■ モバイルAVを諦めなかったソニー AV機器というのは大きく分けて2つの種類がある。屋内で使うものと、屋外で使うものだ。このうち音楽のほうはウォークマンがプレーヤーの小型化に成功したため、早々に外に持ち出す文化を築いたわけだが、テレビを持ち出すという文化はあまり定着しなかった。 だがようやくここに来て、盛り上がりそうな気配を見せている。もちろんノートPCのソリューションは以前から存在するわけだが、ワンセグケータイやiPod、PSPといったデバイスでの視聴も、根強い人気で支えられている。 そこで足枷になっているのがコピーワンスである。オリジナルを失ってもいいのであれば、サイズを縮小してポータブルデバイスへ転送は可能だが、解像度がまったく違うわけだから、その損失感は非常に大きい。 アナログ放送時代は各メーカーともモバイル持ち出しに対してのアプローチが行なわれていたが、デジタル放送ではうまい解決策が見つからず、このまま終了かと思われていた。だが今回のスゴ録「RDZ-D900A」(以下D900A)は、デジタル放送番組を持ち出しても、オリジナルが消えないという機能を実現した意欲作である。 D900Aは、この冬商戦のスゴ録ラインナップでは最上位モデルで11月1日発売。つまり本日発売である。店頭予想価格は15万円前後だが、ネットでは11万円を切る価格で予約をスタートさせたところも多い。 Blu-ray Discレコーダ発売間近のこの時期にDVDレコーダか、と思われるかもしれないが、この持ち出し機能の実現は、デジタル放送コンテンツ活用例として、そして同時にコピーワンスによって抑制されつつある文化の例として、記憶に残る事例となるはずである。 スゴ録初のデジタル放送ダブル録画機でもあるD900Aを、早速試してみよう。
■ シンプルでストイックなデザイン ではいつものようにデザインから見ていこう。この冬発売のスゴ録ラインナップでは最上位モデルということで、天板まで含め全体を黒でシックにまとめている。フロントパネルは背面から黒くマスキングしたアクリルで、中央部の文字が浮き出すように見える。このあたりの「窓を作らず表示が浮き出る」という作りは同社ウォークマンなどでも採用されている、共通のセンスだ。
フロントパネルの上部はヘアライン仕上げのアルミ張りで、最近のレコーダとしては珍しい高級路線だ。左には電源、右にはイジェクトボタンがシンメトリックに配置されている。 フロントパネルを開けると、かなり充実したボタン類が現われる。コストダウンのために操作をリモコン一本に絞るレコーダが多い中、スゴ録は以前から本体だけでも一通りの操作ができるという点にこだわりを見せている。 ドライブは中央にあり、DVD±R/RW、DVD+R DL記録に対応。再生はこれらに加えて、DVD-R DLとDVD-RAM対応となっている。ちなみにAVCHDディスクの再生には対応していない。やはりこれはBDレコーダの登場を待つしかないようだ。内蔵HDDは400GBで、最上位のデジタル放送ダブル録画機としては、若干他社に見劣りする点は残念である。
本体右側にはB-CASカードスロットと共に、USBとi.LINK端子がある。USBはデジカメやPSPとの接続、i.LINKはHDVカメラにも対応と、同社得意分野の製品を繋ぐステーション的役割を担っている。 背面に回ってみよう。本機はデジタル放送が全波ダブルチューナ、それに加えてアナログチューナを1基備えている。RF入力は、BS/110度CSデジタルは以前からまとまっているが、地上デジタルとアナログ放送を1つにまとめて、配線をすっきりした。多くの住宅ではVHFとUHFを混合機でまとめて伝送しているので、この方法は現実的だろう。 アナログAV入力は背面に2、前面に1の合計3系統。同種類の出力は1系統である。D4端子+アナログ音声出力のセットを備えるほか、光デジタル音声出力を持つ。HDMIは1系統だ。
リモコンも見てみよう。基本的には以前からのものとかわりはないが、本機ではボディに合わせて色が黒になっている。GUIはお馴染みのクロスメディアバー(XMB)で、この操作のために中央部にはジョイスティック型コントローラが付けられている点など、スゴ録シリーズの顔はそのままだ。
■ 全自動までは今一歩のダブル録画機能 続いて中味の方を見ていこう。今回のモデルでは、ソニーとしては初のデジタルダブルチューナ搭載機となっている。デジタル放送のDRダブル録画機能は、2005年9月に日立「Wooo」が初めて搭載したわけだが、1年以上かかってスゴ録もようやく、ということになる。 番組表は従来と同じく、アナログがGガイド、デジタルが独自形式というスタイル。最近のレコーダはHDテレビの解像度に合わせてかなり広範囲のエリアを表示できるようになっているが、本機は相変わらず最大4ch表示である。 その代わり以前からの特徴である検索の速さは、今回新検索エンジンを搭載して、さらに磨きがかかっている。おそらくもっとも番組が多いであろう「バラエティ」で地上波を検索してみたが、200件の検索結果を1秒以内で表示した。歴代レコーダの中でもダントツのスピードである。
ただ放送全波に対して一度に検索できない点などは、まだ番組表縛りが抜け切れていない点もある。しかしこれだけ検索をウリにするのであれば、いちいち番組表やホームメニューから行かずに、リモコンに専用ボタンを付けた方がいいように思うが、どうだろうか。 さて肝心のダブル録画だが、番組表などから予約を行なうと、基本的には「録画1」のほうで予約される。重なった時間の番組もこの「予約1」で予約を入れようとするので、当然警告画面が出る。このまま強行すれば、従来の1チューナ機と同じで後から入れた予約優先となる。
ダブル録画を行なう場合、重複予約の警告が出た時点で、手動で「録画2」に設定変更をする必要がある。まあ順当と言えば順当な手順であるが、DIGA「DMR-XW50」では、2つ目の重複は勝手に余っているラインで録画するよう設定されるといったあたりに、時間をかけて練られた跡が伺えた。 もっともこれは、本機がMPEGエンコーダを1つしか搭載していないため、「録画1」と「録画2」は同じ機能ではないという事情がある。「録画1」ではDR記録を始めDVD用のSDエンコード録画、アナログ録画が可能だが、「録画2」ではデジタル放送のDR録画のみが可能という恰好になっている。 ただ考えてみれば、デジタル放送の持ち出しが可能になった時点でアナログ放送を無理に予約する必要はないし、DVDに直接録画する人も今はほとんど居ないだろう。そのような現実をふまえれば、やはりDRモード限定であっても重複予約の自動予約振り分けはやるべきだったと思う。 また指定したジャンルやユーザーの好みを学習して自動録画する「x-おまかせ・まる録」は、引き続き搭載している。ただこれも「録画1」に割り当てられるため、もう「録画1」は大忙しである。せっかくダブル録画であるならば、やはり上手い具合に2つのラインを使い分けてくれる機能は欲しい。 録画番組視聴に関しては、番組の盛り上がったところだけを視聴できる「ダイジェスト再生」、1.5倍速見機能などは、引き続き搭載している。また録画した番組をジャンル別や放送波別にグルーピングする「オートグルーピング」機能も健在だ。
■ コンテンツの権利持ちだしを実現 本機のもう一つの目玉である、PSPへの持ち出し機能「おでかけ・おかえり転送」を試してみたい。前モデルの「RDZ-D97A」でも、デジタル放送番組のPSP転送は実現していたが、コピーワンスの制限によって、書き出した番組は本体から削除されていた。 だが今回は、PSPへ番組そのものを書き出すと共にその権利情報を持ち出すことで、本体内からは番組ファイルを削除せず、単に再生できない状態にするということで解決した。PSPからは権利情報を本体に書き戻すことで、オリジナル番組ファイルもまた再生できるようになる、という仕掛けである。 この方法は、かつてウォークマンなどで使われていた「チェックイン/アウト」と同様の考え方である。旧ウォークマン時代は、自分で買ったCDであってもこのチェックイン/アウト方式で転送しなければならず不評を買ったが、それがスゴ録で役に立ったわけだ。 別メディアで恐縮だが、以前対談記事で、番組のポータブルデバイスへの転送にはこのチェックイン/アウトシステムが使えるはずだ、と指摘したことがある。今年6月にこれを提唱したのだが、半年経たずにこれを実装した製品が出てきたというのは、感慨深いものがある。
「おでかけ転送」では、DVDに番組を書き込むような調子で、転送する番組を選択していく。表示方法を変更すれば、番組のファイルサイズも確認できる。メモリの空き容量と選択の合計が右上に表示されるので、あとこの番組も持ち出せるな、といった目安になる。
権利情報に関しては、転送を始める前に「おでかけ中になります」という注意が表示される程度で、そのまま転送が開始されるあっさり具合だ。転送中は通常メニュー画面に戻ってしまうので、逆にいつ転送が終わるのかは本体ディスプレイ内の「DUB」表示をチェックしていないとわからないほどである。転送時間は、録画時にPSP転送用ファイルを同時作成しているため、PCを使ったファイル転送と遜色ないスピードで行なわれる。 PSPに転送した番組は、本体では「おでかけ中…」というアイコンになっている。「…」がかわいくてなかなかイイ感じだ。これを選択しても、当然再生できない旨の表示が出る。ただ「おでかけ中のタイトルはできません。」という文章は今ひとつ日本語になっていない。「おでかけ中のタイトルは再生できません。」あるいは、「おでかけ中のタイトルは操作できません。」が正しい表現だろう。
一方PSP本体の方には、映像ファイルを削除する機能が付いている。権利情報を持った映像の削除時には、削除確認画面が表示されるようになっている。実際にこれで削除を行なうと、本当に削除される。 これは一見削除できないようにしたほうがいいのではないか、と思われがちな部分ではあるが、PSPで見ればオリジナルはなくなっても構わない番組もあるわけで、自分の責任においてコンテンツの権利を管理するという方向性を啓蒙する意味でも正しい。これを削除できなくしてしまうと、必ずスゴ録に繋がなければ削除もできない、という縛りができてしまって、多くの消費者に受け入れられなかった「チェックイン/アウト」型ウォークマンの二の舞になるわけである。
では「おかえり転送」を試してみよう。数秒PSP内のファイルを検索したのち、「おかえり」対象の番組が表示される。ここで「おかえり」したいものを選択して実行すれば、これも数秒でおかえり転送が完了する。 本体内の番組が復活しているのは言うまでもないが、PSPの方も番組ファイルが自動的に削除されていた。もちろんPSP側で削除した番組は、「おかえり」ができないので、「おでかけ…」状態のままになる。権利情報がなくなった番組は削除が可能なので、ゴミファイルになるわけではない。このような連携方法であれば、問題なく使えるだろう。
■ 総論 年内にBDレコーダも発売されるということで、DVDレコーダの新製品も若干影が薄くなっているような印象もある。だがRDZ-D900Aの場合は、ハイビジョンのまま残すということを考えなければ、機能はかなりBDレコーダと被っている。PSPのおでかけ・おかえり転送などの機能は、日々コンテンツを消化していくという考え方に立てば、Blu-rayよりもリーズナブルな選択肢として考えることができる。 期待のダブル録画は、MPEGエンコーダが1系統しかないこともあって、かなり「録画1」側への比重が高い。すでにデジタル放送受信可能地域ではDR録画が中心となることは見えているわけで、「x-おまかせ・まる録」のような自動録画機能などは、DR固定という条件が付いても、上手い具合にタスク分散できるようなアルゴリズムを望みたい。 もう一つの目玉であるおでかけ・おかえり転送は、想像以上にスムーズな連携が可能だと感じた。さらにこの機能にBlu-ray Discが追加されれば、高解像度から低解像度まで、現行の規定のままで多彩な運用ができるという未来像が見えてくる。コピーワンスも今年12月に見直しに関する調査報告が出てくる予定だが、その成り行きを見守るだけの膠着した状態を打開できる技術として、高く評価したい。
また新機能として、静止画やビデオをアルバム状にまとめてDVDメディアへ保存できる「x-ScrapBook」もある。ただ写真の見せ方としては、以前から存在する「x-Pict Story HD」のほうが完成度が高い。x-ScrapBookはどちらかと言えば、DVDオーサリング機能を静止画寄りにシフトさせたもの、という印象を持った。さらなる改善を期待したいところだ。 全体的にみれば他社にはないユニークな機能を多数備えており、スゴ録は独自路線を築いたと言える。ある意味ユーザーが知恵を使いながら、楽しく使っていけるレコーダということになるだろうか。 Blu-ray Discもいいが、D900Aも手堅い1台として侮りがたい魅力のある1台だ。
□ソニーのホームページ (2006年11月1日)
[Reported by 小寺信良]
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