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年末年始にお勧めの高画質BD/HD DVDビデオソフト HD映像をパッケージ販売しているディストリビュータの話として、11月以降、急にBDソフトの販売が伸びていることは、以前にこの連載の中でも紹介した。その後、その勢いは継続しているようで、たとえば「パイレーツ・オブ・カリビアン・ワールド・エンド」は、あっと言う間に2万枚以上が捌けて、「最終的には4万枚以上、来年に売れる分も加味すれば5万枚に迫るのではないか?」と、期待を持たせる売り上げだという。
作品の投入ペースがやや遅かった20世紀フォックスも、日本ではウケの良い「ダイ・ハード4.0」が好調で1万枚以上を売って重版。「バベル」を発売したギャガも、BD、HD DVDともに重版をかけたとか(ただし、もともとの生産数がHD DVD版は少なかったそうだが)。中でもBD版はすでに4回、重版がかかったそうだ。 辛抱強くBDソフトをリリースし続けてきたソニーピクチャーズも、今月はスパイダーマン3の単独パッケージを発売。タイトル数が多いだけに、ここにきてトータルの売り上げがグッと増してきているという。 パイレーツ・オブ・カリビアン・ワールド・エンドの例はあまりにも極端だが、年末とはいえ新作が1万枚ぐらい捌けるようになってきたのは、やはり再生可能なAV機器がユーザーの手元に入り始めたからだろう。 ちなみにBDレコーダの販売は、一時ハイビジョンレコーダの20%以上を占めていたが、現在は週単位の集計で15%ぐらいまで落ち込んでいる。理由はソニーと松下の品不足、特に松下製のBDレコーダはほとんど店頭に並ばない状況にある。DMR-BW700、BW800を予約している人には、年内には届けられるように手配をしているそうだが、それもギリギリ。BW900は来年になるというから、シェアを争うどころではない。 ソニーもT70、T50以外は似たような状況にあり、ここに来て、品物が豊富にあるシャープのBDレコーダが数字を伸ばしてきた。すべては年末にかけての需要を読み違ったためだが、それも来年になればかなり解消はしてくるだろう。 もっとも、機会損失をかなりしているとはいえ、ここまで急に売れてくると、次は「BDレコーダの性能を存分に楽しめる高画質ディスクは何?」ということになろう。そこで画質の面から見た、年末年始に楽しめる高画質ディスクを今回は紹介することにしたい。なお、映画の内容ではなく、画質に関してのみコメントする。 □関連記事 ■ 北米版とは別物の仕上がりだった「オペラ座の怪人」
オペラ座の怪人は、北米でのHD DVD発売と同時にリリースされたタイトルで、当時は市販HDパッケージソフトが出たばかりということもあり、その圧倒的な情報量に驚いたものだ。加えてTrueHD収録による音声トラックのクオリティも、DVDとの大きな差を感じさせてくれた部分。 このオペラ座の怪人。日本ではDVD版をメディアファクトリーが販売していたが、これはDVD版のみの権利で、高解像度版はギャガが権利を保有したままだった。そこでバベルでHDパッケージに参入したギャガが、BD版とHD DVD版の両方を発売したのである。 両版を比べるとBD版の方が歪みが少なく、質感表現が豊か。ギャガによるとBD版、HD DVD版ともに同じ会社に製作を依頼したとのことなので、ストレートに容量差が画質に出ているのかもしれない。 圧縮技術そのものはさほどでもなく、特にHD DVD版はシーンごとに圧縮歪みの量や質感にばらつきがあるが、BD版は平均30Mbpsを超える高レートということもあり、力業で高画質を獲得している。結果として1層だった北米版のVC-1を超えて、明白に国内版の方が良いという珍しい例となった。 なお、同じギャガで元日発売の「プレステージ」も、なかなか素晴らしい出来。こちらはソニー製エンコーダと思しき映像で、圧縮の質も安定しており、オペラ座よりもさらに高画質。ヒュー・ジャックマンが新型のトリック装置を披露する舞台のシーンは、個人的に映像機器の表現力をはかるベンチマークに使っているほど奥行き感がある。 プレステージも北米版を所有しているが、日本語版の方がやや歪みや精細感の面で優れている。内容も面白く、個人的には一番のお勧めだ。
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■ なぜかとても良いハリーポッターシリーズの映像
旧作を中心に多数の作品をBDとHD DVDでリリースしているワーナーだが、画質の方はタイトルごとにばらつきが見られる。ただ、ドル箱のヒットシリーズということもあってか、ハリーポッターシリーズは一貫して高画質だ。 これはマスターそのものの画質が優れているというのもあるのだろうが、品質評価と圧縮チューニングを、他の作品よりも入念に行なっているからではないか? と思われる。他のコーデックとは異なり、VC-1はマイクロソフトしかエンコーダを開発していない。もちろん、VC-1も初期の頃と今とではまるで性能が違うが、同じ時期のエンコードなら、映画が異なっても画質は近いハズ。 VC-1はグレインノイズに弱く、粒子の多い映像ではブロックノイズが増える。これを緩和するため、フィルタで粒子を潰してから圧縮するというのが、ひとつのパターンだった。しかし、ハリーポッターシリーズは元々の映像がクリアということもあるのだろう。チューニングと相まって、VC-1の中ではもっとも良いクオリティを見せる。 中でも最新の「不死鳥の騎士団」が、ワーナー作品の中ではもっとも高画質を感じることができる作品だと思う。
□関連記事 ■ PHL圧縮作品の画質が光る20世紀フォックス
高画質な映像圧縮を研究開発の一環として取り組んでいることで知られているPHL(パナソニック・ハリウッド研究所)は、パイレーツ・オブ・カリビアンシリーズの全作品を担当したり、エンコーダへとフィードバックをかけながら歪みを減らしたMPEG-4 AVC/H.264エンコーダの開発で名前を知られているが、実は20世紀フォックスの作品にはPHLエンコードのものが多い。 今月発売された中では、特に「インデペンデンスデイ」の出来が秀逸だが、これもPHLエンコードだ。'96年の作品ということもあり、ここ数年にDI製作された高画質マスターに比べると輪郭の甘さはある。しかし、この時代なりのフィルムの質感を再現しており、恣意的な修正、補正も加えられておらず素直な画質がいい。 PHLエンコードの最大の特徴はブロックノイズの少なさと、フィルムグレインの流れやパターンが固定化せず、ランダムに砂絵が流れるような雰囲気だ。グレインはノイズだが、完全にランダムに現れるため、時間軸方向で積分するとそこにディテールが浮かび上がる。そのグレインに埋もれたディテールを消さないのがPHLエンコードだ。 インデペンデンスデイと比べると、若干甘さやコントラスト感の低さを感じるかもしれないが、同様に再現性の高さを感じさせるのが「デイ・アフター・トゥモロー」。ややCGと実写の質感が異なって見えるのは致し方ないところだが、それだけ高画質で情報量が多いからとも言える。両作品はJavaを用いたインタラクティブ機能も凝っているので、購入した人は是非とも楽しんでみよう。 フォックスの作品でもっとも高画質と思うのは、「Mr.&Mrs. Smith」と「ファンタスティック4・銀河の危機」なのだが、前者は残念なことに別のディストリビュータが日本での頒布権を持っており、日本語版は楽しめない。銀河の危機は年内に国内版の発売がないということで、今回は紹介を見送る。なお、いずれもPHLエンコード作品。 ちなみに、PHLエンコードの作品は、本編終了後にPHLのロゴが表示される。銀河の危機以外となると、「ザ・シンプソンズ MOVIE」のBD版がPHLエンコードなのだが、日本での発売があるか否か、筆者は予定を知らない。基本的に「米国のフォックスが大切に思っている作品」をPHLに割り振るという方針だそうで、必ずしも日本のファンが好む映画とは限らないのがやや難点だ。 □関連記事 ■ 安定してきたSPEのH.264
最近のSPEは、MPEG-4 AVC/H.264の画質がかなり安定してきた。今年最初の大作BDとなった「007カジノロワイヤル」は、マスター品質の高さも手伝って、今年を代表する高画質ディスクの1枚とも言える出来に仕上がっていたが、シーンごとに質感のばらつきがあり、はまる映像では実に素晴らしいものの、別のシーンでは歪みやノイズが目立つといった不安定さを感じていた。 しかし、これもすぐに改良され、スパイダーマンのボックスセットが発売された10月頃には、当初見られた高周波数成分が減ったように見える(部分的に甘く感じる)ところや、シーンごとのばらつきも改善。DI製作でフィルムのデュプリケーションによる情報の喪失などもなく、非常にキレイで精密感のある映像に仕上がっている。 今月発売されたスパイダーマン3は特に輪郭が明瞭でコントラストも高い。難点を言うと、あまりに精細かつ見通しの良い映像になっているため、CGと実写の境目が明瞭に判明してしまうことだ。特に地下でサンドマンと対決するシーンでは、劇場ではさほど感じなかった合成のアラがキッチリと見える。 これも高画質故と言えばその通りなのだが、CGとフィルムの画質バランスや全体を通して見た時の質感はスパイダーマン2の方が優れているように思う。2は、現在はトリロジーボックスでしか購入できないが、できれば単体での発売にも期待したい。 SPEは今後、アスミックエース扱いの欧州映画も発売していく。来年早々にも登場する「ニューシネマパラダイス(BD版は未見)」あたりが、オリジナルの雰囲気を壊すことなく登場してくれることも願いたい。 名作では発売されたばかりの「未知との遭遇」のBD版が、実に素晴らしい仕上がり。まだ全編を見ていないのだが、旧作とは思えない高画質。最新作品ほどのキレはないが、公開年度を考えれば素晴らしいの一言だ。映像だけでなく、音声も鮮度が高く、宇宙船が降り立つシーンは圧巻。ファンなら購入して損はない。 □関連記事 ■ 日本のHDパッケージディストリビュータ様へ 日本でハリウッド映画スタジオのホームビデオ部門日本支社や、日本でのディストリビュータへ取材に行った時、必ず話題にしていることがある。それは日本市場のやや特殊なところだ。 日本のハイビジョン放送は世界的に見て、圧倒的に高画質だ。普段は「汚い」と言っている地上デジタル放送ですら、米国のHD放送に比べればマシだと思うことが多い。これがBSデジタルとなればなおさらで、有料放送のWOWOWやスターチャンネルHD、それにNHK BS-Hiなどが行なう放送、中でも映画の画質に関してはかなりレベルが高い。 このことを、映画業界で家庭向けにDVDを販売している人たちが、実はよく知らないということを、このところヒシヒシと感じている。ようやく立ち上がりの兆しを見せ始めているBDのパッケージ市場だが、取材先の多くの人がDVDの代わりにBDを買い始めるのはいつだろう? と考えている。 もちろん、将来的にはそうなるかもしれない。しかし、最初にBD(あるいはHD DVDで)を買い始めるのはコアなAV+映画ファンだ。彼らの多くはWOWOWやスターチャンネルに加入し、フルHD放送を録画する。今後、BDレコーダが普及してくれば、さらに録画してディスクに残す人が増えるだろう。 つまり、HDのパッケージソフトは自社のDVDと戦っているのではなく、WOWOWの放送と戦っているのだ。 すでに「ハイビジョンじゃないとイヤだ」という人は、とっくにDVDを買わず、WOWOWの放送を録画している。彼らが「やはり、録画は面倒だし、放送も公開日からかなり経過してだし、何より高画質で音質も良いからパッケージを買おう」と思ってもらわないと、なかなか4,000円も5,000円も出してはパッケージを買ってくれない。 すでに十分なインフラがあるDVDから、いきなりBDやHD DVDになるのではない。まずはコアなファンを獲得すること。そのためには、高画質、高音質ということを、是非とも念頭に置いて製作してほしい。いや、本当にお願いいたします。 □関連記事 (2007年12月27日)
[Reported by 本田雅一]
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