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“Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語”

第280回:InterBEE 2006レポート
~ 今年のテーマは「来年」!? ~



■ 大物から小物へポイントが変わる放送業界

 今年もまた、InterBEEの季節がやってきた。国内では秋にCEATECやWPC EXPOなどコンシューマデバイス系のショーが多いが、例年このInterBEEが大きなショーとしてはトリを務める格好になる。もっとも基本的には放送機器の展示会なので、あまり一般の人には関係ないのであるが、最近はプロとコンシューマの垣根も次第に低くなってきており、技術的なベースは一緒、というようなことも起こり始めている。

 すでに目立った製品は編集部によるレポートが上がっているが、今年は大がかりなソリューションの立ち上げよりも、その隙間を埋める製品が目立ってきた感がある。Zooma! ではプロフェッショナル製品のトレンドを中心に、業務ユーザーからハイアマにとっても面白そうなものをピックアップしてお送りする。



■ XDCAMをメインに据えたソニーブース

一瞬ソニーがうどん屋始めたのかと思わせるブース

 今年のソニーは、4月に国内販売を開始したXDCAM HDのソリューションと、映像制作では映画「UDON」をフィーチャーしてブースを展開、多くの来場者でにぎわった。

 今年4月のNABで参考出品として発表されたソフトウェアベースのノンリニアシステム「XPRI NS」が、InterBEEで正式にお披露目された。HPのワークステーションとソフトウェアのターンキーで、来年1月に発売開始、価格は約480万円。


ソフトウェアベースに移行したXPRI NS 従来の周辺機器も利用可能 本体はHPのワークステーション

 XDCAMの最高ビットレートである35Mbpsの映像は、3レイヤーまで同時再生可能。編集機としてのコントローラなどは、旧XPRIのものをUSB接続で使用できる。

 また参考出品として、VAIO typeR MasterをベースにしたXPRI NSも登場した。発売時期などはまだ未定ではあるものの、ソニーとしては当然あってしかるべきラインナップだろう。そのほか参考出品としては、ノートPCベースで動作する「Xpri NS On Laptop」、USB接続のXACAM外付けドライブなどが展示された。


VAIO typeR Masterを使用したXPRI NSも参考出品 ノートPCベースのXPRI NS XDCAM外付けドライブも来春リリースを目指して開発中

 HDV関係では、今回新たにHDVレコーダ「HVR-1500」を発表した。来年2月発売予定で、価格は105万円。ご存じのようにHDVは元々コンシューマの規格であるため、これまでは業務用デッキもコンシューマ・業務部門が設計していた。一方HDR-1500は、HDVデッキとしては初のプロ機部門であるソニー厚木設計となる。

 編集機などで業界標準の9ピンリモート制御が可能で、HD-SDI出力を2系統標準搭載。ただしHD-SDIの入力には対応しない。また従来プロ用デッキ同様の応答性、信頼性を踏襲し、イジェクトボタンを押しながら電源を入れることで強制的にテープを排出する、イマージェンシー・イジェクトといった機能も実装する。

 プロ用ラインモニタのラインナップとして、ソニーでは以前からLUMAシリーズを展開しているが、今回はフルHDの液晶パネルを採用したLUMA 「LMD-2450W」(24型)、「LMD-2050W」(20型)を出展した。来年春発売予定で、価格は未定。


プロフェッショナル向けHDVレコーダ「HVR-1500」 LUMA新モデルはアクリルケースに入ったモックアップ展示

 コンシューマのテレビではフルHDが今年のトレンドだが、遅れてプロ業界にもようやく、といった形である。このあたりはやはり、数で圧倒するコンシューマのほうが展開は速い。今回は新たに2画面表示や波形モニタ表示機能も追加されている。ただ実際に映像は表示されておらず、デザインモックのみの展示であった。

ついにHD-SDIまで対応、どんどん成長する「Anycast Station」

 業務用機器では、以前からイベントなどの用途向けに販売されている「Anycast Station」に、HD-SDI入力のオプションモジュール「BKAW-590」が出展された。モジュールを入れ替えることで、HD-SDI入力2系統、出力1系統の装備が可能。

 以前からアナログコンポーネントのHDインターフェイスモジュールは存在したが、今回HD-SDIを装備することで、プロ用途でもライブシステムとしての活用が可能になる。年内の発売を予定している。



■ 来年夏に向けてAVC-Intraシステムを開発するPanasonic

巨大103インチプラズマ(約340kg)がぐるぐる回転、Panasonicブース

 DVCPRO HD、P2といったシステムで展開するPanasonicは、今年「P2HD」と銘打ってP2のHDシステムを訴求する。今年4月のNABでは、AVC-Intra(AVC-I)を使った新しいフォーマットを発表したのも記憶に新しいところだが、ご存じのようにコンシューマでは先週、AVCHD方式のビデオカメラを発表した。プロでもこのまま勢いに乗るかと思われたが、P2カムコーダを始めとする製品群は、来年夏発売予定。

 会場ではコンセプトモデルもいくつか展示されていたが、2/3インチ200万画素3CCDモデルにAVC-Iユニットを標準搭載する予定。また現在発表されているP2 camの「AJ-HPX2100」、ラップトップスタイルのポータブルレコーダ「AJ-HPM100」、スタジオデッキの「AJ-HPS1500」には、オプションボードの追加で対応予定だという。なおP2ハンドヘルドの「AG-HVX200」は、オプションによるAVC-I対応は見送られた模様。


来夏リリース予定のAVC-I対応カムコーダ(モックアップ) 次世代VariCamのコンセプトモデル

将来AVC-I対応となる「AJ-HPX2100」 P2のラップトップレコーダ「AJ-HPM100」もAVC-I対応予定

マルチフォーマット対応小型スイッチャー「AV-HS300」

 スイッチャーでは、小型ながらマルチフォーマットに対応したライブスイッチャー「AV-HS300」がブース内のあちこちで展示され、注目を集めた。

 SDI/HD-SDI入力5系統、DVI-I入力1系統の合計6入力で、オプションでアナログHDコンポーネント入力にも対応。すべての入力に対して10ビットのフレームシンクロナイザーを搭載、世界各国のフォーマットの異なる信号同士のスイッチングを可能にしている。

 以前からアナログベースではEDIROLの「V-440HD」というマルチフォーマットスイッチャーがあり、業務ベースで好評だが、それのデジタル版のような感じだ。AV-HS300はSDI/HD-SDIがベースなので、もうちょっとプロフェッショナルユース寄りとなるだろう。今年11月より発売開始で、価格は約89万円とかなり安いのも魅力だ。



■ 共同展示で大ブースとなったグラスバレー/カノープス

グラスバレーとカノープスの共同ブース

 昨年末に仏トムソン傘下となったカノープス。今年は同じくトムソングループのグラスバレーと、国内初の共同ブースを構え、大規模な展示となっている。展示内容もグラスバレーの強い部分、カノープスの強い部分、両方ハイブリッドのものなどがあり、協業はうまく進んでいるようだ。

 グラスバレーの新製品としては、ソフトウェアベースのフィルムフレームワークシステム、「Bones」が出展された。従来テレシネ時に使用するフレームワークとしては「DaVinci」がよく知られているが、BonesはLinuxワークステーションで動作するソフトウェアベースのシステムとなる。

 画像の修復、フィルムの揺れを押さえるスタビライザー、フォーマット変換のスケーラーといったアプリケーションモジュールで構成され、Spirit4Kデータシネとダイレクトに接続可能。まだ機能的には「DaVinci」には及ばないが、時代の潮流から見てもそのうち主流になると思われる。

 最近注目を集めているオールインワン型マルチフォーマットスイッチャーだが、「Indigo」もその一つ。SDとHD、DVIなどの信号を混在して使用でき、アナログやAES/EBUオーディオのミックスも可能。従来のグラスバレー製スイッチャー同様、E-MEMやフレームストア、DVEも1ch装備する。価格は250万前後の予定。ただ内部プロセスがSDベースのため、日本国内では微妙に市場がない状態。世界的にもハイビジョン先進国である日本にはあまりニーズがない製品を持ってくるあたりが、外資系企業の今後の課題だろう。

フィルム用フレームワークシステム「Bones」 グラスバレー製オールインワンスイッチャー「Indigo」

「HDWS-3000MIP」にP2カードリーダをビルトインしたモデル

 カノープス製品では、EDIUSをベースにしたHD対応ノンリニア編集システム「HDWS-3000MIP」をメインとしたフィーチャーが多数展示されている。「K2 EDIUS Share」は、グラスバレーのサーバであるK2システムとHDWS-3000MIPをネットワークで結び、時差編集を可能にしたシステム。映像のキャプチャをスタートして7秒後から編集を行なうことができる。

 回線収録や生中継などの映像を編集するといった用途には、以前からグラスバレーでは「NewsEdit」という製品があったが、編集機能としてはEDIUSのほうが高いこともあって、使い勝手はこちらの方が上だろう。


XDCAMのプロキシを利用した高速編集が可能

 また今回のEDIUSは、XDCAM独自の編集を大きくフィーチャーした。XDCAMはディスク内にHDレゾリューションの実データと、小さく圧縮したプロキシデータを内包するわけだが、新EDIUSではプロキシを約20倍速で取り込み、編集を開始。ハイレゾリューションのデータの取り込みはそのままバックグラウンドで継続され、取り込みが終わったクリップから順にプロキシからハイレゾデータへ自動で置き換わる。

 これまでXDCAMはノンリニアと組み合わせる際に、メモリーベースのP2に比べて転送時間がネックになっていたわけだが、プロキシを上手く使うことで時間を無駄にすることなく編集作業に入れるのがポイントだ。

 またHDWS-3000をVTRエミュレーションするオプションも発売する。例えば大量のテロップ入れなどは、ノンリニアよりもリニア編集でやったほうが速いというニーズは、日本には少なからずある。このような作業のために、ノンリニア機であるHDWS-3000をリニア用編集機からVTRとして制御することができる。

上のMulti I/Oプロセッサに9ピンリモートやコンバータを内蔵

 コントロールはブレイクアウトBOXにある9ピンリモートで行なう。またこのBOX内にはアップコンバータ、ダウンコンバータを内蔵しているため、最終段で必要な解像度をリアルタイムで取り出せるのもポイントだ。

 ユニークな製品としては、HD-SDI対応のモザイク処理システム「MRL-5000HD」を参考出品した。WACOMのモニタ兼用タブレットを使ってマスク位置や形状を描画、左手のコントローラでサイズやモザイクの濃さなどを調整する。

 特徴的なのはフットペダルで、クルマのアクセルのように踏み込んだ量に応じて、映像のスピードコントロールやコマ送りができる。右足が順方向、左足が逆方向だ。両手両足を駆使して作業を行なうため、従来のスイッチャーなどに比べて格段の作業効率の向上が見込める。


HD-SDI対応のモザイク処理システム「MRL-5000HD」 足下のフットペダルで映像を制御

 以前からSDやHDV対応のモデルは、アダルト業界を中心に広く浸透していた製品だが、今回はHD-SDI入出力に対応した。放送業界でも昨今は肖像権やプライバシーの関係で、報道映像にモザイク処理を施す機会が増えた。このような用途には最適だろう。価格は500万円前後を予定している。



■ マルチフォーマットに強みを見せるEDIROL

 大きなメーカーが気付かない部分を上手く埋めていく製品群で、業務ユーザーを中心に人気が高まっているEDIROL。今年はマルチフォーマット対応スイッチャー「V-440HD」のラックマントモデルとも言える「V-44SW」を発表した。価格は98万円(税抜き)。


マルチフォーマット対応をアピールするEDIROL ラックマウント型マルチフォーマットスイッチャー「V-44SW」

 パネル型スイッチャーの「V-440HD」とほぼ同等の機能を有しているが、フェーダーがない分、操作は大幅に簡易化されている。主にイベントホールなどの設備向けを想定している。

 またイベントなどでマルチスクリーンを制御するための、スレーブユニットとしても機能する。V-440HDとV-44SWをMIDIで接続すると、複数台が同期して動くようになる。これまではパネル型のV-440HDを複数台用意する必要があったが、スレーブ機がラックマウントモデルで可能になれば、移動が付き物の屋外イベントでも強くなるだろう。

1Uサイズのマルチフォーマットコンバータ「VC-300HD」

 今年のNABで製品発表されていたマルチフォーマットコンバータ「VC-300HD」の変換画質のデモンストレーションも行なわれた。VC-300HDは、HD-SDIとHDVの相互変換を始め、アナログとデジタル、フレームレート、SDとHDなどあらゆる映像ソースを相互変換可能なコンバータ。一部に一方向だけの変換があるものの、1台でほぼ何でも、と言っていい変換が可能だ。

 実際の変換デモでは、オリジナルのHDCAMの映像をHDVに変換していたが、滝の水しぶきなどMPEGの苦手な部分も、ディテールを落とすことなくエンコードできていた。発売は来年2月頃を予定している。



■ 総論

 もはやハイビジョンソリューションは、プロだけのものではない。テレビ、ビデオカメラを中心に、クオリティが問われる時代になった。それと同時に、プロとコンシューマの垣根も下がったように思われる。

 多くの放送人が予想しなかった事の1つが、HDVフォーマットの応用であろう。性能のいいビデオカメラが登場したことはもちろんだが、再生互換が高いファイルフォーマットとして、アーカイブや画像伝送としての活用も徐々に提案が始まっている。

 今回コンバータなど多くの周辺機器が登場し、注目を集めた背景には、すでにキー局を始めとする大手は設備投資が終わり、今後は新旧の機材を混在して使わざるを得ない現実に向けての戦略へ、転換しつつあるということなのかもしれない。

 地方局ではまだ今年から来年にかけてデジタル化というところもあるが、そこへの設備投資は2008年北京オリンピックまでに完了すると見られている。制作会社やポストプロダクションユースの製品は、反対にこれからが勝負となってくるだろう。


□InterBEE 2006のホームページ
http://bee.jesa.or.jp/2006/ja/index.html
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【2005年11月16日】InterBEE 2005が開幕。ソニーはXDCAMをHD対応に
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【2004年11月18日】Inter BEE 2004会場レポート
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http://av.watch.impress.co.jp/docs/20041118/inter.htm


(2006年11月16日)


= 小寺信良 =  テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「ややこしい話を簡単に、簡単な話をそのままに」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンピュータのフィールドで幅広く執筆を行なう。性格は温厚かつ粘着質で、日常会話では主にボケ役。

[Reported by 小寺信良]



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