【バックナンバーインデックス】



第81回:「レーベルゲートCD」についてSMEに聞く
~ レーベルゲートCD導入の真意とは? ~


 既報のとおり、ソニー・ミュージックエンタテインメント(SME)はコピーコントロールを施した音楽CD「レーベルゲートCD」を2003年1月22日以降に導入する。

 現在エイベックスをはじめとするレコード会社は、「コピーコントロールCD」を発売しているが、ソニーの「レーベルゲートCD」はこれらとどこが違うのか?、ユーザーにとって、どんなメリット、デメリットをもたらすのだろうか?


■ SMEのCCCD「レーベルゲートCD」とは

コーポレイト戦略企画室コーポレイトスタッフ・マネージャー、佐藤亘宏氏

 現在、各所で話題になっているコピーコントロールCD(CCCD)。2002年3月13日にエイベックスがBoAの作品をCCCDで発売して以降、東芝EMIも導入するなど、レコード会社各社が導入したり、導入を検討しはじめている。

 ただ、その一方で、CCCDに対しては一般リスナーはもちろん、アーティストや制作スタッフからも批判の声があがっていることも確か。「再生できないプレーヤーがあって困る」、「合法コピーが取れない」という不便さを指摘するものだけでなく、CCCDになって音質が落ちたという声も多々聞く。

 エイベックスや東芝EMIなどが導入したCCCDは、先日米Macrovisionに買収されたイスラエルのMidbar Techが開発した「CDS 200」という方式を採用した。このCDS 200には一部、音楽CDの規格であるRed Bookに準拠していない部分があるため、Compact Discロゴが入っていない。

 そんな状況の中、Compact Discの開発元の1つでもある株式会社ソニーの子会社、SMEはどのような方法で、CCCDを出すのか。株式会社ソニー・ミュジックエンタテインメントのコーポレイト戦略企画室コーポレイトスタッフ・マネージャー、佐藤亘宏氏(以下敬称略)に話を伺った。


■ 「レーベルゲートCD」発売へ至った理由

藤本:先日、「レーベルゲートCD」というものを発表されましたが、まず概要を説明してください。

佐藤:まず、レーベルゲートCDそのものを説明する前に、コピーコントロールCDを当社が出すことになった背景について、お話させてください。ご存知の通り、CDのCD-Rへの不法コピーが横行しています。

 やはり音楽ビジネスを行なっていく上で、著作権保護というのは大前提です。もちろん、昔からカセットやMDへダビングするということはありましたが、CD-Rへのコピーはダビングというよりも、同じもの作るという意識があります。

 また、従来は1時間のアルバムを1時間かけてダビングしていたものが、より短時間になり、個人的用途以外で使っているケースも多く見受けられます。

藤本:それで、CCCDの導入に至った、と?

佐藤:ええ。でも、CD-Rへのコピーと共に、ファイル交換型サービスも大きな問題となっています。ただ、われわれも決してコンピュータが悪いとは思っていません。やはりライフスタイルが変化してきているのですから、それに対応していくことは必要だと思います。しかし、著作権を保護した上でビジネスしていきたいと考えております。

 実はレーベルゲートCDを発表する前に、Sony Music Online Japanのメンバーズサービス“Beeep!”の会員に向けてメールでアンケートをとりました。その結果、複数回答ではありますが、CDを聞く環境としてパソコンが60%以上と、ミニコンポを含むコンポーネントステレオを抜いてトップとなっていました。さらに、このパソコンで聞いている人に対し、どのような聞き方をしているかをたずねたところ、CDから直接再生している人が約9割いる一方、CDからリッピングしてそれを再生する人が5割弱いました。われわれとしても、これはかなりの数だなという実感をもっています。

藤本:なるほど、単純計算でいって、CDを聞く人の3割近くはリッピングをしていることになりますね。メルマガの会員であるという偏りはあると思いますが、かなりの数ですし、今後さらに増加していく可能性はありますね。


■ 「レーベルゲートCD」はパソコンのリスニング環境への新たなチャンス

佐藤:そうです。だからこそ、何らかの対策が必要というわけですが、われわれとしてもパソコンでCDを正当に複製し楽しんでいる音楽ファンを無視するつもりはありません。パソコンに対して、パッケージを閉ざすのではなく、むしろ積極的にアプローチをし、新たなチャンスとして捉えたいと考えています。

藤本:それは、具体的にどういう意味でしょうか?

佐藤:つまり、パソコンというオープンすぎるほどのプラットフォームに対して良い悪いの議論ではなく、これだけオープンなものがあることを前提とした上で、自分たちの権利を守るにはどうするか、というアプローチです。

 その答えは2点。1つは「セキュアーな音源ライブラリーの構築」、もう1つが「デジタルコピーを世代管理から実数管理へ」というものです。もう少し具体的にいうと、現在他社がやっているPCでは再生だけできればいいという考え方は、パソコンユーザーに対して閉ざした環境だと考えています。

 やはりパソコンを利用して音楽を聞くのは楽しい。私の周りでも、やっている人は多くいます。であれば、これを新たなチャンスとして、パソコンに歩み寄るにはどうするか、と考えたわけです。パソコンにデータをコピーするのは不可とはしないけれど、せめて実数を管理したい。それで、社内でいろいろと検討しました。

藤本:その結果がレーベルゲートCDというわけですね。

佐藤:そうです。このレーベルゲートCDは2つのセッションから構成されています。1stセッションは、従来のCDと同様の民生用オーディオ機器向けの音源であり、これはコピーコントロールが施されたものとなっています。

 ただし、コピーコントロールの方式については任意としています。2ndセッションはパソコン用のもので、音楽配信と同等の音質(ATRAC3 132kbps)の暗号化済音源となっています。ただし、CD内にはカギやライセンスの情報はないため、インターネットで個別認証をすることで、パソコンでの再生・複製をコントロールできるようになっています。


■ 現在はCDSベースだが、将来的に変更の可能性も……

藤本:ということは、コピーコントロールの方式はCDS 200ではないということですか?

佐藤:現状でリリースを考えているのはMidbarのCDSベースのものではありますが、これに限定はしません。今後よりよいものが出てくれば、それに乗り換える可能性もあります。

 現状、PCでの違法コピーを100%防止し、再生機器での互換性も100%という技術がないのは、明らかです。だからこそ、その都度、ベストの技術を使いたいと考えているわけです。

 なお、CDS 200という規格は2ndセッションに含まれるプレーヤーや圧縮音源データも含んでいるので、レーベルゲートCDをCDS 200ということはできません。また、その関係もありCDS 200の1stセッションとも微妙に異なる面もあります。

藤本:CDSベースということは、レッドブックから外れるということですか?

佐藤:はい、一部外れる部分がありますので、「Compact Disc」ロゴは製品にはつきません。また、日本レコード協会のCCCDマークに準拠したシールを貼ることになります。

藤本:では2ndセッションですが、これはATRAC3を使うということですよね。

佐藤:そうです。ATRAC3の132kbpsを用いています。これも完璧な音とは思っておりませんが、bitmusicにおいても最近はほとんどクレームもなく、多くの方が満足してくれている音であるとは考えております。

藤本:確かにATRAC3の132kbpsであれば、現行のCCCDのWMAよりは音質が向上し、十分鑑賞可能なものだと思いますが、その分データ容量も大きくなりますよね。となると、1stセッション側も収録時間に制限が出てくると思いますが、この辺はどうなっているのでしょうか?

佐藤:いわゆるアーティストものであれば、アルバムでも十分可能な収録時間です

藤本:なるほど。では、これをパソコンで利用する際には、どのような手順を踏むことになるのですか?

レーベルゲートCD 2ndセッション利用時の流れ

佐藤:まずCD-ROMドライブにCDを入れると、当社のサイトにアクセスするか、という旨のメッセージが出るので、「はい」と答えると、法律に関するメッセージが表示され、それにOKをすると、サーバー接続し、すぐに終了。この時点で、CD1枚ごと固有のユニークな番号を読み取り、何回目のコピーであるかのカウントを行ないます。

 続いて、ATRAC3の再生プレーヤーであるMAGIQLIPのインストール画面が出てくるので、指示にしたがってインストールします。すると、2ndセッションにあるATRAC3のデータがハードディスクにコピーされます。その後Internet Explorerが起動し、いろいろとメッセージなどが表示されますが、最後にメールアドレスを入力して送信すれば終了。その後、キーのダウンロードが行なわれ、ハードディスク上で再生可能となります。このダウンロードはキーだけなので、ごく短時間で終わります。ですからダイアルアップの方にも、あまり迷惑はかからないと思っております。

藤本:でも結構面倒なことは確かのようですね。また、この作業において課金されるということはないわけですよね。

佐藤:はい。1回目は無料でコピーできるようにしてあります。ただし2回目以降は有料で、bitmusicと同様1曲につき200円を予定しています。また、この際曲のバラ売りはせず、パッケージに収録された全曲が対象となり、5曲収録ならば1,000円という計算になります。もし1曲だけ改めて欲しいという場合は、bitmusicでお求めいただく方がリーズナブルです。

藤本:チェックアウトの回数は何回になりますか?

佐藤:bitmusicの設定と同じになります。現在は1回で検討しています。

藤本:アルバムへの展開や、洋楽についてはどうなりますか? また、今後SMEからCCCD以外でリリースされることはありますか?

佐藤:レーベールゲートCDの発売は2003年1月22日からの予定で、当初は12cm邦楽シングルが対象です。アルバムについては4月以降を予定しております。また8cmCDは対象外であり、レーベルゲートCDを採用する予定はありません。洋楽については、原権利者と交渉中です。

 基本的に邦楽は、すべてレーベルゲートCDでリリースしていきます。

藤本:中古市場にレーベールゲートCDが出回った場合はどうなるのでしょうか?

佐藤:中古市場はSMEの関知するところではありませんが、1回目のPID認証が済んだものと、未認証のものが並ぶことになります。未認証のものであればPCへの1回目の取り込みは無料ですが、認証済みのものであれば有料となります。

 なお、認証情報は再生ソフトウェアのMAGIQLIPによりバックアップできるので、マシンを乗り換えた場合でも引き継ぐことができます。しかし、例えばバックアップをしないままHDDのクラッシュなど不測の事態で認証情報が消えてしまった場合、CDを落として割ってしまったのと同様に、もう1枚買っていただくか、有料で認証していただかなくてはなりません。



■ 「PDLSの採用により、CCCDでも音質劣化は微少」

藤本:では、次に音質面についてお伺いします。他社さんの中には、CCCDでも音の劣化はないと断言してしまっているところもあるようですが、実際音が悪いという声は多いですよね。レーベルゲートCDではどうなのでしょうか?

佐藤:レーベルゲートCDのためだけのものというわけではありませんが、そもそも音質に関する戦いを各社で展開してきたという経緯があります。CCCDの登場以降レコード会社は音質なんかどうでもいい劣悪な会社だという声もあがっているようですが、われわれとしては、レコード会社は音質重視なんだ!、ということを改めて訴えたいと考えています。

 そもそもCDは工場によって音質が違うといわれることがあります。本来CDに刻まれている信号は0、1のデジタルデータであるから、どんな工場で生産しても音は変わらないはずです。しかし、実際には変わることがあります。それは0、1の粗密が違うというか、俗にジッターと呼ばれるものの影響だと考えています。

藤本:つまり、ジッターをなくすための技術を用いていると。

佐藤:はい。当社ではCDの音質をマスターに限りなく近づけるため、高精度でピュアなデジタル伝送技術である「ピュア・デジタル・リンク・システム(PDLS)」を導入しました。これについては、各社とも類似の技術を用い、競いあっている状況ですが、当社では今回、カッティング工程のためのPDLSというものを開発し、それをレーベルゲートCDにも適用することにしたのです。

藤本:カッティング工程のためのPDLSとのことですが、具体的にはどんな仕組みになっているのでしょうか?

PDLSの概念図

佐藤:これは、いくつかの工程から成り立っています。まず1つはダイレクト・クロック・ディストリビューションシステムというもの。従来、カッティング工程において44.1kHzという周波数を作り出して、それを用いて行なっていましたが、カッティング工程においてあえて44.1kHzにこだわらなくてもいいだろうという考え方に基づいています。各社とも、このクロックには、ルビジュームを使うなど、非常に精度の高い発振機を用いていますが、それを44.1kHzに変換すると誤差が生じ、結果としてその精度を十分に生かしきれていませんでした。

 それならば、わざわざ変換せずに、元のクロックを利用してしまおうと考えたのです。第2のポイントはアルト・レーザーカッティングIIというものです。

藤本:プレス発表資料にあったので、見て気になっていたのですが、これはどんなものなのでしょうか?

佐藤:現在、カッティングマスターとして工場に届くものの多くはPMCD(CD-R)か、Umaticのテープを用いたものになっています。このカッティングマスターのデジタル信号のすべてを新開発の巨大な固体メモリに一旦蓄積し、回転系の影響を完全に遮断して、外乱ノイズを徹底的に取り除いた上で、高精度に信号を整えてカッティングをおこなうというものです。この方式は従来からとっていたのですが、今回、新たに固体メモリ(DRAM)をスタティックメモリ(SRAM)にすることでデジタル回路が発生するノイズの低減を可能にしたのです。

藤本:つまり従来DRAMを用いていたものをSRAMに変更したということですね。DRAMの場合、メモリ内容を保持するためのリフレッシュ信号が必要ですから、これがノイズの原因になる可能性があるため、リフレッシュ信号が不要なSRAMにしたというわけですね。

佐藤:その通りです。さらに、当社ではピット・シグナル・プロセッシングというものを導入しました。これは一度CDを作って再生し、オリジナルとマッチングを図ります。その結果をコンピュータで解析し、それを補正するための情報を作り出す。それをEFM信号のところにフィードバックすることで、よりオリジナルに忠実なものとします。これはSACDに使われている技術を応用したものです。

藤本:このPDLSは一般のCD全体にいえるものであって、レーベルゲートCDだけのものではないですよね。やはり、PDLSで音質が上がっても、コピーコントロールを行なうことで音質が大幅に下がってしまうのでは、あまり大きな意味はないようにも思えるのですが、その点はいかがでしょうか?

佐藤:当社の見解としては、このカッティング工程のためのPDLSを導入したことにより音質が大きく向上します。聴き手によって音質の評価は異なると思いますが、レーベルゲートCDに音質変化があったとして、その差は極めて微小だと認識しています。

 もちろん、これで完璧と思っているわけではありませんが、今出せるものとしてベストのものであると確信しております。


■ 他社へのライセンスも検討

藤本:なるほど、よくわかりました。これについてはぜひ、実際のものを聞いてみたいと思いますし、また各リスナーがどんな評価をするかもちょっと気になりますね。ところで、これが利用できるPCはWindowsだけでMacintoshは対応しないのでしょうか?

佐藤:残念ながらbitmusicでの配信を含め、ATRAC3を利用できるのはWindowsだけとなります。Macintoshに関してはユーザーも多いので前向きに検討はしておりますが、まだ具体的な予定は立っておりません。

藤本:最後の質問ですが、このレーベルゲートCDはソニー・ミュージックエンタテインメントだけのものになるのでしょうか?

佐藤:いいえ、われわれで閉じるつもりはなく、現在、他社さんに対しても呼びかけているところです。まだ、どこも採用を決めてくれたところはありませんが、ライセンスしていくつもりではあります。また、これは単にうちの工場で生産するというだけでなく、生産現場でのシステムもライセンスしていくつもりです。



□SMEのホームページ
http://www.sme.co.jp/
□ニュースリリース(レーベルゲートCD)
http://www.sme.co.jp/pressrelease/20021120_1.html
□ニュースリリース(PDLS)
http://www.sme.co.jp/pressrelease/20021120_2.html
□岸社長のコメント
http://www.sonymusic.co.jp/cccd/
□関連記事
【11月20日】SME、コピーコントロールCD「レーベルゲートCD」を1月より導入
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20021120/sme.htm
【6月5日】国際レコード産業連盟、コピーコントロールCD表示ガイドラインを発行
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20020605/ifpi.htm
【4月18日】日本レコード協会、コピーコントロールDiscの表示基準を制定
―強制はせず、自由な表示も制限しない
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20020418/riaj.htm
【3月8日】【DAL】AVEXにコピーコントロールCDについて聞く
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20020318/dal_a1.htm
【9月2日】Midbar、コピーコントロールCDが日本で1,000万枚を越えたと発表
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20020902/midbar.htm
【リンク集】コピーコントロールCD関連リンク集
http://av.watch.impress.co.jp/docs/link/cccdlink.htm
【8月7日】ソニー、デジタルコンテンツ著作権管理・配信技術「OpenMG X」
─プレイステーション 2などにも対応
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20020807/sony2.htm

(2002年12月11日)


= 藤本健 = ライター兼エディター。某大手出版社に勤務しつつ、MIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。最近の著書に「ザ・ベスト・リファレンスブック Cubase VST for Windows」、「サウンドブラスターLive!音楽的活用マニュアル」(いずれもリットーミュージック)などがある。また、All About JapanのDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも勤めている。

[Text by 藤本健]


00
00  AV Watchホームページ  00
00

ウォッチ編集部内AV Watch担当 av-watch@impress.co.jp

Copyright (c) 2002 Impress Corporation All rights reserved.