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西田宗千佳の
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ソニー・松下のBDレコーダを「設計思想」で比較する


 フォーマット戦争におけるBlu-ray Disc勝利の確定で、「そろそろBDレコーダを買おう」と考える人が増えているだろう。そこで気になるのは、「どこのレコーダを買えばいいのか」ということ。

 一般にレコーダを選ぶ場合には、「どんな機能があるのか」といった観点で選びがちだ。もちろんそれも一つの判断基準だが、ビデオレコーダの場合、また別の観点も重要だ。

 それは、「自分の生活スタイルにあった設計思想の製品か」ということである。構造と用途がシンプルだったVHS時代ならば、どこのビデオレコーダも「大幅に機能が違う」ということはなかった。だが、DVDレコーダ以降では、各社の考えるビデオレコーダのあり方が、そのまま製品の機能や特徴に直結している。

 各社の設計思想を理解するということは、各社の製品作りを知る、ということでもある。細かな機能は製品の投入時期によって違っても、根幹である設計思想そのものはすぐには変化しない。だからこそ、設計思想を知った上で新機種の機能を知れば、より深くその機種の特性を知ることが可能になるわけだ。

 というわけで今回はまず、トップシェアの2社、ソニーと松下のレコーダを、「BDZ-X90」と「DMR-BW900」を例に分析してみたい。なお、今回は機材準備の都合上2社のみの比較となったが、今後他社の製品でも、タイミングを見て同様の分析をお伝えしていきたいと考えている。

BDZ-X90 DMR-BW900


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■ DIGAの設計思想は「地デジ中心で番組決めうち」

 「ソニーは多機能、松下のDIGAがシンプル」。両社のレコーダを比較した場合、一般的に使われるのはこのフレーズだ。結論から言えば、この考え方は間違いではない。だが、設計思想的にいえば、もう少し深いレベルでの違いがある。

 一番の特徴は、「多チャンネルをどうとらえるか」ということだ。みなさんがテレビを観る時、チャンネル選択はどのようにやっているだろうか? 思考をたどれば、次のような流れになっているのではないだろうか。

 よく見る放送(一般に地上波)のよく見るチャンネル>よく見る放送の他チャンネル>普段見ない放送(一般にBSやCS)

 これは一般的なテレビのチャンネル操作と同じであり、特別に覚えることが少ないのが特徴だ。この発想を素直に引き継いでいるのが、松下のDIGAだ。電源を入れた時には「普段観ている放送」が表示され、放送の切り替えはリモコンで明示的に行なう。そのため、番組表も放送波ごとに、完全に独立したものとなっている。

DIGAシリーズ共通の番組表。地アナ時代から共通の操作であり、変更点は小さい。ただしハイビジョン対応になり、最大19チャンネルを同時表示可能になった。今どの放送を見ているかは左上に表示される

 多くの人は、BSやCSの受信設備を持っておらず、もっぱら地上デジタル放送を見ているはずだ。とすれば、「何も覚えずシンプルに操作してもらう」ことを重視し、このような設計になるのは理解できる。

 その代わり、地上波からBS、CSまでを素早くザッピングしていくのは難しい。特に気になるのはCSの仕様だ。現在の110度CSデジタル放送「e2 by スカパー!」は、内部的には、多くの局が使う「CS2ネットワーク」と、日本映画専門チャンネルHDやスターチャンネル・プラスなどが使う「CS1ネットワーク」に分かれている。現在のCSチューナの多くは、両者をつなげて使っており、ネットワークの違いを意識することは少ない。

 だが、現行のDIGAでは、CSは「CS1」「CS2」に分かれており、実質的には「地アナ」「地デジ」「BS」「CS1」「CS2」に分かれていて、切り替えが少々面倒だ。おそらく何らかの技術的な課題から分かれているのだろうが、ここまでずっと変更されていないところを見ると、ユーザーからのクレームも少なく、開発側も修正を重視していない、ということだろう。このことからも、DIGAは「ザッピング的に多チャンネルを観る」ことより、「観たいチャンネル・番組を決め打ちで観る」という思想だといえる。

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■ 「多チャンネルザッピング」「自動録画」でBS/CSを重視したソニー

 それに対しBDZ-X90に代表されるソニーのレコーダは、明確に「多チャンネル指向」だ。それは、X90のメイン操作画面である「XMB」の表示を見てもわかる。

 XMBというと、操作の簡単さや素早さが評価される一方、「情報の一覧性が悪い」といわれることが多い。だがテレビやビデオレコーダ向けの操作として考えると、むしろ利点は「適度な一覧性」ということになる。

 XMBで各放送の部分をみていると、以下のように、現在放送中の番組名がずらっと並ぶ。方向キーの上下でこれを高速スクロールさせて観たいチャンネルを探す、という作業は、まさに「多チャンネルのザッピング」に近い。

XMBは、PSXから採用された操作体系。いまやゲーム機からテレビ・レコーダまで、ソニーの統一インターフェースとなった。チャンネル切り替え時には、右のように放送中の番組名が一覧表示される

 地デジからCS、BSからCSといった切り替えも、方向キーの横で簡単に切り替えられる。これはレコーダというよりチューナ的な操作だが、ソニーの「多チャンネル放送」に対するアプローチを示す端的な例だといえる。

 同様に多チャンネル対応の中核をなすのが、「スゴ録」以来ソニーのレコーダの代名詞となった「おまかせ・まる録」だ。X90では「x-おまかせ・まる録」となって搭載されているが、自動録画機能の良さには定評がある。

X90の「x-おまかせ・まる録」設定画面。ジャンルや人名を設定して自動録画する 番組視聴中にも、自動録画設定は可能。番組表から人名や関連キーワードを抜き出し、それを手がかりに録画予約ができる

 多チャンネルになるということは、いつ・どんな番組が放送されるのかを把握するのが難しくなる、ということだ。スカパー! などを観ているという人でも、案外「決まったチャンネルの決まった番組しか観ていない」という人は多いだろう。ソニーがそこに手を入れようと、2002年に自動録画機能を搭載した「チャンネルサーバー CSV-S55」(コクーン)を発売した。それ以来洗練を続けてきたわけだから、筋金入りだ。


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■ 「覚えねばならない概念」の多いソニー
  「理解しなくても使える」ことを目指す松下

 このように書くと、いかにも「多チャンネルを意識したソニーの方が良い」ように聞こえるが、それは一面的な見方でしかない。すでに述べたように、松下は意図的に「シンプルで学習の少ないハード」としている。逆にソニーは、操作こそシンプルだが、「概念的に覚えねばならない」部分が多くなっている。

 たとえばXMB。従来の機器は、リモコンの「再生」や「早送り」といった、機能と一対一対応したボタンを押して使うのが基本だ。それに対しXMBは、PC同様、メニューによる操作が基本になる。メニュー構造と、「なにかあったらXMBを押してメニューを選ぶ」という概念を身につける必要がある。

 おまかせ・まる録についても同様に、「キーワードや嗜好で自動的に録画されていく」という概念をしっかり理解して使わねばならない。キーワード設定がうまくいかず、設定を調整する必要も出てくるだろう。PCが使える人にはどうということのないものだが、それが難しい人々が多いのも、また事実である。

BW900の「新番組自動録画」設定。ごらんの通りとにかくシンプルで、一度設定したらあとはほおっておいてOKだ

 自動録画はソニーの独壇場のイメージもあるのだが、BW900にも実は自動録画機能が搭載されている。だがその機能は、「新番組を自動で録る」というもので、設定もきわめてシンプルだ。「一言で理解できて設定いらず」だからこそ、この機能は搭載されているのだろう。

 編集機能も同様だ。ソニーは、まずチャプタを切った上で、必要な部分だけをプレイリストで抜き出したり、不要チャプターを削除したり、といった形になっている。自由度は高いが、その分理解は少々面倒ではある。

 それに対しBW900のものは、基本的に「不要部を削除する」という形式。頭出しにチャプターを活用できるが、それ以上のことは出来ない。シンプルだが、覚えることは少なく、すぐに使いこなせる。また、動作が比較的軽く、編集時のストレスが少ないのも特徴だ。

X90の編集画面。基本的にはチャプター設定を生かした編集だ。自動的にチャプターが作成される「おまかせチャプター」との組み合わせが前提なのだろう BW900の編集画面。ごくシンプルな「削除」を基本とした編集だ。削除する場所の最初と最後を選択していき、最後に「不要部分」とマークされたところを映像そのものから削除する

 なお、これはX90世代に限ってのことだが、ソニーのレコーダは従来に比べ動作が重くなっており、チャプターを切り直す際などに、早送り・巻き戻しをしてポイントを確定する時に不便を感じた。このあたりは改善をお願いしたいところだ。



■ 「技術的制約」をマスクした操作性の良さがDIGAの特徴

 そうでなくても、ビデオレコーダには「技術上の理由から来る制約」が多い。代表的な例は、W録時の制限だ。X90、BW900ともにMPEG-4 AVCによるエンコードが可能だが、どちらもエンコーダは1つしか搭載されておらず、片方でしかエンコードしての録画はできない。またX90の場合、自動でチャプタを切る「おまかせチャプター」という機能があるのだが、それはエンコーダのある「録画1」側でないとできない。

 だが、ソニーと松下では、この種の「技術的制約による機能制限」に対する考え方が非常に異なっている。

X90の録画1で録画中にはチャンネル切替ができない

 たとえばX90では、録画1で録画中はチャンネル切り替えができない。録画しながら別の番組を生で見るには、最初から「録画2」で録画するようにしておく必要がある。X90は、おまかせ・まる録で自動録画する関係上、録画機能が動作している時間が長い。レコーダでの「生視聴」にこだわるなら、「どちらで録画するか」をきちんと考えておく必要があるわけだ。

 BW900はそうではない。エンコーダの有無や録画チューナの種別を気にするのは、「同時に2番組を録画するため、AVCエンコーダが足りない」時だけだ。また、ちょっとしたことだが、録画時に「エンコード後どのくらいの画質になるのか」の表示がなされ、わかりやすい。

 BW900で一番こだわりを感じるのは「予約録画停止」時の挙動だ。予約録画動作時は、とにかく「停止」ボタンを押せば予約録画が止まる。たとえば、2つめのチューナで番組を生視聴しつつ、1つめのチューナでの録画を止めたい、と思った時にも、単に「停止」ボタンでいい。チューナが切り替わることなく、録画だけが止まる。一見当たり前に思えるが、これは作る側がきちんと「今観ている番組は見せ続けるのが自然」という思想を持っていないとできないことである。

BW900の録画設定は、「どこまでがハイビジョンで、どの設定が上の画質か」が一目でわかる 表示中のチャンネルは地デジの4チャンネルだが、「録画停止」と表示されているのは6チャンネル。シンプルで非常に使いやすい



■ 「今のスタイルでシンプル」か「未来のスタイルでちょっと勉強」か

 ここまで解説してきたように、「多機能対シンプル」とはいうものの、その根幹には設計思想があり、その結果として機能の違いが現れている、ということがおわかりいただけるのではないだろうか。

 松下の製品は、現在のテレビ視聴スタイルを重視し、ITスキルやコンピュータ的概念をできるだけ覚えずに使えるよう作られている。それは「日々の操作ストレス軽減」にも一役買っており、なにも初心者だけを見た要素、というわけではない。

 ソニーの製品は、「これからのテレビ視聴スタイルはどうあるべきか」を考えた製品だ。その結果、様々な野心的機能が搭載されているが、ある程度「ソニーのレコーダならではの概念」も理解しなくてはいけない。とはいえ、一度覚えれば操作自身はシンプルで、決して難しいものではない。

 これらの「設計思想」を頭に入れた上で、「これから両社がどう改良をしていくか」を予想してみるというのも、おもしろいのではないだろうか。

□松下電器産業のホームページ
http://panasonic.co.jp/
□DIGAのホームページ
http://diga.jp/
□ソニーのホームページ
http://www.sony.co.jp/
□製品情報
http://www.sony.jp/products/Consumer/BD/product/
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(2008年2月26日)


= 西田宗千佳 =  1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、月刊宝島、週刊朝日、週刊東洋経済、PCfan(毎日コミュニケーションズ)、家電情報サイト「教えて!家電」(ALBELT社)などに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。

[Reported by 西田宗千佳]



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