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第188回:2005 International CESレポート【米オリジナルと新技術篇】
~ TiVoの新サービス、松下のHD対応SDカムなど ~


■ いよいよ最終日

 CES最終日の現地時間9日、日曜日。相変わらず黒い雲が低くたれ込め、小雨交じりの肌寒い天候。ラスベガスに到着してかれこれ6日になるが、1日たりともスカッと晴れた日がないのは、砂漠の街には珍しい。

 今回は、日本には直接関係してこない米国独自の放送関連事情とそれに関する製品、そして今後期待の新技術やユニークな製品の情報をお送りする。



■ TiVoの次世代サービス、「Tahiti」

 米国で最大のユーザー数を誇るDVR「TiVo」は、6日のプレスカンファレンスで次世代サービス「Tahiti」を発表した。今週の月曜日から、すでに対応マシンの出荷が始まっている。また対応サービスを契約している既存ユーザーのマシンに対しても、バックグラウンドでの自動アップデートもスタートしている。

ミーティングルームに、巨大TiVoちゃん スタンダードモデル「TiVo Series2」のデザインも新しくなった

 Tahitiの骨子は、以下の3つだ。

  1. ポータビリティ
  2. 放送とブロードバンドの融合
  3. デジタルケーブル対応HD DVR

 1のポータビリティは、TiVoで録画した番組をPCに転送して見たり、Windows PMCマシンに転送して見るという意味だ。以前から「TiVoToGo」という名称で発表していた技術がベースになっている。

 PCへの転送は、TiVoのサイトから無料の「TiVo Desktop」というソフトウェアをダウンロードして、PCにインストールする。操作としてはDLNAクライアントのようなものを想像して頂ければ間違いないが、暗号化はTiVoオリジナルの技術を採用しており、ストリーミングではなくファイルそのものを転送する点が異なっている。

 再生時には、ユーザーが設定したパスワードを入力する必要がある。昨年のCESでは、USBのドングルを利用したユーザー認証を行なっていたが、アナログ放送のコンテンツに関してはパスワードだけでOKになった。将来デジタルコンテンツを転送できるようになったときは、またUSBドングルを採用する可能性もあるという。

 ピル・ゲイツのキーノートでも紹介されたが、TiVoで録画した番組をWindows PMCへ転送する場合は、いったんPCを経由してから行なう。これも暗号化された状態で変換し、Windows PMCにオリジナルの認証ソフトをインストールして、やはり再生前にパスワードを入力して認証を行なう。

ノートPC上で動作するTiVo Desktopの画面 TiVoToGoに対応したポータブルAVプレーヤーで番組再生をデモ

お勧めプログラムの中にDVDタイトルやストリーミングのトレーラーが出てくる

 2のブロードバンドとの融合では、ユーザーが気に入った番組に類似する番組を紹介する「Suggested Program」の中に、PC系大手量販店「Best Buy」で類似作品が購入できたり、Yohoo!が提供する類似映画のトレーラーをストリーミング再生したりする機能が加えられた。音楽CDの最新情報なども、TiVoの画面からチェックできる。

 3のデジタルケーブル対応とは、対応モデルのみの話だ。現在米国には、デジタル放送へのスムーズな移行を促進するための規格「Digital Cable Ready(DCR)」がある。DCR対応のテレビやレコーダであれば、デジタル放送用セットトップボックスを使って細かい設定を行なうといった作業なしに、直接ケーブルをさすだけでデジタル放送が楽しめる。PCで言うところの「プラグアンドプレイ」を、家電ベースで目指したものだ。これに対応した新TiVoマシンが発売され、対応サービスを提供するという。

2系統のHDデジタルチューナを装備した新型TiVo

 そもそもなぜTiVoのサービスの話がこれほど重要かと言えば、基本的にTiVoというのはハードウェアとしてのレコーダを意味するのではなく、「機能」であり「サービス」なのである。ハードウェアはいろいろなメーカーから出ているが、基本機能や、ファームのバージョンも全部TiVoが一括して管理している。

 基本的な機能は、初期のTiVoから最新のTiVoまでまったく同じだ。HDDの容量などに違いがあるのは仕方がないが、今回のTahitiサービスもDCR機能以外は問題なく動作する。TiVoのユーザーにしてみれば、ハードウェアの差異は問題ではなく、どんなサービスの選択肢があるのかが重要なのである。

 TiVoを単に「売れてるDVRの一つ」として捉えていては、米国の正確なテレビ市場の把握は不可能。TiVoはむしろiPod+iTunesのテレビ版、すなわち「それを使うことで生まれるライフスタイル」として考えるべきなのだ。



■ Thomson、低価格製品向け新ブランド立ち上げ

テレビ製造の新会社「TTE」のロゴ

 フランスの総合メーカーThomsonは、米国ではRCA(ブランド)と言った方が通りがいい。従来はRCAブランドのテレビやMP3プレーヤーなどを展開してきたが、昨年7月にテレビ製造の新会社「TCL-Thomson Electronics (TTE)」を立ち上げた。中国企業TCLとThomsonのジョイントベンチャー企業である。

 今後RCAブランドは、新技術の推進や付加価値の高い新デバイスに対して付けられ、売れ筋価格の製品にはTTEブランドを付けて、棲み分けるという。RCAブランドの製品も、テレビの製造自体はTTEが一括して行なうことになる。

 CES会場にブースは出していないが、5日に行なわれたThomsonのプレスカンファレンスでは、廉価市場向けの製品が多数紹介された。デジタル放送対応のブラウン管型テレビや、中小サイズのLCD、リアプロテレビなどだ。

今年7モデル投入するというSDTV用ブラウン管テレビ 2,000ドル以下のDLPも10モデルリリースする

 米国では、日本のようにデジタル放送がすべてHDTVに向かうというわけではない。HDTV以外にも、デジタル放送だが480pが中心の「Enhanced Difinition TV (EDTV)」と、アナログ放送のSDTVがある。HD解像度テレビではなく、EDTVやSDTV解像度テレビも、まだ需要が高いのである。そういった低価格市場向けの製品に、ブランド力があるRCAの名前を使いたくないということもあるだろう。

 またTCLが中国企業であることもあって、TTEでは今後2年間の目標として、アジアへの進出をトップに掲げている。TTLブランドの製品が今日本に入ってきて勝算があるとは思えないが、アナログ停波までまだあと6年あるのは事実だ。儲けが見込めないSDTVテレビを国内メーカーが作らなくなったころに、ローエンド市場向けとして家電系量販店に入ってくることもあるかもしれない。

 


■ Sigma Designs、H.264対応デコーダを展示

8630を組み込んだプラズマテレビ用外部基板

 マルチフォーマットデコーダで知られる米Sigma Designsは、LVCC隣にあるラスベガスヒルトンホテル内のスイートで、H.264のデコードに対応した新デコーダチップ「SMP8630」を公開した。

 デモではパイオニア製プラズマテレビの背面拡張スロットに合わせたボードを製作し、H.264で3Mbps、6Mbps、8Mbpsとビットレートを変えて2パスエンコードしたHD解像度の映像素材を再生した。

 さすがに3Mbpsでは若干輪郭が甘い感じはあるものの、大きく画質が損なわれた感じはなく非常に良好で、新フォーマットの可能性を感じさせる。家電メーカーだけでなく、テレコム系企業からの問い合わせも殺到しているという。確かに3Mbpsでこれだけの映像が送れるならば、ブロードバンドでHD動画配信も現実的な話だ。

8630を搭載したSTB用リファレンスボード

 また8630では、CPU部分が従来のARMからMIPSに変わっており、組み込み用フルLinuxが動作可能になった。消費電力も500mW程度に抑えられ、ポータブルデバイスへの搭載も視野に入っている。具体的な製品ターゲットとしては、Blu-rayやHD DVDのプレーヤー/レコーダはもちろん、H.264を採用するSTBや、DivX Ver.6対応のネットワークプレーヤーとなる。

 また今年末には、HD2ストリームがデコード可能な「SMP8634」のリリースも予定している。すでにSDの世界では4ストリームデコード可能なチップもあり、マルチストリーム再生の可能性が広がっていることを考えると、HDでもマルチストリームの需要は高いだろう。さらに同社ではH.264のSDレベルのエンコーダの開発にも取り組んでおり、2006年秋ぐらいには具体的な製品が出るのではとしている。

 すでにSMP8630のリファレンスボードは完成しており、モジュールビジネスとしての需要にも対応する。1枚あたり100ドル程度、受注数によっては1枚あたり50ドル程度になるという。

 また同社スイートには、SMP8510を使ったポータブルAVプレーヤーと、同8620を使った試作モデルが展示されていた。Sigma製デコーダを搭載したポータブルプレーヤーは珍しい。

SMP8510を搭載したプレーヤー「i.Station PMP1000」 SMP8620を搭載したプレーヤーの試作モデル

 製作したのは韓国のdigitalCube。8620を使用することで、DivX系だけでなくWMVの再生も可能になる。現状ポータブルAVプレーヤーは、DivX系かWMV系かに分かれているが、両方再生できるデバイスの登場までそう長くはかからないようだ。


■ そのほか気になる新製品たち

 健康器具、計測器などを数多く展示する米国企業、Oregon Scientificのブースでは、防水仕様のMP3プレーヤー「Waterproof MP3 Player」を展示していた。スペックとしてはMP3とWMAの再生に対応し、FMラジオも付くという平均的な仕様だが、本体を金魚が泳ぐ水槽に沈めたまま再生するというデモが目を引く。

 イヤフォンも水泳の耳栓のようなゴム製で、海やプールでもそのまま使うことが可能。まだ水泳時に使えるMP3プレーヤーは、骨伝導で聞く米Finisの「SwiMP3」や、iriverの「iFP-700シリーズ用防水ケース SV-i700」など多くはないが、この製品が出てくれば、スイマーにとって選択肢が増えることになる。

プレーヤーの周りを金魚が泳ぐ 付属のイヤフォンも防水仕様

Pro High Speed SDカードから3ストリームのHD映像を読み出すデモ

 パナソニックのブースでは、ハイスピード転送対応「Pro High Speed SDカード」のデモンストレーションを行なっている。20MB/sの転送レートを利用して、HD解像度のMPEG-2を3ストリーム同時に読み出すというものだ。

 プロ用カメラとしては、メモリーに映像を記録する「P2」というフォーマットが提唱されている。現在製品としてはまだSDベースのものしかないが、今回はプロ用HDカメラの試作モデルも展示された。また同時にコンシューマ用のHDカメラのコンセプトモデルが展示されていた。

 コンシューマ用のほうは詳しいスペックはまだ決まっていないが、Pro High Speed SDカード1枚を装着して、MPEG-2でHD記録を行なうという。デザインなどは製品版では異なるが、今年中に製品化したいとのこと。今から楽しみだ。

HD撮影に対応したプロ用P2カメラ コンシューマ用HDカメラのモックアップ

 

□2005 International CESのホームページ
http://www.cesweb.org/
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-1インチの「iVDR micro」を使った携帯音楽プレーヤーなど
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20041005/ceatec05.htm
【2005 International CES レポートリンク集】
http://av.watch.impress.co.jp/docs/link/ces2005.htm

(2005年1月10日)


= 小寺信良 =  テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「ややこしい話を簡単に、簡単な話をそのままに」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンピュータのフィールドで幅広く執筆を行なう。性格は温厚かつ粘着質で、日常会話では主にボケ役。

[Reported by 小寺信良]



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