■ 初のデジタル録画対応テレビキャプチャカード登場 12月よりスタートした地上デジタル放送も徐々に受信エリアを拡大しつつある昨今だが、デジタル放送の録画機器の普及はいまだ進んでいない。 ハイビジョンクオリティの画質で録画できるブルーレイレコーダや、シャープのデジタルチューナ内蔵ハイブリッドレコーダなども注目を集めているが、最低でも15万円以上の出費は必要になる。普及段階というには、まだ時期尚早だ。 デジタル放送では、放送信号に「一回だけ録画可能」という制御信号が加えられたコピーワンスの導入などもあり、著作権保護の緩くなりがちなパソコンでのデジタル録画対応は非常に厳しいものとなっている。現行製品ではNECの「VALUESTAR TZ」の上位モデルが、唯一デジタル録画に対応しているが、デジタル放送の録画/再生に関しては、480p程度のSD解像度まででの表示に限定されるなど制限が多いのも残念なところ。パソコンの付加機能とはいえ、下位モデルでも30万円を超える価格というのもなかなか手が出ずらいところだ。
パソコン用でのデジタル放送対応には、著作権保護やPCIバスのバス帯域の制限など多くの課題があり、今のところ決定的な解決策はまだ用意されていない。特に著作権保護についての問題が多いためか、単品のキャプチャカードは発売されていなかった。 そんな中カノープスが発売したのが、初のデジタル放送対応テレビキャプチャカード「MTVX2004HF」。デジタル放送対応といっても、チューナは地上アナログのみで、外部の地上/BS/110度CSデジタルチューナから、外部入力を介して録画するため、別途チューナが必要となる。しかし、実売29,800円という価格はデジタル放送対応製品としては格安だ。
■ コンポーネント入力に対応したMTVX2004HF
パッケージも一新され、黒を基調にした精悍なデザインになった。CD-ROMやマニュアルのほか、RCAのコンポーネント変換ケーブルや、コンポジット変換ケーブルが付属する。 カード本体は2枚のカードを組み合わせて構成されている。エンコーダチップはMTVX2004と同様にPhilips製の「SAA6752HS」を搭載している。チューナは、新たにソニー製のスプリットキャリアチューナを採用。映像と音声を別々に増幅するために、特に映像データから音声へ与えるノイズの影響を低減し、録音音質の向上を図っているという。 外部入力端子は新たに2系統装備。VIDEO1は前述の付属ケーブルにてD1のコンポーネント入力とS映像/コンポジット入力に対応。VIDEO2はS映像/コンポジット入力のみの対応となっている。 また、3D Y/C分離と3DNRを同時に適用可能な「W3Dモード」も搭載、ラインタイムベースコレクタやフレームシンクロナイザも備えているなど、アナログ入力映像の高画質化回路は一通り搭載している。
■ デジタル録画の設定はやや面倒 従来モデルのMTVX2004からの違いは、地上アナログチューナがスプリットキャリア方式となったことに加え、コンポーネント/S映像/コンポジットなどの外部入力からデジタル放送を録画可能となったこと。
デジタル放送のパソコンでの録画となると、著作権保護機能の実装が求められるが、FEATHERでは、CGMS-A(Copy Generation Management Sysytem Analog)に対応し、コピー可/1回だけコピー可、コピー不可の3つの属性を管理するという。 録画ソフトは新バージョンの「FEATER2004D」を採用し、MTVXのハードウェアIDを使用し、録画したMPEG-2ファイルを独自に暗号化することで、コピーワンス放送の録画に対応した。ハイビジョン画質での録画はできず、録画映像は解像度720×480ドット以下に制限される。 早速本題ともいえるデジタル録画を試してみる。MTVX2004HFは、デジタル放送用のチューナを内蔵していないため、外部のデジタル放送用チューナの映像/音声出力をMTVXの外部入力に接続する必要がある。 今回は地上/BS/110度CSデジタルチューナ「TU-MHD500」のD端子からMTVXのコンポーネント入力に接続してテストした。
地上アナログ放送ではiEPG予約が行なえるが、デジタル放送の録画時には外部チューナを利用するため、パソコン上からの録画予約はできず、チューナー側で録画予約設定を行なう必要がある。予約時間にチューナーが起動すると「FEATER2004D」が入力信号を自動検知し、録画を開始するという仕組みだ。そのためFEATHER2004の設定画面で、「外部入力の自動録画」をONにしておく必要がある。 iEPGの録画予約が当たり前の今となってはやや面倒な予約方式と感じる。また、入力信号を検知するために予約録画を行なう際には、FEATHERを起動しておかないといけないので、サスペンド/休止状態などには対応できず、パソコンを起動しておく必要があるというのも、休止状態などを活用する録画予約が常識となっている現在としてはやや残念なところ。 時間指定予約を活用して外部入力録画を行なえば、休止状態やスリープからの録画も行なえるが、チューナとパソコンと、2つの機器でそれぞれ予約しなければいけないというのもかなり面倒だ。 また、デジタル放送を続けて録画する分には問題ないのだが、地上アナログ放送を混ぜながら録画する際は非常に使い回しが難しい。というのも、デジタル放送録画を連続して行なう際には、入力切替で外部入力を選択しておく必要があるのだが、一度内蔵テレビチューナを利用した地上アナログ録画を行なうと、そのまま入力モードが[チューナー]となってしまい、外部入力を検知してくれない。そのため、内蔵チューナで録画した後は、外部入力信号を検出せずに、録画が実行されないのだ。 そのため、デジタル放送録画(外部入力利用)-アナログ放送録画(内蔵チューナ利用)-デジタル放送録画(外部入力利用)といった録画設定が行なえず、手動で外部入力に切り替えてあげる必要がある。こうした予約の場合は、FEATHERの時間指定予約機能を利用すれば対処できるが、もう少し柔軟な録画予約が行なえるよう改善を望みたいところ。
■ D1入力でも格段にきれいな画質で録画
録画画質については、従来同様プリセットで高画質/標準/標準2/長時間/簡易の5モードと、マニュアル設定が用意されており、ビットレートは最大15Mbps(IFrameのみでは25Mbps)まで設定できる。PCでの録画時には従来のMTV/MTVXと同じ解像度/ビットレートでの録画が可能となる。 高画質(8Mbps/CBR)で録画した映像を見てみると、ソースとなるHD映像と比較して、解像度が低くなっていることは確認できるものの、地上アナログ放送と比べると、画像の鮮鋭感は格段に高いことがわかる。 特に字幕やテロップの輪郭がきっちりして読みやすく、俳優のアップなどでは顔のシワなどがはっきりわかってしまう。また、SD収録の番組/CMでも地上アナログ録画と比較して、明確に画質差が確認できる。 普通(5Mbps/CBR)では若干ブロックノイズが増えるが、“ハイビジョンらしさ”は維持されており、かなりの高品位。15Mbpsまでのマニュアル設定や、IFrameのみでは25Mbpsまで設定できるので、より高画質を求める人は自分なりの設定を行なってもいいだろう。 また、デジタル放送の録画はコンポーネント入力だけでなく、S映像やコンポジット接続でも可能。なお、NECの「VALUESTAR TX/TZ」ではHDDに放送をそのまま記録し、データ放送も利用できたが、MTVX20004HFでは映像データのみを録画している。 録画したデジタル放送のファイルは.m2dという拡張子で保存され、通常のアナログ放送録画(.m2p)とは区別される。また外部入力録画のため、番組名は[無題]となってしまうので、そのつど入力する必要がある。
デジタル放送の録画データは、著作権保護のためFEATHER2004D上でしか再生できないほか、録画に利用したMTVX2004HFが必要となる。WinDVD/PowerDVDやWindows Media Playerなどのプレーヤーソフトでの再生は行なえないので注意が必要だ。 また、同社製のテレビ出力カード「VideoGate 1000」や「DigitalVideoPlayer」によるテレビ出力にも対応しないので、録画したパソコンのFEATER2004D上でのみ視聴することとなる。 FEATHER2004Dは、リモコン的なインターフェイスで、起動や録画動作も速く、チャンネル操作も容易。録画用途やザッピング的にテレビを見るのにはよくできたソフトだと思う。 しかし、再生操作についてはメイン画面から利用できる機能が少なすぎるように感じる。従来は不満があれば他のソフトを利用すればよかったのだが、デジタル放送録画では選択肢は無くなってしまったわけで、もう少し再生機能よりのインターフェイス改善もお願いしたいところだ。
なお、デジタル放送の録画ファイルは、編集やDVDビデオ/DivX/WMVへのトランスコードなどは行なえない。試しに付属のMPEGCraft LEで利用しようと試みたが、[読み込めない]とのメッセージが表示されて、開くことができなかった。1ユーザーとしては、「QVGA程度のトランスコードであればいいのでは?」とも思うが、このあたりは業界的な合意ができていかないと難しいのだろう。なお、DVDなどに.m2d形式でのバックアップは行なえる。
■ 地上アナログ放送の高画質録画が可能
地上アナログ放送用のキャプチャカードとしても、チューナを一新し、録画/録音品質の向上を図ったほか、3D Y/C分離と3DNRを同時に適用可能な「W3Dモード」も搭載するなど、MTVX2004から大幅な機能向上も図られている。 録画した番組を見る限りMTVX2004とそう大きく変わった印象はないが、もともと画質面では大きな不満は無い上、柔軟なマニュアル設定やGRTやノイズリダクションの適用などの機能も豊富。地上アナログ用キャプチャカードとしての満足度も高い。
新たにDVDオーサリングソフト「nero vision EXPRESS2」や、DVDダビングソフト「nero RECORD2」、DVD再生ソフト「nero Showtime」、DVDカバー作成ソフト「nero cover designer」などもバンドル。従来はMPEGCraft LEなどの同社製ソフトのみの付属だったが、オーサリングソフトも付いてきて、これだけで録画からDVD化まで行なえるというのは非常に魅力的。といってもデジタル放送録画にはまったく利用できないが……。
■ 「パソコンでデジタル放送録画」への大きな一歩 地上アナログ放送用のテレビキャプチャカードとしては、機能は充実しており、画質も良好。アイ・オー・データ製品や、エルザの「EX-VISION 1500TV」など、対応カードが増えているおまかせ録画機能などもそろそろ欲しい気もするが、基本性能の高さは相変わらずで、信頼できるテレビキャプチャカードと感じる。 デジタル放送録画については、使い勝手や編集やDVD書き出しなどの利便性を含め、不満を感じるところも多い。はっきりいって、「地上アナログよりきれいにパソコンでテレビ録画ができる」という点以外に、メリットは無いともいえる。 現在パソコンでのテレビ録画については、まだ業界内でも対応が決まっていないという段階。MTVX2004HFもARIBの規格には則って、製品企画/開発したが、解釈やどのような付加機能をつけていいのか? など、明確な定義や決定を下すような機関は無く、手探り状態という。そうした状況下で、他社に先行して発売されたという意味でも意義は大きいだろう。できればこれを皮切りに業界内でもデジタル放送対応が盛り上がって欲しいところ。 MTVX2004が21,000円程度、各社のハードウェアエンコーダ搭載の上位カードが18,000~24,000円程度という現在のテレビキャプチャカードの市場的を鑑みると29,800円という価格はやや高めにも感じる。しかし、MTVX2004からチューナーの改善やW3Dモード対応などの地上アナログ録画の機能も向上している上、デジタル放送対応と考えれば、さほど割高感は無いように感じる。 デジタル放送を本格的に録画したいのであれば、専用のレコーダなどを購入したほうが満足度は高いだろう。しかし、レコーダは高価なのでちょっと試してみたい、程度のユーザーであれば、面白い選択肢といえるし、デジタル放送対応レコーダのユーザーでも裏番組録画などに活用してもいいだろう。課題はまだ多いが、「パソコンでデジタル放送録画」へ着実に前進していることは歓迎したい。 □カノープスのホームページ (2004年8月6日) [AV Watch編集部/usuda@impress.co.jp]
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