小寺・西田の「金曜ランチビュッフェ」

本稿はメールマガジン「小寺・西田の『金曜ランチビュッフェ』」からの転載です。金曜ランチビュッフェの購読はこちら(協力:夜間飛行)

Nintendo Switchの「USB PD」をチェックする

3月3日に発売になった、Nintendo Switchを筆者も買った。

Nintendo Switch。ゼルダ面白いです

だが、今回話すのはSwitchの話ではなく、こちら、ACアダプターのことになる。

Switch付属のACアダプター。コネクターはUSB Type-C

Nintendo Switchでは、周辺機器接続および充電のコネクターが、専用のものではなく、汎用のUSB Type-Cとなった。だから、ACアダプターのコネクターも、USB Type-Cである。

ということは、SwitchのACアダプターで別のUSB Type-C対応機器を充電したり、USB Type-C対応の汎用アダプターでSwitchを充電したりできるんではないか……と考え、少し実験をしてみた。

筆者は普段から、USB Type-C(アップル的にはUSB-C)で充電するMacBook Proを使っているし、Androidのスマホとしては、やはりUSB Type-Cを採用しているモトローラの「Moto Z」を使っている。持ち歩きや出張時の電源としては、Ankerの「PowerPort+ 5 USB-C Power Delivery」を使っている。なので、これらの組み合わせでどうか、改めて確認してみたのである。

ここで事前に伝えておくが、規格に適合した製品であり、汎用性が期待できるとは言え、任天堂は同社製アダプターについて、任天堂製品での利用しかサポートしていない。以下の記事は、あくまで自己責任で利用してもらいたい。

まあ、「どこを見れば安心して使えるのか」という話がしたいので、この組み合わせを試している、と言えるので、とりあえず最後までご覧いただきたい。

まず、MacBook Proから。結論から言えば、SwitchのACアダプターで問題なく動いた。

筆者が使っている13インチMacBook Proの場合、純正ACアダプターからは60Wの電力が供給される。それが、Ankerのアダプターでは45Wになる。だが、日常的にはこれで問題を感じたことはない。では、SwitchのACアダプターはどうか、というと、「39W」の供給になる。減っているので、おそらく満充電までの時間は延びているが、利用上問題はまったく感じなかった。

Ankerのアダプターをつないだ時の情報。45Wで充電している
SwitchのACアダプターをつないだ時の情報。39Wで充電している

この辺は、USB Type-Cで採用されている充電機構である「USB Power Delivery(PD)」の仕様を知ると、すっきり理解できる。

USB PDでは、つながった双方の機器で「どちらが給電するのか」「お互いに何V/何Aで給電するか」をまず、ケーブル経由で通信し、その後に充電を開始する。だからよく見ると、過去のACアダプターやケーブル給電と違い、接続から充電開始までにほんの少しタイムラグがある。

そして、各機器がどういう電圧・電流を供給するかは、ACアダプターならばきちんと記載がある。SwitchのACアダプターは5V/1.5Aと15V/2.6Aの2つなので、MacBook Proは15V/2.6Aの設定を使い39Wで充電され、Ankerのものは5V/3A・9V/3A・15V/2A・20V/1.5Aが供給できるので、15V/3Aで充電されて45W、ということだ。

SwitchのACアダプターには、5V/1.5Aと15V/2.6Aで出力される旨記載がある
Ankerのアダプターでは5V/3A・9V/3A・15V/2A・20V/1.5Aが供給される

当然、SwitchをAnkerのアダプターにつないでも充電できたのだが、これは、おそらくは5V/3Aか15V/2Aのどちらかで供給されたのだろう、と推測できる。スケジュールの関係で充電時間を確認することはできなかったが、問題なく充電しながらプレイすることができた。

なお、MacBook ProとSwitchをつないだ場合には、両方の電源を入れたままつなげると、Switch「から」MacBook Proへ給電が行われる。これは、USB PDへメッセージングを出す際に、Switch側が「自分が電源が入っていれば給電」と決め打ちにしているから、という可能性が高い。おそらくSwitch的には、「純正のACアダプター以外につながるものは、Switchの周辺機器である」という判断で作られているのではないだろうか。ここでSwitchの電源を切ると、MacBook Proから正常に充電が行われる。

ではスマホはどうか? ここでちょっと挙動が違った。AnkerのアダプターにMoto Zをつないだ時も、Switchのアダプターにつないだ時も充電は問題なく行えたが、Ankerの場合のみ、モトローラが規定している急速充電の仕組みであるTurboPowerが働き、Switchのアダプターでは働かなかった。これはおそらく、Switchのアダプターが、5V/1.5Aの供給を行ったためだろう。

SwitchのACアダプターでMoto Zを充電した場合。問題なく充電できるが、TurboPowerは働かない
AnkerのアダプターでMoto Zを充電した場合。急速充電であるTurboPowerの印が出た

スマホメーカーが独自に規定している急速充電の仕様は、正直にいってかなりカオスである。なにがどうなっているかは、出力を計測する機器を持ち出さないとわからない。まあともかく、SwitchのACアダプターは5V出力についてはかなり保守的な設計だと感じる。本来専用製品なのだから、あたりまえなのだが。

この他気になるところとしては、USB Type-AからUSB Type-Cへ変換するケーブルで、Switchが給電できるかどうかだ。確かに、これもできた。だが、こちらについては、ケーブルなどをきちんと選ばないと危険がつきまとうので、よく分からない方には、若干お勧めしたくない。

すでに述べたように、USB PD対応機器は多様な電力供給に対応するため、双方の供給電力を定める仕組みがある。ここで、特にシンプルなやり方として、ある信号線に「どれだけの抵抗がかかっているか」で出力電流を決める仕組みがある。具体的には、過去の機器と互換性を保つための「Type-Aとのケーブル」では「56kΩ」のプルアップ抵抗をつけ、「3Aで動作するType-Cケーブル」では「10kΩ」の抵抗をつけ、「1.5Aで動作するType-Cケーブル」には「22kΩ」の抵抗をつけることになっているのだ。

これがないと、大きなトラブルの可能性がある。3Aの出力に対応しない充電器に、Switchが3Aの出力を求め、結果として過電流でショートしたりする可能性があるのだ。任天堂もサポートページを通じ、「56kΩ抵抗の入ったケーブルを」とアナウンスしている。

要は、きちんと「規格通りに作られたケーブルや変換アダプター」であれば問題ないのだが、低価格なものの中にはそうした配慮がないため、トラブルが起きることもある。

変換ケーブルを使った使い方は、特にモバイルバッテリーなどで考えられる。モバイルバッテリーからの電力供給量は小さいので、正しいType-A/Type-C変換ケーブルを使った場合でも、「プレイしながらの充電」はできない場合が考えられる。そういう意味でも、バッテリー側もUSB PD対応の最新のものが望ましい。

まあ、なんとも面倒に見えるが、要は「USB Type-CでUSB PDに対応したACアダプターを用意すれば、充電はきちんと行える」ということである。ケーブルやアダプターも含め、きちんと信頼できるメーカーのものを選びたい。Switchくらいの量が出る機器なら、アダプターやケーブルのメーカー側で動作検証し、きちんとわかりやすい状態で使えるようになるだろう。

要は、時間が解決してくれる、ということである。

小寺・西田の「金曜ランチビュッフェ」

本稿はメールマガジン「小寺・西田の『金曜ランチビュッフェ』」からの転載です。

コラムニスト小寺信良と、ジャーナリスト西田宗千佳がお送りする、業界俯瞰型メールマガジン。

家電、ガジェット、通信、放送、映像、オーディオ、IT教育など、2人が興味関心のおもむくまま縦横無尽に駆け巡り、「普通そんなこと知らないよね」という情報をお届けします。毎週金曜日12時丁度にお届け。1週ごとにメインパーソナリティを交代。

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2017年3月10日 Vol.119 <ホントにやるのそれ号> 目次

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01 論壇【小寺】
紆余曲折の4K放送に消費者はついていけるのか
02 余談【西田】
Nintendo Switchの「USB PD」をチェックする
03 対談【西田】
ドワンゴ・岩城進之介さんに聞く「リアルとデジタル」のぼかし方(3)
04 過去記事【小寺】
Apple Watchは何を変えたか
05 ニュースクリップ
06 今週のおたより
07 今週のおしごと

西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、週刊朝日、AERA、週刊東洋経済、GetNavi、デジモノステーションなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。
 近著に、「顧客を売り場へ直送する」「漂流するソニーのDNAプレイステーションで世界と戦った男たち」(講談社)、「電子書籍革命の真実未来の本 本のミライ」(エンターブレイン)、「ソニーとアップル」(朝日新聞出版)、「スマートテレビ」(KADOKAWA)などがある。
 メールマガジン「小寺・西田の『金曜ランチビュッフェ』」を小寺信良氏と共同で配信中。 Twitterは@mnishi41