■ PMPはどこへ行った?
5月末、久しぶりにマルチメディアプレーヤー、いわゆるPMP(Portable Meida Player)を取り上げて以来、そういえばこの手の製品は市場的にはどうなったのかな、という疑問が湧いてきた。かつてiriverやiAudio、Samsungの製品が大手量販店のオーディオコーナーに置かれていたこともあったが、今はほとんどiPodか国内製品で占められている。 その一方電車内で見かけるプレーヤーでは、意外に韓国メーカーのプレーヤーも多い。どうもこのあたりは、量販店の売り場だけを見ていてもわからないトレンドが存在するようだ。 今、日本の電気製品市場、特にアクセサリ系では、韓国メーカーのOEM品が結構多い。日本のベンチャーが扱っている物の中で、ハイエンドは韓国製、ローエンドは中国製といった棲み分けが成されているように思える。今韓国のMP3プレーヤー、そしてPMP市場はどうなっているのだろうか。 そこで今回は、iAudioやCOWONブランドで日本でも人気の高い韓国メーカーの日本法人、株式会社コウォンジャパンにお邪魔して、韓国のPMP事情を伺ってみた。お話しいただいたのは、コウォンジャパン代表取締役 趙 宰浩(チョウ ジェホ)氏と、マーケティング部 部長の町田富士男氏である。
■ 知られざる韓国メーカーの勢力図
小寺:MP3プレーヤーが流行った頃から、我々日本人にも韓国製品が徐々に身近になってきました。ですが今ひとつ日本からは、韓国にどういうメーカーがあってどういう位置づけなのかというのは、あまりはっきり伝わっていないような気がするんです。
趙:そうですね、ではまず最初のMP3プレーヤー時代からお話ししましょう。世の中に最初にモノとして出てきたのは、MPMANというブランドでした。ここはもう潰れてしまったんですけど、実際にそこがMP3の技術を応用して製品を作った。それから中小メーカーがいっぱいできたんです。 ですがその時点ではあまり自社ブランドのマーケティングができていなくて、欧米とか日本を含めて、OEM中心でやってました。当時はユーザーも、説明しなくてもわかるぐらいの人達しかいなかったわけです。 それが2004年に入って、やっと一般に広がってきました。そのときには元々RioのOEMをしていたiriverは、自社ブランドでCDタイプのプレーヤーからシリコンタイプのものを出してきました。 弊社も最初はOEMをちょっとやってたんですが、完全に方向を自社ブランドに決めて、iAudioというブランドでやることにしました。当時中小メーカーで、韓国でブランド力があるというのは、MPMANも含めてこの3社ぐらいだったんじゃないかと思います。 小寺:COWONも、MP3プレーヤーの製造メーカーとしてスタートしたわけですか? 趙:いや、もともと「JetAudio」というソフトウェアの開発チームが、COWON Americaという法人を作ったんです。当時1996年ぐらいって、MP3が再生できるソフトはそんなに多くなかったんです。世界のトレンドを捉えるためにはアメリカでということで、開発部隊を送って。今JetAudioというのは単独のビジネスモデルにはなってなくて、弊社製品のバンドルで使われているんですけど、それにプラスして、MP3のハードウェアビジネスをスタートさせました。 小寺:韓国製プレーヤーって、製造品質の面では2~3年前から日本製品と遜色ないレベルまで、一気に来ましたよね? 趙:最初はちょっとしたアイデア商品といった、おもしろみを訴求する商品だったんですが、結構輸出量とかも規模が大きくなってきまして、部品、ケース含めてレベルアップしました。アクセサリも最初これでいいのかというレベルだったんですけど、最近はキャリングケースなんかも皮を使うなど、良くなってきてます。韓国内でもエレクトロニクス製品のレベルアップは、MP3が牽引をしたと言われています。
小寺:動画プレーヤーへの進出は、必然だったんでしょうか。 趙:中小メーカーでも技術力があるところはOEMの方向に走ったんですけど、2004~5年ごろになると、中国のほうであまりにも多くの中小メーカーができて、MP3プレーヤーでは利益が出ないという状況になってきました。そこからは各社カーナビゲーションとか動画プレーヤーのほうに移行したり、あるいは潰れたりしています。現状韓国市場の音楽プレーヤーのシェアとしては、Samsungとiriverが1位/2位、弊社が3位。最近Appleが結構増えてきていますが、シェア的には弊社よりは下です。 小寺:PMPでは、以前Digital Cubeというメーカーの製品が日本でも販売されたことがありますけど。 趙:Digital Cubeは、MP3から早めにオーディオの事業を辞めて、動画プレーヤーに走った会社です。攻撃的な商品戦略で、マニア層が好むようなスタイルの製品を投入しています。
■ 韓国のビジネスモデル
小寺:日本では最近ケータイの高機能化に押されて、PMPの注目度は沈静気味なんですけど、韓国はどうなんでしょう。 趙:日本よりも早めに製品を出したということもあるんですけど、インフラ的にも動画コンテンツが充実していて、デバイスを買うとWEBで有料/無料のコンテンツが手に入るような仕組みになっています。またPMPの上で教育、E-Learningというのも政府の施策でやってます。 「Megastudy」というところがやっているんですが、そこは有名な塾の先生の講義を、1カ月3,000~4,000円ぐらいで販売しています。元々はストリームで流していたんですけど、2005年ごろから弊社の「A2」というPMPと組み合わせて、コンテンツとして販売するようになっています。最近はそっちの需要も大きいですね。 小寺:それはネットでダウンロードするわけですか? 趙:ダウンロード・コンテンツですね。DRMをかけて3回から4回再生できるようにして、見終わったら終わりという感じですね。 小寺:DRMは、やはりWindows DRMが多いんでしょうか? 趙:Windows DRMも強いんですけど、韓国独自のDRM形式もあるんです。実際大手放送局や、SKテレコムという一番メジャーで定額制サービスをやっているところも、韓国独自のDRMです。そういう意味では、DRMでのビジネスモデルも定着は早かったですね。 小寺:一般的な動画コンテンツは、韓国ではどこから入手するんでしょう。やっぱり放送を録画するようなソリューションなんですか? 趙:テレビ局では4~5年前から、VODというのはすでにやってたんです。最近はいい画質で配信できるので、あまり日本みたいにテレビのレコーダみたいなものは人気がないです。いつでもタダで見られる、もしくは月1,000円とか出せば見られので。あとは動画配信サイトから、テレビ放送とか映画とかをダウンロードするとか。動画コンテンツの入手先は、主にWEBからですね。 小寺:放送のVODは録画とかできるんですか? 趙:基本的にはできないです。ストリームのみです。 町田:韓国にはDMBという、日本でいうワンセグに相当する放送があるんですが、小型モデルのD2なんかでも受信できちゃうんです。日本向けにはワンセグに対応したらいいんじゃないかと思うんですけど。 趙:DMBは向こうでは受信感度がいいんですね。もう内蔵アンテナだけで行けるんです。でもワンセグはなかなか。日本は韓国よりも広いですしね。試作してみたんですけど、受信感度で難しい問題があって、いろいろやっているところです。韓国でもDMBあり・なしモデルを出したんですけど、9割はDMBありのモデルが売れています。
■ 世界の中のPMP
小寺:CESに行くと、台湾・中国あたりがすごい数のMP3プレーヤーを出してますね。外側しか違わないんじゃないかってものが沢山あるんですが(笑)。 趙:外側も同じじゃないのかというものも、違うブースで出しているんですよね(笑)。中国では「共模」(コンゴ)という、バックグラウンドを共有するビジネスモデルをやってるんです。中身を作っているところ、ケースを作っているところ、それぞれから買って、彼らは組み立てだけでやる。原価に1ドル2ドル乗っけてやってるんですね。 小寺:ただ製品のデザインとか品質とかの面では、なかなか中国というのは難しい国だなぁと…… 趙:弊社も2000年6月から中国でローエンドモデルの生産をやっていたんですが、今月で生産拠点を引き上げます。最初のコストダウンは良かったんですが、結局品質管理にかけるコストを考えると、全然メリットがないということで。今後はすべて韓国で生産することになります。 小寺:米国とかヨーロッパでは、MP3プレーヤーやPMPというのはどういう受け止められ方なんでしょう。 趙:ヨーロッパは北と南で結構違うんです。北の方がハイエンド、南はローエンドといった傾向ですね。ローカルブランドも韓国、中国のOEMでやってるところは多いです。またドイツは市場が違います。結構ローエンドモデルが売れる。ドイツ人は音楽が聴ければいいやという形で、イギリスなどと比べると全然違いますね。 日本ではHDDからシリコンへの移行がトレンドですけど、EUの人は手が大きいので、サイズよりは容量にこだわっています。弊社の「X5」というモデルは、日本ではそれほどヒット商品ではなかったんですけど、US、EUではよく売れています。 小寺:米国ではSandiskやCreativeなどがナショナルブランドとしてよく見かけるんですが、韓国のMP3プレーヤーはあまり見かけませんよね。 趙:最初はBestBuyとかCompUSAといった量販店にトライしたんですけど、なかなか値段が合わなくて。早めにあきらめて、営業のやり方もWEB中心で、Amazonとかのオンラインマーケットで継続的に広がっています。日本でもオンラインでプレーヤーを購入するユーザーの伸び率は、大きくなっていますね。
■ PMPはどこへ向かう?
小寺:今年発売になった「D2」ですが、メモリタイプの動画プレーヤーは珍しいですね。
趙:これが難しいところなんですよね。韓国でもPMPとして出すか、MP3としてで出すかでもめました。結局は「プレミアムMP3」というカテゴリを勝手に作りまして(笑)。日本ではMP3にしちゃうとこの値段はないなということで、むりやりPMPというカテゴリで売ってるんですけど。 PMPだったらDivXとかMPEG-2とかのファイルが直接再生できて当たり前なんですが、なんでこれはできないの? というユーザーさんも出てくる。仮にMP3プレーヤーだったら、MP3なのにこんなにできるという評価もあるし。どちらとして売るか、メリットとデメリットがあります。 小寺:D2は先日、新しいファームウェアが公開されましたね。 趙:弊社製品はファームで機能追加ということを考えていまして、発売当初からいろいろ辞書を入れたり、ユーティリティで手書きメモを入れたりしています。 小寺:韓国製PMPというと、いつも機能がてんこ盛りな感じなんですが、こういうのってお国柄なんですか? 町田:僕はそうだと思ってますけど(笑)。 趙:まあそれもあるかもしれませんが(笑)、どちらかと言えば、技術ありきということになっちゃうんです。最近動画プレーヤーで使われているCPUって、結構機能的に余ってるんですね。A2ではTI、「Q5」はAMDを使っています。ですからやろうと思えば、特にインターフェイスがタッチパネルになってからは、いろんなことができるようになりました。 例えばQ5のアクセサリとしては、ゲーム用コントローラも売ってるんですね。Flashに対応しているんで、ゲームなども実装できるわけです。 小寺:もうだんだんメディアプレーヤーの領域を超えつつあるような気がするんですが。 趙:製品自体はエンターテイメント・デバイスになるんですけど、できることはほとんどPCに近いんで、最近は「PMPC」という言葉も出てきました。実際ビジネスマンが使えるようなツールを搭載したり、無線LANもUSB外付けユニットで対応しています。今開発中なのが、HSDPA、今のイー・モバイルのような高速通信です。韓国ではSKテレコムというキャリアと組んで、来月ぐらいからHSDPA通信が使えるようになる予定です。
■ 総論
PC技術から発展したデバイス分野は多い。MP3プレーヤーやPMP、HDDレコーダなどは、エンターテイメント方面に延びていって活路を見いだした。一方PDAのようなモバイル情報機器方面は、ケータイに市場を奪われた格好となった。 だがPDAのようなポータブルデバイスの市場は、完全にニーズがなくなったわけではない。米国ではスマートフォンという形で、ミニキーボード付きのデバイスとして継続しているのは、彼らには10キーを使って一文字ずつアルファベットを紡ぎ、文章を書くということが耐えられないからである。 また情報表示領域としても、ケータイ画面は決して十分ではないはずだ。例えば地図などは十分なサイズで見てこそ、位置関係を俯瞰することができる。どこからどこへ行くルートだけがわかればいいのであれば、そもそも地図表示はいらない。だが自分が今どこにいるのか、どちらの方向へ進んでいるのかということが相対的に分かるためには、広い範囲で見ることが必要なのである。 外でちょっと情報を確認する手段として、モバイルPCを立ち上げるというのも一つの方法だ。そしてそのモバイルPCは、フルスペックのPCである必要はない。モバイルPCは、引き算の産物である。そういうものは、日本のお家芸でもある。引いてシンプルにして、「粋」に落とし込むのだ。 一方韓国製PMPがここまで高機能化したのは、プリミティブなものに対して足し算していく発想だ。そしてその足し算は、まもなくモバイルPCの領域に手が届こうとしている。実際にA2やQ5といった大型PMPにWEBブラウザが載り、無線LANやイー・モバイルのような通信手段が使えたら、ケータイでは足りない、でもモバイルPCでは多すぎるといった用途にフィットするかもしれない。 ちょっと取り出してすぐにWEBから情報が引き出せるツール、十分広い画面、音楽や動画再生も楽しめる。そういうものが5万円前後で買えるとしたら、今の社会の在り方が変わるかもしれない。 日本では韓流、嫌韓流という形で相反するイデオロギーが存在する。だがそういうフェーズとは別にニュートラルな視点で、韓国のPMP産業のゆくえは、注目しておく必要があるだろう。
□COWONのホームページ (2007年6月20日)
[Reported by 小寺信良]
AV Watch編集部av-watch@impress.co.jp Copyright (c)2007 Impress Watch Corporation, an Impress Group company. All rights reserved. |
|