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“Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語”

第68回:キタよ、キヤノンの本気DVカメラ「XV2」
~ あの、マジ最強なんっすけど ~


■ マニュアルビデオカメラのなんと少ないことよ

 ビデオカメラというのは、実は経済企画庁も認める「主要家庭消費財」の1つである。つまり日本人にとってビデオカメラは、掃除機や洗濯機と同レベルで語っていいってことらしい。「平成12年度の経済企画庁の調査」によると、その普及率は37.9%。家電の中では低い方だが、現在はパソコンと同じぐらいの普及率だと思われる。

 家電でありながら、これほど使用頻度の差が大きい製品もまた珍しいだろう。何かイベントがあるごとに撮影係を買って出るマメな人から、使うのは年に一度の運動会だけと言う人まで様々。ビデオカメラの耐用年数は一般に8年といわれているが、年に一度しか使わなければそれぐらいは持つだろうから、ビデオカメラ買ってから一度も買い換えていないという人も珍しくないだろう。その反面よく使う人にとっては、ビデオカメラは壊れやすいものだ。家庭内に据え置きにされるものではなく持ち出すことが原則だから、その分リスクは大きくなる。買い換え需要は、頻繁に使う人、すなわち撮影に慣れた人にのみ発生することになる。

 そこそこ撮影に慣れた人は、次に買い換える時には前回よりもよりグレードアップしたものを買いがちである。もともとプロ機からスケールダウンしたものであるため、上位機種になるほどプロ機に近づいてくるわけで、マニュアル指向が強くなる。これが洗濯機とかだと、次買うときはぜってーコインランドリーにあるような業務用機だオラ毎回100円入れちゃうぞいいのかとか考える人はいないわけで、そういった家電と同じ土俵で考えることはできないのである。

 ところがこのようなマニュアル指向に応えてくれるカメラというのは、実は意外に少ない。ある程度自分でもカメラのことがわかっている人には、各メーカーのフラッグシップモデルでも満足できず、アマチュアなのに業務用機とかに手を出す人も少なくない。SONYの業務用DVカメラ「PD-150」なんかは、そんな勢い余っちゃった人たちにちょうどいいスペックで、その手のショップでは民生機フラッグシップの「VX-2000」よりも地道に売れているのだという。

 さて、キヤノンといえばカメラ量販店では「IXY DV」シリーズや「撮れビアン」シリーズのような小型低価格路線で知られているが、以前から民生機のような業務機のような、いわゆるプロシューマ分野のカメラを作り続けているメーカーでもある。キヤノンビデオカメラの高級機「XLシリーズ」および、「XVシリーズ」は、値段が値段であるのでそれほどバカスカ売れる製品ゾーンではないが、割と速いペースで新機種を投入してくる。こうなるとマニアにとっては高速で動くエスカレータみたいなもんで、次乗ろうか、あーっと次乗ろうか、あーもうと、買い時が掴めずいい具合にドキドキさせてくれるわけだ。

 さあそんな期待感の中、7月中旬にリリースされたのは、ハイエンド オールインワンモデルとも言うべきXV1の後継機「XV2」だ。えー結論から先に言うと、もう待たなくていいです。これに乗っちゃってください。


■ 見た目はかなーりイイ

 さっそくいつものようにボディチェックから始めよう。見た目での最大の特徴は、ボディカラーの変更だろう。キヤノンの高級機は、XL、XVシリーズとも白をベースに赤のポイント、といったデザインで統一されてきた。このカラーリングは確かに視覚的なインパクトは十分だが、実際の撮影ではちょっと派手すぎる。物々しい感じがして、撮影してると人が寄って来ちゃうのである。またガラス越しや水面撮影では、白いボディが映り込みやすかった。

 カラーをガンメタリックに変更したことで、これらのデメリットが解消される。前のカラーが好きだったという人もいるだろうが、キヤノンとしては見た目のインパクトで勝負する時期は過ぎたという読みなのかもしれない。

コントロール部が集中するボディ左側 バッテリを挟んで右側に端子群がある

 実際に手にとってすぐ感じる特徴が、その軽さ。バッテリなど込みで約1.27kgしかない。これぐらいならハンディでもかなり楽に持っていられるだろう。PD-150の場合は、本体だけですでに約1.5kg。大して違わないと思うかもしれないが、人間このぐらいの重さの差が一番はっきり感じられるのである。

 重量の差は、おそらくボディ材質によるものだと思われる。全体がマグネシウム合金のPD-150に対して、XV2のボディは樹脂製である。表面にざらつきのある加工が施されており、指で触って温度を感じることで初めて樹脂製だということがわかる、なかなか高級感のある仕上がりだ。

 電源スイッチはボディ上面にある。一見不便そうだが、実はこのスイッチはカメラとVTRのモードセレクトのようなものであり、背面のスタートボタンにロックスイッチによって、モードを固定したまま電源がON/OFFできる。入出力系の端子は背面に集中しており、テープコントロール部はグリップ部に隠されている。ボタンや端子類の配置という意味でも、よく計算された綺麗なカメラだ。

グリップ上部にあるテープコントロール 液晶モニタ下部にあるSDカードスロット

 調整用ダイヤルは、背面と左側面の2カ所。ホイール形だが回転式ではなく、上下のレバー操作。そのほか撮影中に操作が必要なボタン類がすべて左側面に集中しているのは、ビデオカメラとしてはオーソドックスな作り。液晶モニタの下部には、SDカードスロットがある。

 地味なところだが、テープ開口部の設計も良く、上半分ぐらいだけ開くようになっている。これの何がいいかというと、開口部分がグリップベルトにかからないので、ベルトをきつめに締めていてもテープの出し入れができるのだ。実はPD-150(VX-2000も)は、開口部がボディ下まで切れ込んでいるので、ベルトをきつめにしているとテープがうまく出せないという欠点がある。このあたり、敵をよく研究しいる。

テープ開口部が浅く、ベルトがじゃまにならない ズームレバーは若干ストロークが浅め

 ズームレバーは、ストロークがやや浅め。従ってスピードコントロールをマニュアルで行なうには、微妙な指先の感覚が要求される。グリップ上面にもズームレバーがあるが、これはバリアブルではなく、3段階の固定スピードから選択する。

 レンズは基本的に前モデルXV1と変わりないが、一応触れておこう。画角は35mm換算で約39.5mm~約790mm。Wide端が十分あり、光学20倍ズームはさすがのスペック。

 CCDは1/4型高感度41万画素の3CCD構成で、GのCCDを水平・垂直方向に1/2画素分ずらして配色する4倍密度画素配列処理が特徴。これにより動画での解像度がアップしたほか、静止画では約168万画素(1,488×1,128ピクセル)の撮影が可能となっている。ポップアップストロボ? だーうダメダメ。そのような軟弱な機能はない。がしっと漢のカメラなのである。




■ オーソドックスなユーザーインターフェイス

 では実際に撮影しながら使い勝手などを探っていこう。撮影モードは、オート、Tv(シャッター優先)、Av(絞り優先)、マニュアル、サーフ&スノー、スポットライトの6種類。このグレードのカメラでは、ほとんどTv、Av、マニュアルで撮ることになるだろう。

 モードは、背面ダイアルのプッシュでモード一覧が表示され、ダイアルで選択し、再プッシュでモード決定となる。例えばTvを選んだとしよう。シャッタースピードを変更するには、カメラ左側の[露出]ダイアルを使用する。手持ちの場合は、左手でまずモードを選択してからカメラを下から支え、その位置でダイアル変更、という一連の流れができている。しかし三脚にセットした場合は、逆に左手を移動させるという余計なアクションが必要になる。モードを選択し終えたら背面ダイアルは用済みとなるのだが、TvやAvモードの時だけ背面ダイアルでも露出変更が効くようにすれば、親指一本ですべての設定ができ、より使いやすかっただろう。

 左サイドのカスタムキーは、意外に使えるボタンだ。これは特定の機能を割り付けることができるボタンで、例えばテープモードの時にはテープのスタンバイを止める「VTRストップ」といった機能を割り付けられる。設定に手間取りそうなとき、またチャンス待ちのときなど、自動でテープスタンバイが切れるまで待つよりも、撮影者が自分で節電できるわけだ。このカスタムキーは、モード別に機能を割り付けることができる。テープとカード、それぞれに撮影と再生モードがあるわけだから、モード切替によって4つの機能を持つことになる。

 テープとカードの切り換えは、約2秒程度とまずまず速い。ただカードに静止画を撮影すると、画像書き込みが終わるまでモニタ画面が止まったままで、カメラ操作も何もさせてくれない。写真を撮った後すぐビデオも回す、といった使い方はちょっと難しい。書き込み速度はカードによって変わるだろうが、筆者所有ハギワラシスコムの128MBメディアでは、ファインモードでの書き込みに9秒弱かかった。付属の8MBのメディアでも、書き込みに7秒程度かかる。この程度の時間があれば次のカメラアングルを探すぐらいはできるので、せめてモニタ表示ぐらいは解放してほしかった。

 オートフォーカスの追従性は、キヤノンの癖としてあまり速くない。大型のフォーカスリングが付いているので、マニュアルと上手く使い分けていくことになるだろう。フォーカスリングは、レンズの動きに対してが回転角が大きめにとってあるので、フォーカスインをやってもフォーカスが行き過ぎることが少なく、使いやすい。




■ 撮れる絵は結構派手目

 さていつまでも使い勝手をうだうだ言ってないで、実際の絵を見てみよう。多くのビデオカメラでは、ビデオモードと静止画モードでは画角が変わったりするものだが、XV2の場合は同じである。Wide端39.5mmから光学20倍ズームまでどちらでも使えるというのは、ありがたい。

ビデオモードのWide端とTele端

静止画モードのWide端とTele端

 何カットか、ビデオと静止画を切り換えながら同じものを撮ってみた。ご覧になればわかると思うが、ビデオはビデオなりの色、静止画は静止画なりの色になっている。傾向として、同じホワイトバランスでは、静止画のほうはグリーンが抑えめに出て、暖色系になるようだ。

 画質に関していえば、静止画をフルサイズで見ると、ファインモードでも粒子の荒れが見られる。画像を見ただけでは、方式的な限界なのか、それとも単純に保存時の圧縮レートの問題なのかはわからないが、このメモリー潤沢時代に圧縮レートを高くしているとは思えないので、やはり1/2ピクセルずらしたCCDの補間処理の限界なのであろう。なお、静止画はすべてファインモード、1,488×1,128ピクセルで撮影した。

【動画モードと静止画モードの画質比較】
動画
モード
静止画
モード
F4.0 1/120 0dB F2.0 1/210 0dB F3.4 1/500 0dB

 光学系では、5枚羽根虹彩絞り採用だけあって、ボケが非常になめらか。無理矢理フレアを出してみたところ、5角形が確認できた。またビデオで出たスミアが、静止画では書き込み時に消えてしまうという現象が見られたのは興味深い。いずれにしても、フレアやスミアはかなり押さえられており、非常に出にくい。

ボケの光はかなり円形に近い 5枚羽根虹彩絞りによるフレアの例

ビデオモードでのスミアだが…… 静止画では消えてしまう

 NDは、透過率10%のものが1つ内蔵されている。撮影日は台風の後でものすごくいい天気だったのだが、レンズが明るくCCD感度もいいため、内蔵NDだけではいま一歩絞りを開けたいのに開けられないケースもあった。ピーカンの撮影では、別途NDを1枚用意した方がいいだろう。

 気になるバッテリの持ちだが、アクセサリキット付属の小型バッテリパック(BP-915)ではスペックどおり実働1時間程度と、いささか心許ない。大型バッテリは必須だろう。



■ 総論

 実際に撮影に出かけてみて感じたのは、性能に対するコンパクトさだ。先日の「Victor GY-DV300」などもそうだが、ある程度のスペックまでいったカメラともなると、どうしてもある程度の重さと大きさになる。しかしXV2は、これだけの性能を有しながらも、写真で見るよりはぎゅっと小柄で軽量。ちなみにPD-150と比較すると、ボディ長で4cmほど、高さで2cmほど小さい。一回り小さいという表現がぴったり当てはまる。

 PD-150に慣れた筆者の目からすると、撮影された映像は現場の色に忠実とは言えないものの、現場以上にいい色になっているというケースが多かった。デジカメの世界では、キヤノンの色は大人しめと評価されているようだが、ビデオカメラの絵にしては派手なほうに入るだろう。どだい自然なんてものは、見た目では良くてもビデオで撮ってみると案外つまんない映像になるものだ。だがXV2は、特有の解像度の高さと発色の良さで、どこへカメラを振っても被写体が見つかる、そんな風景とのセッションが楽しめるカメラに仕上がっている。旅なんかに持っていったら最高だろう。

 家電メーカーがビデオカメラを作り出して久しいが、ちゃんと撮りたい人が満足できるモデルを地道に作り続けているキヤノンは、カメラメーカーとしての責任をきちんと果たしていると言えるだろう。コンパクトDVカメラに限界を感じたら、次に手にするカメラとしてXV2はマジお勧めの逸品だ。


□キヤノンのホームページ
http://canon.jp/
□ニュースリリース
http://www.canon-sales.co.jp/pressrelease/2002-06/pr_xv2.html
□製品情報
http://www.canon-sales.co.jp/dv/lineup/xv2/index-j.html
□関連記事
【6月25日】キヤノン、蛍石レンズ採用の3CCD DVカメラ「XV2」
―SDスロットを装備、静止画は水平垂直画素ずらしで撮影
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20020625/canon.htm
【2001年8月22日】ElectricZooma! 第23回:コンシューマDVの最高峰「CANON XL1s」で撮る!
~ 超望遠2,160mmの世界も覗きました ~
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20010822/zooma23.htm

(2002年7月17日)


= 小寺信良 =  テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「ややこしい話を簡単に、簡単な話をそのままに」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンピュータのフィールドで幅広く執筆を行なう。性格は温厚かつ粘着質で、日常会話では主にボケ役。

[Reported by 小寺信良]


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ウォッチ編集部内AV Watch担当 av-watch@impress.co.jp

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