【バックナンバーインデックス】



“Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語”

第376回:さらに画素数を上げた日立ブルーレイカム「DZ-BD10H」
~ 「暗さに弱い」を抜本的に改善した意欲作 ~



■ 日立もマルチフォーマット仕様へ転換

 2007年秋にセンセーショナルとも言えるデビューを果たした日立のブルーレイカムだが、記録はともかく、光学系については少々練り込みが足りなかった感があった。初号機「DZ-BD7H」は正直、あービデオカメラって作るの難しいんですねー的な絵しか出てこなくて、レビューする方も大弱りだったわけだが、次号機「DZ-BD9H」では、外観やデバイスそのものは変わらなかったものの、時間をかけて再チューニングし、ようやくデバイス本来の実力が出せるまでになってきた。

 そして8月にはいよいよ第三世代となる「DZ-BD10H」(以下BD10H)が登場した。店頭予想価格は16万円前後だが、すでにネットでは12万円台まで下がってきている。HDD・BDハイブリッド記録に加えて、SDカードにもAVCHDで記録可能。撮像素子も一新し、しかも約20%小型化と、全くの新設計だ。日立はSDエリアで大きなシェアを取ったが、日米ではSDのパイそのものが小さくなってきている。HDへの移行は必須なだけに、唯一「BDを積んだカムコーダ」での巻き返しが注目される。

 さて今回のBD10Hは、画質面での汚名を払拭できるだろうか。早速テストしてみよう。


■ BDドライブが目立つ大胆なデザイン

 ではまずデザインから見ていこう。全体としてはオーソドックスなスタイルではあるが、BDドライブ部がかなり上部に出っ張って、段差のある構造となっている。この高さの違いが美しいか美しくないかで、賛否が分かれるところだろう。しかし8cmメディア登場時には十分小さいと思ってたものだが、このサイズがネックになるような時代がこんなに早く来ようとは思わなかった。

BDドライブの頭が出っ張った感がある 鏡筒部はかなりコンパクトにまとめた

 実際にホールドしてみると、ドライブの蓋の部分の出っ張りが手の丸みにフィットして、平たい板を持っているような感覚はない。ちなみにこの出っ張り部分に、HDDが入っている。個人的にはもう少しこの出っ張りが後方にあったら、フィット感はより自然だったと思う。

BDドライブの蓋にHDDがある ドライブ表面にシボが付けられ、グリップしやすい工夫も

 では前方から見ていこう。レンズは35mm換算で動画45.6~456mm(16:9)、静止画時41.9~419mm(4:3)の光学10倍ズーム。前作は動画と静止画の画角が違いすぎて辟易としたものだが、今回は比較的差が少なくて使いやすいだろう。また今回は、日立初の光学式手ぶれ補正となる。


撮影モードと画角サンプル(35mm判換算)
撮影モード ワイド端 テレ端
動画(16:9)
45.6mm

456mm
静止画(4:3)
41.9mm

419mm

 撮像素子は、総画素数約700万画素の1/2.7型CMOSを採用。以前は米AltaSens製の1/2.8型で、総画素数が530万画素もあるのに動画では207万画素しか使っていなかった。

 今回のCMOSはAltaSens製ではなく、有効画素数約467万画素、2,880×1,620という縦横1.5倍、面積で2.3倍の画素からダウンスケーリングして、1,920×1,080ドットを作り出す。多画素のメリットをようやく動画でも発揮したというところがポイントだ。気になる感度は、BD9Hからは約3倍、初代BD7Hからは約5倍の向上を果たしている。

 内蔵HDDは1.3インチの30GBで、前作の1.8インチ60GBよりも小さくなった。その代わり今回はSDカード記録も可能になっている。HDDとSDカードへの記録がAVCHDフォーマットとなり、BDへの記録はもちろんBDフォーマットとなる。

 液晶まわりはあまり変わっていないが、十字キーの上が露出補正、下がマニュアルフォーカスのショートカットとなった。比較的よく使う機能だ。液晶の内側は、以前はかなりボタンが沢山あったが、露出とフォーカスが十字キーに移動したため、少し少なくなっている。端子類は、前モデルはまるで宝探しのようにあっちこっちに散らばっていたが、今回は液晶内側にまとめられている。HDMI CECにも対応した。

十字キーの上下にショートカットが付いた 端子類は一カ所にまとめられた

 背面に回ってみよう。ビューファインダは省略され、その位置に「見る」「ダビング」ボタンが設けられた。以前は横にあったボタン類だ。SDカードスロットもここにある。かなり珍しい設計だ。

3メディアのモード切替がある 後部に機能が集中している

 また後方にはこれも初搭載の顔検出機能「顔ピタ」のボタンがある。日立は以前から監視カメラの分野で顔認識には早くから取り組んでおり、そちらの部署との共同開発だという。最大5人までの認識が可能で、露出やフォーカスを制御する。前回までのウリとなっていた「秒撮」は、専用ボタンがなくなって液晶の開閉と連動するようになった。今回はビューファインダがないので、妥当な変更だろう。

 バッテリの近くには、吸気口が二カ所ある。前面に排気口があり、ファンで空冷を行なっている。小型化に際して基板の実装方向などが変わったため、冷却には苦労があったようだ。

 BDドライブは8cm BD-R/REとDVD-R/RW/RAMに対応。BD規格は、BD-RE Ver.3.0とBD-R Ver.2.0準拠となっている。

バッテリ奥に吸気口がある。排気口は前面 BDドライブはDVD系とコンパチ。ピックアップが2つある



■ ようやく本領発揮の動画

 では早速実写である。最近関東では荒れ模様の天候が続いているが、今回の撮影は奇跡的に晴天に恵まれた。光量が十分にあることもあって、全体的にいい解像感だ。CMOSが全然違う事もあって、BD-7H/9H時代とはまったく別物である。またレンズはワイド端は狭いのが難点だが、ズームをあまり無理していないこともあって、テレ端での収差も少ない。発色に関しては、特に広色域モードがあるわけではないが、かなり正確だ。あまり無理をしないせいか、若干おとなしめではあるが、色の飽和も少なく安心して撮影できる。

発色も自然で、解像感も高い前モデルとは比較にならない深みのある絵が撮れる 広色域対応ではないが、濃い色でも破綻がない

 フォーカスは中央測距は得意だが、センターから外れるととたんに難しくなる。マニュアルフォーカスもあるが、フォーカスアシスト機能がないので、液晶ではなかなかフォーカス設定が難しい。

 人物が居る場合は、「顔ピタ」の併用で外すことはないが、近づいてくる被写体に対しては「顔ピタ」で認識はしていても、フォーカス動作が追いつかない。Panasonicはデジカメで顔の前後追従を始めたが、今後は顔の動的フォローがテーマとなるだろう。



sample.mpg (397MB)

focus.mpg (60MB)
動画撮影のサンプル。ナチュラルなテイストの映像表現が楽しめる フォーカスサンプル。顔自体は認識しているが、フォーカスフォローが付いていけない
編集部注:Canopus HQ Codecで編集後、MPEG-2で出力したファイルです。再生環境はビデオカードや、ドライバ、OS、再生ソフトによって異なるため、掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、編集部では再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい。

 本機ではHDDとSDカードへはAVCHD準拠で撮影できる。どちらへ撮ってもBDにダビングできるので、再生環境の広がりを考えると、BDに直接録画するよりは、AVCHDのほうが使い出があるかもしれない。

 メディアの切り替えはそれほど速くはない。ただ実際には、それほど頻繁に切り替えるような機能でもないだろう。電源を入れたつもりでメディアを切り替えてしまうという失敗も誘発しそうだし、もうメディア切り替え機能は表に出すほどでもなくなっているかもしれない。

動画サンプル
モード 解像度 ビットレート HDD BD
(7.5GB))
SD
(別売32GB))
サンプル
HX 1,920×1,080ドット 約15Mbps 4時間30分 約1時間 約4時間45分
ezsm11.mts (13.3MB)
HF 1,440×1,080ドット 約11Mbps 約5時間45分 約1時間20分 約6時間20分
ezsm12.mts (20.3MB)
HS - 約7.5Mbps 約8時間40分 約2時間 約9時間30分
ezsm13.mts (25.5MB)
編集部注:再生環境はビデオカードや、ドライバ、OS、再生ソフトによって異なるため、掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、編集部では再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい。

 ただ画質モードサンプルを見ていただければおわかりのように、最高画質でもパンダウン途中で大きく圧縮ノイズが出る。ハンディでの撮影ではそもそも画面全体のブレに対して目が付いていかないのであまり問題にならないだろうが、こういう均等な動きではよくわかる。エンコードはもう少し頑張って欲しいところだ。

 好天での撮影で気になるのは、ホワイトクリップである。花などが飛ぶぶんにはまあ妥協もできるが、「顔ピタ」を入れてもフェイストーンが飛ぶのは、ちょっと厳しいものがある。このあたりはCMOSで先行するソニー、キヤノンが昨年苦労した部分だ。そういう意味では、新CMOSにはなったがまだ絵作りとしては周回遅れの感は否めない。

肌の発色も綺麗だが、若干開けすぎの感がある 光量が十分だと若干飛び気味


room.mpg (249MB)
室内での撮影。暗部の致命的な弱さは改善されている
編集部注:Canopus HQ Codecで編集後、MPEG-2で出力したファイルです。再生環境はビデオカードや、ドライバ、OS、再生ソフトによって異なるため、掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、編集部では再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい。

 暗部での撮影は、他社のカメラと比べてもまず遜色ないレベルになっている。周辺は多少解像感が落ちているが、これはどちらかと言えばレンズの問題であろう。「オート」と「ローライト」の両方で撮ってみたが、これぐらいの光量だと違いはないようだ。


■ 相変わらず切れのいい静止画

 静止画はブルーレイカムの最初のモデルから、かなり良くできていた。今回は撮像素子の画素数も多いため、さらに満足できる静止画に仕上がっている。

動画とは全然コントラストが違う 黒もしっかり落ちている ボケも綺麗だ


逆光ではフリンジが出やすい

 全体的に少し高コントラスト過ぎる傾向はあるものの、ここまで個性がはっきりした写真機能を持つビデオカメラも珍しいだろう。逆光でパープルフリンジが出やすいことから、レンズはそれほど上質でもないのだろうが、絵作りが上手いのかもしれない。

 絞りなどが決められるカメラではないが、時折びっくりするぐらい綺麗なボケを出すことがある。ただExifにほとんどデータがないので、シャッタースピードや絞りがどうなっていたのか確認する手段がないのが残念だ。

 操作面で言えば、以前のように画角がものすごく違うということも無くなったので、動画から切り替えでも違和感なく撮れるようになった。ただ動画撮影中の静止画撮影は、サポートしていない。せっかくのCMOSで動画でも多画素撮影しているのに、勿体ないと思う。

 バッテリの話を少ししておこう。今回はリアルタイムでスケーラを動かす関係から、消費電力が多少上がっている。前モデルに比べて約20分ほど連続撮影時間が短く、標準バッテリで約1時間20分となった。



■ 多彩なダビング機能

 続いて、ダビング機能を見ていこう。本機では3メディアに動画が撮れるわけだが、少なくともBD以外のメディアに記録したら、どこかに待避しなければならない。ダビング先は当然光メディアということになるわけだが、SD時代の日立のカムコーダは、PCレスでこれができるというところがヒットした。


SDカードのAVCHDの画像は、BDとDVDにダビング可能

 HDDに収録した動画をBDに保存できるのは当然だが、今回はAVCHDフォーマットで記録するSDカードの映像もBDに保存できる。これまでAVCHD陣営は、保存をDVDメディアに求めてきたが、BDへの保存は一部レコーダが対応しているだけで、まだそれほど積極的とは言えない。AVCHDフォーマットの動画からBDが本体のみで作れるのは、メリットが大きい。

 逆に本機では、DVDメディアを使ったAVCHD記録はできない。しかし最近はもうAVCHDでも8cmメディアに記録するソリューションは下火になっているし、容量の都合でいくらも入らない。「DVDにはハイビジョンは入らない」と言う決め打ちにしたのは、使い方をややこしくしないという判断だろう。

 本機ではそこのこだわりを一歩進めて、ハイビジョンで記録した映像も、DVDメディアに対しては、ダウンコンバートしてDVDビデオを作ってくれるという機能がある。本体だけでこれができるのは、本機だけだ。


HDDで撮影した映像は、BD、DVDとSDカードにもダビングできる

 またHDDに記録したハイビジョン映像を、SDカードにAVCHDフォーマットでコピーすることもできる。30GBの容量を利用して撮影し、必要なシーンだけSDカードに移してテレビやBDレコーダなどで再生させるといった運用も可能だ。

 編集機能としては、以前からDVDカムで搭載していたプレイリスト機能をそのまま搭載している。カット内のポイント切り出しまではできないが、必要なシーンのみのリストを作って再生やダビングに利用できる。昨今カムコーダはDVDから離れつつあることで、プレイリストやオーサリングといった機能を搭載しなくなる傾向があるが、それが便利だと思っていた人には朗報だろう。


付属の「ImageMixer3 AVCHD Edition」

 PC用アプリケーションは、「ImageMixer 3」の日立専用バージョンが付属する。PCによる12cmBDへの書き込みが可能だ。また細かいことだが、BD10HはACアダプタを接続しなくても、USB接続できる。しかし本体内ダビングはACアダプタが必要になる。そのあたりはどちらが手間がないか、微妙なところではある。



■ 総論

 2つのフォーマットが撮れるハイビジョンカムコーダというのは、まずビクターの「GZ-HD40」がある。これはどちらもHDDに記録するのに対し、日立BD10Hはメディアとフォーマットが1対1になることを意識しているようだ。それは光メディアにしても同じで、ハイビジョンはBDだけで、DVDにはAVCHDフォーマットでは記録しないという具合に徹底している。

 前モデルで問題になった、暗部で解像感がガクッと落ちる問題は、本機で解決された。画質に関しては、もはや他社と肩を並べたと言っていいだろう。昼光の絵も、解像感の高さが光る。ただ全体的に、もう少し絞り目にチューニングしても良かっただろう。あとの課題は光学系で、もう少しワイドが欲しいのと、派手なパープルフリンジが気になる。メディア戦略については、そもそも日立はそこで売っていたところもあって、なかなか良くできている。特にHDDを仲介とするSDカードとBDのフォーマットを越えた使い勝手は、ようやくBDを積む正当性が出てきたように思う。

 これまで日立のカムコーダは、どちらかと言えばコンセプト勝負でニッチな隙間を狙うようなところがあったが、本機で王道に乗り入れたと言っていいだろう。DVD時代のようにBDで一つの山を作れるのか、今後の舵取りに注目したい。これで「ビデオカメラ」の土俵で勝負しているメーカーは、すべてAVCHDフォーマット対応となった。でも「ついに日立もAVCHDの軍門に下る」とか言うと、日立の人のコメカミがピクピクしちゃうのが確認済みなので、それは言っちゃダメだ。


□日立製作所のホームページ
http://www.hitachi.co.jp/
□ニュースリリース
http://www.hitachi.co.jp/New/cnews/month/2008/07/0724.html
□製品情報
http://av.hitachi.co.jp/cam/products_bd/bd10h/index.html
□関連記事
【7月24日】日立、約20%小型化したフルHD Blu-rayビデオカメラ
-HDDとSDカードにAVCHD記録。700万画素CMOS搭載
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20080724/hitachi.htm
【2月20日】【EZ】弱点を改善した春のBDCAM、日立「DZ-BD9H」
~ 感度、解像度アップ、同じデザインで再挑戦 ~
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20080220/zooma346.htm

(2008年9月10日)


= 小寺信良 =  テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「ややこしい話を簡単に、簡単な話をそのままに」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンピュータのフィールドで幅広く執筆を行なう。性格は温厚かつ粘着質で、日常会話では主にボケ役。

[Reported by 小寺信良]



00
00  AV Watchホームページ  00
00

AV Watch編集部av-watch@impress.co.jp
Copyright (c)2008 Impress Watch Corporation, an Impress Group company. All rights reserved.