音楽配信の著作権管理を効率化する「Fluzo」が4月1日開始

-JASRACなどの楽曲を一元管理、配信事業者の作業を軽減


左から菅原瑞夫理事、佐々木隆一理事、エクシングの吉田篤司代表取締役、荒川祐二JRC代表取締役

4月1日サービス開始


 一般社団法人 著作権情報集中処理機構(Copyright Data Clearinghouse/CDC)は、音楽配信に関する著作権処理の円滑化を目的に開発していた著作権情報集中処理システム「Fluzo」(フルゾ)の運用を4月1日より開始すると発表した。

CDCのロゴ

 「Fluzo」は、JASRACなど複数の著作権管理事業者の権利管理情報を集約した統合データベースを用いたサービスで、フィンガープリント技術を用いた楽曲検索や、利用曲目報告データの一括処理などで、著作権に関する処理を効率化。従来、配信事業者と著作権管理事業者にとって負担だった権利処理業務の作業量とコストを軽減し、配信事業の拡大に寄与すると期待されている。なお、Fluzoの利用は登録した事業者のみ可能。

 配信事業者は、楽曲配信の権利関係について、これまでは権利事業者別に問い合わせを行なってきたが、Fluzoの一元化されたデータベースを参照するだけで楽曲の管理事業者や徴収率などが確認可能になる。各音源にはCDCのコード「CDC-ID」が割り振られ、各管理事業者の作品コードとの関連付けはCDCが一括して行なうため、管理事業者が移動した場合でも変更はCDCが行ない、配信事業者が調査する必要がないという。データベースには現時点で邦楽/洋楽合わせて約800万曲が登録され、新曲の取り込みも随時行なう。運営費用は著作権管理事業者と配信事業者が分担する。


Fluzoのログインページ各権利者のデータベースを統合管理し、配信事業者からの問い合わせに対応多くの配信事業者から問い合わせが来た場合でも一括処理できることを特徴としている
NTTデータとGracenoteのフィンガープリント技術を採用

 また、音源から抽出したフィンガープリント(FP)による楽曲検索ができ、検索効率を向上。手元にある楽曲ファイルを使ってデータベースとの照合が行なえ、テキスト検索ではカバーし切れなかった細かな違いも判別できる。FP技術は、NTTデータとGracenoteの技術を併用することで、高い精度を実現したという。曲名やアーティスト名などのテキストによる検索も行なえる。

 データベースに未登録の楽曲でも、配信事業者が問い合わせた時点で即時にCDC-IDが発行され、作品コードとの紐付けはCDCが事後に処理する。また、FP事業者のデータベースに登録がない楽曲についても、配信事業者が持つ音源と情報を元にその場で登録を行ない、CDC-IDを発行する。


フィンガープリントを使った楽曲検索の例。手持ちの楽曲ファイルから検索でき、徴収率なども分かる

 データベースと照合した後の、実際の使用料の受け渡しなどはこれまで通り各事業者個別の手続きとなるが、それに至るまでの作業を大幅に効率化することで、配信事業者の権利処理に関する負担を軽減。より多くの楽曲ラインナップを可能にするほか、新規参入も容易になることで、市場の拡大が見込めるという。

 4月1日時点でFluzoに参加することが決まっている著作権管理事業者は、日本音楽著作権協会(JASRAC)、イーライセンス、ジャパン・ライツ・クリアランス(JRC)、ダイキサウンドの4社/団体。

 また、配信事業者は、幹事社であるエクシング、エムティーアイ、サミーネットワークス、セガ、第一興商、ドワンゴ、ハドソン、BMB、フェイス・ワンダワークス、ヤマハミュージックメディアの10社が参加。年度内には50社の導入を見込んでおり、実現すれば配信楽曲全体の7~8割をカバーできる(菅原瑞夫理事)という。



■ さらなる浸透で音楽配信ビジネス拡大へ

 CDCは、携帯電話やインターネットにおける音楽などのコンテンツ配信に関して、利用者(配信事業者)と権利者団体が個別に行なっている楽曲特定などの処理作業を集約し、コストや作業負荷を軽減するため、'09年3月に設立。4月の本格運用に向けシステムの開発を行なってきた。

CDCの佐々木隆一理事

 顧問は慶應義塾大学大学院の岸博幸教授、ジャーナリストで湘南ビーチFMの代表でもある木村太郎氏、日本経済団体連合会参与の立花宏氏、247Musicの丸山茂雄会長、渡辺プロダクションの渡邊美佐会長。理事はネットワーク音楽著作権連絡協議会(NMRC)の佐々木隆一氏と日本音楽著作権協会(JASRAC)の菅原瑞夫氏が務める。

 佐々木隆一理事は、「これまで前例のないシステムの開発で、難しいといわれてきたが、明日からサービスインとなった。現在、数百万曲がネットに流通しているが、コンテンツサービスが発展するほど、権利処理は大きな課題となる。膨大な音楽流通に対し、権利処理を効率化するという大きな使命を持っている」とした。

 CDC幹事の配信事業者を代表して登壇したエクシングの吉田篤司代表取締役は、「昨年の設立当時、権利者と利用者が一体となった機構の立ち上げは画期的なものだった。この取組みのなかで、予定通りFluzoシステムが立ち上がったことはうれしい。利用者にとっては、これまでの手続きは煩雑さもあった。Fluzoによって一元管理され、FP検索などで効率が飛躍的に向上する。まだ著作権処理に困っている他の事業者にとっても、窓口が広がるシステム。CDCとしては、Fluzoの浸透と、配信ビジネスの拡大に努める」とした。

 著作権管理事業者である荒川祐二JRC代表取締役は、「著作権等管理事業法が施行され、我々が事業を行なってから丸8年が経ち、今回のように多くの管理事業者や利用者が一堂に会するのは“遅きに失した”かもしれない。しかし、このタイミングでこの機構が出来上がってきたことを前向きに捉えていることも事実。ここに立ち止まらず、常に進化することが必要。ポイントは2つあり、1つは動的なコンテンツの使われ方、例えば“放送と通信”の融合が叫ばれているが、地デジ完全移行などに伴う音楽の利用についても積極的に対応できるような形にすること、もう1つは、今よりさらに多くのコンテンツプロバイダが活用できるシステム・枠組み作りが必要」と述べた。

 また、映像や書籍など、音楽以外の著作権処理について佐々木理事は「当面、音楽の権利処理に十分な実績を積むことが必要。関係団体からの問い合わせもあるので、ノウハウを各分野の方に公開する。他のジャンルでもこういった機構、システムが参考になるようにシェアしていければ」とした。

エクシングの吉田篤司代表取締役荒川祐二JRC代表取締役菅原瑞夫理事


(2010年 3月 31日)

[AV Watch編集部 中林暁]