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“Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語”

第291回:CES 2007で占う今年のトレンド
~ 米国市場の姿は未来の日本と重なるか ~


■ モノだけ見てたらわからない今年のCES

 すでに日本を出発する前から、取材陣らの間で今回は目玉と呼ぶべきものがないのではないか、といった不安が聞こえていた。近年のCESでは、毎年大画面世界一合戦や、Blu-ray Disc vs HD DVDの火花、各社プレーヤーやレコーダの進行状況など、わかりやすい注目ポイントがあった。やはり戦いというのは、華やかさを添える要素であるらしい。

 一方今年は、すでに米国ではBDとHD DVDは昨年上半期のうちにラウンチを済ませており、ハードウェアよりもむしろコンテンツのタイトル数勝負みたいなことになってきている。米国ではレコーダはほとんどニーズがないこともあって、会場で新たにどちらかのレコーダがお目見えすることもなく、相変わらず試作機が並んでいるような状況だ。

 しかし米国は発明と特許の国だけあって、まだ形はないものの、可能性のある技術というのは展示が多かった。もはや「モノありき」だけでは語れなくなったというのが、今回のCESだったのかもしれない。

 全体的に落ち着いたトーンの2007 International CES(CES)であったわけだが、それだけに世界市場の在り方のようなものを考えさせられた取材であった。今回のZooma!では、CESで出会った新技術やインタビューなどを通して得られた情報を元に、今年の傾向を考えてみよう。


■ チップから見るBlu-ray Discの現実

 日本では次世代DVDの争いは、レコーダを中心に展開されることがわかっている。HD DVDの東芝は7月に「RD-A1」で先手を打ったが、まだこれは普及モデルとは言えない。一方BD陣営は11月に松下が、12月にソニーがそれぞれ1モデルずつ発売したばかりで、ようやく戦いのゴングが鳴ったばかりである。

 一方プレーヤーは日本ではあまりパッとした話を聞かないが、米国ではHD DVDが比較的好調という話を以前から聞いていた。実際に米国での感触では、確かに東芝は一社だけでよくここまで頑張っていると思う。売り上げデータとしては、お互いがどっこいどっこいのデータを持ってくるので、確かなことはもう少し時間が経たないとわからないが、米国ではやはりソフトウェアのタイトル拡充で今後決まってくるのかもしれない。

 ただオーディオの世界では、厳しい現状を目の当たりにした。以前から渡米するたびにDVDオーディオやSACDのタイトルを格安で買ってくるのが楽しみの一つなのだが、家電系量販店「Fry's」では、ついに両方の販売コーナーがなくなってしまい、その代わりXbox 360他のゲームタイトルコーナーになっていた。

 ある意味シビアな現実を見せつけられたわけだが、次世代DVDで消費者にとって最悪のシナリオが、こういう状況である。韓国LG電子の両対応プレーヤー、またワーナーの両再生ディスク「Total Hi Def」に関しては、両陣営ともやや冷ややかな態度を示しているが、ユーザー側としては極力「ハズレ」のほうを引きたくないと思っている。こういう心理を考えれば、今の時点で考えられ得る解として、消費者側の注目は高い技術である。

 BDプレーヤーに関しては、今後注意すべき要因もあることがわかった。現在発売されているプレーヤーやレコーダの再生機能は、すべて「スタンダードプロファイル」対応となっている。これでも普通にディスクは再生できるのだが、将来的には「フルプロファイル」へ移行しなければならない。

 BDA(Blu-ray Disc Association)では、フルプロファイル対応への移行時期を今年6月と設定しているが、強力なプロセッサを装備してソフトウェアベースでなんでもやってしまうPS3は例外として、多くのプレーヤーはデコーダやCPUを含む組み込み型LSIで、これに対応する必要がある。

 そういう視点でLSIメーカーの出展を見ていたが、現在のところフルプロファイル対応を唱うチップは、MPEGデコードチップで知られるSigma Designsの「SMP8634 Rev.C」しかないようだ。しかもこのチップの量産は、まだ開始されていない。

「8634 Rev.C」搭載BDプレーヤーのリファレンスボード これが「SMP8634 Rev.C」試作チップ

 もしBDAが定めるガイドライン通り、今年6月からフルプロファイル対応が義務付けられるとするならば、6月までに各メーカーとも急いで開発中のスタンダードプロファイル対応製品を出して、開発費回収に奔走するということも考えられる。そしてフルプロファイル対応第2世代BDプレーヤーがお目見えするのは、どう頑張っても今年の年末商戦あたりになる。

 ただBDAのガイドラインも、チップメーカーの対応状況見て期間が延長される可能性もあるだろう。これからBD関連製品を購入する場合は、この対応プロファイルをよく見ておくことが重要だ。

 しかし、このフルプロファイルで実現する機能というのが、結構ナニである。これで可能になるのは、ネットワークからコンテンツをダウンロードして、ディスク内の映像にPinPするという機能だ。もちろんネットワーク経由であるため、ハイビジョンソースであることは考えられない。

 小さい画面がBDの本編にPinPする機能は、それほど重要だろうか。しかもタイトル購入後に、ネット経由でマメに更新してくる情報というのは、おそらく次回作や関連商品の広告だろう。

 またレコーダであれば元々HDDを搭載しているので、ネットワークからのダウンロードコンテンツを保存する領域を持っているが、プレーヤーの場合そうはいかない。この機能を実現するために、ギガバイト単位の大量メモリをオンボードで搭載する必要が出てくる。

 そうなれば当然その分だけコストアップすることになり、PS3の量産効果でピックアップ製造コストが下がるとするBD陣営の主張も、実際にはフルプロファイル対応のために相殺される可能性も出てくるだろう。



■ 明暗分かれる在米企業への反応

 今年のCESで個人的に予測していたのは、Windows Vista関連のハードウェア、例えばPMPのようなものが結構大量に出てくるのではないかという点だ。だが実際には完全に肩すかしで、Vista対応を唱うものというのはほとんど見あたらなかった。もっともCESは基本的には家電のショーなので、PCソリューション中心のショーとはまた違う反応なのかもしれないが、それにしても全体的にVistaに関しては、冷たい印象を受けた。

Vista関連の展示は、ほぼMicrosoftブースのみ

 ただこれも、また米国ですら実際にマシンなりOSが発売されていないということもあり、様子見感もあるだろう。またすでにWindows Media Center Editionが好調だったり、Windows Media Player 11が先行してリリースされていることもあり、対応状況はVistaが出てもあまり変わらないということなのかもしれない。

 もう一つ意外だったのは、SanDiskの音楽プレーヤー「sansa」シリーズが結構認知度が高いということだ。日本は韓国、台湾とも近いため、有象無象のMP3プレーヤーが販売されており、sansaもなんだかそんなものの一つとしてスルーされている感じがある。

 ご存じのようにSanDiskは、メモリーカードなどで知られる米国メーカーであるが、メモリープレーヤー市場への参入はちょっと遅すぎた感があった。だが米国では地元企業の利を生かしてか、量販店でもきちんと差別化された展示がなされていた。外部メモリとしてmicroSDカードスロットを備えており、必要に応じて拡張できるのがポイントだ。microSDカードは、現在日本でも携帯電話での採用が進むとともに、低価格化が進んでいるため、確かにリーズナブルではある。


プレス向けに配布されていた「sansa c240」

 microSDカードはSanDiskとMotorolaが共同開発したもので、様々なデバイスにスロットを搭載してデファクト化する動きは、初期の松下電器とSDカードの関係を見るようで、今後の展開が興味深い。SanDiskのプレスカンファレンスでは、1GBモデルの「sansa c240」(日本未発売)が配布されたのでちょっと使ってみたが、操作感などは可もなく不可もなくといった感じだ。

 起動するたびにボリューム設定がセンターに戻るという欠点があるが、WM DRMに対応しており、Napsterからの転送をサポートしている。サブスクリプション型音楽サービスと連携できるので、取材や旅行などに出かけるときに、どれを入れていこうかと考える必要もないし、SanDiskにとってはありがたくないことかもしれないが、実は容量もたいして必要ない。

 LANとPCがあれば、その場でNapsterから落として転送すればいいのである。権利だけを保有し、実ファイルは全部ネット上、必要なものだけローカルに落とすという世界が実現できる。またこれまでは、すでに自分で保有しているCDをわざわざNapsterから落とすということは無意味であった。だがこのような手軽なプレーヤーが存在するということは、その行為にも意味が出てくる。聴きたくなったが入れてきてない、という状況がなくなるわけである。


■ リセットが求められるホームネットワーク

 個人的な感想としては、日本では明らかにホームネットワークのかけ声は衰退している。一方米国では、マーケット層の違いにより、捉えられ方は様々だ。今回の取材で新たに学習したのは、ソニーのビデオカメラの大量リリースを見て、流通のレベル、引いて言えば顧客層の収入のレベルに応じてそれぞれの市場がある、という米国の社会の在り方である。

 日本であれば、大手量販店では各モデルがまんべんなく置かれて、どの店が安いかという話になる。一方米国では、店頭での値引き交渉というのはなく、基本的にメーカー希望小売価格でそのまま売られることになる。だから金額に応じた製品レベルの細分化が行なわれるわけである。

2006年9月から販売開始している「TiVo Series 3」

 例えばホームネットワークが米国で受けるレンジはどこか。それは中流以上の顧客層である。お互いの製品が繋がることで、芋づる式にモノを買ってくれる層だ。一方でそれとは対極的に、家族の各人が同じものを複数台買うという考え方もある。代表的なものは「TiVo」だ。TiVoもホームネットワークは可能だが、最近はパーソナルなデバイスという傾向を強めている。

 思うに、日本でホームネットワークが衰退しつつあるのは、3つの理由があるように思う。1つ目は、本来ホームネットワークのサーバとして機能すべきレコーダが、低価格競争の末にそのような機能を積む余裕がないということ。2つ目は、デジタル放送のコピーワンスが、ホームネットワークの在り方を阻害しているということ。もっともこれに対する解として、デジオンの「DiXiM-SSP」のようなものも出現しているわけだが。

 3つ目の理由は、米国でも事情は同じだと思うが、そもそもコンテンツを家族でシェアするのは現実的にあり得ないのではないか、それを利用する家族がどれぐらいいるか、という懸念だ。例えば夫婦2人しかいないのであれば、コンテンツをお互い別の部屋で見る必要はほとんどない。コンテンツを一緒に見るということ自体が、夫婦間のコミュニケーションを形成するのだという考え方ができる。

 では子供がいたらどうか。少なくとも自室にパソコンなりテレビとレコーダなりがあって、自分の意志でネットワークを使ってコンテンツを見ようなどと考え始めるのは、中学生以上だろう。そうなったときに、思春期の子供が親のコンテンツを見たいと思うだろうか。

 逆に親の立場からは、大人のコンテンツには子供には好ましくないシーンや歌詞が含まれるものもあるだろうし、親がこんなものを視聴していると知られたくないというプライバシーの問題は、本当にないだろうか。そこまで考えていくと法的な解釈以前に、家族だからという理由で安易にコンテンツをシェアするというアイデア自体の是非が問われたことは、実はこれまで一度もなかったのではないか。

 さらにハードウェア面では、PCと組み合わせようとすると、とたんにネットワークが難しくなるという問題もある。現在、ハイエンドなサーバ機能を有するデバイスはPCということになるわけだが、今ほとんどのPCにはウィルス検知ソフトがインストールされており、それぞれが独自のFireWall機能を持っている。DLNAなどを使ってコンテンツサーバを立ち上げようとすると、これらFireWallに穴を開けなければならない。しかしDLNAの全機能をフルに使おうとすると、開ける穴は1つや2つでは済まない。

 DLNAサーバソフトは、インストール時にWindows XP標準のFireWallに穴を開ける機能は備えているが、複数の選択肢があるウィルス検知ソフトに対していちいち対応できないというのが現実である。また誰でも使えるような穴開け用APIが提供されるというのは、セキュリティ的なレベルを下げることにもなる。

 コンシューマのホームネットワークを考えたときに、PCの存在が事態を難しくする。


■ 総論

 今年のCESがなんだか「Windows Vista肩すかし」のような印象を受けたから言うのではないが、これからのAVソリューションはホームネットワークまで含めて、米国でもPCレスの方向に進むのではないかという気がする。これまでSDの時代は、コンテンツのネットワーク流通が可能だったが、HDがその敷居を上げたために一端リセットがかかったような感じだ。

 そしてHDも、2レベルに分化して行くだろう。高圧縮で流通とコスト面で妥当なもの、例えば放送やVODといったタイプのものと、低圧縮で付加価値の高いもの、これは次世代DVD関連だ。そしてハードウェアは、両方を満足なレベルで視聴したければ高い方に合わせるしかないし、コスト面で妥当なところを狙いたければ、リーズナブルな選択肢を探すことになる。

 今回のCESは、一枚板ではない市場の在り方を見ることができた。日本も今後、このようなセグメント化されたマーケティングが求められる時代が来るかもしれない。


□2007 International CESのホームページ(英文)
http://www.cesweb.org/
□関連記事
【2007 International CESレポートリンク集】
http://av.watch.impress.co.jp/docs/link/2007ces.htm

(2007年1月17日)


= 小寺信良 =  テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「ややこしい話を簡単に、簡単な話をそのままに」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンピュータのフィールドで幅広く執筆を行なう。性格は温厚かつ粘着質で、日常会話では主にボケ役。

[Reported by 小寺信良]



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