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“Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語”

第189回:2005 International CESを総括する
~ HD化でシンクロする日米家電市場 ~


■ AVの話題はてんこ盛りだが

 先々週から先週にかけてお送りした2005 International CES(以下、CES 2005)レポートはいかがだったろうか。全Watchグループが連日怒濤のレポートをアップしたため、読む方もずいぶん大変だったことだろう。

会場外にある駐車場スペースに巨大テントを張って、臨時ブースとしている

 そこで今回のZooma!では、CES 2005を振り返って全体を総括してみようと思う。なにせ広大な展示であるがゆえ、すべてをフォローすることは難しいが、大まかなガイダンスは示せるのではないかと思っている。

 まず今回の全体的な印象としては、やはりテレビ関係の展示は異常とも思えるほどに充実しており、各メーカーや方式間で、対立の図式が表面化してきているのを感じた。AV機器は、連日レポートすることが山積である。

 一方PC関係の新しい動きは日本にはほとんど関係ないものが多く、PC系のレポーター各氏は会う人ごとに「なんかおもしろいのない?」と、ネタ探しが本当に大変そうであった。

 PC系のソリューションは、会場外に設けられた巨大テント内や、会場に隣接したラスベガスヒルトンのコンベンションホールで展示されており、まさに有象無象でとりとめもないという状況。もう少し具体性のある区分けを行なわないと、商用で来ている来場者も目的のものが探せずに困ったことだろう。


■ 大画面テレビ戦争

 例年CESでは、サムソンとLG電子の「大画面世界一勝負」が一つの見所になっているが、今回は方向性の変化が見られた。というのも、日本でも昨年半ばあたりから始まった「フルHD解像度」が、このCESでもキーワードとなっていたからである。

LG電子のフルHD解像度71インチプラズマディスプレイ

 LG電子の71インチプラズマは出荷ベースでは最大画面サイズであるが、同時にフルHD解像度であることがアピールされた。だがその実態は、「現状のプラズマ製造技術でフルHD解像度を作っていったらこの大きさになっちゃった」というのが真相のようだ。逆の意味では、「これ以上小さいフルHD解像度のプラズマは無理」ということなのである。

 技術的には大きい方にはいくらでも大きくできるわけで、サムソンの102インチプラズマというのもものすごい。だが逆にこれだけデカいテレビというのは必要なのかという疑問も湧く。ここまでのサイズなら、プロジェクタでやれば済むことなんじゃないかという気がする。

 むろん今回は米国市場向けのアピールということは念頭に置くとしても、もう70インチを超えた時点で、すでに日本の家庭事情とは関係ないレベルの話になってきている。さらにソニーの「クオリア004」が252万円で買えるという時点で、770万円出してプラズマテレビを買うってのは、果てしない金持ちのすることではないかという気がする。

 
西川善司の大画面マニア 第43回:2005年「大画面世界一選手権」の勝者は?
 http://av.watch.impress.co.jp/docs/20050108/dg43.htm



■ 加熱するプロジェクション方式戦争

西川善司の大画面マニア 第45回から「TIが試作したSmooth Pictureベースの1080pリアル対応リアプロTV」

 米国では、リアプロ型テレビが非常に人気が高い。価格に非常にシビアな米国市場では、画面単価で折り合いが付けやすいこと、設置場所のスペースが日本の住宅事情に比べて問題にならないことなどが理由だ。

 この世界でも、プロジェクション方式の対立図式が明確になった。1枚の画像素子パネルでカラー表示が可能な1DLPは、大幅なコストダウンが見込めるため、米国市場から大きく期待されている。同じく反射型のパネルで期待されていたLCOSは、昨年10月にインテルが開発を断念したため、今後反射型単板式画像素子は、DLPに集中するものと思われる。DLP製造の中心企業であるTI(Texas Instruments)は、ここが勝負所だろう。

 そのTIが今回のCESで発表したSmooth Pictureは、1つの微細鏡画素を時間的に角度を変えることで、2画素分を担当するという技術だ。単純に言えばフルHD解像度のパネルも、半分の画素のパネルでOKということで、これまたさらにコストダウンが見込める。これも注目度の高い技術だ。

 
西川善司の大画面マニア 第45回:720p相当のチップで1080p表示する新DLP方式が登場!
 http://av.watch.impress.co.jp/docs/20050110/dg45.htm

西川善司の大画面マニア 第44回から「3LCDグループ立ち上げを表明したしたエプソン・アメリカ社長兼CEOのJohn Lang氏」

 一方で反DLPをスローガンに結成されたのが、3LCDを推進する「3LCDグループ」だ。あらためて推進ロゴマークなどを策定して、会場やカタログなど目立つ位置に露出させている。方式としては格別新しいものではなく、プロジェクション方式としてはRGBの透過型液晶パネルを使う。

 原理的に映像の輪郭の際だちなどでメリットがある3LCDは、日本の画質を重視するユーザーにはこれまでどおり受け入れられるだろう。だがコストパフォーマンスを重視する米国のユーザーに対しては、やはり低価格化への努力を怠っては、DLPへの顧客の流れを止められないだろう。もちろん日本市場へも、米国同様の低価格な商品が出てくることを期待したい。

 
西川善司の大画面マニア 第44回:第44回:日本メーカー6社「3LCDグループ」結成
 http://av.watch.impress.co.jp/docs/20050109/dg44.htm


■ 次世代の覇権を争う両陣営

HD DVD陣営はハリウッドの映画会社から具体的な映画のタイトルを発表するなど、具体性を持たせてきた

 DVDの次の座をかけて、Blu-rayとHD DVDの争いは激化の一途を辿る。ただ、お互い真正面から勝負というよりも、少しニュアンスが違ってきているのを感じた。HD DVDが鼻息荒くハリウッドを巻き込んで戦いを挑んでいるところを、Blu-rayがスルリと肩すかしでかわそうとしているといった印象だ。

 HD DVD陣営はプレスカンファレンスの席で、同規格に賛同するハリウッドの映画会社から具体的な映画のタイトルを発表するなど、かなり具体性を持たせてきた。

 
2005 International CESレポート【HD DVD編】
 http://av.watch.impress.co.jp/docs/20050107/ces05.htm

 それというのも、HD DVDはリライタブルよりもROM規格のほうが先行しており、現在はバージョン0.9。今年第4四半期にはプレーヤーやPC用ドライブの市場投入が予想されている。ROMが先行するというのは、まさに初期のDVDと同じ状態である。

ブルーレイ陣営にはEA、Vivendi、Sun、TIが参加

 一方のBlu-ray陣営は、リライタブル規格のほうがすでに製品もリリースされており先行しているが、ROMの策定はHD DVDよりも遅れており、今年3月になんとかたたき台となる仕様が出てくるといったスケジュールで動いている。これではハリウッド側も、具体的なタイトル名を口にするのははばかれることだろう。

 その一方で、ゲームメーカーであるElectric Arts(EA)とVivendi Universal Gamesの2社が賛同の名乗りを上げた。大容量である点やネットワークとの連携を理由として上げているが、それは別にBlu-rayだけのメリットではない。ゲーム供給メディアとしてBlu-rayを採用するということになるのだろうが、具体的にどういう判断で賛同したのか、現時点ではわからない。

 
【ブルーレイ編】BDAにTI、Sun、EAなどが加入
 http://av.watch.impress.co.jp/docs/20050107/ces03.htm

 Blu-rayの場合、おそらくPC用リライタブルドライブの市場投入は案外早いのではないか。ただし同ROMがかからないドライブとして登場することになる。このような事情は、かつてのDVD-RAMドライブの登場を彷彿とさせる。

 リライタブルドライブとしていち早く市場に出回ったDVD-RAMだが、記録したメディアはDVDビデオと全く互換性がなく、なまじ同じDVDを名乗っているばかりに発売当初は「あれはDVDじゃない」とかなり市場に混乱を招いた。DVD-RAMの利便性は認めるところだが、今でも何で同じフォーラム内なのか不思議なぐらいだと筆者は思っている。

 結局Blu-rayとHD DVDは、かつてのDVDシーンと同じように動いているのではないか。先にPC用ドライブとしてBlu-rayが出て、ROMはそれから少し遅れてHD DVDが出るというシナリオは、DVD-RAMドライブの登場後、少し遅れてDVDビデオ市場が立ち上がるという過去の状況と酷似している。PC用ドライブを含め、コンテンツ保護技術の背景については、PC Watch笠原一輝氏のコラムに詳しい。

 
笠原一輝のユビキタス情報局:今年末商戦の目玉「PC用次世代DVDドライブ」に立ちふさがる課題
 http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2005/0117/ubiq93.htm

 DVD Video市場が遅れて立ち上がったのは、廉価版代用プレーヤーとしてPS2が登場するというタイミングがあったからだ。昨年末発売されたソニーのPSPには、そのあたりのキラー機能がない。CESではソニーが米国で始めてPSPを発表し、ブース内で展示も行なっていたが、あまり米国人の興味は引かなかったようだ。

 
ソニーブースでPSPを発見! ただしメモリースティックの活用デモとして
 http://www.watch.impress.co.jp/game/docs/20050107/ces1.htm


■ AVパソコンにおける日米の乖離

 今回PC系の話題が目立たなかったのは、米国で好調なWindows Media Center Edition(MCE)やXboxが日本でまったく受け入れられていないという事情がある。Microsoftのビル・ゲイツ氏の基調講演はトークショー形式で、米国人には面白かったのかもしれないが、日本で使えるサービスがほとんどないという現状をあらためて認識させられた。

 
ビル・ゲイツ基調講演 デジタル時代は成熟期へ向かうか?
 http://av.watch.impress.co.jp/docs/20050106/ces02.htm
 
対照的だったMicrosoftとAppleの基調講演
 http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2005/0113/mobile273.htm

ビル・ゲイツ基調講演レポートより。日本市場との乖離が印象深い講演だった

 マイクロソフトの日本市場との乖離については、本田雅一氏の考察が参考になるが、筆者は、ちょっと違った方向からこのあたりを考えてみたい。仮にMCEを日本流にカスタマイズしても、米国ほどの成功は収められないだろうと。いうのも、そもそも日本と米国では、PCユーザーの厚さに大きな違いがある。これはCESなどのコンベンションに行くと、いつも痛切に感じることだ。

 例えば日本の幕張などで行なわれるコンベンションの、レジストレーションの風景を思い出してみて欲しい。日本では短冊状の用紙に必要事項を記入するか名刺を2枚付けて、受付のおねえさんに渡す。するとおねえさんは名刺の一枚を短冊にホッチキスで留め、一枚は入場用のタグに入れて渡してくれる。この時、ユーザーの情報は別途入力係の人間かそういう業者に渡され、データベースが作成されるわけだ。基本的に、まだまだ紙書類ベースの国なのである。

 ところが米国のコンベンションでは、必要事項を書類に書いて受け付けに持っていくと、PCの入力端末の前に座った「おばあちゃん」が待ち受けている。おそらくシルバー人材派遣会社みたいなところから、イベントの受付として派遣されてくるのだろう。

 この年の頃なら60~80歳ぐらいのおばあちゃんが、入力した紙を見ながらPCに情報を入力していく。ショーの入場カードは、小型プリンタでプリントアウトされて出てくる。日本で70歳ぐらいのおばあちゃんが、PCに向かってバリバリ情報を入力する姿など、想像できるだろうか?

 だが米国では普通の光景だ。つまり彼女らは、若いときからしっかり教育を受けて秘書などを務め、タイプライターが使える人たちなのである。キーボード操作は我々PCユーザーよりもはるかに年季が入っているから、まったく問題ない。強いて言えば大きい字で書かないと、老眼で読みにくそうだという事ぐらいか。

 筆者がCESのプレスルームで休憩しているときに、となりに座っていた老紳士はノートPC(モデルは忘れたがバイオだった)で、素晴らしいスピードで原稿をタイプしていた。のぞき込んでいた筆者を見て、デスクトップの写真を見せ、三世代の集合写真だと笑った。Eメールでレポートを送ったら、これから奥様と観光するのだと言う。

 日本でPCが問題なく使える層というのは、PCというものが一般に販売されてから使い始めたとするならば、だいたい40代半ばよりも若い層になるだろう。だが米国では、少なくとも入力デバイスに互換性があることから、年齢層の高いユーザーにも抵抗がない。PCのユーザー層が人口に比例して多いだけでなく、年齢層も上に広いのである。さらにOSの作りも、英語圏ならではの考え方の順序や、社会的あるいは文化的な構造などが反映されている部分も、潜在的にあるはずだ。このため、多くの米国市民に受け入れやすいというところも無視できない。

 高年齢層でも、手に馴染んだPCでテレビ録画が簡単にできるとなれば、じゃあやってみようか、ということになりやすい。所詮PCなんです、と開けっぴろげちゃったほうが、米国では受け入れられる。日本市場のように、極力PCであることを隠そうとしてリビングに溶け込ませようとする方向性とは、基本的に逆なのではないかと思う。


■ 総論

 昨年から始まったコンシューマのHD化の波は、今年は具体的にテレビがフルHD解像度をうたいはじめたことで、日米の足並みが揃い始めたというのが今年のCESの特徴だろう。だがそれ以外の面では、やはり米国との市場の違いをあらためて認識されられたショーでもある。

 まずHDDレコーダ市場が全然違う。日本では最も期待の家電だが、米国のDVRはTiVoを除けば、機能的にはかなり絞り、低価格路線だ。80GB~160GB HDD搭載で平均279ドル(CEA市場調査による)と、大手メーカーが参入してもあまり利益のない市場である。

 一方でDVDプレーヤーは、一家に3台ぐらいある。テレビの数と同等と考えていいだろう。従って次世代メディアで米国市場が興味を持っているのはROMであり、テレビを録画するメディアとしてはほとんど興味がない。このあたりも日本市場とはかなり受け止められ方が違う。

 米国で流行るものは、日本でも低価格で販売されることは期待できる。だが日本独自の流行ものは、さほど価格が下がらないまま、どんどん高品質化していくという流れになりそうだ。期待のフルHD解像度テレビも、日本市場がリアプロに対して抵抗があるようならば、まだまだ高額商品という位置づけは今年も揺るぎそうにない。だが米国用に中国で生産される安価なリアプロを輸入販売する業者でも現われれば、市場をひっくり返す可能性はあるだろう。

□2005 International CESのホームページ
http://www.cesweb.org/
□関連記事
【2005 International CES レポートリンク集】
http://av.watch.impress.co.jp/docs/link/ces2005.htm

(2005年1月19日)


= 小寺信良 =  テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「ややこしい話を簡単に、簡単な話をそのままに」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンピュータのフィールドで幅広く執筆を行なう。性格は温厚かつ粘着質で、日常会話では主にボケ役。

[Reported by 小寺信良]



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