もうすぐオリンピックということもあり、Blu-ray Discレコーダ市場は非常に好調だ。Blu-rayの普及にとっては、大きな意味のある時期にさしかかっているのは間違いない。 そこで2回にわけ、国内BDレコーダメーカーの事業担当者インタビューをお送りする。 今回は、ソニー オーディオ・ビデオ事業本部 副本部長(ビデオ事業部門長兼務)の加藤滋氏と、BD戦略室室長の島津彰氏に話を聞いた(インタビューは6月5日に行なった)。 ■ 低価格化もラインアップ強化も「BDだけに特化」が生み出した ソニーは、BDを推進する企業の中でも、BDへの「特化」をいち早く推進してきた。2006年末以降、DVDレコーダ商品の投入をやめ、BD搭載商品のみを手がけてきたからだ。この大胆な施策について、加藤氏は「まちがいなくプラスだった」と断言する。
「似たようなものを2つ作るのは、エンジニアリング・リソースの分散につながります。もしDVDレコーダを作っていたら、BDレコーダの機種数は減っていたでしょう」(加藤氏) 現在ソニーは、ホームシアター指向の「X」、録画に特化した「T」、カムコーダー連携を重視した「L」、そしてPSPやウォークマンといった、ポータブルデバイスとの連携を重視した「A」の4系統のレコーダを販売している。トータルでは6モデルが存在し、「BDレコーダのバリエーション」としては、他社よりも広い。 「4種類に分けた、ということも、Blu-ray特化と大きく関連しています。様々な機能をつけていくということは、ユーザーの選択肢が広がる、すばらしいことですが、反面、使いづらくなりやすい。余計な機能がついている、と思われる場合もあります。そこで、4つのスタイル提案という形をとり、全部の機種に全部の機能を入れる、というところから脱却したのです。機能を絞ったため、以前のデジタル機器の難しさからは脱せられたのではないか、すくなくとも、第一歩を踏み出せたのでは、と思います」 加藤氏はそう説明する。
島津氏も次のように語る。
「Blu-rayに特化したことでより先に行けた、ということです。戦略のメッセージが集中しました。(テレビCMのメッセージのように)“もったいない”と言い切ってしまうことで、それだけ立場が明確になる。要は、こちらが迷っていてはいけない、という話ですよ。唯一批判されたのが“値段”なので、そこにフォーカスしました」。 価格へのフォーカスとは、Tシリーズの最廉価機種「BDZ-T50」のことを指す。現在この機種は、市場で10万円を切る価格で販売されている。ソニーはこの価格帯を、BDレコーダ普及のための「戦略価格」として狙い、開発を続けてきた。 加藤氏はこう断言する。「実現のカギは、エンジニアリング・リソースの共通化、ということにつながります。エンジニアがDVDレコーダ向けの部品と、Blu-rayレコーダ向けの部品に分かれて働いているのでは、低価格な製品を開発するのが難しい。10万円クラスのBlu-rayレコーダを商品化するにはどうしたらいいのか、ということに注力したら、こういう体制になった、ということです」。
□関連記事 ■ 「スゴ録」を捨てたのは「ディスクの混乱」を収集するため 特化戦略の中でもう一つ特徴的だったのは、2003年以降使ってきた「スゴ録」の名称を捨て、「ソニーのBlu-ray」へと、メッセージを変化させたことだ。 加藤氏はこの点も「必然だった」と語る。 「我々は、“ハイビジョンの信号はBlu-rayに記録して、混乱をなくしたい”と考えたんです。同じハイビジョンでも、HDDには記録できるのに、DVDにはできなかった。 ハイビジョンの世界では、そういう難しいことを全部解決し、Blu-rayを買えばとにかくOK、という形にすることを、フォーマットを作る時から意識していました。ですから“スゴ録”とつけずに、Blu-rayというブランドをアピールする形としたのです。 なにも、ソニー=Blu-ray、ということだけではなく、各社さんが出すブルーレイレコーダの認知度も高める、という意味も含め、“ハイビジョン=Blu-ray”というイメージにしたかったんです。Blu-rayでないとハイビジョンは光ディスクに記録できませんよ、という意識を浸透させたかったわけです」
松下がDVDへも、AVCエンコードを使ってDVDに記録しているのに対し、ソニーがBDのみとしている理由は、このあたりにある。 他方、BDへの記録以外の機能をアピールしているのも、ソニーのレコーダの特徴である。「L」シリーズはカムコーダーと、「A」シリーズはポータブルデバイスとワンボタンで連携することをウリとしている。 「タイムシフトの次はプレイスシフト、といった発想から生まれたもの。人間がやりたいと思う願望にそのまま従っただけ」と加藤氏は話す。 ■ 堅調だが「認知はまだまだ」。予想前倒しで「BDレコが50%」に? 日本では放送の規格変化もあり、「録画」というニーズが大きく市場を引っ張っている。BDレコーダ市場も、当然「ハイビジョン録画」に対する欲求に引っ張られている。 「セルだけ、という状況では、BDソフトを目当てに買われる方は、さほど多くないのかな、と思います。レンタルが始まってから本格化することになるでしょう。また、DVDのソフトというのは、一部では980円、1,980円まであるくらい低価格化していますから、ここに対抗するのは、まだつらいのではないか、と思っています。また、レンタルの市場ができることでBDを認識し、市場が広がる、ということもあるのではないかと期待しています」と島津氏も分析する。 現在の市場についても、「進展の様子は予想通り。市場は確立しつつあると思う」(加藤氏)と前向きに評価する。 他方で、「認知がまだまだ」という厳しい見方も示す。「動機をもってお店にこられたお客様にはメッセージが伝わっているのですが、まだ購入を検討していない方まで買いたくなってくる、というレベルではない。確かに、“ブルーレイ”という名前は浸透したのですが、その詳細までが周知されている、とは言い難い状況です」と加藤氏は語る。 とはいえその状況は、「Blu-rayの技術的な情報を知る」という話ではない。むしろ、「技術的なことはなにも知らなくていい」ということが知られていない、と加藤氏は指摘する。 「Blu-rayはDVDと違い、ディスクの種類がたくさんあるわけではない。1層や2層、という違いはもちろんありますが、使う上でそれを意識する必要はありません。そういう簡単さが実現されている、ということは、まだまだ理解していただけていないのではないか、と思うのです」(加藤氏) そこで加藤氏が期待するのが、「オリンピック」の効果だ。オリンピックは、もちろん大きな商期である。だがそれだけでなく、そこでBlu-rayに触れた方から認知が広がることで、市場が形成されるのを期待しているのだ。 「以前の予測では、年末までに、レコーダ市場のうち、BDの割合が台数ベースで半分を超えるのでは、と言われていたのですが、それが前倒しになるんではないかな、という感触はあります。それに、そういう“願望”もありますなにしろ我々は、Blu-rayしか出していませんから(笑)」 ■ レコーダ事業の利益貢献は09年度より。ソニー全体では1兆円ビジネスへ 現在、ソニーのBDレコーダ市場は、まだ利益に貢献する形とはなっていない。それだけ大規模な投資を必要としたものであったからだ。 加藤氏は、「現在のところ、2009年度中の黒字化を予定しており、それは変わっていません」と話す。 とはいえ、ソニーグループ全体でのビジネスという点では、すでに大きなものになりつつある。 「ソニー全体でBDの関連事業というと、映画にプレイステーション、各種コンポーネントの外販など、たくさんあります。全部あわせると、2008年度で、ソニーグループ全体の売り上げの10%、一兆円を超えるのではないか、と見ています。PLAYSTATION 3の立ち上がりの効果もありますが、本格的な事業化から2年でこれだけの規模に成長しているというのは、きわめて順調。貢献度は非常に高いと思います」(島津氏)
アメリカではBDプレーヤーの売れ行きが良く、BDへの規格一本化以降、つねに在庫がない状態が続いているという。 「東芝の(HD DVD撤退)アナウンスの前と後とでは、商品の供給量は同じなのですが、需要がまったく違うんですよ。店頭在庫がないくらい売れてしまっています。一時的に売れ行きが鈍った、との報道もあったようですが、それは誤解です。現在は、全力で生産をしている段階。もう、どこのパーツがたりない、というレベルではないです。1年前とは違います。一生懸命作ってこのスピード、というところですね。もう少しお待ちいただきたいです」。加藤氏はそう説明する。 「アメリカに関しては強気の読みをしていて、年末までに全社で400万台いくのでは、と思っています。ヨーロッパはまだまだ火をつける必要がある、と思っていまして、各社とも協力してすすめていこうと思っています。プレーヤーが足りないので、実際には火のつけようがないです」と島津氏も苦笑する。 では、日本でのプレーヤー投入はあり得るのか? 加藤氏は、「現在はまだ決断していません」と話す。 「認知度が高まれば、ニーズにもバラエティが広がってきて、いろいろな商品が求められることになるでしょう。ですが、いつその段階にくるか、という判断はまだできていません。バラエティのある商品の投入計画を確定できていない、というのが現状です。日本はこの時期に、放送の事情が一番大きくかわったので、お客様のニーズも“それを記録できるものがないじゃないか”というところにきています」と語り、当面はレコーダ優先との見方を示す。 「それに、日本だけにしかレコーダの市場がない、という見方は間違っています。現在はヨーロッパに市場がありますし、世界中で放送事情がかわりつつあるので、レコーダのニーズが出てくると思っています。ただし、いつどうなるかはまだ読めないですね。また、“放送を録るだけがレコーダなのだろうか”とも考えています。今回(ビデオカメラ連携を強化した)Lシリーズで提案しているような形を提案して行きたいと思います」 日本で起きている変化が世界にも現れるのか。ソニーの読み通りとなれば、BDの世界はDVD時代とは大きく異なる、新たな様相を見せることになるだろう。 □ソニーのホームページ (2008年7月31日)
[Reported by 西田宗千佳]
AV Watch編集部 |
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