、よほど詳しい人に対してでなければ、その切替の意味も周知できない。そこでパナソニックは、4KファインリマスターエンジンPROに原画解像度の判別機能を加えた。映像ソースが放送なのか、ネット動画なのか、あるいはブルーレイかカメラの静止画なのか。そして、収録元の映像は標準画質(SD)なのか、ハイビジョンなのか、それとも4Kと思われるのか。

これらを判別する機能を備え、それぞれに適した映像処理データベースを参照。手動で切り替えなくとも(自分で切り替えることも可能)自動的に適切な処理が施される。この効果は絶大で、いちいち“この映像はもともと4Kだったはずだ”などと考えてオプションを選ぶ必要がないレベルまで作りこまれている。

今後、4K放送/ネット配信、次世代ブルーレイなどが始まれば、さらに映像の種類は増えていく。筆者が見たところ、自動切り替えでも振る舞いに不安定なところはなく、安心して原画解像度の自動判別を選ぶだけで適切な結果が得られるだろう。

液晶画質新時代。その扉を開いたAX900

テレビ業界全体が4Kテレビへと向かうトレンドの中で、一時は存在が危ぶまれていたプレミアムクラスの液晶テレビが復活し始めた今年。すでにかつての“地デジバブル”時を超える贅沢な機能を持つテレビも登場している。その中で、これまでにない工夫、切り口で高画質化へと力強い一歩を踏み出したのがAX900だ。

“液晶とはこういうもの”と諦めていた暗部の色再現にメスを入れ、ローカルディミング制御の精度を上げ、よりダイナミックなレンジ拡大を実現。さらには原画自動判別による超解像で、“適切な設定は何か”を意識することなく良い映像を楽しめるようになった。

“液晶としての性能・画質を上げる”だけでなく、“液晶が不得手な部分をきちんと塞ぐ”という方向に進化できたのは、パナソニックがプラズマ方式を中心にテレビを開発していたが故に、異なる視点を持てたからだろう。

液晶テレビが画質面で次のステップへと踏み込む、その端緒となる提案がAX900には多数含まれている。今後の取材により、それらが明らかになっていくと思うが、まずはその高画質を確かめて欲しい。もし周囲を暗くして鑑賞できる環境があるなら、シネマプロでのマスターモニターに近い映像を確認して欲しい。

今までの液晶、今までのIPS方式との違いを体験できるはずだ。

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