VIERA Station 4Kビエラは、プラズマを超えた

西川善司のパナソニック4K対応ビエラマニア【後編】

4K対応ビエラ第一号の「TH-L65WT600」、そしてその後継モデルとして登場した「AX800」シリーズ。

このあと投入された2014年の秋冬モデルの4K対応ビエラが「AX900」シリーズになるわけだが、前回、AX900シリーズはAX800シリーズの後継ではなく、上位モデルであるということを触れた。

今回は、このAX900シリーズの「上位モデルたる高画質性能」の部分にスポットをあてていきたいと思う。

「ヘキサクロマドライブ」と「三次元カラーマネージメント回路」は何がどう凄いのか?

パナソニックは、AX800シリーズ発表時に「ヘキサクロマドライブ」と呼ばれる色再現性システムを投入。

これは広色域な液晶パネル(ハードウェア)と高画質化エンジン(ソフトウェア)が相互連携して高純度な色表現を織りなす仕組みのことだ。

液晶テレビの画質は、バックライトの輝度を上げればそれなりに明るくできるし、その輝度性能を活かして比較的「彩度高め」の映像に仕上げれば「パッと見」には色鮮やかな見映えにはできる。ただ、明暗差の激しいシーンや、微妙な色合いの変化で描き出されているディテール表現は、そうした画作りでは途端に破綻する。合成調味料で濃い口の味付けがなされた料理は一口目はいいが、食材の旨味が感じられずすぐに飽きが来てしまうこととよく似ている。

パナソニックのヘキサクロマドライブでは、あらゆる明度の色に対しても正確にその色が再現できるようにリアルタイム制御するものになる。料理で言えば、食材ごとに、その旨味を引き出す調理法を適宜行う…といったところか。

液晶パネルにおける各ピクセルの発色傾向は、非線形特性になっており、映像中の色データと実際の液晶パネルを駆動して発色される色とが単純な足し算や掛け算の組み合わせでは対応できない。概念的な例え話にはなるが、例えば映像中に赤=120と赤=12というピクセルがあったとして、赤=12のピクセルを赤=120のピクセルの10分の1の液晶開口率で光らせればいいかというとそんな単純なものではない。

特に、この非線形特性は、暗色になればなるほど強まり、何の調整もしないと、ひどいときにはおかしな偽色が発生したりする。例えば、肌色を表示したとして、映像データ的にはこれをどんどん暗く表示させるだけなのに、実際に液晶パネルに表示される色は暗くなるにつれて「暗い肌色」にはならず、緑色に寄っていったりするのだ。

よく色再現性の指標を表す図解でRGB(赤緑青)を3点に配置した扇形分布図を提示されることがある。この扇形に「これがうちのテレビが表現できる色です」という意味で三角形が描かれていたりするが、実際のディスプレイ製品では暗い色や明るい色も出さなければならないので、この扇形の図は一部を切り出して見せているに過ぎない。実際には、この扇形の分布図が、暗い色から明るい色まで立体的に積み重なっているような概念を、ディスプレイ装置で処理して色を出さなければならないのだ。

ヘキサクロマドライブでは、まさに、この扇形を積み重ねた立体物の各所に応じて適切な色になるような色補正処理を行うのだ。この補正処理を担当するのは「三次元カラーマネージメント回路」という名称の機能ブロックで、名称中の「三次元」というのは、まさに、その「立体的な扇形」を想定した色補正を行うからである。

ところで、「ヘキサ」とは「6」のことで「ヘキサクロマドライブ」とは意訳すると「6軸カラー補正」ということになるのだが、実際のヘキサクロマドライブでは「6軸」どころではない、8千以上の「データ上のピクセル色→液晶パネル上の実際の画素駆動値」の変換データエントリで構成されている。実際の能力値よりも小さい値の名前にするとはパナソニックのなんとも奥ゆかしいことよ。さすがは日本のメーカーと言ったところか(笑)。

と、まぁ、冗談はさておき、このヘキサクロマドライブの効果もあって、AX900シリーズはDCI(デジタル・シネマ・イニシアチブ)が規定するDCI色空間のカバー率98%を実現している。

DCI色空間カバー率98%は、事実上、日本市場向け、パナソニック最後のプラズマテレビ製品「VT60」と同等である。

実際、AX900シリーズのヘキサクロマドライブ機能や画質設計にはプラズマビエラの開発スタッフが多く関係しているそうで、「4K液晶ビエラではプラズマ画質を再現し、さらにこれを超えていく」をスローガンに掲げられたというからパナソニックの本気度をうかがい知れる。

今回の評価では短編CGアニメ「九十九」を視聴し、その映像を17インチの有機ELパネルを採用した業務用マスターモニターと、TH-65AX900とで見比べてみたが、暗いシーンから明るいシーンに至るまで、両者の色の出方は驚くほど似通っていた。

「九十九」は、淡い照明下の祠の中で色とりどりの妖怪達が現れ舞い踊る内容で、液晶にとってはなかなか難しめな暗色主体の映像である。輝度的にはそれほど明るくはないシーンが主体だが、着物や傘の妖怪が登場するため色彩自体はそれなりに豊かである。中輝度以下のバックライト下で、階調力と色彩力が試されるわけだが、TH-65AX900では、これをうまく繊細に描けていた。液晶には難しい漆黒表現も、TH-65AX900の直下型バックライトシステムのエリア制御の効果もあり、プラズマに近い沈み込みが実現できていた。そして私的な感想ではあるが、暗色の階調表現はプラズマよりも美しいと感じた。

撮影時のダイナミックレンジを復元する「ダイナミックレンジリマスター」搭載。シネマ系画質モードでも活用可!?

直下型バックライトシステムを採用するAX900シリーズは、エッジ型バックライトシステムを採用するAX800シリーズの約2倍の輝度性能を持っている。

AX900シリーズも、もちろん常時AX800シリーズの2倍の輝度で映像を光らせているわけではない。ただし、「ここぞ」と言うときにはその高い輝度ポテンシャルを活かす性能が与えられている。

それが「ダイナミックレンジリマスター」機能だ。

現実世界の情景は、最明部の輝きと漆黒とで、ルミナンス値の比較で「1兆:1」の格差があるといわれる。1兆は10の12乗なので、ダイナミックレンジに換算すると120dBということになる(dB:デシベルは対数をとって10倍した値で表される)。多くの撮影機材はそこまでのダイナミックレンジは持っていないし、持っている機材であっても、現状の映像記録規格では、高いダイナミックレンジを保持することができない。例えば現行の輝度・赤色差・青色差(YCbCr)を各8ビット(=256段階表現)で記録する標準的な映像フォーマットの場合、「256≒10の2.4乗」なので24dBのダイナミックレンジ保持力しかない。

つまり、現実世界を撮影した映像は記録の段階でダイナミックレンジがギュギュっと圧縮されてしまっているのである。

AX900シリーズでは、パナソニックが誇るビエラ内蔵の映像エンジン側で、この圧縮されてしまったダイナミックレンジを復元する処理を行う。

これがダイナミックレンジリマスター機能なのである。

撮影映像の記録時のダイナミックレンジ圧縮は主に高輝度部分に注力して行われていることから、ダイナミックレンジリマスターでは、この高輝度部分のダイナミックレンジ復元を行う。

その際に、そのまま輝度のダイナミックレンジだけを復元してしまうと、高輝度部分の描写が全て白に寄ってしまうので、ダイナミックレンジリマスターでは、復元する輝度の拡張率に見合うバランスで色情報も拡張し「本来はこのくらいの輝度でこんな色だったはず」という推論に基づいた復元を行う。

つまり、撮影時の輝度(明るさ)だけでなく、色までをも復元しようというのがダイナミックレンジリマスター機能の信条なのだ。

さて、AX900シリーズには、映画鑑賞に適したモードとして「シネマプロ」と「シネマ」の2つが用意されている。

シネマプロは、ITU-R(国際電気通信連合無線通信部門)のBT.709によって勧告された映像規格に則った「映像コンテンツを忠実再現する」系の画調モードだが、「シネマ」の方は色域をDCI規格準拠まで拡張し、なおかつダイナミックレンジリマスター機能でダイナミックレンジ復元までを行う、いわゆる4K対応ビエラの高画質化機能の全活用画調モードになる。

今回の評価ではTH-65AX900にてディズニー映画「オズ はじまりの戦い」を後者の「シネマ」モードにて視聴。

DCI色域まで色再現が拡張されていることもあって、純色は鋭さを増し、肌色なども暖かみのある色あいとなる。ちょうど、キセノン光源ランプを搭載した高級ホームシアタープロジェクタのような味わいだ。

そして、空、雲の描写、金属材質の上に表れるハイライト効果、木漏れ日などの表現においては、まばゆい光を放ち輝度拡張が行われているだけでなく、ちゃんとその材質の色味や階調が正確に描かれているのが確認できる。この部分こそがダイナミックレンジリマスター機能の恩恵と言うことになる。

たしかに撮影時の情景と一致するかどうかという意味での「正否」は判断のしようがないが、撮影時に明るさや色の情報が失われるのは事実であり、この情報を復元することによりBT.709忠実再現系の「シネマプロ」モードでは気が付きにくかった、高輝度付近の繊細な描写が浮き出て見えてくるのは面白い。「シネマプロ」ではほとんど白に落ちている雲の陰影が「シネマ」では立体的に見えてきたりするし、「シネマプロ」では一塊に見えているハイライト効果に、「シネマ」ではにグラデーションが確認できるようになったりする。それこそ、見慣れた映画ほど楽しみが増すかも知れない。

なお、このダイナミックレンジリマスター機能活用の「シネマ」モードは、もっとシンプルに「完全な暗室にできない照明環境下で、ハイコントラストな映像を楽しみたい」という向きにも使えると思う。

超解像処理が適応型に進化。「4KファインリマスターエンジンPRO」の「PRO」の名は伊達じゃない!

4Kテレビとはいっても、主となる視聴コンテンツは、当面、ブルーレイやデジタル放送などの最大1080p程度までのHD映像(HD:High Definition)となる。

となれば、重要となってくるのは、HD映像を4K映像化するロジック部分だ。

4K対応の超解像処理エンジンは、AX80シリーズにおいては「4Kファインリマスターエンジン」が搭載されていた。今回のAX900シリーズでは、これを一段進化させた「PRO」の称号を付け加えた「4KファインリマスターエンジンPRO」を搭載している。

パナソニックの超解像処理エンジンは、映像の先鋭化を行う「リマスター超解像」ロジックと、ドット単位に近い細かい描写(テクスチャ表現、ディテール表現)を復元する「ディテール超解像」ロジックの組み合わせで成り立っている。

AX800シリーズも、この処理プロセス自体は同じなのだが、AX900シリーズでは、「リマスター超解像」と「ディテール超解像」とが、それぞれ処理対象の映像状態を適宜吟味して、超解像処理の際の強度を映像フレーム毎に調整する適応型アルゴリズに進化させられている。

例えば、AX800シリーズの「リマスター超解像」では、データベース型で入力映像の特性をデータベースからマッチングさせてそのデータに基づいて超解像処理を行っていたが、AX900シリーズの「"適応型"リマスター超解像」では、データベースの内容を正規化し、汎用度の高いモデルデータとすることで応用力を高めている。なので、AX900シリーズの「リマスター超解像」はデータベース型ではなく、モデルベース型と呼称が改められた。

「ディテール超解像」についても、AX800シリーズでは、フレーム単位で超解像処理強度を調整していたのを、AX900シリーズでは処理対象ピクセル周辺を二次元的に解析して、局所的な周辺解像度を把握して超解像処理強度を決定している。これにより「ピクセル単位の映像描写が多いエリアはより鮮鋭に」「そうでもないところはそれなりに」といった処理強度の切り替えを1ピクセル単位で制御できるようになったのである。

さらに、AX900シリーズでは、「リマスター超解像」と「ディテール超解像」のプリプロセス(前段)として「原画判別」ロジックをも追加。

「原画判別」とは、AX900シリーズに入力されている映像の実質解像度を分析するモノだ。

デジタル放送では、映像ソースとしてはSD映像(SD:Standard Definition)なのに、放送局側でアップスキャンして(解像度を上げて)フルHD映像として伝送してくる場合がある。また、アップスキャン機能を持ったプレイヤー機器は、どんな解像度の映像ソフトを再生しても(たとえばDVDビデオでも)フルHD映像として出力する場合がある。

そう、映像信号はフルHDでも、その内容はフルHD解像度でない場合があるのだ。

そこで原画判別ロジックは、入力映像の実効周波数を解析。実質的な映像解像度を算出するのだ。たとえ、映像信号がフルHDであっても、実質的にSD映像であれば、後段の「リマスター超解像」と「ディテール超解像」とではSD映像対象向きの超解像処理を行うと言うことになるのだ。

今回の評価では、超解像周りもCGアニメ「九十九」、ディズニー映画「オズ はじまりの戦い」でチェックさせてもらった。

まず「九十九」だが、CGアニメは超解像が理想的に効きやすいコンテンツなので、畳の編み込みの質感や、妖怪達の色とりどりの着物のテクスチャ表現も「ネイティブ4K映像なのではないか?」と思えるほど高精細に表示できていた。

実写映画「オズ はじまりの戦い」においても、肌の質感などはとてもリアルに見えていた。輪郭線にもジャギーなどは見当たらず、非常に滑らか。この作品は背景に草木が多いのだが、そのきめ細かい葉々の描写もくっきりと描かれていて鮮烈であった。一方、空のような広い領域に渡ってのグラデーション表現や、人物にピントが合ったときのボケた背景箇所に対しては超解像処理の介入がなかったので、「適応型」の処理系はちゃんと機能しているようであった。

おわりに

AX900シリーズは4Kテレビ製品である。

なので、4Kテレビとしての話題についても触れておかねばならない。

今年6月より4KのCS(スカパー!)での試験放送が開始された。来年2015年からはCSの4K放送は実用放送に進む予定だ。

その先には8Kも待っているわけだが、4Kや8K放送に関しては、過去のしがらみを払拭した新しい色空間規格を採用しようとする動きがある。

それが、ITU-R(国際電気通信連合無線通信部門)のBT.2020規格の色空間だ。

BT.2020は、sRGBはもちろん、AdobeRGB、DCIなどの広色域規格をさらに超える色空間規格で、自然界で人間が目にする色の分布をデータベース化したSOCS(Standard Object Color Spectra)データベースにある色を全てカバーできることになっている。

実際問題として、BT.2020を100%カバーできるテレビやディスプレイ機器は2014年時点では存在しないので、当面は達成目標としての規格になる。

AX900シリーズはというと、このBT.2020規格の入力への対応をアピールしている。つまり、4K放送対応チューナーを接続すれば、前述した4K試験放送を受信した表示した際、BT.2020色空間に基づいた色再現を行ってくれるのだ。AX900シリーズのBT.2020色空間カバー率は非公開だが、少なくともAX900シリーズが採用する広色域液晶パネルが持つ色域を一杯一杯に活用した色再現は行ってくれるはずだ。今回は、4K試験放送を視聴する機会はなかったので、インプレッションはなし。この部分は解説だけに留めることにしたい。

いかがだっただろうか。

4Kテレビは、4K放送や4Kコンテンツを見ることができるテレビ製品はであるが、従来のフルHD映像コンテンツを高画質に楽しむためのハイエンドテレビとしての完成度をさらに上げたのが理解できたのではないだろうか。

本誌読者はハイエンドPCユーザーも多いはずで、AX900シリーズはDisplayPortも搭載しているので、コストパフォーマンスの高い、4K解像度PCモニターとしてもお奨めできる。

多くのユーザーは、次回のテレビの買い換え時は画面サイズの大型化ではなく、解像度アップの方向で選択したいと考えているはず。

いまや「4K」というキーワードを意識せずにテレビやモニターは選べない。

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