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“Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語”

第305回:フルHD化されて新登場、Panasonic「HDC-SD3」
~ 逆に言えば、それだけなの? ~



■ 加速するフルHD化のトレンド

 テレビのフルHD化の波は、もはや止められないところまで来た。こうなると、その威力がちゃんとわかる映像ソースが必要というのは、当然の流れである。これまで横1,440ピクセルで十分ですよ、と言っていたビデオカメラも、うちは横1,920ピクセルですよと言ったとたん大注目されるのは当然だ。

 一番最初に1,920ピクセルに名乗りを上げたのはビクターのEverio HD「GZ-HD7」で、HDDという大容量ストレージの特性を生かし、MPEG-2でフルHDを実現した。こちらはすでに3月から発売が開始されている。

 一方MPEG-4を採用するAVCHD陣営としても、規格としてはフルHDをサポートしている関係から、フルHD化は時間の問題であった。しかし思ったよりも早く、製品が出てきた。昨年12月に発売開始されたPanasonicの「HDC-SD1」(以下SD1)の後継機「HDC-SD3」(SD3)が、早くも4月25日から発売開始されている。

 初代SD1をベースに、フルHD記録に対応したモデルだ。今回のSD3の発売により、SD1は生産完了となる。考えてみればSD1は、製品寿命として約5カ月しかなかったことになるわけだが、スペックなどはほとんど同じということもあって、内容的にはアップグレードといった印象を受ける。

 フルHD記録は、今後のトレンドを作るのだろうか。早速その実力を試してみよう。


■ ほとんど変わらない外観

 スペック的にはほとんど変わらないので、細かいことはSD1のレポートが参考になるだろう。デザインとスペックに関しては、変更点のみ言及することにする。

 SD1の登場時は、その割り切ったデザインに驚いたが、今回のSD3もほぼ同じデザインとなっている。ぱっと目に付く違いといえば、前モデルでは液晶部分がパールホワイトで、ここが一つのアクセントになっていたが、今回のSD3ではボディと同じシルバーとなって、若干印象が地味になった。


全体がシルバーになり、シンプルなイメージとなった グリップベルトも改良点の一つ

 グリップベルトは、前モデルでは後ろ側の付け根部分に別パーツのクッション材があったが、このパーツの隙間に指の肉が挟まって、痛いことがあった。今回はグリップベルト全体で1つのパーツとなっており、フィット感が良くなっている。

 グリップ部のカラーリングも濃いグレーになり、若干厚くなって持ちやすくなった。以前は厚みがないため、ズームレバーの操作時に指が余ってしまう感じもあったのだが、適度なふくらみのおかげで、操作も楽だ。


バッテリのフタに穴があり、ケーブルが出せるようになっている

 さらに今回のモデルでは、外部バッテリが使えるようになった。バッテリ格納部の蓋にケーブルを出すための穴が設けられている。今回はバッテリーパックホルダーキットまでは借りていないが、本体内にダミーパックを格納するようだ。

 また今回は専用ワイドコンバージョンレンズ「VW-W4307H」も借りることができた。名前の通り、43mm径で0.7倍のレンズである。価格は25,200円とやや値が張るが、周辺部にも収差が少なく、なかなかクオリティは高い。

画角比較サンプル(35mm判換算)
ワイド端 テレ端
ワイコン
装着時

26.95mm

323.4mm
ワイコン
非装着時

38.5mm

462.0mm

 装着にはいったん前部のレンズフードを外さないといけないので、スピーディに着脱が難しいのが難点だ。またレンズ自体もかなりの重さがあるので、ハンディで使う時はかなり前が重くなる。後部にバッテリが出っ張るカメラならば、大型バッテリを装着することで重量バランスが取れるのだが、構造上そうもいかない。


レンズフードを外して装着する ハンディでの使用は、重量バランスが悪い



■ 改善点が少ない動画撮影機能

 では実際に動画撮影してみよう。今回のポイントはもちろん、1,920ピクセルのフルHDモードがどれぐらいの絵なのか、という点に尽きる。まず録画モードを整理しておこう。


動画サンプル
モード 解像度 ビットレート 記録時間(4GB) サンプル
HF 1,920×1,080 13Mbps/CBR 約40分
ezsm_hf.m2ts (16.4MB)
HN 1,440×1,080 9Mbps/VBR 約1時間
ezsm_hn.m2ts (11.0MB)
HE 1,440×1,080 6Mbps/VBR 約1時間30分
ezsm_he.m2ts (8.66MB)
編集部注:動画サンプルは、撮影時のH.264形式(.m2ts)を未加工のまま、PCに取り込んだファイルです。再生環境はビデオカードや、ドライバ、OS、再生ソフトによって異なるため、掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、編集部では再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい。

 前モデルでは、HFモードでも1,440×1,080ピクセルで、ビットレートは同じであった。今回は記録ピクセル数が増えたわけだから、同ビットレートでは圧縮率を高くしなければならない。この部分の圧縮効率では、今のところPanasonicだけが採用しているH.264 High Profileが効いてきそうだ。

 元々H.264 High Profileは、Blu-rayの圧縮方式開発過程でPanasonicが確立した技術だ。AVCHD規格でも、PanasonicはHigh Profileまでのサポートを表明していたが、ソニーはMain Profileまでで十分という見解であった。このスタンスは現在も変わっていないと思う。

 実際に1,920のHFモードの映像を見てみると、ディテールの細かいものに関しては他のモードに比べて、かなりギッシリした解像感を感じる。同ビットレートで記録ピクセル数が増えているのに、ランダムな動きでも破綻が感じられないのはさすがだ。水面にはやや弱い感じがするが、木々の細かい葉っぱなどは、なかなか頑張っている。


静止画サンプル
細かいディテールまで解像感は十分 テレ端でも破綻が少ない シャッタースピード優先なので、背景のボケは成り行きになる


動画サンプル

ezsm_2.m2t (175MB)
編集部注:動画サンプルは、Canopus HQ Codecに変換後、EDIUS Pro 3で編集し、ProcoderでHDV形式(.m2t)で出力したファイルです。再生環境はビデオカードや、ドライバ、OS、再生ソフトによって異なるため、掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、編集部では再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい。

 解像感の面では前進が見られるが、ウィークポイントは改善されず、SD1と同じなのは残念だ。例えばフォーカスの追従性については、向かってくる被写体には相変わらず弱かったり、白飛びの境目が黄色くなったりといった点は、改善されていない。

 また今回は、ホワイトバランスも気になった。オートや昼光固定では、緑の発色が強すぎて、若干わざとらしい感じがする。かといってマニュアルでバランスを取ると、アンバー系になりすぎる気がして、なかなかいい感じにならない。

 実は以前ビクターのEverioでも同様の傾向が見られたが、新モデルのGZ-HD7では改善されている。

静止画サンプル
ホワイトバランス サンプル
オート
昼光
マニュアル

 静止画機能に関しても、メリットと弱点は同じだ。動画撮影中にフルHD解像度の静止画が無制限に撮れる点は優れているが、いったん静止画を撮ると、書き込みが終わるまでの約6秒間は動画撮影を停止することができない。止めたつもりが止まっていないということが起こる点は、そのままだ。


■ 微妙なタイミングの編集環境

 映像の高圧縮記録の進化は、SD3が身をもって体現しているわけだが、一方で撮った後どうするかという点に関しては、思ったほど環境整備が進まない印象を受ける。先日開催されたNAB2007あたりで、AppleやAdobeあたりがAVCHD対応を表明するかと思ったのだが、フタを開けてみれば完全スルーであった。

 これは、「編集環境が整うのは時間の問題」としてきたAVCHD陣営に取っては、当てが外れたと言える。ここで現在までと、今後見えている対応状況を整理してみよう。

 すでに対応済みなのは、SONY VAIOバンドルのAdobe Premiere Pro 2.0/Premiere Elements 2.0/3.0に、VAIO Edit Components 6.1以降を組み合わせた環境がある。これはプロキシ編集ではあるものの、最終的には高解像度のファイル編集が可能になっている。ただしVAIOに限るという制約がある。

 CanopusはEDIUSシリーズ用に、AVCHDを同社のコーデック「Canopus HQ Codec」に変換するための「Canopus AVCHD converter」を無料配布している。もちろんEDIUSシリーズが無ければ動かないのは当然として、中間コーデックに変換するため、ネイティブでAVCHDが扱えるわけではないが、現時点では一番入手しやすい環境ではある。

 編集ソフトではないが、ライティングソフトの「nero 7」は、今年3月にリリースしたアップデータでAVCHDの再生とオーサリングに対応した。AVCHDフォーマットのDVDが作成できるほか、Blu-rayのオーサリングまで対応している。

 今後対応が見えているところでは、インタービデオジャパンが6月15日に発売する「Ulead VideoStudio 11」で、AVCHDの対応を表明している。まだ実際のソフトウェアは触ったことはないが、プロキシ編集で対応するようだ。

 日本ではあまり人気のないが、米国ではメジャーな部類に入る「Vegas 7」は、5月1日にリリースされる最新アップデータの7.0eで、AVCHDをサポートすると発表している。ただ現状は米国でのリリースで、日本版のVegasでも同じかどうかは、まだ発表されていない。

 SONY、Panasonicともにカメラ付属のソフトウェアで簡易編集はできるものの、ストレートに「編集」というニーズを満たしているかは意見が分かれるところだ。SONYの「Picture Motion Browser」は、クリップを部分的に切り出して別名保存はできるが、映像の順番を入れ替えるなどのカット編集ができるわけではない。

 Panasonicの「HD Writer」も、今回フルHD対応でVer1.5になった。こちらはAVCHDフォーマットでDVDに書き込む際に、カットの順番を入れ替えることができる。事前に使いたいカットを部分削除し、整理しておかなければならない手間はあるが、現実的であろう。またスタンダードサイズへのMPEG-2ダウンコンバートも可能になったので、別途DVDオーサリングソフトを用意すれば、DVD-Videoの作成はできる。


フルHDソースに対応した「HD Writer 1.5」 AVCHD形式DVDの作成ほか、SD解像度のMPEG-2書き出しもできる



■ 総論

 HDC-SD3の感想を率直に述べるならば、なんで最初からこれをやらなかったのか、ということだ。ビットレート据え置きで、同等のクオリティを出すのに5ヵ月かかった、という事かもしれないが、撮影機能自体は変わっておらず、新モデルと言われてもピンと来ない。撮影可能時間の短さを補う大容量バッテリーのサポートは評価できるが、これも蓋に穴を設けただけで、大幅な改良というイメージではない。

 ビクターとの親子関係が微妙な時期に、フルHDで負けたくないということがあるのかどうかは知らないが、どうせ新モデルとして出すならば、初代機で不満とされてきた部分を多少なりとも改善して欲しかった。あるいは編集・保存環境がまだ揃わないうちに、サードパーティに対してAVCHDは1,920もあるよというアピールが必要であった、という見方もできるかもしれない。

 いずれにしても初代SD1を買った人が気の毒である。アップデートで同等になるとか、なんからの救済措置があればいいのだが。

 編集環境に関しては上記にまとめたが、再生環境のほうもまだまだ普及が始まらないといった印象は拭えない。ただ、子供の成長など撮りたいものがある人にとっては、早いタイミングでHD撮影に移行しておきたいという気持ちはあるだろう。もちろん筆者もその一人なのだが、それをどのメーカー、どのフォーマット、どのメディアに託していいのか。ここまで選択肢が多くなってしまった現状では、その判断が難しい。

 今のところ、いろんな将来性にはえいやっと目をつぶって、一番画質に納得できるものを買っておくというのが、精神衛生上正しい選択かもしれない。


□松下電器のホームページ
http://panasonic.co.jp/
□ニュースリリース
http://panasonic.co.jp/corp/news/official.data/data.dir/jn070403-1/jn070403-1.html?ref=news
□製品情報
http://panasonic.jp/dvc/sd3/index.html
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-4GB SDHC付属の「SD3」とDVDカム「DX3」
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【2006年12月13日】【EZ】SDカードにハイビジョン記録、Panasonic「HDC-SD1」
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(2007年5月9日)


= 小寺信良 =  テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「ややこしい話を簡単に、簡単な話をそのままに」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンピュータのフィールドで幅広く執筆を行なう。性格は温厚かつ粘着質で、日常会話では主にボケ役。

[Reported by 小寺信良]



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