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VRが変える未来。GOROman「ミライのつくり方2020‐2045 僕がVRに賭けるわけ」

本稿は「ミライのつくり方2020─2045 僕がVRに賭けるわけ」(星海社新書)の転載です。

著者:GOROman
構成:西田宗千佳
定価:960円
発売日:4月25日

GOROman(ゴロマン)

本名・近藤義仁。株式会社エクシヴィ代表取締役社長。2010年株式会社エクシヴィを立ち上げ現在も代表取締役社長を務める。2012年コンシューマー用VRの先駆けOculus Rift DK1に出会い、自らVRコンテンツの開発を行いVR普及活動をはじめる。並行して2014年〜2016年にOculus Japan Teamを立ち上げ、Oculus VR社の親会社であるFacebook Japan株式会社で国内のVRの普及に務め、パートナーサポート、講演活動を行う。個人でも”GOROman(ゴロマン)”として、VRコンテンツの開発、VRの普及活動を広く行う。

はじめに

 昨今、VR(バーチャルリアリティ)という言葉を多く目にするようになったと思います。おそらく多くの皆さんがVRという言葉でイメージするものは、頭に何か大きなデバイスをつけて映像を見るモノというイメージではないでしょうか? しかしこの本は、そういったいわゆるヘッドマウントディスプレイ(HMD)について書かれた本ではありません。いずれVRという技術そのものが空気のような存在になって、未来の人々の生活・娯楽・ビジネスその他すべてを変えてしまうだろう……ということを僕なりに予測して書いた本です。

 よくVRに対し「こんな顔につけるものは流行らないよ」というようなネガティブな意見も耳にします。「何を見てるかわからなくてキモチワルイ!」それももっともな意見です。女性はお化粧が剝がれてしまうし、せっかくセットしたヘアスタイルもボサボサになります。僕自身、こんなデカくて重くて目が疲れて解像度も低いデバイスを、常時つけ続けることは想像できません。

 でもそれがメガネのように小型になったり、そもそもの装着感がなくなったりしたら?

 手の動きも体の動きも反映でき、現実と同じ解像度になったら?

 生活必需品に代わっていったら?

 コミュニケーションを変えてしまう存在になったらどうでしょうか?

 少し昔の話をしましょう。

 かつて携帯電話は肩掛け電話(ショルダーフォン)だった時代がありました。非常に高価で重いデバイスで、月額使用料もとても高い時代でした。数十年後の今はどうでしょうか?

 女子高生がみんなiPhoneのようなスマートフォンを駆使し、LINEでコミュニケーションしている。そんな未来は皆さん想定も想像もできなかったと思います。

 誰しも人生においてターニング・ポイントと呼ばれる瞬間があると思います。言葉では説明するのが難しいのですが、脳天に「ビビビ!」と電撃が走るような直感的な感覚です。

「これはミライが大きく変わるぞ!」というワクワクする感覚が生じる瞬間です。

 僕は生きてきた中で数回この「ビビビ!」という感覚を味わいました。その昔、小学生だった頃にパーソナル・コンピュータに出会った時、モデムを使いネットにはじめて繫がった時、PalmPilotという掌てのひらサイズのコンピュータに触れた時、そしてVRの世界に没入した時です。

 その「ビビビ!」という久々の感覚、それが僕がVRの可能性を信じ、自分の人生をVRに賭けてみようと思った理由です。コンピュータやインターネットの出現は、皆さんの仕事や生活、コミュニケーションのあり方を大きく変化させました。

 例えばスマートフォンの登場でアマゾンのようなネットショッピングをどこでも行いLINEのようなSNSで距離を超えたコミュニケーションをとり、仕事もフェイスブックメッセンジャーでミーティングをし、データはクラウド上でやりとりを行うようになりました。

 そういった変化は突然やってきたのではありません。イノベイターやアーリーアダプターと呼ばれる層やギーク(技術オタク)な人たちの見えない努力が積み重なって、今に至っているのです。僕自身コンピュータは8bitの時代、それこそ自分が幼少の頃から触れていましたし、インターネットの前のパソコン通信の時代からその変遷を辿ってきました。同じような波がVRについても間違いなく起きると思いました。

 もし日本にインターネットが上陸していなければ、生活もビジネスも全く世界に遅れを取ってしまっていることでしょう。同じように日本にVRが来なければ世界から遅れを取ってしまうのでは? と2013年頃に感じるようになりました。VRを根付かせたい! そのためにはまずはVR機器そのものをどんどん日本に持って来て普及させなければならない! そう強く思いました。そう、PalmPilotがiPhoneに代わって普及していったように……。

「PalmPilot」、著者私物

 この本には、今回のVRブームの火付け役とも言えるデバイス「オキュラス・リフト」のプロトタイプ版を2013年にクラウドファンディングにて国内でもいち早く入手し、その可能性から国内VRコミュニティOcuFesの立ち上げや、オキュラス社の日本チーム(オキュラス・ジャパン)設立、そして今や会社も仕事もすべてVRにしてしまった僕の記録と、ここから訪れる数十年先のVRの可能性や課題、そして未来について書かれています。

 例えばVRが一般化した世界では、このような生活の変化が訪れると思います。

・移動そのものの再定義
 満員電車の通勤から解放される
 航空会社が倒産・合併
・コラボラティブ・コンピューティング
 全く違う場所でもコラボしながら仕事ができる
 VRによるクリエーション(より直感的な映像・3Dコンテンツ開発)
・プレビュー(Pre‐View)からプレ体験(Pre‐Experience)へ
 家やマンションのような人生で一番高額なものの購入前に事前入居体験ができる
 画像検索や動画検索だけでなく体験検索ができる
・タレントのデジタル化・バーチャル化
 バーチャルYouTuber(VTuber)の進化とデジタル芸能人
 バーチャルYouTuberの声優デビュー
 バーチャル芸能事務所の乱立と既存リアル芸能人との対立
 CMの役者が個人の趣味嗜好で動的に変わる時代(ダイナミックキャスティング)
・ VR/AR時代の新しいオペレーティング・システム(VROS)の登場
 平面での作業から空間ユーザーインターフェース(SUI)へ
 すべての人が秘書(アシスタント)を持つ世界

 ここに記載した事がどんどん普通の出来事になるでしょう。さらにその先の2045年になれば人々はリアルとは別のアバターを持ち、経済圏をつくり、国家そのものも建国できてしまうかもしれません。SFのようですが、まるでスティーブン・スピルバーグの映画「レディ・プレイヤー1」のような世界が、現実味を帯びてきています。

 僕は2017年に世界のVR事情を探るため、シリコンバレーをはじめ、韓国、中国の香港・深圳・上海・西安を視察しました。中国ではアリペイやWechatペイと呼ばれる仕組みがあり、気軽にスマホ決済や個人間送金が可能です。投げ銭もカジュアルに行われます。もはやバーチャルマネー化が進んでいるといってもいいでしょう。実際アリババのアリペイの中にはインスタグラムのようなソーシャル機能があり、いいねやコメント以外に投げ銭をすることができます。

 また、フィンランドと電子国家であるエストニアへも訪問しています。

 エストニアには電子住民(e‐レジデンシー)という仕組みが国レベルであります。日本にいながらにしてインターネット上のエストニア住人になれるのです。実際に僕は手数料である130ユーロを支払いエストニアの電子住民登録をインターネットでしています。日本の不便なマイナンバーと違い、とても先進的です。エストニア電子住民であれば、インターネット上にブログを開設する感覚で会社の登記がわずか数十分で終わります。このように既に国家もバーチャル化しています。

エストニア電子住民票カード、著者私物

 僕はこういった新しい世界を旅し、新しいVRコミュニティに参加し、日々VRの未来を予見しています。

 そして僕は今、VRの新しいプラットフォームを構築しています。

 手始めに行ったのは個人的プロジェクトのMikulus(ミクラス)です。MikulusはVR空間でキャラクター(例えば初音ミク)に出会える体験を提供するVR
アプリです。このアプリを僕はさらに拡張し、VR時代のOSのコンセプトデザインや新しいインターフェイスのプロトタイピングを行いました。

 今はこのMikulusをマルチキャラクタープラットフォームとして事業化することを模索しているところです。これは将来のコンピューティングを大きく変える
可能性があります。誰もがVR空間やAR上でパートナーを持つのです。

Mikulus
© Tda / Crypton Future Media, INC. www.piapro.net

 また、2010年に設立した僕の会社である株式会社エクシヴィ(XVI Inc.)においてもVR/ARの事業を長年行っています。そして数多くのコンテンツやVRツールを開発してきました。

 特に昨今はバーチャルYouTuber(VTuber)という新しいメディアが誕生しています。2016年12月に誕生したキズナアイを皮切りに、輝夜月(かぐやるな)など多くのVTuberが参加しています。この本を書いている時点で既に700人を超えるVTuberが存在します。

 とはいえ、VTuberをビジネスで行う場合はなかなか収益化が難しいのが実情です。また初期費用もVTuberの配信を行うには、スタジオの設備やモーションキャプチャーシステムなど大掛かりなシステムが必要でした。それがVR機器の低価格化により、より高精度な人体のトラッキングが可能になってきています。HTC社のVIVEやオキュラスのオキュラス・タッチと呼ばれるデバイスです。特にHTC社はVIVEトラッカーと呼ばれるトラッキングデバイスを提供しています。

 僕は、株式会社シーエスレポーターズのAR/VR事業部であるGugenkaの三上プロデューサーとタッグを組み、三上さんが考案したアイデアをもとに2017年12
月SHOWROOM株式会社へバーチャルSHOWROOMERのプロトタイプの
持ち込みをしました。エクシヴィのデザイナーである室橋が開発したシステムにブロードキャスティング機能を搭載し、AniCast(アニキャスト)と名付けました。

 AniCastはアニメを配信するブロードキャスティングの「キャスティング」と役者配役の「キャスティング」を掛けた意味を持っています。三上さんが生み出した「東雲めぐ」というキャラクターはSHOWROOMで2018年3月1日にデビューを果たしました。わずか3ヶ月の出来事です。

 今や毎日のように生配信をする東雲めぐの存在は多くのファンの皆さんに支えられ、もはやバーチャルを超え、あたかも実在しているかのように感じられます。

バーチャルキャラクター「東雲めぐ」
©うたっておんぷっコ♪ /©Gugenka® from CS-REPORTERS.INC キャラクターデザイン・3DCG:五十嵐拓也
チャンネル名「「はぴふり! 東雲めぐちゃんのお部屋」」

 僕はSHOWROOMのギフティング(視聴者が配信者へ無料・有料ギフトを贈る仕組み)を見て、VR空間にギフトのオブジェクトを転送すればより深くファンとのコミュニケーションができるのではないか? と考えました。このアイデアをSHOWROOM CTOである佐々木さんに話したところ、あっという間に盛り上がり数日後にはエクシヴィのエンジニア狩野の手によって実装されていました。「3Dバーチャルギフティング」の誕生です。

 この試みは大成功しました。SHOWROOMとコラボレーションすることで、ギフティングの仕組みを使った収益化が可能になりました。

 また、AniCastはノートパソコンとオキュラス・リフトとタッチという組み合わせで自宅から一人でも高品質なキャラクター配信ができるシステムです。初期費用やランニングコスト削減にも貢献できたと思います。

 将来このAniCastはVR空間におけるアニメ作成ツールとして進化するというビジョンを持っています。VRはクリエイターの創出にもつながっていくのです。

 さて、「はじめに」だけで長くなってしまいましたが、なぜこうしてまで僕がVRに人生を賭けるのか? その理由を説明する上で、どうしてもまず僕の原体験や幼少期からのエピソードも知っていただきたいと思います。すこし長くなりますが、お付き合いください。

“皆さんも一緒にVRでワクワクするミライをつくっていきませんか?”

「ミライのつくり方2020─2045 僕がVRに賭けるわけ」目次

はじめに
第1章 こうして僕は「GOROman」になった

 「バラす」ことからすべては始まった
 ガジェット越しに生まれる父との対話
 「プログラミング」を見つけた!
 手を動かすのが好きな小学生
 「モテたい」隠れパソコンマニア
 パソコン通信がすべてを変えた
 GORO‐NET誕生
 高校と絶望
 インターネットへの渇望
 大学に入っても「モテたい」
 シェアウエア開発から「プロ」の世界へ
 ソフトを使ってもらう「喜び」

第2章 日本にVRを!

 ゲームプログラマーの道へ
 なんで僕らはこんなに苦しいんだ!
 すごい技術を人に伝える方法
 オキュラス・リフトの衝撃
 とにかく凄さを伝えなきゃ!
 Mikulusが「ミク」であった訳
 会社そっちのけでエヴァンジェリストに
 オキュラスを「おま国」にしないために
 パルマー・ラッキー来襲
 え、フェイスブックに買収?!
 「スーさんシステム」で動く独立部隊
 「オキュラス・ジャパン」になったのに……
 フェイスブックとオキュラス
 昔のように、アナーキーに走り出す

第3章 すべてを支配する「キモズム」理論

 キャズムとキモズム
 パソコンを使う姿が「キモい」?!
 モテそうになった時、キモズムは超えられる
 不便を解消できた時にキモズムを超える
 形だけの「カッコよさ」は逆効果
 イノベーターの数は遺伝子で決まっている?!

第4章 VRで生活はこう変わる

 2020年から始まるVR革命
 「空間パラダイム」で生活激変
 空間が変わると「エンタメ」も変わる
 バーチャルYouTuberは未来の先駆け

第5章 VRは社会をこう変える

 VRが生み出す新しいビジネス
 人が「クリエイティブ」になるとはどういうことか
 学びや人との関係はどう変わる?
 VRで僕らは「国」から自由になる

おわりに VRの無くなる日……

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