3月25日、SCEはPLAYSTATION 3のシステムソフトウエアを「2.20」にアップデートした。2.20は、Blu-ray Discのオンライン機能である「BD-Live(Blu-ray Disc Profile 2.0)」に対応したほか、モスキートノイズ・リダクションなどが追加されるなど、昨年7月の「1.80」に続く、久々の「大型アップデート」となった。 これらがどのように開発されたのか? そして、PS3のアップデート方針は、今後どのようになっていくのか? SCEに取材した。今回は、PS3の商品企画を担当する、商品企画部の松井直哉部長、アップデートなどのネットワークプラットフォームの責任者である、ネットワークプラットフォーム開発部の梅村晃二郎部長、そして、AV関連技術の開発を担当するソフトウエアプラットフォーム開発部 2課の縣秀征課長に話を聞いた。
■ PS3のBD-Liveはスタジオにも好評
-今回のPS3のアップデートは、BD-Liveへの対応が中心、というところですか? となると、BD-Live対応の映像ソフトが発売になるタイミングにあわせた、ということでしょうか。 縣:そうですね。4月に米国でBD-Live対応ソフトが発売になりますので、それをふまえてこの時期に公開しました。 -実装としては、CESの時にデモとして公表されていたものと同じ、ということになりますか? 縣:ソフトウエアのコードとしては、あの時に公開したものよりも改良が進んでいますが、機能レベルでいえば同じです。 -まだBD-Liveの使えるプレーヤーで、世に出ているものはPS3だけですから、当然みなさん、どれくらいのことがBD-Liveでできるか、ご存じない状態です。逆にいえば、PS3のBDプレーヤーとしての可能性を示すものになるわけですが、そのあたり、どのくらい意識していますか? 縣:どのような機能を搭載するかは、あくまでスタジオ側の判断になります。彼らがどのようなことを考えているかは、スタジオ側とのNDA(秘密保持契約)がありますので公表できませんが、基本的な、Javaとネットワークを使ったサービスは検討されています。例えば、CESで公開したコンテンツダウンロードや、携帯電話へと着メロを転送、メッセージなどのいろいろなものをユーザー同士でシェアする機能など、今後どんどん増えていくと思います。
-スタジオ側からの、PS3のBD-Live機能の評価は、どのような感じになっていますか? 縣:満足していただいています。ベンチマークをとっていただけばわかるのですが、他の機器に比べ、スピードが格段に違うんですよ。我々はゲーム機で、他の家電機器に比べ、パワーの差が歴然としてありますから、それは当たり前の話でもあります。そのため、「やりたいことができる」と言っていただいています。今後家電機器も性能が上がってくるとは思いますが、グラフィックのレンダリング性能などはなかなか差が縮まらないと思います。現行のBD-Javaのレベルでも、ソフト側で自動的にベンチマークをとり、「この機器ではここまでだけど、PS3ではもっと派手なエフェクトがつく」といった差別化が行なわれているソフトが何タイトルかあります。 -BD-Javaというと、同じコードで同じように動かすもの、という思いこみがあったのですが、そのような差別化も行なわれているんですか。 縣:Javaのアプリケーションを動作させる時に「Loading」といった表示が出ているものがありますよね? その時にベンチマークをとって分岐しているソフトがあります。ですから、一部のソフトを入れると、PS3では明らかに動きが違います。 -ということは、BD-Javaと同様の差別化が、BD-Liveで行なわれる可能性も…… 縣:そう考えるスタジオさんがあるかもしれません。 -BD-JavaやBD-Liveに、PS3向けの特別な仕様が用意されているわけではないんですよね。 縣:はい。それはあくまで、規格内での動作です。ただ、性能が違いますので、「せっかくデザイナーがかっこいいものを作ったのに、重くて動かない。でも、PS3では問題ないので使おう」といった形で採用されている、ところはあります。今後、PS3向けの拡張をすることもできないことではありませんが、BDの規格の中でやるべき世界と、PS3のフォーマットの中でやるべき世界はまた違うと考えています。PS3の性能を出し切る、独自のものについてはPS3フォーマットで展開するのが正しい方法だと思います。独自なことをやると、BDのフォーマットを乱すことにもなりますしね。 -あくまで、BDフォーマットの中で最上位のものを目指す、ということですね。 縣:そうです。 -BDの機能としては、CESの際にデモしていた、BDからPSPへの映像ファイル転送機能があります。あれは、PS3とPSPの独自機能として実装されているのですか? ファイルのコピー、という形ですよね。 縣:フォーマットとしては2種類あります。BDのフォーマットとして規定されているのは「マネージドコピー」。こちらは映像のコンバートを伴います。それに対してCESでデモした「ポータブルコピー」は、モバイル向けのファイルをコピーしています。 梅村:「ポータブルコピー」は、ユーザー操作的にはコンテンツのコピーです。それ用のコンテンツをポータブル機等にコピーします。現時点ではあくまで「技術デモ」という位置づけですので、それ以上のコメントはご容赦ください。 -BD-Liveが実装されたことにより、それらの機能がPS3に搭載された、という誤解もあるようなのですが、それはまったく別の話ですよね? 梅村:はい。2.20では、マネージドコピーもポータブルコピーも実装していません。
-PS3にとってのBDプレーヤーとしての魅力、という点についても伺います。現在、BDプレーヤー全体の中でも、数的には圧倒的にPS3の占める割合が高い。PS3を拡販していく中で、BDプレーヤーの持つ位置づけについて、どのように考えているのでしょうか? 松井:平井(社長)が申し上げているように、一義的には「ゲーム機」、というのが大きなメッセージとなっています。社内外も含め、ゲームとしての楽しみに注力する、というのが基本になっています。まずはそこをプライオリティにしています。 ただ、平井も「インタラクティブ・エンタテインメント」という言葉を使っているのですが、ゲームというものの概念が変わってきていています。BD-Liveなどのように、単に映像を見るだけではなくて、インタラクティブに操作できることにより、コンテンツの楽しみがさらに広がるものも出始めています。こういったものは、「インタラクティビティの向上」という概念において、やはりPS3ならではのもの。機能の向上も含め、販売促進のアイテムの一つとして使っていきたいと考えています。
□関連記事 ■ 2.20は「内部」が大きく変化 -ゲームに関連する部分を伺います。 PS3のアップデートというのは、ユーザーに対して新機能を提供する、という意味合いを持つと同時に、ゲームメーカーに対して、ゲーム内で使える新機能を提供する、という意味合いも持っているはずです。その中でも、多くの方が望んでいるのは、ゲーム内からXMBにアクセスし、ネット機能やマルチメディア機能を利用する、というものです。現状では、ゲーム内でXMBが利用できていませんよね?
梅村:今回のアップデートには、そういう機能は含まれていないです。要望は理解していますので、内部で検討は続いています。ただ、時期を含めた正式なコメントはまだ難しいです。 松井:とはいえ、XMBの持つ機能のうちいくつかは、すでにアップデートにより、ゲーム内で利用可能になっています。ただし、それをサポートしたゲームがまだあまり出てきていません。今後どのような形でそれらのタイトルが発表されるかは、ゲームメーカーさんと密接に協力しながら、公開していくことになると思います。一般論として「インタラクティビティを向上していく」という観点で、ゲーム内でのXMB活用については避けて通れないところだと思いますので、社内で検討を続けている、というところです。もちろん、そういう要望が多い、というのも理解しています。
梅村:実は今回(2.20)のアップデートは、外見こそあまり変わっていないのですが、内部的には相当な変更が行なわれています。その狙いは、使用リソースの削減にありました。 -以前、PS3発売時にお伺いした際には、XMBを含めたPS3のOSが、ゲーム中にも占有するメモリー量は「64MB」だったと記憶しているのですが、それは大幅に削減されたわけですか? 梅村:はい。もうずいぶん改善しています。2.20に関するライセンシーさん向けのアナウンスというのは、システムのメモリ使用量をぎゅっと圧縮し、少なくなったよ、というものになっています。 -他方で、PLAYSTATION Store(PS Store)の拡張については、他の地域では発表されていますよね。 梅村:はい。アメリカやヨーロッパでは、すでに発表がなされています。ワールドワイドでの対応を検討していますので、もちろん日本でも検討はしています。ただしその詳細については、あくまでリージョン毎にビジネスの準備が整い次第公開、ということにしておりますので、この段階では、「しかるべき時にしかるべきタイミングで」とだけコメントさせてください。 -PS Storeにしろ、ウェブブラウザにしろ、またHomeにしろ、PS3では、「ネットワークサービス」について、様々な形でのアプローチが行なわれています。それらの使い分けや統合について、どのような形で望もうと考えていらっしゃいますか? 梅村:なにかこう決まっている、という話ではないのですけれど……。サービスを提供する時に、そのサービスにあったものを使う、という形になります。その用途の中でどう見せるかは検討しています。 ■ ブラウザは「快速」化、動画ストリーミングにも対応
-ウェブブラウザについて。今回のアップデートで、Java Scriptなどを多用したアクティブなウェブサービスの動作状況が改善された、という印象があります。また、動作もかなり高速化しましたよね。相当内部的な改良が行なわれたのですか? 梅村:パフォーマンス向上のためには、相当手を入れています。ただ、機能面で大きな追加を行なった、ということはないですね。課題というのは常に細かく存在しまして、それに手を入れることで、ウェブサービスへの対応状況が良くなっている、ということだと思います。個々のサービスについては、すべてを把握しているわけではありませんが……。 -特に、動画対応のウェブサービスを、PS3を使ってテレビで見たい、という方が多いようです。今回、その点では改善がなされたのですよね? 梅村:はい、ストリーミング動画への対応は改善しています。いままではストリーミングに対応できていませんでしたが、今回からウェブブラウザ上で対応しています。ただ、すべての動画サービスに対応できているわけではありませんが。 -今後、AdobeのAIRであるとかMicrosoftのSilverlightであるとか、様々な新機能への対応が望まれてくると思います。その点についてはどうですか? 梅村:個々の機能についてはコメントできませんが、基本的に「性能を上げる」「機能を上げる」ということについては、他の機能と同様、改善をしていきます。ですから今後、「あるサービスが使えるようになる」ということは十分にあり得ます。現在も、色々とリクエストはいただいています。どれに対応します、ということはこの場ではコメント出来ませんが、「みれないものがある」ことはわかっていますので、順々に対応していくことになると思います。 縣:みなさんの希望は、「すごく」意識していますので(笑)。 現状筆者の元で試した限りでは、動画サービスの場合、YouTubeなどはかなりのパフォーマンスで利用可能となったが、ニコニコ動画は利用できなかった。おそらく、多くの人が対応を期待しているものであるだろう。可能ならば、対応をお願いしたいところだ。
■ DLNAの「DTCP-IP」対応はまだ検討中 -DLNAについて。2.20でのアップデートで、ストリームの早送り・巻き戻しの挙動が変わったようです。快適さが損なわれ、不具合にも思えるのですが。 梅村:動いていたものが動かなくなるのは、確かに良くないことですのですから、修正すべきものだと思います。ただし、個々の案件については、現状ではすべての状況確認が取れていないので、その案件が修正の対象かどうかは、この場でお答えはしかねます。 -大きな仕様変更が行なわれたのですか? 梅村:いえ、特にそれはないです。ただし、内部のパフォーマンス向上は行なっています。 -DTCP-IPについての対応が望まれています。この点はどうですか? 梅村:そうですよね。要望は理解しており、実現に向けて検討しています。ただし、様々な事情により、現時点でも実現できていない、とだけコメントさせてください。 -アップデートの一部を、有料化することは出来るのでしょうか? これまでは、すべてのアップデートを無料で提供してこられました。追加された機能の量には大変なものがあり、ユーザーから見れば「どんだけ太っ腹なんだ」と思う部分もあります。ニーズが小さく、コストが厳しいものは有料でアップデート、という形もあり得るのではないですか? 梅村:あり得ると思います。ゲームをダウンロードで買っていただいているのと同じですから、技術的にはまったく問題ないです。 松井:といいますか、無料でのアップデートという考え方は、「プラットフォーム」として5年以上は楽しんでいただくものなので、ずっと使い続けていただきたい、という部分からきているんです。アップデートで進化していくハードウエア、というコンセプトも打ち出していますし。 梅村:まずは、お客様に喜んでいただければ、というところですよね。 前回、PS3のアップデートに関しSCEに取材してから、およそ10カ月が経過している。PCでDCTP-IPが実現できていること、PS3がDLNAクライアントとして相当に高度な処理を実現していることを思えば、「時間がかかりすぎている」印象がある。様々な事情は存在するのだろうが、ぜひとも万難を排し、DCTP-IP対応を実現していただきたいところである。
■ 光ディスクと「その他」で異なる処理系 -確認ですが、光ディスク系とDLNAなどでは、映像再生の処理系が違いますよね? 縣:はい、その通りです。ノイズリダクションなどの高画質化に関しては、まず光ディスク側に適用し、その後段階を踏んで、導入できるものはDLNAなどのメディアプレーヤー側に実装されていくことになります。 ただ一方で、メディアプレーヤー側での再生と光ディスク側での再生の違いには、光ディスクの場合、「規格の範囲内で実装すればいい」という事情があります。メディアプレーヤーの場合には、一般の方が自由に作った、様々なエンコード設定のファイルに対応せねばなりません。そこでもきれいに再生するには、また別のノウハウが必要、という部分もあるんです。 -個人的には、メディアプレーヤー側のファイル再生の場合、アップコンバートよりもi/p変換の精度を高めてほしいところではあります。ああいったファイルでは、まともにデインタレースされていなかったり、されていても低品質なものだったりして、コーミングノイズがひどい場合があるので、なんとかできないか、と思うのですが。 縣:まさにそこが難しさなんです。きちんと規格に沿って処理された市販ソフトの高画質化はできても、ユーザーが制作したデータでは、どんな形になっているかわからないものもあるので、違いがかなり出ます。すべてが素性のいいファイルというわけではないので、下手をするとアルゴリズムそのものを変えねばならないので、ハードルが一段高くなります。 -AVCHDのデータの場合、光ディスクプレーヤー側とメディアプレーヤー側、どちらで再生しているのですか? 現在は両方で出来て、ルートにより画質が違ってきますよね。 縣:ディスクやメモリースティックから再生する場合は光ディスクプレーヤー側です。ただし、フォルダ構造を追いかけていき、ファイルとして開く時はメディアプレーヤー側です。両方のルートがあって、画質が異なっているという問題は認識しています。 といいますのは、ファイルをカムコーダやメモリーカードから、本体側にコピーできるじゃないですか。それを再生するとファイル単位になるのでメディアプレーヤー側からの再生になり、直接再生だと光ディスクプレーヤー側になって高画質化する、という事情があるんです。実装当時は、AVCHDというとDVDを使ったものが多かったのでこういう形になっているのですが、現在はハードディスク対応のものやフラッシュメモリーのものが多くなっているで、今後その点は考えたいな、と思っています。 -ブラビアリンクに、PS3を対応させる予定はありますか? 松井:現時点では明確にお答えできません。ご容赦ください。 -PS3用のリモコンなんですが、他のリモコン向けにアダプタを出したり、リモコンコードを公開したり、といった可能性はありますか? 松井:PS3に赤外線受光部をつけたり、といったことですか? 残念ながら、現時点では予定はないですね。 -PS3のBluetoothリモコンに、赤外線リモコンをつける計画はないですか? テレビの音量を絞ったり、テレビの電源を入れたり、といったことに使いたいのですが。 松井:ああ、なるほど。それは確かに。現状で、明確にニーズとして上がってきてはいなかったのですが、重要ですね。おっしゃるとおりです。検討します。
■ モスキートノイズ・リダクションは「地デジ」対策 -画質向上の面でいえば、「モスキートノイズ・リダクション」の効果が大きいと思うのですが……。 縣:はい。やっと入りました(笑)
-非常に効果が高いですね。自宅では、地デジのサッカーとスカパー!の番組で試したんですが、はっきり違いました。どのあたりを狙っているんですか? 縣:モスキートノイズが多いとイライラしますよね。ネットでは「アニメで効果大」と言われているんですが、元々は狙いは「地デジ」なんです。BSデジタルはいいんですが、地上デジタル放送、特に生放送を録画したものは、モスキートノイズが非常に多くて画質的に厳しい。そこで、地デジを録画したBDAVのディスクをきれいにしよう、というつもりで作っていたものです。ただし、かけすぎると副作用で、ディテールが失われてしまったりするんです。ですから、なるべくそれがないように工夫しています。 「1.80」でアップコンバートを入れたのですが、あの機能は、元の画質が悪いとどうしようもなかったんです。言い変えれば、アップコンバートは「画質のいいディスクが、さらに綺麗に見える」ものだったわけです。長時間モードで録画したディスクは、ノイズに負けてしまって高画質にならなかった。1.80からの課題というのは、いかにノイズリダクションを高度化するか、ということになりました。 1.80の頃は、モスキートノイズ・リダクションがないので、DVDの高画質化、という点では限界があるな、と思っていたんです。特に、現在はMPEG-4 AVCを使って(1枚のBDディスクに)長時間録る、というニーズが多いのですが、そうするとモスキートノイズが出やすくなります。ですから、それをなんとかする、という目的から作った、というところです。 通常のノイズリダクションもずっと改良は続けてきたんです。今回、発表に盛り込まれたのはモスキートノイズの改善だけですが、他のノイズリダクションも高画質化しています。 -確かに、モスキートノイズ・リダクションを行なわない場合も、今回のアップデートで画質が向上している、と感じる部分がありましたし、ネットではそのような意見も見られました。では、その感想は正しい、ということになりますね。 縣:はい、そのとおりです。あくまで、1.80からの継続として、ですが。 技術面ですが、今回もまたソニーとの協力で実装しています。ですが、我々はソフトウエアなので、家電のハードウエア実装に比べ、もっと色々なことができます。ですから、色々な拡張をし、よりいいものを作ったぞ、というつもりでいます。 以前から、「もっときれいにしていきますよ」とお伝えし、それ以来ずっとアルゴリズムの改善に取り組んできたのですが、それだけでは不十分、ということで、今回モスキートノイズ・リダクションを導入したわけです。 前回のお話の中で、「中の隙間をあけないと新しい機能が入らない」ということをお伝えしたと思うのですが、ずいぶん内部の最適化をすすめ、処理時間やパワーに余裕ができてきて、やっと今回これが入った、という流れです。 -モスキートノイズ・リダクションに、相当処理能力を使っていますよね? 縣:はい。ただ、PS3発売当初のBDプレーヤーや、1.80のものに比べると、モスキートノイズ・リダクションが入っても負荷は下がっているはずです。トータルでどのくらいか、という数値はもっていませんが……。負荷を下げて、また処理を入れてちょっとあげて、という感じだと思っていただければ。 -各種機能で、PS3をフルパワーで使うことは許されているんですか? 梅村:はい、ゲームさえ動いていなければ、フルパワーで動作してもOKです。 -例えば、BDプレーヤーなどではフルパワーで動いているんでしょうか。 縣:いえ。発売当初のPS3でも、AVCを再生しない限りフルパワーということはありえないです。現在だと、ピクチャー・イン・ピクチャーでAVCを2本再生し、さらにBD-Javaで相当高負荷なものをぶん回さない限り、フルパワーには到達しませんね。いかにフルパワーに達しないようにするかがんばっています。1.80の頃はDVDをアップコンバートするとフルパワーに近くなっていましたが、いまはそうではありません。最適化が進むとパワーが少なくなるんです。そこで、また(機能を)入れたくなっちゃうわけです。 -現在それらのノイズリダクションが効くのは、光ディスクの映像を再生した場合のみですか? 縣:はい。DLNAやハードディスク内のコンテンツには効きません。 -光ディスクプレーヤーとしての要求として、「1080iのコンテンツを1080pにする」とか、「DTS-HD Master Audioへの対応」などもあるのですが、この点についてはいかがですか? 縣:いろんな要望はいただいています。検討はしていますので、ご期待いただければな、と思います。 -1080iからのプログレッシブ化が実現していないのは、性能の問題ですか? 縣:色々ですね。もちろん、ご要望は理解しています。それに、「ただ入れただけ」にはしたくないんです。単なるバイキュービック法やバイリニア法で補間、というのでは満足できません。やるからにはちゃんとした効果があるものを、と考えています。中途半端なものでお茶を濁したくはないです。 -ハード的に難しいこともあるわけですか? 縣:ものによりますので、この場で一言でお答えするのは難しいです。ただ、一般の方が思っていらっしゃる制限の中にも、意外と実現できるものもありますので……。 例えばLTHへの対応です。ネットなどで「LTHには絶対対応できない」と言われていて、悲しかったのですが、あれは、まずソニーのレコーダーが対応し、その出荷版ファームウエアで書き込まれたメディアで、動作検証をする必要性があったため、どうしてもこれだけの時間がかかってしまった、というだけの話なんです。出せるタイミングが今回だった、ということです。LTHを使うということは、まさにモスキートノイズ・リダクションが必要になる、地デジなどの長時間録画が活躍する場面。ですから、LTHも使っていただきたいですね。 -高画質化・高音質化という点で、これから狙いたいところはどこですか? 縣:やっているメンバーは色々考えていて、まだまだ満足していないところがあります。PS3のいいところは、ソフトウエアで実装するので、やっていることが横展開できるんです。ここで実現したものが、ソニーグループ全体に広がっていきます。継続性という点も含め、色々と考えているところです。 BDプレーヤーとしては、Profile 2.0に対応したことで一段落した、と思います。ですが、逆に前回お話したように、ここまでの機能が搭載できるまでは、どれだけのリソースを必要とされるかがわからない、ということもありました。これからは、「どこまでやるのか」という問題もありますが、隙間をあけて、いろんなことをやっていこうと思います。 -この段階で、まだいろんなことができる隙間はあるんですか? 縣:いや、空けるんです(笑)。そんなに空いてはいないんですけれどね。まあ、最後は刀を研いでいくような世界ですね。
■ アップデート間隔はやはり「基本四半期に一度」 -このところ、アップデートの間隔が長くなったのでは、という話があります。PS3のアップデートについては、どのようなポリシーを持っているのでしょうか? 梅村:いろんな理由があって一概には言えないのですが、あまり頻繁すぎるのも良くないと考えています。今はPS3をネットワーク接続すると、アップデートが必要な時には必ずアップデートを要求されます。時間もかかるのであまりしたくない、というお客様もいるのではないか、と思います。ですので、頻度は上げたくないな、と思っているのです。ただ、ビジネス的な要因ですとか、セキュリティ的な要因もあり、外せないタイミングというのもありますので……。 -細かいアップデート(バージョン番号で小数点第二位以下の変更)は、主に不具合やセキュリティ面での修正だと理解しています。以前のインタビューでは、「大きなバージョンアップは四半期に一度」という基本方針があると伺いました。それはいまだ変わっていない、ということですか? 梅村:はい。今もそのつもりです。「2.10」とか「2.20」といったキリのいい数字のアップデートは、そのスケジュールを目指してやっています。 -四半期に一度、という方針は、PS3もPSPも同じなのですか? 松井:そうですね。 -時期はPSP、PS3が重なるように考えていますか? 松井:わざわざずらすようにしている部分もあります。情報提供を分かりやすくする問題もありますので。ただ、「リモートプレイ」のように、PSPとPS3が連携するものについては、当然ながら同時でのアップデートが基本です。 -まだ、懸案としている機能はいくつかあるわけですか。 松井:そうですね。技術側にお願いしていること、というのはまだまだあります。 -例えば? 松井:今回はご勘弁ください(笑)。 -PSP側でも、まだアップデート内容として考えていることはあるわけですか? 梅村:まだまだネタはありますね。熟成はされてきていますが、まだやりたいことは残っています。 -この次のアップデートも四半期に一度、という感じですか? 梅村:うーん、それよりは短いのではないかな、と思います。PS Storeの件もありますし。
■ 4月半ばから新鍵利用のBDビデオ登場 取材の最後、SCEからお願いがあった。「できるかぎりPS3のアップデートをお願いします」。理由は、BDビデオタイトルで、新しい「暗号化鍵」を使ったタイトルの流通が始まるためだ。 BDではDVDと違い、著作権保護用の暗号化鍵を変更して著作権保護を保つ仕組みが採られている。PS3の場合、BDプレーヤーとして「Proactive Renewal」という形式を採っている。これは、定期的にプレーヤー側に内蔵された暗号化鍵を更新することで、ディスク側の鍵変更に対応する仕組み。暗号化鍵はPS3のシステムソフトウエア内に含まれ、アップデートの際、同時に更新が行なわれる。長くアップデートをしていないと暗号化鍵が更新されておらず、新しい鍵を使ったソフトが再生できない可能性がある。 とはいうものの、PS3の場合には、1.80で更新された暗号化鍵でも新たなディスク側の鍵に対応できるため、1.80以降であれば再生はできる。 「ですが、これだけ新しい機能が追加されていることもありますから、ぜひとも定期的にアップデートをお願いしたいのです。特に映画再生に関しては、昔のバージョンと今のものとではまったく別物なくらいになっていますので」と縣氏は話す。 以前に発表されたものでは、PS3のネット接続率は「4割前後」(SCE広報)。ゲームタイトルからのアップデートもあるので、ネット接続率だけではアップデートの率を計ることは難しい。だが、これだけの機能アップがあるのだから、アップデートをしないのは実に「もったいない」。 なお、PS3のアップデータは、PS3用のゲームタイトルだけでなく、一部のBDビデオソフトにも組み込まれている。現状では、初のピクチャー・イン・ピクチャー対応タイトルである「バイオハザード3」に、2.10へのアップデーターが組み込まれているという。今後、BD-Live対応ソフトなどで、同様のことが行なわれる可能性もある。 □SCEのホームページ (2008年4月3日)
[Reported by 西田宗千佳]
AV Watch編集部 |
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