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世界最大級のコンシューマ・エレクトロニクス見本市、International CESが北米時間の6日より開幕する。その前日となる5日には、毎年恒例となったマイクロソフト会長兼CSAビル・ゲイツ氏による基調講演が行なわれた。
今年のビル・ゲイツ氏の相手役に選ばれたのは北米で人気トークショー「Late Night with Conan O'brien」のホストを務める毒舌コメディアン、コナン・オブライアン氏。今年の基調講演は、このコメディアンのオブライアン氏が、広がりに広がって難解になってしまった同社のコンシューマ・エレクトロニクス戦略を、一般人の立場からシニカルな切り口で聞いていく……、という笑いをベースにしたインタビュー形式で行なった。
■ デジタル時代の進化は私の想像以上に早い ゲイツ氏は、ここ数年の定番のセリフとなった感もある「2000年からの10年は、デジタル時代(Digital Decade:10年を一区切りとした時間帯)である」と切り出し、「2005年は、このデジタル時代の丁度、真ん中に当たる“変革期”である」と述べ、マイクロソフトが目指す、「家電とPCの融合」が成熟期へ向かうための重要な年であると語った。 この「家電とPCの融合」プロジェクトを具現化した製品といえば、とどのつまり「Windows Media Center」(以下MCE)ということになる。日本ではメーカー独自仕様のテレビパソコンが市場を席巻したことから、MCEの出足はかなり遅れ気味となったが、北米市場ではテレビパソコンのデファクトスタンダードとなりつある。 日本でも2004年秋にはMCE2005がOEM版として自作PC市場に投入され、静かなブームよ呼んだ。後ほど、細かく触れることになるが、このMCEファミリーの展開にゲイツ氏は、まずまずの満足を示しているようで「我々マイクロソフトが想像する以上に、デジタル時代の流れは早い」と述べた。
■ デジタル化された音楽メディアは私の理想を追い越した これを受けて、ナビゲート役のオブライアン氏はブラックジョークを交えつつ「音楽メディアはどうか」とゲイツ氏に尋ねる。 「音楽は最もデジタル化が浸透し、既に人々の生活にとけ込んだデジタルメディアだ。既にデジタル音楽は肌身は出さず携行するものとして広く認知されている」(ゲイツ氏)。 この時代の流れに満足しているゲイツ氏だが、実際に、この流れを加速させたのは、マイクロソフトではなく、ネットワークコミュニティ下で生まれたMP3文化が発端であり、近年ではこうした圧縮オーディオ文化を明るいイメージに昇華して浸透させたAppleのiPodシリーズによるところが大きい。
マイクロソフトもiPod対抗ともいえるマイクロソフト「PlaysForSure」認証プログラムを実施し、このロゴを携えたHDDベースの小型WMA/MP3オーディオプレイヤーをサードパーティを巻き込んで市場投入している。「iPodに勝てるか/負けるか」という話は置いておくとして、いずれにせよデジタルな音楽メディアの活用において、PCを媒介とすることはもはや特別視されていない。 そしてネットワークを利用した透過的な音楽配信サービスは、一般の認知度も高くなっており、実際これは音楽メディアのデジタル化によって引き起こされた音楽ビジネスのパラダイムシフトともいえる。
音楽メディアにおいて、時代は確かにゲイツ氏の理想に追いつき追い越そうとしているのだろう。
■ 写真は音楽同様に「日常のデジタルメディア」となりつつある
オブライアン氏は続いて「デジタルのスチル写真はどうなの?」と聞く。全部アドリブに思える毒舌まみれのオブライアン氏だが、しっかりとマイクロソフトがお膳立てしたインタビュー項目を順番にこなしていく。 既に携帯電話やPDAにデジタルカメラが搭載されているため、デジタルなスチル写真は、音楽メディアと同様に人々の生活に浸透している。音楽とスチル写真は、デジタルメディアとして特別な存在ではなくなってしまったため、携帯電話で音楽や写真が楽しめたり、音楽プレイヤーで写真が楽しめたり……と今や機器のカテゴリを飛び越えた楽しみが行えるようになってしまった。 「ところで、パソコンとカメラが繋がるという意味がそもそもよくわからないんだが」と道化を演じるオブライアン氏に、待ってましたとばかりに、ゲイツ氏が取り出したのは、発売前のニコンのハイエンドデジタルカメラ「D2X」。「好きなように撮影してごらん」とD2Xを手渡されたオブライアン氏は調子に乗って「いいよ、その表情。ステキだ。最高だ。」と叫びながらゲイツ氏を撮影し、これがPCにどんどん転送されていく様を見て驚く。 「ケーブルも接続されていないのに、撮影した写真が次から次へとPCに転送されている!」(オブライアン氏) タネを明かせばなんて事はない。このD2Xには、D2X/D2H用の専用オプションである「ワイヤレストランスミッタWT-1」が装着されていたのだ。演出が過ぎる感はあるが、ゲイツ氏は「デジタルカメラとPCはワイヤレス接続が当たり前になる」とオブライアン氏に説明する。 WT-1はIEEE802.11b/gベースの無線LANユニットであり、価格は73,500円、近日発売が予定されている。このユニットの発売に呼応する形で、対応ソフトウェアがWindowsアップデートで提供される見込みだという。 「デジカメがワイヤレスでPCに繋がるといっても、こんなでっかいカメラ、腕が疲れて使いたくないんだけど(笑)」とオブライアン氏は来場者の気持ちを代弁するが、これに対してゲイツ氏は、「実はD2Xはニコンのハイエンドのプロフェッショナルデジタルカメラだ。でも、ワイヤレスでPCと繋げるというアイディアは一般ユーザ向けのデジカメでも2005年内にはどんどん採用されてくる予定だ」と答える。
思い返せば、この「デジタルな写真メディア」の問答についてはちょっと展開が強引で、オブライアン氏のギャグの応酬で笑いの時間となってしまった。 そして、話題は、「映像(動画)」「テレビ」へと移る。
■ MCEは進化をやめない
「テレビというメディアについては、これから最も力を入れてWindowsとMCEのファミリー全体がサポートしていくメディアになる」とゲイツ氏。「PCでテレビ(映像)を楽しむ」というコンセプト自体は認知度が高くなっており、今後、マイクロソフトのMCEは、テレビ(映像)の楽しみ方の広がりを提供することに注力していく。
1つはMCEコンテンツの充実。今回、スポーツ専門チャンネル「FOXSPORTS」と世界最大のドキュメンタリー専門チャンネル「Discovery Networks」、音楽専門チャンネル「MTV」らとのタイアップを明らかにした。これにはMCEを1つのエンターテインメントプラットフォームとして昇華させていくための思いが込められているようだ。
2つめはMCEのコンテンツ検索性の向上。デモンストレーションでは、電子番組表のくくりを超えた、インデックス化された映画タイトル群から、見たいタイトルを予約できる仕組みを示した。それぞれの映画タイトルは、それぞれ別チャンネルの別の放送媒体(ケーブルTV、衛星放送など)であり、放送日時もバラバラだが、その映画タイトルで予約を入れれば確実にその映画が自分のMCEパソコンに録画される。時間軸を基本として今までの電子番組表の枠組みを飛び越えた、視聴者本意のコンテンツ基準の番組検索法というわけだ。 3つめはWindows XPベースのPCで構成されたコンテンツを一般家電AV製品で利用できる仕組み「Windows Media Connect」(以下WMC)テクノロジーの積極的な展開だ。WMCとは、簡単に言えばWindows XPベースのPCに格納された音楽、写真、映像といったマルチメディアコンテンツをIPネットワーク環境下で共有配信する仕組みのこと。いうなればPCと一般的なコンシューマ・エレクトロニクスとの架け橋となる技術であり、ゲイツ氏が目指す「家電とPCの融合」の根幹となるものだ。
マイクロソフトはこの最たる例としてマイクロソフトとLG電子が共同開発中のWMC対応のDVDレコーダと、DIGITREXのWMC対応液晶TVを紹介した。前者のDVDレコーダではWindows XPベースのPCに格納された映像コンテンツをDVDに直接書き込むことができ、後者ではWindows XPベースのPCに格納された映像コンテンツをシームレスに再生できるようになる。「家電とPCとの融合」というよりは、家電とPCが相互に歩み寄るというイメージが正しいだろう。今後も家電メーカーとマイクロソフトが一丸となってこのコンセプトの具現化を進めていく。
4つめは、サードパーティとのコラボレーションによるMCEのトータルな利便性の向上だ。その第一ステップ的な意味合いを持つと思われるのが「TiVo」の正式サポート。これにより、TiVoベースのコンテンツをMCE環境下で透過的に扱えるようになる。ユーザーにとって直接的かつ最大のメリットは、これまでWindows Media系しかサポートされていなかった携帯型プレイヤーの Portable Media Center端末で、TiVoコンテンツが楽しめることだ。
これは、これまでの何もかもマイクロソフト製品ファミリーの中で完結しようとするこれまでのMCEの動きとは少々異なり、ユーザーの利便性を第一に考えたものであるため素直に歓迎したい。実際、このアナウンスのあと、来場者からの歓声と拍手が巻き起こった。
■ ハイビジョンのビデオオンデマンドをIPネットワークで提供する未来 さらに、これからの映像の進化の方向性として絶対はずせない「HD映像」(いわゆるハイビジョン)についても言及された。
マイクロソフトの考えるHD映像の将来の形の一例として、現在、SBC Communicationsと共同開発中の「IP-TV」を紹介。これは簡単に言えば、HD映像をIPネットワークで配信するビデオオンデマンドシステム。あえて例えるならば、IPネットワークを使ったHD映像ベースのケーブルTVという感じだ。現段階では4つのHD映像ストリームと音声やデータを配信する仕様になっており、テレビ自体が高機能でなくても、HD映像のマルチチャンネル表示やHD映像と情報のマルチウィンドウ表示も可能だという。 実際のデモンストレーションも行われたが、デモソフトの実演という形のように見え、さすがにリアリティはなかったが、PCとIPネットワークを大前提とするマイクロソフトの考える次世代テレビの形というものはこういうものなのだろう。
毎年、最新テクノロジーの動向やマイクロソフトの近未来製品のロードマップで綴られる基調講演であるが、今年は遙かな未来を大風呂敷を広げて語るのではなく、これまで進めてきたマイクロソフトのコンシューマ・エレクトロニクス戦略を復習し、その順調なアップデートの報告を行なうという形式になった。 なお、今回の基調講演では、期待されていた64ビットWindows関連の話題、次世代WindowsであるLonghornの話題、そして次世代ゲーム機であるXbox2の話題には一切触れられなかった。時代の節目であるので、個人的にははったりをきかせた「大風呂敷」や、具体的な「製品」を見たかった気もするのだが……。
□2005 International CESのホームページ
(2005年1月6日)
[Reported by トライゼット西川善司]
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