【バックナンバーインデックス】



第288回:“老舗”の波形編集ソフト「SoundForge 9.0」を試す
~ マルチチャンネル対応やAC3出力など強化点を検証 ~



 長年愛用している波形編集ソフト「SoundForge」の新バージョン「SoundForge 9」の日本語版がリリースされた。

 ある意味もっとも単純なソフトであるだけに、もうこれ以上の機能アップは必要ないと思っていたので、何の機能を追加してバージョンアップするのだろうと思っていたが、今回はマルチチャンネル対応を図ってきた。

 また、それと同時に、SoundForge 9とSoundForge 9 Proという2つのラインナップに分かれた。今回は上位版のSoundForge 9 Proを使ったが、どんな機能が追加されたのかを紹介しよう。



■ 老舗波形編集ソフトがマルチチャンネル対応

 SoundForgeはいわずと知れた波形編集ソフトの老舗。Windows 3.1の時代から十数年間使い続けているが、非常に軽くて高性能なソフトだ。また、Windows 3.1~95の時代は、波形編集ソフトはSoundForgeしか実質的な選択肢がなかったのも事実。いくつかほかにも存在はしていたが、実務上使い物にならなかったのだ。


SoundForge 9

 とはいえ、PC側の処理速度の問題やメモリ容量の問題で、5分の曲を1曲ノーマライズするだけで、数分かかっていたので、今から考えればずいぶん大変な時代だった。

 ただ、その後PCが高速化するとともに、SoundForgeもバージョンアップし、より高速に処理できるようになった。機能的には当時使っていたSoundForge 3.0でも必要十分だったようにも思うが、SoundFoge 6.0あたりでは、もう十分すぎるように感じていた。

 一方で、ほかの波形編集ソフトもいろいろ登場し、機能・性能とも向上。先日バージョンアップしたフリーウェアの「SoundEngine」を含め、数多くの優秀な波形編集ソフトがあるから、あえてSoundForgeを選択する理由は少なくなってきているが、個人的には使いやすさの面から、SoundForgeを愛用している。

 もうバージョンアップするネタもないだろうと思っていたが、今回はマルチトラック化ならぬマルチチャンネル化を図ってきたのだ。マルチトラック化してしまったら、それはもうDAWの世界に行ってしまうわけだが、SoundForgeはあくまでも波形編集ソフトとして、これまでのモノラル/ステレオ専用から、サラウンドへの対応をしたわけだ。



■ ドライバ設定でマルチチャンネルを自在に割り当て可能

 さっそく起動し、新規作成をしてみると、これまでとやや異なる画面が出てくる。単にサンプリングレートの設定だけでなく、チャンネル数を設定するようになっている。

 デフォルトでは、モノラル、ステレオ、2.1ch、4ch、5.1ch、7.1chという6つの設定が用意されているが、最大で32chまでの構成が可能。実際8ch=7.1ch以上あっても使い道があるかどうかわからないが……。

 ここでオーディオインターフェイスとどのように関連付けているのか気になり、ドライバの設定画面を見てみると、ちょっと面白いものになっていた。

 使った環境はWindows XPで、マザーボード搭載のRealtekのHD Audioのサウンドチップと、EDIROLのFA-101がWDM/ASIOドライバで接続されているのだが、ドライバとして見えるのは「Microsoft サウンドマッパー」、「Direct Sound Surround Mapper」、「Windows Classic Wave ドライバ」、「FA-101」の4つ。


新規作成時は、サンプリングレートのほか、チャンネル数の設定も行なう ドライバ設定画面で利用するドライバを選択

 まずMicrosoft サウンドマッパーは従来どおりのWindowsのコントロールパネルで設定したステレオのもので、録音・再生ともに、1chが左、2chが右、さらに3chが左、4chが右……と32chまで割り振られている。一方、初めてみたDirect Sound Surround Mapperは、RealtekのHD Audioの5.1chが1~6chに、さらに7~12ch、13~18ch……と割り振られている。


Microsoft サウンドマッパー Direct Sound Surround Mapper

 またWindows Classic Waveドライバでは、Realtekの2ch分とFA-101の10chを足した12ch分が順に割り振られており、FA-101はASIOドライバとしてFA-101の10ch分が順に割り振られている。まあ、どのようにでも使えるわけだ。


Windows Classic Waveドライバ FA-101



■ サラウンド編集機能の使い勝手は微妙

 ここで、5.1chのプロジェクトを新規作成し、Direct Sound Surroundを選択し、ライン入力を使ってレコーディングを行なった。すると、録音画面が出るのだが、どうも不恰好。レベルメーターの形や色のせいなのだと思うが、これまでのような、スッキリしたかっこいいものではない。


全chに同じ物が同時に録音された

 また、レベルメーターの反応が非常に鈍いと思ったら、ドライバの設定画面で録音バッファが1秒に設定されていたためのようだ。とりあえず、このままの状況で録音してみると1,2ch、3,4ch、5,6chにそれぞれ同じものが録音される形となった。

 試してみたところ、先ほどの不恰好といった録音画面において、録音するチャンネルを指定すると、そのチャンネルのみが録音できるようだった。

 サラウンドをレコーディングする場合、直接すべてのチャンネルを同時に行なう場合もあるが、ナレーションとBGMといったように別々にレコーディングしたり、既存のオーディオファイルと組み合わせて使うという場合も多い。後者の場合、SoundForge 9ではどうするのか。

 これは簡単で、予め6chや8chのプロジェクトを作成しておき、そこの必要なチャンネルに必要な素材を貼り付けていけばいいのだ。どこに貼り付けるかは時間軸でしっかり決められ、尺が確定しているのであれば、先にモノラルやステレオの状態でタイムストレッチ機能などを用いて調整しておけばいいのだ。

 ただ、ひとつ決定的に足りないと感じたのが、いわゆるサラウンドパンナー。多くのサラウンド機能を持つエディタは、どこから音が出るかを調整するためのサラウンドパンナーがあり、ものによってはジョイスティックなども利用して音が出る方向を定めたり、音の広がりを決めたりするが、そうしたことができないのだ。

 また、そもそも、どこのチャンネルがフロント右で、どこがリア、どこがサブウーファーなのかといった表示も無くわかりにくい。サラウンド編集可能なエディタということでは、「DigiOnSound 5」があるが、サラウンド機能だけで比較すれば、DigiOnSoundのほうが、かなりしっかりしている印象だ。

 エフェクトについては、エフェクトメニューにあるものと、それ以外のプラグインで状況が分かれる。エフェクトメニューにあるコーラスやダイナミックス、リバーブなどはマルチチャンネルでも動作するが、それ以外はエフェクトをかけようとしてもエラーになってしまうのだ。

 ただし、マルチチャンネルの中から1chもしくは2chを選択した上でエフェクトをかければ、処理可能となっている。なお、エフェクトとは異なるがFFT解析機能については、新機能としてマルチチャンネル対応となっている。


エフェクトメニュー内のエフェクトはマルチチャンネルでも正常に利用できる プラグインからのエフェクトはエラーが発生してしまう FFT解析機能はマルチチャンネルに対応



■ Pro版では、AC3エンコードの詳細設定が可能


新たにAC3エンコードに対応

 ところで、SoundForge 9は、ノーマルのSoundForge 9とプロバージョンのSoundForge 9 Proの2つが存在する。この違いはドルビーデジタル(AC3)のエンコード部分にある。実は、双方ともにサラウンドデータをエクスポートする際に、AC3で書き出すことができるが、ノーマル版は何の設定もできないのだ。

 それに対し、SoundForge 9 ProはAC3のパラメータを細かく設定できるようになっている。実は、SoundForge 9 Proという製品は国内の発売元であるフックアップが開発元のSony Creative Softwareに掛け合って作った日本オリジナル版。つまり海外においてはSoundForge 9 Proはリリースされていない。

 AC3エンコーダのライセンス料が高いという話はよく耳にするが、それがノーマル版48,300円とプロフェッショナル版78,750円という価格差になって現れているのだろう。


Pro版では、AC3エンコード時に詳細なパラメータ設定が可能

 ここまでSoundForge 9の新機能ということで、サラウンド機能のみを見てきたが、それ以外にもいくつかの新機能が追加されている。その目玉ともいえるのがiZotopeのマスタリングエフェクトの追加だ。

 タイムストレッチエンジンやプラグインエフェクトなどで定評があるiZotope。国内ではM-AudioがアナログモデリングのマスタリングツールOzoneやマルチエフェクトのSpectronなどを扱っているが、それらとも異なるエフェクト4種が入っている。

 具体的には「Mastering EQ」、「Mastering Limiter」、「Mastering Reverb」、「Mastering Compressor」の4種類。いずれも独特なデザインだが、効き具合も非常にわかりやすく、使いやすいのが特徴。Direct Xプラグインとして追加されているようだが、SoundForge 9以外では利用できないように制限がかかっている。


Mastering EQ Mastering Limiter
Mastering Reverb Mastering Compressor

 また前バージョンではプラグインとなっていた「NoiseReduction 2.0」がSoundForge 9の一機能として統合された。機能的には変わっていないが、以前にも実験したとおり、いろいろあるノイズリダクションの中で最高レベルといっていい性能を持ったものだ。なお、高機能なオーディオCD作成ソフトである「CD Arcitect 5」は従来どおり、別ソフトとしてバンドルされている。


前バージョンでプラグインだった強力なノイズ除去機能「NoiseReduction 2.0」が本体に統合



■ ノイズリダクションなどオマケも魅力

 SoundForge 9を新機能中心に見てきたが、これまでの機能はもちろんすべてそのまま踏襲されている。このSoundForge 9の目玉はマルチチャンネル対応なので、マルチチャンネルが不要ならば前バージョンで十分というのが正直なところだろう。

 ただ、ノーマル版でもとりあえずAC3のエンコードができてしまうというのは実は大きなポイントといえるかもしれない。しかも、iZotopeのマスタリングエフェクト、NoiseReduction 2.0そしてCD Arcitect 5というものすごいオマケがついている点も見逃せない。

 画面のデザインがちょっと野暮ったくなったのが気になるところではあるが、やはり強力な波形編集ソフトであることは間違いない。


□フックアップのホームページ
http://www.hookup.co.jp/
□製品情報
http://www.hookup.co.jp/software/soundforge9/
□関連記事
【2月5日】【DAL】Windows Vistaでオーディオ製品の動作を検証
~ ドライバインストールで不具合続出。メーカー対応に期待 ~
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20070205/dal268.htm
【2005年4月4日】【DAL】波形編集ソフトの定番がバージョンアップ
~ASIO/VSTに対応した「Sound Forge 8.0」~
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20050404/dal185.htm

(2007年7月2日)


= 藤本健 = リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。
最近の著書に「ザ・ベスト・リファレンスブック Cubase SX/SL 2.X」(リットーミュージック)、「音楽・映像デジタル化Professionalテクニック 」(インプレス)、「サウンド圧縮テクニカルガイド 」(BNN新社)などがある。また、All About JapanのDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも勤めている。

[Text by 藤本健]


00
00  AV Watchホームページ  00
00

AV Watch編集部av-watch@impress.co.jp
Copyright (c) 2007 Impress Corporation, an Impress Group company. All rights reserved.