■ 実売8万円! のワイヤレスヘッドフォン デジタル伝送のコードレスヘッドフォンといえば、パイオニアの「SE-DIR1000C」や「SE-DIR800C」などが発売されている。しかし、パイオニア以外のメーカーは、アナログ伝送の低価格機がメインで、参入メーカーは少ない。
コードレスかつ、高クオリティでシアター利用のヘッドフォンとなると、デジタル伝送のヘッドフォンが必須条件となるはず。そんなデジタルコードレスヘッドフォン市場に新顔が登場した。新顔といっても、ヘッドフォン大手のオーディオテクニカの「ATH-DCL3000」。実売価格はなんと8万円で、「SE-DIR1000C」は実売50,000円、「SE-DIR800C」が35,000円と、高値安定のコードレスヘッドフォン市場でも、ずば抜けて高価格だ。 とはいえ、有力ヘッドフォンメーカーの送るフラッグシップ機だけに、音質などには抜かりないだろう。
■ リモコンでコントロールできるヘッドフォン
パッケージは横長の大きなもので、ヘッドフォンとトランスミッタのほか、リモコンや充電池/充電器、専用スタンドなどが同梱されている。 ヘッドフォン部はオープンエア型。充電池を含む重量は360gと大きさの割には軽量で、3D方式のウイングサポートも採用。ヘッドパットは布製とし、圧迫感の軽減を図っている。 ユニットはネオジウムマグネットを使用した53mm口径で、ボビン巻きのCCAWボイスコイルを採用。再生周波数特性は5Hz~35kHzとコードレスヘッドフォンとしてはかなりの高スペック。 左ハウジング上の電池収納部に単3乾電池を2本内蔵。右ハウジングの上には電源ボタンとボリュームコントローラを装備する。赤外線の受光部は電池収納部/操作ユニットの上部に備えている。
トランスミッタやデコーダを機能を集約した本体部は、ドルビーデジタル、DTS、ドルビープロロジック II、AACデコーダを内蔵するほか、ドルビーヘッドフォンに対応。前面パネルは赤外線発光部となっており、それぞれの入力モードを示すインジケータを備えるほか、出力中のチャンネルを示す「ヘッドフォンインジケーター」を装備しているのが目新しい。 背面に光デジタル入力(角型)×2と、光デジタル出力(角型)×1、ライン入力×1などを装備。前面にはヘッドフォン端子(ステレオ標準)を装備している。ヘッドフォン端子がステレオミニでないというあたりに、ハイエンド製品らしいこだわりが伺える。
「ATH-DCL3000」では、全ての操作をリモコンで行なえる。リモコンは小型のもので、電源ボタンのほか、表示ON/OFF、入力切替ボタンや、ドルビーヘッドフォンのモードボタン、ドルビープロロジック IIのモードボタン、低域/高域調整ボタンと、ボリュームボタンを備えている。 リモコンで全ての操作ができるというのはワイヤレスヘッドフォンの特性を最大限に活かすもので好印象。しかし、肝心のリモコンが8万円の製品にしてはやや安っぽいような気もする。 専用スタンドは、ヘッドフォンと一緒に充電器やリモコンが収納できる。といっても充電器は背面に差し込まなければならないので、使い勝手はまりよくない。
■ ステレオ再生はワイヤレスヘッドフォンの最高峰 まずはヘッドフォンを装着してみる。イヤーパッドは非常に柔らかで、ソフトな肌触り。高級感は十分感じられる。3D方式のウィングサポートも圧迫のほとんど無い装着感ながら、きっちり頭部がサポートされる。やや側圧が強めにも感じるが、高級ヘッドフォンの多くのノウハウがあるオーディオテクニカ製品らしく、しっかりとしたつくりで安心して利用できる。電池収納部などの質感は、8万円ならばもう少しがんばって欲しかったような気もするが、装着した時の満足感は値段相応に高い。
早速、本体にDVDプレーヤーの光デジタル出力端子を接続。本体の電源を入れた後、ヘッドフォンの電源を投入するだけで利用できる。到達距離は最大10mまでで、ヘッドフォン前面から左右30度で最大4mとなっている。 ほぼカタログ値どおりの再生エリアは確認できたが、ヘッドフォンの受光部が上向きなため、足元の低い位置に本体を置いて、立ちながら作業している場合などは領域内でも音が途切れがちだった。また、デジタル伝送のため、アナログ伝送のように徐々にノイズがまじるのではなく、「プチッ」と突然切れてしまう。 CDやDVDで音楽を聞いてみると、ダイナミックレンジも広く、解像感も申し分ない。オープンエアー型らしい音場の広さも実感でき、「さすがは8万円」という印象。ワイヤードのヘッドフォンと比較しても、ひけをとらないクオリティと感じた。デジタル伝送のため、ボリュームを最大にしても伝送時に起因すると思われるノイズは皆無だ。
ヘッドフォン出力端子に、ソニーのヘッドフォン「MDR-CD900ST(実売16,000円程度)」を接続すると、音場の寂しさに不満を覚えた。特にジャズのライブ盤の奥行き、音場感は「ATH-DCL3000」の圧勝といった印象だ。 一方で、MDR-CD900STがしっかり音を解像する、音の立ち上がりや打鍵音などは、「ATH-DCL3000」では幾分控えめに感じる。これはモニター系のCD900STと、リスニング系の「ATH-DCL3000」との製品としての位置づけの違いといった印象だ。リラックスして音楽を楽しむのであれば、迷わず「ATH-DCL3000」を選ぶだろう。 ■ ドルビーヘッドフォンの効果を最大限に引き出す 「ATH-DCL3000」では、多くのデジタル伝送式ワイヤレスヘッドフォンと同様に、ドルビーヘッドフォン機能を搭載している。マルチチャンネルソースは、基本的にドルビーヘッドフォンで聞くこととなる。 ドルビーヘッドフォンは、デコーダの後段の処理のため、ドルビーデジタルだけでなくDTSでも適用可能。モードは残響を抑えた「DH1」、適度な残響のある「DH2」、小規模な映画館を模した「DH3」の3モードが用意される。 DVD「ロード・オブ・ザ・リング/二つの塔 スペシャル・エクステンデッド・エディション」を視聴すると、予想以上のサラウンド感が得られたので驚いた。ヘッドフォンのユニット径が大きくオープンエアー型のためか、以前レビューしたパイオニアの「SE-DIR800C」と比較しても、サラウンド効果は格段に高い。 音場が圧倒的に豊かになったうえ、LFEの量感も大幅に増しており、アクションシーンの迫力が向上。静かな室内の対話シーンなどでもしっかりとした包囲間が感じられる。下手な5.1chスピーカーシステムより、明確な包囲感、強烈な移動感が実感できる。 「SE-DIR800C」のテストで使用した360度音が回転するデモ音声でも、前後の移動感がよりしっかり出る。ドルビーヘッドフォンモードはDH1~3まで用意されており、数字が上がるにつれ、ホールサイズが大きくなるため、音の広がりが増え、代わりに音の定位や情報量が薄くなっていく。DH1でも十分な包囲感は感じられるが、ソースに合わせて好みで変えていくといいだろう。 もちろん、ドルビーヘッドフォンをかけることで、若干の音質変化が生じ、音楽の解像度や奥行きには変化は出るが、映画鑑賞においてはONのまま利用して問題ないだろう。
また、本体前面のLEDパネルでは、入力信号やドルビーヘッドフォンのモードが確認できるほか、再生ステータスが「ヘッドフォンインジケータ」で確認できるのも面白い。これは7つのLEDを円形に配し、再生中のチャンネルのLEDが点灯するというもの。そのため、5.1ch入力時には5つのLEDが点灯、ステレオ再生時には左右の2chのLEDが点灯。再生ステータスを確認できる。 また、ヘッドフォンインジケータは、ボリュームインジケータもかねており、再生ボリュームの確認も行なえる。DVD視聴中にインジケータがまぶしく目障りな場合は、リモコンで全LEDをOFFにすることもできる。
無音状態が5分続くと自動的にヘッドフォンの電源を落とす「オートパワーオフ」機能も搭載。また、ワイヤレスのボリュームと、ワイヤードのヘッドフォン出力のボリュームを別々に管理できるようになっているなど、細かいところまで気が利いているので、操作面で不満に思うようなことはほとんどない。 オープンエア型なので、ある程度のボリューム以上では音漏れも多いが、室内で利用するものなのでさほど気になることも少ないだろう。 電池の持続時間はカタログ値で約10時間。持続時間に不満は無いが、電池交換時の、「収納部を空けて電池を取り出し」→「専用スタンドから充電器を引き出す」→「電池を充電する」という一連の流れはスマートでないように感じる。 できれば、スタンドに置くだけで充電できる機能などが欲しかった。 ■ 高価格だが満足度は高い 機能的には35,000円の「SE-DIR800C」と大きく変わることはないが、ワイヤレスヘッドフォンでのシアターとしては、1、2ランク上位の音響が体験できる。スペック的に目新しいところはないが、音質と機能は非常に満足いくもの。これ一本でホームシアターからオーディオまで全てのソースもこなすことができるだろう。 とはいっても8万円という価格はワイヤレスヘッドフォンとはいえさすがに高価。万人にお勧めできるようなものではない。もともと、コードレスヘッドフォン自体、いい音で映画や音楽を楽しみたいが、大きな音を出せないし、煩わしいケーブルからも開放されたい、というかなり欲張りな製品。その中でも最上級の音を目指したい人向けということになるだろう。 □オーディオテクニカのホームページ (2004年3月5日) [AV Watch編集部/usuda@impress.co.jp]
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