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第366回:最後の戦艦? 東芝VARDIA「RD-X7」を試す
~ デジタル時代の再生機能重視レコーダ ~



■ いよいよダビング10スタート

 ダビング10の開始が、7月4日の午前4時からスタートすることが決まった。デジコン委員会では7月5日前後ということであったが、5日は土曜日で、何かあった場合のメーカーの対応が難しいということで、4日という要望があったようだ。消費者としても、実質金曜日からダビング10が利用できるようになるわけで、プライムタイムで面白い番組が放送されることを期待したい。

 さて、ダビング10と並んで今年のAV機器業界での話題は、HD DVDの撤退だろう。もう年末特集のようなことを書いているが、実際この2つは今年の10大ニュースには確実に入りそうである。

 撤退後の東芝の動向が注目されているわけだが、この夏商戦にむけての新モデルは、RD-X7、RD-S502/302、RD-E302の3タイプ。当然HD DVD機ではない。早々にBlu-rayに転向するのではという予想もあったが、実際にはHDD+DVDレコーダとして登場した。今回はこの中でも、フラッグシップモデルのRD-X7を取り上げてみたい。

 これまで東芝Xシリーズと言えば、録画ファンの大きな注目を集めてきたわけだが、X7ほど不遇なモデルはないだろう。いくらDVDメディアにハイビジョンが録画できるHD Rec搭載とはいえ、事実上次世代DVDから後退せざるを得なかったのである。

 ただHDDレコーダとしての機能や出力へのこだわりなど、他社とは一線を画していることは間違いない。では早速、X7の実力を検証していこう。



■ A600譲りのシンプルさ

ボディはほぼA600と同じ?

 まずデザインから見ていこう。これまで東芝のフラッグシップと言えばHD DVD機だったので、そっちのゴージャス路線のイメージが強いのだが、過去Xシリーズのデザインは、X6にしろX5にしろ、その時期の普及機とそれほど変わらなかった。

 同じようにX7は、HD DVDの普及モデル「RD-A600」とよく似ている。そこから勝手に予想すると、もしHD DVD撤退が無ければ、X7はHD DVDのハイエンド機として登場していたのかもしれない。

 フロントパネルは、上部にDVDドライブ、下部のパネルを開けるとB-CASカードスロットや外部入力端子があるという構造で、その間にボタン類が並ぶ。DVDドライブは、潜在的にはHD DVDドライブであるという噂もあるが、実際に試したところHD DVDビデオソフトも、HD DVD-Rに録画した番組も再生することはできなかった。

左側には電源とメディアチェンジボタン 右側は再生・録画操作とパネルの開閉ボタン 下部の扉を開くと端子類が

トレイはやや薄型になった

 また本機は、AVC録画機能を装備しており、HDDにMPEG-4 AVC/H.264記録した番組を、DVDメディアに記録できる。従来機は使用可能なメディアがDVD-Rのみだったが、-R DL/-RW/RAMでも可能になった。DL対応は、容量の問題を解決すると思われるが、RAMの対応も大きいように思う。というのも、カートリッジ式の両面ディスクを使うことができるからだ。ただし記録速度が3倍速以上のメディアに限られる。

 内蔵HDDは1TBで、TS録画の場合は24Mbpsと仮定したときに約91時間、MPEG-4 AVCの推奨値、8Mbpsでは約259時間の録画が可能。ただ、フラッグシップだからといって、フル機能を装備するわけではない。同時期に発売されるSシリーズでは搭載しているKDDIの「DVD Burning」や、番組表高速起動は搭載していない。

 X7の価値はむしろ、背面パネル側にある。過去フラッグシップ同様、背面パネルにはステンレスを使用し、端子は金メッキ仕様だ。ハイビジョン出力は、この夏モデルでは唯一1080p/24F出力をサポートしている。またDVDをHDにアップコンバートするスケーラーには、高級プロジェクタやAVアンプなどで使用されている「HQV Reon VX50」が使用されている。

 リモコンも見ておこう。基本的にはこれまでのHD DVD機のリモコンとほとんど変わらない。過去印刷の無かったボタンが無くなったり、4色ボタンの下にABCDの表示が無くなったりといった程度だ。なおX7には、下位モデルに付属する「シンプルリモコン」は付属しない。

経年変化に強いステンレスパネルを使用したバックパネル リモコンは以前とほぼ同じ



■ レベルが上がったMPEG-4 AVC録画

TSEのビットレートは一覧から選ぶことができる

 まずは録画機能から見ていこう。本機はデジタルW録機なので、デジタル放送×デジタル放送や、デジタル放送×アナログ地上波の録画が可能だ。ただしTSE(MPEG-4 AVC)録画はエンコーダが1系統しかないので、もう片方はTS録画になる。

 TSE録画はマニュアルで47段階のビットレートがあるが、ある程度設定をプリセットすることもできる。標準では5つまで設定を持てるほか、SDにダウンコンバーとして録画する「高レート節約」もある。日曜日の夜にTBSで放送された「女子バレーボール ワールドグランプリ2008」で各モードを録画してみた。以下の寸評は、この番組を各モードで録画・視聴した筆者の主観に基づいた感想である。

 動画サンプルは、i.LINK端子経由でHDVカメラから、TSモードで録画したファイルをマスターとし、そこからMPEG-4 AVCの各モードへエンコード。HD Rec形式でディスクにライティングし、PCへ取り込んでいる。HD Rec形式でライティングしたディスクのファイル構造はHD DVDと良く似ており、録画データは「.SRO」拡張子で保存されている。「GOMPlayer」という多コーデック内蔵のフリーソフトで再生できたが、PCの環境などによって再生できない場合があるのでご了承いただきたい。また、解像度は1,440×1,080ドットのファイルのため、画像は若干縦長になっているのをお断りしておく。


下表の静止画は、サンプル動画の黄色い枠の部分を切り抜いたもの

動画サンプル
モード ビットレート サンプル 寸評 ファイル
HDV

元データ
約24Mbps dr.m2t
(137MB)
マニュアルモード
(最大ビットレート)
約17Mbps TS録画とほとんどかわらない。スローからノーマルに戻った瞬間などに絵が崩れるなど、部分的な破綻はある 17m.sro
(80MB)
SPモード 約14.5Mbps 応援席が沸くと画質が落ちるが、それ以外は17Mbpsと遜色ない 14.5m.sro
(70.7MB)
マニュアルモード
約12Mbps 全体的に解像感を均等に落とすせいか、意外に部分的な破綻がない 12m.sro
(57.7MB)
マニュアルモード
約8.2Mbps ブロックノイズの多いハイビジョン画像という感じ。カメラ全体のパンやディゾルブに弱い 8.2m.sro
(41.9MB)
LPモード 約6.8Mbps カメラが安定していれば解像感はそれなりにあるが、動きには弱い 6.8m.sro
(38.9MB)
マニュアルモード
(SD解像度)
約9.2Mbps ブロックはないが解像感の落ちが劇的。ビットレートから考えても、無理にこれで録るメリットはない
編集部注:再生環境はビデオカードや、ドライバ、OS、再生ソフトによって異なるため、掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。なお、編集部では再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい


 元々の放送が生中継ではなかったので、元々それほどエッジの立った信号ではないが、オリンピックを楽しむならば、生中継なら17Mbps、録画放送なら12Mbpsぐらいまでなら、妥協した感じもなく普通に楽しめそうだ。

 TS録画した物をTSEに変換しながら、DVDメディアに保存することもできる。以前はTSで存在したチャプターが変換すると無くなってしまうという仕様だったが、今回からチャプターが継承されるようになった。

 しかし番組をDVDメディアに保存するという点では不安が残る。というのも、HD RecというフォーマットはBlu-ray陣営が進めるAVCRECと互換性がないので、事実上東芝機でしか再生できない。しかし東芝の今後のレコーダ戦略は、撤退はしないまでも光メディア戦略が不明なので、どこまでこの再生機能を載せ続けるかがわからない。長期保存を考えると、今のところはあまりお勧めできないというのが実情だ。



■ 注目のアップスケール再生機能

出力設定では60Fと24Fを選ぶことができる

 X7の真価は、再生機能にあると言ってもいいだろう。特に目玉なのが、24F出力とアップスケーリングである。過去に買ったDVDソフトや録画したDVDメディアを、イマドキのハイビジョンテレビで見たときにがっかり感がないように、というのは、これからのDVD再生機能に求められていく機能だ。

 市販ソフトとして、「STARTREK Next Genaration」のテレビシリーズのボックスセットから適当に抜粋して、再生してみた。しかしさすがにこれぐらい制作年代が古いと、元々のS/Nが悪いこともあって、それほど劇的に綺麗に見えるという感じはしなかった。

 比較的最近のソースとして「マトリックス リローデッド」を再生してみたところ、バーチャル世界のシーンは全体的にツルッとした画質なので、かなり綺麗にアップコンバートされている。もちろんハイビジョン並みになるわけではないが、ハイビジョンテレビで見ても変な感じはしない程度には見やすくなる。

 一方現実世界のシーンでは、元々かなりざらついた画質表現が取られているため、あまりアップコンバートの効果がないように思えた。もしかしたらバーチャル世界と現実世界では、撮影時のフィルムの種類が違うのかもしれない。このようなアップコンバート機能がなければあまり注意を払わなかった点に目がいくようになるというのは、なかなか面白い。

 問題なのはオーバーレイする字幕で、いずれのシーン、あるいはどのソースでも、かなりジャギーで見づらくなった。一方放送を録画したような、もともと字幕が焼き込まれているものは、それほど見づらくない。元々市販DVDとテレビでは字幕の品質にも違いはあるのだが、それがより拡大される感じだ。

 また本機は、放送波も24p化してアップスケーリングすることができる。単にテレビで映画を見るだけでも、本機を通して見るだけで、テレビ側で起こりがちなI/P変換エラーを減らせるわけだ。映画を中心にAVライフを考えている人にはいい機能である。

複数の再生状況を記憶できるのもポイント 番組再生後は、次のアクションを示唆するショートカットが現われる



■ ダビングのノウハウが生かされる予定?

 本来ならばすでにダビング10が始まっており、今回のレビューもダビング10がらみの様々な動作について報告できるはずだった。現在のレコーダの中では、東芝機がもっとも編集機能が充実しており、その点で恩恵を受ける可能性があったわけだ。

 東芝の製品説明会で配布された資料によれば、単純に番組をコピーする以外のケースにも細かく言及されている。ユーザーが疑問に思うのは、チャプタを切り出したり、プレイリストにした場合にオリジナルソースがどうなるか、ということだろう。

 例えば番組Aからチャプタ単位で番組を切りだしてプレイリストを作った場合は、プレイリストそのものにはコピーカウントは関係ない。ただそのプレイリストをDVDに書き込んだ場合は、番組A全体のコピー回数が一つ消化される。

 面白いテクニックとしては、コピー可能回数を減らさずに番組を分割する方法がある。一つの番組から、チャプター機能を使って番組を区切り、片方をプレイリストに登録する。そのプレイリストをHDD内で「移動」すると、プレイリストは登録したチャプタで実ファイルを作成する。この実ファイルは、コピー9回+ムーブ1回のファイルとなる。残りの番組は、プレイリストに登録した部分は失うが、同じくコピー9回+ムーブ1回のままである。

 なんだか狐につままれたような方法だが、HDD内でファイルを分割すること自体は、番組が複製されてるわけではないので、問題ないということであろう。

 もう一つの疑問は、タイトル結合に関するものだ。コピー回数の異なるタイトルを結合した場合、結合後のタイトルは少ない方の数に合わせられる。つまり残り9回と5回の番組を結合した場合、全体は5回ダビング可能な番組となる。

 しかし面白いのは、結合した番組の中で、残り9回だった部分のチャプタを取り出してHDD内で「移動」した場合、そのチャプタのダビング回数は9回に復帰する。

 これまで「移動」は、やってしまうとそれで最後になってしまう行為だったが、ダビング10以降はHDD内の「移動」は、ダビング回数を減らさずに編集するテクニックとなる。そこまで頭を使ってやりくりしなければならないということ自体がやっかいな話だが、元々はデジタルコンテンツの利用促進のために行なわれた措置である。今後は他社のレコーダでも、このような方向で機能開発が進むかもしれない。

柔軟なダビング10対応を実現している 複数の録画タイトルを集めたプレイリストもダビング可能 ダビング10の活用事例



■ 総論

 X7を含む夏向けのレコーダ新商品発表会では、これまでRD/VARDIAシリーズを育ててきた片岡秀夫氏やハイエンドを手がける桑原光孝氏の無念が聞こえるようであった。彼らとしても社を信じたからこそこれまで進めてきたのであって、急にはしごを外されたのは辛かったことだろう。

 この夏商戦はHDD+DVDレコーダで勝負を挑むことになった東芝だが、このままDVD搭載のみで今後も乗り切るわけにはいかないだろう。RDのファンからすれば一刻も早くBlu-ray搭載RDを出して欲しいというところだろうが、ダビング10程度の規制緩和では、Blu-ray自体の需要がそもそも喚起されるのか、という疑問もある。

 DVD時代からメディア戦略にこだわりを持っていた東芝からすれば、いくらHD DVDから撤退したとは言っても、そうすぐにBlu-ray搭載は難しい選択だろう。少なくとも、今すぐに参入しなければならないほどBlu-ray市場が盛り上がっているわけでもない。それよりもダビング10の機能を使って、携帯電話やポータブルデバイスへのデジタル書き出し方向に舵を取るのではないだろうか。

 いずれにしても、東芝のHDD+DVDフラッグシップは、X7で最後だろう。次にどんな手で来るのかの答えが、年内に出てくることを期待したい。


□東芝のホームページ
http://www.toshiba.co.jp/index_j3.htm
□ニュースリリース
http://www.toshiba.co.jp/about/press/2008_05/pr_j1501.htm
□製品情報
http://www3.toshiba.co.jp/hdd-dvd/products/vardia/rd-x7/index.html
□関連記事
【5月15日】東芝、フラッグシップDVDレコーダ「VARDIA RD-X7」
-HD Recを強化。「東芝のDVD事業は前に向かっている」
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20080515/toshiba1.htm
【5月15日】東芝、「オンデマンドDVD」を実現した新VARDIA
-DVD Burning対応。ネット経由でDVDを作成
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20080515/toshiba2.htm
【2007年10月31日】東芝、HD Rec対応の新VARDIA「RD-A301」
-10万円以下で、DVDにもAVC/MPEG-2記録
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20071031/toshiba2.htm
【2007年12月28日】東芝の新HD DVDレコーダ「RD-A301」の録画速報
-高画質化ファーム適用後の「HD Rec」画質
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20071228/a301.htm
【2007年7月18日】【EZ】コンテンツ保存に命を賭ける東芝VARDIA「RD-A600」
~ 再エンコードなしにエバームーブを実現した力作 ~
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20070718/zooma315.htm

(2008年6月25日)


= 小寺信良 =  テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「ややこしい話を簡単に、簡単な話をそのままに」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンピュータのフィールドで幅広く執筆を行なう。性格は温厚かつ粘着質で、日常会話では主にボケ役。

[Reported by 小寺信良]



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