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大河原克行のデジタル家電 -最前線-
~ プラズマ各社の積極的な設備投資は裏目に出ないのか? ~



■ 相次いで発表される設備投資計画

1,800億円の投資により建設される松下の第4工場

 プラズマテレビ陣営のパネル生産設備に対する投資計画が相次いで発表されている。

 松下電器産業は、2005年9月に第3工場である尼崎工場を月産12万5,000台体制で稼働させたのに続き、2006年7月には第2期生産ラインの稼働により、松下電器全体で月産42万5,000台体制に拡張。さらに、今年初めには、尼崎工場の隣接地に、新たに1,800億円を投資し第4工場を建設すると発表。同工場を2007年7月から稼動し、2008年には同工場だけで月産50万台(42インチ換算)の生産を行なうことを明らかにした。

 既存の大阪・茨木、中国・上海をあわせた松下電器全体の生産能力は、2008年には年間1,110万台に達する予定で、グローバルシェア40%獲得に向けた体制づくりに余念がない。

 また、プラズマに力を注いでいる韓国LG電子も、主力となる亀尾工場の生産能力を強化。2007年度には、年産870万台規模の生産規模を実現する考えで、松下電器を追随する姿勢を見せる。

 さらに、韓国のサムスンSDIも、7,300億ウォン(約890億円)を新たに投資して、2007年5月から年間300万台の増産を可能にすると発表した。これにより、サムスンSDIのプラズマパネルの生産規模は、年間約730万台となり、プラズマテレビでの事業拡大に意欲を見せる。

 一方、日立製作所も子会社である富士通日立プラズマディスプレイの新工場である宮崎三番館を、当初予定より約3カ月前倒しして、2006年10月に稼働させると発表。さらに、宮崎三番館の第2期生産ラインを、当初の2008年から2007年夏の稼働へと約1年も前倒しすると発表した。

富士通日立プラズマディスプレイの宮崎三番館の第2期生産ラインは、2007年夏の稼働へ約1年の前倒し

 これにより、2006年10月には年間240万台の生産規模を達成。2007年夏には年間360万台の生産体制規模となる。

 同社では、2008年以降のプラズマテレビの需要拡大を見込んで、四番館と呼ばれる新たな工場の建設も明らかにしており、これまでに投資した1,500億円の設備投資をさらに拡大する考えを示している。

 6月に松下電器の社長に就任する大坪文雄専務は、「薄型テレビの大画面化・高画質化では、他社に先駆けた商品をつくり、攻めの姿勢を維持することが大切。これが競争に打ち勝つための唯一の戦略だと考えている」と、プラズマテレビ事業をさらに加速させる姿勢を見せている。これは競合他社にも共通した意見だろう 。



■ プラズマテレビに向けられた旺盛な需要

 各社がこれだけプラズマテレビの設備投資に積極的なのは、今後の需要拡大が見込まれる大画面・薄型テレビに対する旺盛な需要にほかならない。

 メーカー各社が異口同音に語るのは、今後は、40インチ以上の大画面化が進展すること、そして、HD対応の比率が増加するという点だ。特に、日本および米国では、大画面化、HD化に対する需要が早期に立ち上がると見ている。

 パイオニアによると、2005年度のプラズマテレビ市場規模は全世界で680万台。そのうち40インチ以上のHDパネル搭載製品は約40%になったと見ている。これが、2006年には1,140万台の市場規模と倍増し、そのうち約5割がHDになると推測しているのだ。

 各社の予測もほぼ同様だ。液晶陣営でも、シャープが大画面分野においては、年度内には37インチ以上を100%フルHD化すると発言していることからも、HD化の進展が急速な勢いで進んでいることがわかるだろう。

 これだけの旺盛な大画面テレビへの需要があるからこそ、各社は今から積極的な設備投資を発表しているのである。



■ 積極投資に懸念の声も

 だが、こうした積極的な設備投資の動きに対して、懸念している業界関係者が少なくないのも事実。というのも、プラズマテレビだけでも、需要予測を遙かに上回る生産設備投資が見込まれているからだ。

 例えば、日立製作所の予測によると、2008年度の全世界のプラズマテレビの市場規模は、約1,300万台。先に触れた各社の生産規模を見ると、松下電器、LG電子のトップ2社だけで約2,000万台。これにサムスンSDI、日立富士通プラズマティスプレイ、パイオニアの生産設備を足すと、遙かに需要予測を上回る。

 さらに、液晶テレビの大型化の進展や、SEDといった新たなパネルの登場の動きも、プラズマテレビの需要動向になんらかの影響を与えるのは明らか。リアプロジェクションテレビも、画質の向上が図られており、大画面テレビ市場におけるプラズマテレビとの競合も見逃せない。

 それだけに、各社の積極的な設備投資に対して、「過剰」との見方が広がり、それを懸念する声が出ているのだ。

 同様のことは、液晶テレビでも起こっている。

 シャープは、亀山工場の生産能力の強化とともに、2006年10月から生産を開始する亀山第2工場によって、生産体制を大幅に拡充。また、ソニーも、韓国サムスンとの合弁会社であるS-LCDにおいて、新たに2,220億ウォン(約280億円)の設備投資を行ない、生産体制を増強するのに加えて、これとは別に、サムスンと約20億ドルを分担投資し、2007年秋には新たな生産設備を稼働させる考えを示している。

 さらに、サムスンも単独で液晶パネルの生産拠点への投資を積極化しているほか、日立製作所と松下電器産業、東芝が共同で設立したIPSアルファテクノロジも、千葉県茂原の生産拠点を約2カ月前倒しして稼働させるほか、新たに1,100億円の投資を行ない、2007年にはさらに生産体制を拡大する。

 これに台湾勢の動きを加えれば、当然、ここでも過剰投資との見方が出ている。



■ 各社ごとに大きな差がある予測値

 さらに、各社の需要予測に大きな開きがあることも見逃せない。

 先に触れたように、日立製作所が2008年度には約1,300万台のプラズマテレビ市場が見込まれるとしているのに対して、松下電器は2008年度には約1,800万台のプラズマテレビ市場が見込まれると予測。さらに、パイオニアは、2008年には1,970万台の市場規模を見込んでいるのだ。

左より、日立、松下、パイオニアが予測するプラズマの世界市場動向

 日立とパイオニアを比較しても、2008年にはその予測値に約700万台もの差がある。各社の予測値にこれだけの差があると、勝ち組、負け組がはっきりするのは明らか。

 予測に対して、需要が下回れば、それは過剰投資となり、逆に、予測を需要が上回れば、生産が間に合わず結果としてシェアを落とすことになるからだ。いずれにしろ、事業への影響は避けられないといえる。

 薄型テレビを巡り、メーカー各社は、まさに生き残りをかけた設備投資を続けている。今の設備投資の状況と、各社の読みの違いが大きくずれている事からすると、数年後には、どこかが厳しい状況に陥らざるを得ないのは明らかだ。


□松下電器のホームページ
http://panasonic.co.jp/
□日立製作所のホームページ
http://www.hitachi.co.jp/
□パイオニアのホームページ
http://www.pioneer.co.jp/
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(2006年5月8日)


= 大河原克行 =
 (おおかわら かつゆき) 
'65年、東京都出身。IT業界の専門紙である「週刊BCN(ビジネスコンピュータニュース)」の編集長を勤め、2001年10月からフリーランスジャーナリストとして独立。BCN記者、編集長時代を通じて、15年以上に渡り、IT産業を中心に幅広く取材、執筆活動を続ける。

現在、ビジネス誌、パソコン誌、ウェブ媒体などで活躍中。PC Watchの「パソコン業界東奔西走」をはじめ、Enterprise Watch、ケータイWatch(以上、インプレス)、nikkeibp.jp(日経BP社)、PCfan(以上、毎日コミュニケーションズ)、月刊宝島、ウルトラONE(以上、宝島社)、月刊アスキー(アスキー)などで定期的に記事を執筆。著書に、「ソニースピリットはよみがえるか」(日経BP社)、「松下電器 変革への挑戦」(宝島社)、「パソコンウォーズ最前線」(オーム社)など。

[Reported by 大河原克行]


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