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ソニーは26日、ソニーグループ経営方針説明会を開催。2008年から2010年までの中期経営方針を発表した。同経営方針ではビデオ配信事業の強化や、Blu-ray Disc関連製品の拡大などの方針が示されている。
同計画では、すでに売上高1兆円を超えている4つのコア事業(液晶テレビ、デジタルイメージング、ゲーム、携帯電話)に加え、PCとBlu-ray Disc関連商品、コンポーネント/半導体の合計7つの事業を1兆円規模まで拡大する目標を掲げた。 さらに、2010年までにすべての製品カテゴリーの90%をネットワークおよびワイヤレス対応にする。また、2008年の夏にPLAYSTATION 3(PS3)のPLAYSTATION Network上でビデオ配信サービスをスタート。その後、2010年度までに主要製品にビデオ配信対応を拡大していく。 なお、PS3のビデオ配信の詳細は7月15日に米国で開催されるE3のプレスカンファレンスで発表される予定。また、PS3へのダウンロード後、PSPにチェックアウトしてビデオをPSPで楽しむサービスも年内を目処に開始予定という。さらに液晶テレビ「BRAVIA」への動画配信も予定されている。 説明会では、ハワード・ストリンガー会長兼CEOや、中鉢良治社長兼エレクトロニクスCEO、ソニー・コンピュータ・エンタテインメントの平井一夫社長兼CEOが今後の事業方針を語った。 ストリンガーCEOは、「ソニーは成功に向けて、Sony Unitedを続け、絶えず変革を続る」と宣言し、中期経営計画への自信を語った。
■ 「液晶テレビ世界ナンバーワン」へ。新経営計画発表
ハワード・ストリンガー会長兼CEOは、2005年に策定した前中期経営計画の総括と、今後の重要施策について説明した。 2005年度には営業利益率が、連結で2.0%、エレクトロニクスではマイナス1.1%だったが、2007年度には連結で4.2%、エレキで5.4%に向上したことを報告。特にエレキについては目標を達成し、「営業利益は3年前の“ほぼ0”から、3,560億円になった。際立った成果だ」とエレキ復活を強調した。 達成した目標として15のカテゴリーからの撤退、1万人の人員削減、1,200億円の資産売却、11拠点の製造拠点統廃合、2,000億円に及ぶコストの削減を報告。ストリンガーCEOは、「過去3年間で社内の再構築に成功した。ビジネスを拡大し、コストを改善し、強い基礎が生まれた。しかし、まだ完遂されていない。常に変化し続けなければならない」とし、新しいサービス、製品への意欲を語った。 この3年間の大きな成果として、部門間の連携(Sony United)を強調。その成功例として、Blu-ray Disc関連製品を挙げた。「各ビジネス部門が力を結集。ソニー、SCE、SPE、ソニーDADC、ソニーBMG、SME、Blu-ray Disc Association。さらにFOX、Disneyなどのスタジオ、Philips、パイオニア、パナソニックが束になって、デファクトスタンダードになった。そして今日、PS3を含めて世界中に1,500万台のBlu-rayプレーヤーがある。サイロを破壊して、各事業が連携した最大の成果だ」とアピールした。 エレクトロニクス事業については、4つの成果を強調。「液晶テレビでは3年前、われわれはほとんど存在感のない状態だった。しかし、今。世界のトップメーカーとしてBRAVIAラインを展開している。また、世界初の有機ELテレビを発売した。3mm厚で、すさまじいコントラストレシオを持っている。さらにデジタルイメージングの拡大に成功し、シェアを拡大した」と説明。半導体については、設備売却による「アセットライト化」を強調した。 また、携帯電話でもグループ内企業との連携による販売増を報告。ゲームについてはPSP/PS3の拡大などを報告。「5,000万台のネットワーク対応機器のインストールベースがある」と強調。将来のネットワークサービスの布石として重要と訴えた。
ストリンガーCEOは、「ネットワーク対応のコンスーマーエレクトロニクスとエンタテインメントを提供するグローバルなリーディングカンパニーとなる」と、“ソニーのミッション”を説明。今後の重要施策としては、3点を掲げた。
コアビジネスの強化については、液晶テレビを2008年度に黒字化し、「2010年度までに世界ナンバーワンを目指す」と宣言。そのための取り組みとしては「液晶パネルの戦略的調達」、「サプライチェーン強化のイニシアチブ」、「共通シャーシの採用」などをあげた。ゲームについては、2008年度の黒字化と「より幅広ネットワークエンタテインメントの提供」を目標に掲げている。 一方で、投資については、コアビジネス成長を重視し、厳選する方針を示している。ネットサービスの強化のためGracenoteを買収。テレビ事業ではパネルの生産力確保や有機ELに注力、コアコンポーネントについてはイメージセンサーやBD、バッテリに注力する。
ネットワークの強化については「2010年までにソニーの製品カテゴリの90%をネットワーク/ワイヤレス対応に」、「2010年度までに主要製品にビデオ配信サービスを展開」と目標を設定する。 「PSPやPS3、BRAVIA、ビデオウォークマン、VAIO、携帯電話と、あらゆる製品を用意しており、新しいエンターテインメントを実現できるユニークなポジションにいる」と強調。従来の配信/販売チャンネルを介さずに、直接コンテンツを届ける取り組みを加速するという。 PLAYSTATION 3では一足早く、米国で今夏に映画やテレビ番組などのプレミアムコンテンツをPLAYSTAITON Storeを介して配信する。さらに、11月には米国でBRAVIA向けに、ウィル・スミス主演作「ハンコック」をDVD発売より前に配信するなど、IP網を使ったビデオ配信事業に徹底してとりくむという。 地域展開では、BRIC諸国(ブラジル、ロシア、インド、中国)での成長を軸にすえ、2010年度までに売上を現在の2倍の約2兆円まで拡大する方針。
■ ネット時代に「豊かな成長」を。中鉢社長
エレクトロニクス事業を統括する中鉢社長は、前中期経営計画を振り返り、エレクトロニクス事業では2007年度に目標(4%)を超える5.4%の営業利益を達成したことを報告。ただし、「テレビビジネスの収益性には課題を残した」とした。 中鉢社長は、エレクトロニクス事業について「新興国の台頭や環境問題の顕在化、ブロードバンドの普及などで、大きな転換点を迎えている。新しいアプローチが求められている」とし、「技術革新、感動体験の提供、社会貢献というソニーのDNA。加えて、事業環境変化に対応し、量的な拡大だけでなく、質的な変化を伴う“豊かな成長”を目標にする」と表明した。
テレビ事業については、BRAVIAブランド立ち上げによる、液晶テレビシェア拡大を果たしたものの、「収益性には課題を残した」とする。 その要因として、「急速な事業拡大によるシャーシ数の増加、先進国向けのハイエンドモデルへのリソースの集中、ブラウン管/リアプロジェクションテレビの収束など、急速な市場環境の変化への“対応”が事業の中心となっていた。その結果オペレーションの最適化に遅れをきたし、損失を計上するに至った」と分析し、「今後は、収益改善を目指していく」と表明。 今後は、機能性フィルムやLEDバックライトの内製など特化型デバイスによる最終製品の差別化などで品質向上を図る。一方、シャーシ数の削減や設計リードタイム短縮、消費地生産の加速などでコスト低減を徹底。機種切り替えや市場ニーズへの迅速な対応などを強化する。また、S-LCDとシャープとのパネル生産合弁、外部調達などを組み合わせたパネルの安定調達など、「投資と調達の最適化を図り、グローバルナンバーワン」を目指す」とした。
また、すでに売上1兆円を超えているBRAVIA、サイバーショット、携帯電話の3つのカテゴリに加え、パソコンのVAIO、BD関連事業、半導体/コンポーネントも今後3年間で1兆円規模への拡大を想定。特にBDについては、「フォーマットの中心プレーヤーとして、レーザーや光ピックアップ、プレーヤー、レコーダ、ディスク製造など幅広く展開し、自社製品の差異化に貢献するとともに、積極的に外販していく」とした。 開発投資については、3年間のグループ総額1兆8,000億円のうち、半分の9,000億円を半導体/コンポーネントに集中。イメージャーやバッテリ、LEDバックライト、有機EL、BD関連などの徹底強化を図る。 さらに、環境負荷の低減に向けた取り組みも加速。事業所の温室効果ガス削減や廃棄物総量の削減などに注力。「2010年に、2000年度比で7%削減するという目標を定めているが、ソニーはこの目標を必達することをお約束する」と宣言した。
■ 2008年黒字化にPS3のコスト低減を図る
ゲーム以外のPS3、PSPの成長の重要な鍵として、2つの要素を「ノンゲーム」、「ネットワーク」というキーワードで紹介。「今年は、ノンゲームを含むインタラクティブエンターテインメントを強化していく」とし、ネットワーク、HDDというPS3の特性を生かしたサービスに注力する方針を発表。「将来的にはゲーム、ネットワーク、ノンゲーム、パッケージの枠を超えた、“PS3のエンタテインメント”の世界を提供していきたい」と訴えた。
SCEの平井CEOは「現在、PS3の半数がネットワークに接続されている」と紹介。さらに、6月24日時点でPS3のアカウント数は980万を超えており、「PS3がネットにつながる、というのは共通認識といえる」と言及。「ここに注力することは、皆様の期待でもあり、われわれのビジネスを拡大するすべでもある」という。 「PLAYSTATION Networkの売上は現時点で累計80億円だが、実績は確実に伸びている。ノンゲームの充実で飛躍的に成長する土壌ができている。加速度的に拡大するユーザーにどのようにサービスを提供するのか、新しいエンタテインメントをどのように取り組むのか。それがわれわれの重要な課題。同時にソニーのエレクトロニクスに貢献するものと考えている」とし、新しいサービス案を報告した。 まず紹介されたのが「ビデオ配信」。ソニーグループのネットワーク配信のダウロードの第1弾として考えられている。 ビデオ配信は、この夏から北米でスタート。映画とテレビ番組が中心で、日本と欧州でも順次開始予定という。SDだけでなくHDのコンテンツも用意。さらに、ダウンロードしながらの再生も可能となっている。詳細はE3で明らかにされる予定だが、DRMにはMarlinを採用。さらに、今後はダウンロードコンテンツのPSPへの転送/視聴などにも対応予定という。
PS3用の3Dユーザーコミュニティ「Home」についても言及し、「まずはゲームユーザーが楽しめる機能を考えている」とし、ビデオでHomeの概要を紹介。秋のベータテスト開始に向けて準備を進めているという。 また、ゲーム内の動画広告も計画。ユーザーのゲーム属性やプレイタイミングなどに応じて、広告をネットワークから提供するもの。「ゲーム内広告は、2011年には1,000億円規模になるという調査もある。PS3ビジネスの新たな可能性を探りたい」とした。 最後に紹介されたのが「Life With PLAYSTATION」と呼ぶアプリケーション。地球の映像を画面に表示し、東京、上海、ローマなどの選択すると、その都市の直近の天気や、雲の動きなどを表示。さらに、その都市のニュースなどの情報を確認できる。朝起きてテレビと一緒にPS3の電源を入れて、天気を見たり、旅行先の情報を見るなど、「リビングにいながらにして。世界のニュース、情報をリアルタイムに確認できる。PS3ならではのユーザー体験を実現する。新しいライフスタイルを提案する」という。将来的には、過去に録り貯めた動画や写真などを、都市や滞在時間にヒモ付けて、管理する機能も追加する予定という。
PSPについては、GPS、カメラ、ワンセグ、Skypeなどの「ノンゲーム」の取り組みを紹介。さらに、「今期中にはPSStoreに直接アクセス可能になる」という。また、PS3のビデオ配信から、PSPにチェックアウトして、PSPで楽しむなど、PS3との連携も徹底して強化していく。 ゲーム事業の黒字化に向けた、PS3のコストダウン策についても説明。「引き続きチップの削減と部品点数の削減を進めていく」という。昨年末モデルからPS3のCPUであるCellの65nm化を進めているが、「今は全数が65nm」という。グラフィックスチップであるRSXも「65nmの量産を開始しており、秋以降順次搭載していく」とした。 こうしたノンゲーム/サービス拡充や、ゲームタイトルの強化。PS3コスト削減などにより、「本年度中にビジネスの黒字化を達成する」と宣言した。
■ 新しい「ソニーらしさ」。「Appleはすばらしいブティック」 会見後に行なわれた質疑応答でも3氏が回答。 「iPhoneなどの新しい製品と、ソニーらしさを持った商品作り」についての質問に、ストリンガーCEOは、「iPod/iPhoneは、ウォークマンと携帯電話の拡張である。われわれもX1などの製品を発表しており、競争力はある。新しい有機ELテレビも発売し、日本や米国で驚きをもって迎えられている」としたほか、デジタルカメラのスマイルシャッターなどの事例を紹介。「世界はデジタルとアナログの融合に向かっている。ネットワークによる機器はそれぞれが深化する。iPhoneはすばらしく、Appleもすばらしい。彼らはブティックといえるが、われわれはデバイスを生み出して、イノベーションを起こしている」と訴えた。 中鉢社長は、「ソニーらしさについては、社内でもいろいろな議論がある。私は基本的に、技術が埋め込まれていないといけないと考える。研ぎ澄まされた技術の上のクールな外装、サービスが必要。それだけでなく、開発した社員が生き生きしている、輝いていることが重要。つまり誇りがある、社会に認められていないと、“ソニーらしい”とはいわれない。これまでは単体で感動を生むような製品を世に出し、賞賛を浴びた。しかし、これからは、それぞれがつながって、感動を与えていくということになるのではないか」とした。 また、Apple TVや競合のサービスに対してのPStore/BRAVIAのアドバンテージとしては、「BRAVIAやPS3と、2方向から家庭の中心にアプローチできる。また、Apple TVと比較して有利という点は、われわれには1,000万のPS3のインストールベースがある(ストリンガーCEO)」と語った。 「いままで“PS3はゲーム機だ”と主張していたのではないか。その位置づけが変わったのか?」との質問について、SCEの平井CEOは、「ご指摘のとおり、2006年12月に現職に就任し、“PS3はゲーム機だ”と再定義した。それは変わっていないが、制約をかけるつもりはない。BDプレーヤー機能やノンゲームから、PS3のゲームに興味を持つ人もいる。PS3が今日も明日もビデオゲームだ、というつもりはない。いろいろなエンターテインメントの機能がPS3で利用できる。これらはビデオゲームを拡張し、あるいは超えていくものだが、基本ポジションは変わらない」と説明した。 □ソニーのホームページ ( 2008年6月26日 ) [AV Watch編集部/usuda@impress.co.jp]
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